3獣と檻の中

蓮雅 咲

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【九十七話】闇

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「ほぉー」

夜景をバックに高そうな椅子に座る男が、左手の爪を眺めながら眼下の男たちに対して感情のない声で問いかける。

「それで?君らは何もできず帰ってきたてコトかい?」
「・・・」
「返事もできなくなっちゃった?」
「スイマセン」

パチン・・・パチン・・・
左手の爪を切り、じゃりじゃりと整え、ふーっと削った爪の粉を払い
サイドチェストに道具をゆっくりと置き、男は立ち上がった。

床に土下座をしている若い男たち数名が、男が近づいてくる足音に対して震えながら、冷や汗をポタリと垂らす。
グイっと土下座をしている一人の頭を掴み顔を上げさせ、まるで触れ合うのではないかと思うほど顔を近づけた男はニコニコしている。

「謝る前にさぁ、やることやってくんないとぉー」

スイマセンと再び謝る男の顔は、恐怖と痛みで歪んでいた。

「女ひとり攫ってくるだけなのになぁー。君らで8人。送ってるんだよぉ、分かる―?あれ、そういえば君らもう一人一緒じゃなかったっけ?」
「…つかまりました。最悪もう息はないかと・・・」
「へぇー!仲間見殺しにして帰ってきたってことかー!なぁ、どうしてお前らは帰ってきちゃったの?こっちで処理はねぇ、面倒なわけ。どうせならあっちで死体処理してもらってほしいんだよぉー」
「…!!チャンスを!!!もう一度チャンスをください!!!」

掴んでいた髪を放し、大きな窓の夜景に目を向け興味なさそうに煙草を取り出し、闇に紛れるようにいた部下がその煙草に火をつけた。

「えー、だってお前ら仲間殺して逃げ帰ってきたんだよ?信用出来るわけないじゃん」
「次は!!死んでもやり遂げます!!」

唾を飛ばしながら必死に訴えるその若者に、男は冷たく告げる。

「じゃぁ今死ねよ。どの道死ぬし」

連れてってー。と近くにいた男に手を振り、叫ぶ男たちをうるせぇなーと呟きながら再び椅子に座りなおす。

田辺組という組織は関東No1と言われている暴力団。
やっと幹部になれ、自分の地位を確立できた。
ただ、田辺組内の力関係がうざい。

どいつもこいつも頭が固い上にバカばっかりだ。

武器、薬、人身売買。
せっかく裏社会で仕事をしているのに制限かけるとか馬鹿だろ。
金は稼いでなんぼだし、バカな金持ちから巻き上げるのも当たり前。
頭が使えない奴は体を使う。基本中の基本だ。
組長も組長だ。
義理だ人情だ筋だなんだと古臭い考えすぎる。
おかげで関東2大組織だのと横並びにされる組が出てきた。

藤倉...深月があそこに関係してたとは驚いた。
俺はもっと上に行ける人間だ。
何を使おうと何を犠牲にしようと。
深月の能力を手に入れられれば情報で負けることはなくなる。
アイツは俺のモノだ。絶対に俺のところに来る。
出来損ないでもあいつに使い道はある。
俺が使って、用が済めば処理すればいい…が。

(流石にタイムアップだ・・・)

紫煙を吐き、吸いかけの煙草の火を消し、男は上を見上げ目を閉じた。

「ユキコ…もうちょっと待っててくれよ・・・」

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