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第七十九話【マリア・ハイデン】
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「お疲れ様です!」
都内某所。
一見すると古めの洋館のように思える佇まい。
黒塗りの車のドアを開け、小声とはいえしっかりと声が聞こえる程度で迎える部下。
促されるままに俺を先頭に、佐竹と佐々木が屋敷の中に入っていく。
中に入ると、大きなロビーの端に、無造作に置かれた照明やコードの類、その他、機材が積まれている。
スタッフと思わしき男たちが数名いそいそと話をしたり荷物を運んだりしている脇を通り、屋敷を通過し、離れにある事務所に向かって歩いていた。
この屋敷はいわゆる成人男性向けの動画のための撮影スタジオだ。
藤倉組は覚せい剤のような薬物はご法度としている組で、息子である俺の龍桜会もそれになぞって薬物の取り扱いはしていない。
暴力団なんてものをやってはいるが、藤倉組自体が義理人情を重んじる昔ながらのヤクザだ。法に触れることはするが、使い物にならない人間を作るようなシゴトってのは上が許さない。
変なところが潔癖な組だ。
そんなことをしなくても稼ぐことはできる。
「あー!!!!」
事務所に向かう途中で甲高い大声に一瞬驚き、そしてため息が口から洩れる。
カッカッカッカッとピンヒールの靴音を鳴らしながら詰め寄ってきた。
「久しぶりじゃなぁぁぁい!!元気してたー?!…え、うそ、マジで?佐々木さんがいるなら先に言いなさいよアンタァ!!!お化粧直しもできてないじゃないのぉ!!」
「お久しぶりですね、マリアさん。今日もとてもおキレイですね。」
「イヤァァァ!!今日も素敵なジェントルマン!あんたとは大違いね!」
バシバシと俺の肩を叩きながら口元に手を当て頬を染めている。
「いい加減にしろ。佐々木は妻子持ちのジジイだぞ、キレイってのもそのドレスの事だ。わかり切ってンだろォ源太ァ」
「佐々木さんの前でもう一回本名で読んでみろ?あ?ぶっ殺すぞ」
「高田もシロもその辺にしとけ。高田、今ちょっと時間あるか?」
「もうちょっとで彼女のお色直しが終わるのよ。15分だけもらえるかしら?」
「チッ…」
「なによぉ、こっちは仕事で来てるのよ?プロフェッショナルとして中途半端で終わらせられないのわかってるでしょ。少しくらい待ちなさいヨ!佐々木さぁん、すぐに行きますのでちょーっとだけお待ちいただけますかぁ?」
「大丈夫ですよ、お待ちしております。できれば早めにお願いしますね?」
「うふん、だーいじょうぶ♡超特急でおわらせますわん!」
くるりと踵を返し、またカツカツと所定の位置に向かう。
高田源太こと、マリア・ハイデンは俺達の”ご学友”ってやつで、メイクアップアーティストである。
このスタジオ専属で雇っている。
業界ではソコソコ有名らしいのだが、オネェ業界なのか、ヘアメイクでなのかは不明だ。
佐々木のことを慕っており、仕事に関してだけ言えば信頼のおける男だ。が。ゲイである。
「……高田には俺が見えてないのか?」
「そんなでかい図体が見えないなんてことあると思ってんの!?佐々木さんの前で本名で呼んだあんたになんか答える義理ないのよ!」
ガバっとヒカルの方を向いて吠えたあと、撮影に入るであろう女の子に声をかけ始めた。
結構な距離があったはずなのだが、地獄耳だ。
その様子を横目に眺め、俺達はスタジオの事務所に向かった。
都内某所。
一見すると古めの洋館のように思える佇まい。
黒塗りの車のドアを開け、小声とはいえしっかりと声が聞こえる程度で迎える部下。
促されるままに俺を先頭に、佐竹と佐々木が屋敷の中に入っていく。
中に入ると、大きなロビーの端に、無造作に置かれた照明やコードの類、その他、機材が積まれている。
スタッフと思わしき男たちが数名いそいそと話をしたり荷物を運んだりしている脇を通り、屋敷を通過し、離れにある事務所に向かって歩いていた。
この屋敷はいわゆる成人男性向けの動画のための撮影スタジオだ。
藤倉組は覚せい剤のような薬物はご法度としている組で、息子である俺の龍桜会もそれになぞって薬物の取り扱いはしていない。
暴力団なんてものをやってはいるが、藤倉組自体が義理人情を重んじる昔ながらのヤクザだ。法に触れることはするが、使い物にならない人間を作るようなシゴトってのは上が許さない。
変なところが潔癖な組だ。
そんなことをしなくても稼ぐことはできる。
「あー!!!!」
事務所に向かう途中で甲高い大声に一瞬驚き、そしてため息が口から洩れる。
カッカッカッカッとピンヒールの靴音を鳴らしながら詰め寄ってきた。
「久しぶりじゃなぁぁぁい!!元気してたー?!…え、うそ、マジで?佐々木さんがいるなら先に言いなさいよアンタァ!!!お化粧直しもできてないじゃないのぉ!!」
「お久しぶりですね、マリアさん。今日もとてもおキレイですね。」
「イヤァァァ!!今日も素敵なジェントルマン!あんたとは大違いね!」
バシバシと俺の肩を叩きながら口元に手を当て頬を染めている。
「いい加減にしろ。佐々木は妻子持ちのジジイだぞ、キレイってのもそのドレスの事だ。わかり切ってンだろォ源太ァ」
「佐々木さんの前でもう一回本名で読んでみろ?あ?ぶっ殺すぞ」
「高田もシロもその辺にしとけ。高田、今ちょっと時間あるか?」
「もうちょっとで彼女のお色直しが終わるのよ。15分だけもらえるかしら?」
「チッ…」
「なによぉ、こっちは仕事で来てるのよ?プロフェッショナルとして中途半端で終わらせられないのわかってるでしょ。少しくらい待ちなさいヨ!佐々木さぁん、すぐに行きますのでちょーっとだけお待ちいただけますかぁ?」
「大丈夫ですよ、お待ちしております。できれば早めにお願いしますね?」
「うふん、だーいじょうぶ♡超特急でおわらせますわん!」
くるりと踵を返し、またカツカツと所定の位置に向かう。
高田源太こと、マリア・ハイデンは俺達の”ご学友”ってやつで、メイクアップアーティストである。
このスタジオ専属で雇っている。
業界ではソコソコ有名らしいのだが、オネェ業界なのか、ヘアメイクでなのかは不明だ。
佐々木のことを慕っており、仕事に関してだけ言えば信頼のおける男だ。が。ゲイである。
「……高田には俺が見えてないのか?」
「そんなでかい図体が見えないなんてことあると思ってんの!?佐々木さんの前で本名で呼んだあんたになんか答える義理ないのよ!」
ガバっとヒカルの方を向いて吠えたあと、撮影に入るであろう女の子に声をかけ始めた。
結構な距離があったはずなのだが、地獄耳だ。
その様子を横目に眺め、俺達はスタジオの事務所に向かった。
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