3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第九十話【三嶋の飴と鞭10】※

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耳元で囁かれる三嶋さんの言葉に顔がカッと赤くなった。
受け入れてってなんなんだ。
……受け入れない選択肢なんて選ばせてくれるわけもないのに。
それに……普段私の事を呼び捨てにしたことなどない人間から、甘い声で「深月」なんて呼ばれてあまりに破壊力が凄すぎてドキドキしてしまう。

他の二人はいつからかずっと呼び捨てだった。
慣れ親しんだ呼び方ではない言い方をされると、それだけで心臓に悪い。
イケメンの殺人手段って顔面凶器だけではないのか。
怖すぎないか?

そういえばあの二人は『私』に『名前を呼ばせる』ことに固執していた気がする。
三嶋さんは呼ばせようと今のところしていないけれど……

名前を呼ばれるということに『意味』があるって今初めて知った。

(呼ばれたい……かな。三嶋さんも……)

ふと頭をよぎるけど、言われてもいないのに名前を呼ぶのは気が引ける。
言われたら呼ぶようにしてもいいかもしれない。
言われたら。

「何を考えてるの?」
「……三嶋さん言葉遣い……」
「はい。いつまでも他人行儀でいる意味もありませんし……それに僕ももう色々と限界なので」

頭や、頬を撫でられながら私の横に横たわる。
まるで恋人のようだ。
自分との情事中に他の事を考えてほしくないと、嫉妬しているかのような。独占欲を出されているような。

この獣たちは、なんで私にこんな感じなんだろう。
愛情ぽいものを向けられて、戸惑う。

「あ、の……お聞きしたいんですけど」
「なぁに?」

ゆっくりと私の頭を上げさせ、左腕を私の首の下に滑り込ませ、そのまま肩に腕を回し、ぎゅっと抱きしめた。

聞いてはいけないことなのかもしれない。
私がそれを聞いて、もしもの答えが返ってきても私は受け入れることはできないのだから。
でも、知らないままでもいけない気がした。

「…………三嶋さん『も』私の事、好きだとか言うんですか」

三嶋さんの胸にうまっていた顔を少し上げ、顔をうかがう。
彼の目は少し見開かれ、じっと見つめてきた。
少し見つめあった後、深いため息を吐きながら私の肩に顔をうずめた。

「そうですよ。僕は貴女に好意を持っています。女性として。恋愛対象として、です。シロもヒカルも本気で深月の事を愛していますし、僕もです。なんでとかどうしてとか言われてもこればっかりは貴女を本気で好きになったからとしか言いようがないんです。全員」

目を細めながら愛しそうに言われる言葉に嘘は感じない。
疑問でしかないけれど、本気なのかもしれない。

「私は、皆さんの事、好きにはなりません」
「今は構いません。貴女はただ、僕達からの愛を一身に受けるだけでいいんですよ。例え、僕達からまた逃げようとしても、見つけ出して捕まえます。何度でもいくら時間がかかろうとも。それくらい貴女に溺れてるんですよ、僕等は」

うっとりと告がれるその言葉に恐怖というか狂気を感じる気がしないでもないが、実際この男たちに何度も見つかり何度も連行されている身なので、逃げるだけ無駄な気はする。

「もうおしゃべりはここまで。大人しく僕に愛されれて?」

その言葉を皮切りに、三嶋さんがネクタイを緩めながら首筋に顔を埋め、ちゅくっと音を立てながらキスを落とす。

線の細い三嶋さんだが、こうして抱きしめられると男性なんだなと改めて思う。
首筋、鎖骨、胸の谷間。全てに何度となくキスを落とされる。
ゆっくりとした愛撫。
フェザータッチ、しつこいキス。
さっきまでの強制的に上り詰めさせられた行き過ぎた快感のせいで、どこをどう触られても体が敏感になっていて身を捩る。

「凄いね、全身性感帯だね」
「そ、それは!…ん!?」

ちゅく、ちゅっ

「深月、可愛い。口の中舐めただけで、ほら、体全部で感じてる。」

ディープキスをされて、体が跳ねたと思えば、口の中を指で犯される。
上あご、舌、頬の内側をゆっくりと撫で上げられ、口の中でさえどこを触られても気持ちいいと思えてくる。

「んぁっ……まっ……んぐっ……あ、っ」

「指おいしい?必死に舐めて……ほんとに可愛いなぁ…ココでも僕のを受け入れてほしいけど、今日はこっちね」

私の唾液でぬらぬらと濡れて入いる三嶋さんの右手が蜜壷に入る。
私の愛液なのかローションがまだ残っているからなのか、さっきの激しい膣への愛撫のせいなのか、簡単に三嶋さんの指を飲み込んでいく。

「あー、中熱いね。深月のココ、簡単に二本も受け入れてくれましたよ。イイコですね」

くちゅ、ぐちゅ、にゅくにゅく……

「あっ……や、あぅっ……指もうやっ……だぁ……」

指と舌でさんざんイかされたさっきの事が頭によみがえる。

「ごめんね、さっきの怖くなっちゃった?大丈夫ですよ、気持ちいいだけ。気持ちい事しかしない」

左手で頭をよしよしと撫でられ胸に抱きこまれる。
三嶋さんの香りが肺に入ってきて、目に浮かぶ涙が三嶋さんのシャツに吸い込まれる。
ぎゅっと彼の服を掴むと頬にキスが降ってくる。

(なんか、ちょっと落ち着いた……)

ゆっくりと中から三嶋さんの指が抜け、起き上がる三嶋さんをそっと横目で見る。

正直あえぐのも疲れている。
体力がもう残っていないのにこれ以上の行為を続けるのは色々ときつい気がする。
でもこの美麗な男のストリップシーンは見てみたいというか損はないというかどうせもう自室に逃げる気力も体力も残ってないならいい気もするというか、なんというか。

ベッドに運び込まれる前にセーフワードがどうとか言われたけど、生死がアブナイとかそういうタイミングではないから今言ってみてもどうせダメって言われるだけだろうしという諦めがあるというか。

(……なんでこんなに言い訳を自分にしてるんだろうか)

緩められたネクタイをスルっとシャツから抜いて、ベストとシャツを乱暴に脱ぎ、舌なめずりをしながら覆いかぶさってくる三嶋さんは紛れもなく獣のようだった。
沸騰しそうな熱をその瞳にためて、頭から丸かじりでもしそうな、獲物を刈り取るために首という急所に噛みつく野生動物のような。

(あー……狩られるヤツだ)

三嶋さんの顔の横から天井を見つめて首を舐められ甘噛みされながら、もうこの獣達から逃れることは本当にできないのかもしれないとぼんやり考える。

確かにある、自分の中にある女の快感を覚えさせられ、女として愛されている、求められているという自覚を持たされ、かすかに残っていた承認欲求が獣たちによって満たされそうになっているのを自覚させられ、ずるずると手中に落とされてしまいそうになっているのを、自覚してしまった。

「入れます。僕に愛されてたくさん気持ちよくなって、僕の事も視界に入れてくださいね」


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