3獣と檻の中

蓮雅 咲

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【第九十五話】桜と龍

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一般的にはヤのつく職業の方は、お背中に絵を背負ってらっしゃる方が多い認識を私は持っている。

獣たちはというと、たぶん、私は見たことがない。
基本的に彼らの背面を見ることがないってのもそうなんだけど…

財田さんがベッドから降りる彼の背中を見て、ハッとした。

ヤクザだと分かっているのに、それまでの彼らがあまりにファンタジーすぎてリアルが抜け落ちていた。

桜吹雪と昇り龍。
背中一面の見事な入れ墨に思わず
(綺麗だな…)
などと口に出そうになった。

呼吸を整えながら昔調べた内容を思い出す。
ヤのつく職業の方々の中では、鯉が昇る様を描くデザインは「出世」をするという意味合いで掘ることが多いようで。
また桜はあまり縁起の良いものだとは言えないようだった。
たぶんすぐに散ってしまうからだろう。
同じようにあまり椿も好まれないのだそうだ。
派手にする場合は牡丹などを掘るようで。

男性らしい大きな背中に桜の花びらが舞い踊り、龍が上を目指しているその和彫りは、迫力と美しさが際立ってため息が出そうなほどだ。

「あー・・・わりィ、お前に見せるつもりはなかったんだがな・・・」

ばつの悪そうに頭を搔きながら私から目をそらす。

「?」

何を謝っているんだこの人は?

「怖いだろ、ヤクザ丸出しは。」

何をいまさら。
ヤクザ丸出しで脅したり殺気を出したりしていた人が何を言ってるんだ。
たかだか入れ墨くらいで。

「綺麗だなと、思ってみていました」
「綺麗?怖くないのか?」
「何言ってんですか。それこそ今更です。龍の入れ墨くらいで怖がってたらヤクザの事務所に拉致られた時点でひっくり返って泡吹いてますよ」
                                                                  
よっこいしょ、と口に出しながらなけなしの体力と筋力を使って体を起こしシーツを体に当て胸を隠しし、財田さんによって脱ぎ捨てられている衣類を渡すように手を差し出し、手渡されながら彼の質問に答える。

なるほど。と納得した財田さんのその背中の紋々は桜という縁起物ではない彫り物。
ヤのつく職業の方には珍しく一生モノのである彫り物で元を担ぐことをしないのはどうしてなのか
ふと気になった。

「どうして桜と龍なんですか?」
「…単なる覚悟の為だ」

覚悟。
覚悟かぁ・・・龍桜会という組の組長をしているっていうことと何かかかわりがあるのかもしれないなぁ・・・

なんとなく、それ以上聞くことはできなくて、そうですか。と一言言って話は終わってしまった。

ヤのつく職業っていうのは、お家や跡取りや、権力関係とかなんやかんやありそうですしね。
想像でしかないけれど、いろいろあるんだろうし、いろいろ大変なんだろうなってことで落としどころにして、お風呂入りたいですねぇとかなんとか言ってその場をごまかすことにした。

今日のこの興奮度合いも変だったし。
なんか最近外が騒がしい気もする。
組の事なんて私は隔離されてるからわからないけど、特有の空気ってのはあるもので。
獣たちの空気感が依然と違うことが増えた気がするのだ。

なにかいいタイミングがないものかと
日々思っているわたしにとって、チャンス到来なのかもしれないなぁなんて・・・思ったり思わなかったり。。。

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