3獣と檻の中

蓮雅 咲

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【九十八話】花見と最悪の再会#

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日光に当たるため、朝の八時というなんとも言えない時間帯に財田ハウスの近くにある公園に来た。
久しぶりのお花見。久しぶりの太陽、久しぶりの風!
お花見にしては早すぎる時間だと思うが、人気の関係上仕方ないらしい。
しかも、しかもだ!!
徒歩10分もかかるかかからないかという公園に行くのに車で行かないとダメだと言われ、しぶしぶ佐々木さんが運転する黒塗りベンツに乗り、佐々木・ハチくん、そして過保護筆頭佐竹さんの4人で来ている。
スーツイケオジ。B系ファッション男子、そしてモデル並みの男。と芋女の私。
異色。無理。なんだこのアンバランスなグループ。目立たないわけないだろ!!!
しかもサングラス3人ともかけてるの。
なんだコレ。
SP二人とワンコ連れてるとかどこのお嬢様だよ!!

「深月さん、あの桜の下どうですか?」
「あ、はい」

しかし、久しぶりの外、久しぶりの木々。
気持ちのいい風が通り過ぎ、木々の葉のこすれ合う音もとても心地いい。
サァ・・という風の音と共に、桜の花もひらひらと舞ってとても綺麗だ。

(心が洗われるぅ・・・)

天気が良くて本当に良かった…としみじみしていると、ハチくんがレジャーシートを木の下に敷き、荷物を広げて朝食の準備をしてくれた。
完全なるピクニック。
花見という名のピクニック。
家族団らんの一コマである。
父。佐々木。
長男佐竹
長女私
次男ハチくん
みたいな感じ。

平日の朝なのに、気分は休日の家族ピクニック。
ハチくんが佐竹さんにきゃいきゃいと絡んでいるのを見ているとちょっとだけ母になった気分である。
微笑ましい。

「座りましょうか」と佐々木さんに促され、レジャーシートに膝を突こうとした。

その瞬間。

ピシュンという音が聞こえ、ハチくんが膝を抱えて倒れた。
「ぐぅっ・・・」と声をあげるハチくんのズボンが見る見るうちに赤黒く染まっていく。

「ハチくん!!」

佐々木さんがハチくんに駆け寄って、周りを警戒し、佐竹さんは私をかばうように抱きしめた。
カサリと少し離れた場所から身を出し、こちらに向かってくる男。

「な…んで……?」

ゆっくりと近づいてくるその姿に、体が勝手に震えだす。
私の異変にすぐ気が付き、佐竹さんが男から隠すように体を向ける。
佐々木さんはハチくんの応急処置が終えてから佐竹さんの前に立つ。

「よお、楽しそうじゃねぇか。俺も混ぜてくれよ」

何もなかったかのように、何も知らないような声で、にこやかに言う男。
忘れたくても忘れられない、その顔。

「とう…さ…ん……」

これ美味いな。お前が作ったんか?料理なんかできたっけか?
山村さんのお手製卵焼きを口に頬張りながらしゃべる。

なぜこの人は、悪びれもせず私の前に来れるんだろう。
全身の毛がブワワっと立った気がした。

「しっかし、久しぶりだなぁ、元気そうで何よりだ。…おっと、動くなよー?動いたらそこで倒れてる男の子みたいになっちゃうぜ?」

レジャーシートに土足で上がったうえに、どかっとそのまま座る男を見つめる。
この場にいる全員が、こいつに殺意を向けていた。

「…深月、父親か?」

男から目を離さず、普段より低い声で呟く佐竹さんの声には怒気が含まれていた。
私の手を上から包み込んでいる彼の、怒りに満ちた一言に我に返り、震えが止まる。
そうだ。大丈夫だ。私は…

「どーもぉ。深月の父ですー。娘がお世話になってますー。死にたくなかったら動かないことですよー」

うさん臭い営業のように目を弓なりにし、頭に手を当ててペコっと座ったまま会釈をした。
父親だなんて名乗ってほしくはない。
父親らしいことなんて何一つしたこともないくせに。

「佐竹さん、でしたっけね。深月は財田の女ですか?それともアンタの…ですか?まあどっちでもいいんですが…
今までお宅さんたちが預かっててくれて助かりましたー、ずいぶん探してたんですが、やっと見つかりましてねぇ。
娘は責任もって『親』の私が管理しますので、深月を置いてお引き取りください」
「悪いが、あんたはもう深月の父親でもなんでもない。そもそも子供を捨てたアンタが親を名乗る資格はない」

あれぇ…
ああ……そういえばこのヤクザたち、私の過去知ってるんだった。
3サイズも下着のサイズも知り尽くしてる人たちだったの忘れてた。

「確かにぃ、あの時の俺は子供を大切にしない酷い親だった!でも俺は変わったんだ深月!!
お前を大切にしよう、謝って一からお前と一緒に幸せに暮らしたい。そう思ったから探したんだ!!」

まるで役者にでもなったかのような酷い大げさな身振り手振りで繰り広げられるソレに、身の毛がよだつ。

何言ってんだコイツ。
0歳の時から見捨てられ、人として頭おかしい事をしておいて、失踪して、今になって大切にしたい…は気が狂ってるだろ。
万が一、億が一、大切にしたいと思ったとしても「一緒に暮らしたい」になんかならない。
二度と目の前に現れないが正解だ。

「田辺での位置がそんなに良くないんですか?東堂さん」
「おう。藤倉の若のお目付け役さんじゃねぇか、あー。なんだっけ名前…あー。木村…いやスズキ…ん-…あっササキだ。ササキ。どーもどーも、良く俺のこと覚えてましたねぇ」

おぉーすごいすごいとパチパチと拍手しながら佐々木さんに体を向ける。

とうどう?この人、名前変わってんのか…通りで……

「田辺組?」
「そうだぞぉ、お前の父親は今や関東一のヤクザのお偉いさんだ!藤倉の下ぁぁぁああああのほうに居る龍桜会の組長なんかとは格が違うんだぞぉ」

ニヤニヤとしながら佐々木さんの後ろにいる私に向かって体を横に倒しながらドヤ顔をさらす。

「佐々木さん」
「はい」
「この人は私の父です。それは間違いない」
「はい」
「でも田辺組の幹部なんですよね?」
「はい」

せっかくの花見という名の家族団らんピクニックがこの男のせいで台無しだ。

「何しに来たんですか、あなた」
「ん-、お前をむかえに」
「付いていくと思いますか?」
「なに、お前もしかしてそいつらと一緒にいたいの?」
「少なくともあなたといるよりは」

男の目がすぅっと細められ、私たちを見回すように歩き始める。
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