3獣と檻の中

蓮雅 咲

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【九十六話】幼児的おねだり

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世間はどうやらお花見シーズンらしい。
私もお花見したい。
したいんだ。

だってさぁぁぁぁぁぁ!!!
聞いてよそこの奥さん!!おねぇさんん!!

よくわからんシェルターに突っ込まれてからもう何週間もたってるんです!
日に当たってないんです!
セロトニンが出なくて死んじゃうよ!鬱になっちゃうよ!!
幸せ成分の生成能力死んじゃうよ!!

紫外線にあたりたいよぉぉぉぉ!!!

ってなってもおかしくないんだよ・・・ほんとに。
日々えっちなことかハチくんとのボードゲーム。
頼んだ時に買ってもらえる漫画や本。
あとはレンタルショップで借りてくるB級映画だったりドラマだったりの繰り返し。

暇なの。
マジで暇。
お外の空気が吸いたいですぅぅぅぅ

普段引きこもり万歳な私でもさすがに飽きる。飽きるよ。
やることなくてベリーダンスとかやりたくなるくらいには暇だよ。
やらないけど。

ってことで、下界の話はもっぱらハチくんからいただくわけですが、桜がきれいに咲き始めたよって教えてくれたのでお外行きたい病です。

珍しく本日は獣勢ぞろい+α(ハチくん・佐々木さん・山村さん)で夕食をとるらしいのでその席で話をしてみることにする。


久しぶりにシェルターから出て、あのバカでかいリビングにハチくんと入ると、大きな窓ガラスにはきらびやかな夜景が映っていた。
シェルターに窓なんてないので、本当に久しぶりの外の景色だ。
眠らない街、東京なていう文言があるくらいだし、一昔前には百万ドルの夜景みたいな言い方もあったじゃない。
ドルってことは日本の話じゃないかもしれないけど、そこは置いといて。

思わず「綺麗・・・」って感嘆しちゃうくらいには素敵な景色だった。

景色を堪能する暇なんかないくらい、この家に来たときは余裕もないし、暇だ暇だと嘆いていたけど
少しは心に余裕ができたのか、この生活に慣れてしまったのか。

「深月、おいで」

佐竹さんがダイニングテーブルの椅子を引いて声をかけてきた。
珍しく膝に座れっていう意思表示はないっぽい。

大人しく引かれた椅子に座り、目の前の食事に目をやる。
大きなダイニングテーブルの少し離れたところに丸テーブルがあり、+αのみなさんはそちらで食事。
私と獣たちは大きなテーブルのほうで食べるようでカレーとサラダとお水がそれぞれの卓に置かれていた。

「揃いましたね、じゃぁいただきましょうか」

そう三嶋さんが言うと野太い声で「頂きます」という合唱が聞こえた。
いただきます。と私も一言言っておかれているスプーンに手をかけた。

シェルターに居るときは基本的に自分で簡易キッチンで食事を作るか、今日のように誰かが作ってくれたものを私のもとで運んでくれた誰かと食べるか・・・という形だったから、こうやって呼ばれてご飯を食べることに驚きを隠せないんだけれど、どうやらハチくんがせっかくみんないるし、深月さんも呼びましょうよと言ってくれたみたい。
イイコや・・・

なんて感慨深く食べながら今日のチャレンジ。
お外に行きたいアピールを開始する。

「財田さん。すいません。私いい加減太陽の光浴びないと病みそうです」
という提案をしてみた。

「…だめだ」
「なーーんーーーでーーーーー」
「お前監禁されてる自覚あるか?」
「ない」
「ないじゃねぇんだよなぁ・・・」
「ハチくんが桜綺麗だっていってた」
「桜は満開だな」
「見たい」
「無理」
「一人でなんて言ってないです」
「誰と行くんだよ」
「誰とでもいいです。近くでも構わないです。お外行きたい。太陽浴びたい。空気吸いたい」
「空気は吸ってんだろ」
「外気」
「昼間にここからみればいいだろ」
「そもそもシェルターから出してもらえてない」
「今」
「今は桜見れない。太陽出てない」
「…」
「何人付けてもいいから!外行きたい!お花見したい!太陽浴びたい!風を感じたい!」

スプーンをグーで握り、足をパタパタさせつつおねだり攻撃だ!!!

「逃げない!」
「…」
「コレ付けてるじゃん!いいじゃん!」

首輪をクイっと触りながらコレ!コレあるでしょ!と主張する。

「佐竹さん!外!行きたい!!三嶋さん!!わかるでしょ!セロトニン!大事!!」

佐竹さんと三嶋さんにも訴えかける。
この人たちはなんでか知らんけど私に甘い。甘いなら甘えたらいいのだ。
子供のようにお願いをし続ける。

「一生のお願い!1時間!いや30分でもいいからお外行かせて!近くの小さい公園とかあればそこでもいい!」

懇願し続ける。
わがままだと言われようが、立場がどうとか言われようが。
見張りがいようが、何ならハーネスとかつけられてもいい。
真面目に刺激が足りなさ過ぎて腐りそうなんだという主張を続ける。

ぶっちゃけ逃げる気はない。逃げても追われる生活は面倒臭い。ただ「逃げない」という実績とガチでお外行きたい病で外出したいだけだ。
私にはやることがある。
やらなければならないことがある。
時間はかかってもそれに向けて動かなくてはいけないのだ。

だだをこねる3歳児のように思われてもかまわない。
春生がここまで私に何もしてこないってことは何もできないってことなのだ。
私は自力で少しでも自分のやるべきことに向けて動かなくてはいけない。

「わかったわかった、分かったから喚くな・・・」

かくして、今までここまで子供のように喚くことがなかった私に対して、獣達はヤレヤレといった顔で根負けしたのである。

「やったぁぁぁぁぁぁ!!!!」

お花見もしたい。
外の空気が吸いたい。
太陽の光が浴びたい。

全て本当の事で、本当に私はその為だけに公園に行くことを希望した。
警備という名の監視は、佐竹さんとハチくん。そして佐々木さんが担当することになった。

山村さんはお留守番だがお花見のご飯を作ってくれるらしい。
楽しみで仕方がない。
桜なんて本当に久しぶりだ。
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