3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第六十七話【SBの条件】

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シン…と静まり返る室内。

「た、なべ…だと?」

信じられないとでも言うように、財田が唸る。

『そう、田辺組。藤倉と並ぶ関東の極道さ。君らも今、手を焼いているだろ?』

「……SB…さん?でしたっけ、貴方はどこまでこちらの事情を把握してるんですか…?」

財田、佐竹共々驚愕した表情のまま固まっている中、三嶋だけがスマートフォンに声を掛ける。

『ある程度…ってところかな。君らの事情のほうは、そこそこ把握してはいるけど、それが事実なのか真実なのかの判別は付きにくいからね。それに、こっちはこっちで事情があって吉沢深月に関しては調べつくしているから、そこと関連する話については嘘はつかないよ。まぁそれを言うかどうかは別だけどね。』

「タニカワ、タナベ、深月、そして深月の父親…吉沢順平…か。嫌なピースのはまり方だなァ……」

ジャケットの内ポケットから煙草を取り出し、火をつけ、紫煙を吐き出しながらつぶやく財田に、機械を通した声もまた『わかるわぁ…ほんと嫌だよねぇ…』としみじみこぼした。

『君らが追っているタニカワと田辺の繋がり。そして、偶然なのか必然なのか、関わってしまった吉沢深月と君ら。』
「全てソイツの計算だとでも言いたいのか!?」
『まぁ、落ち着きなよ佐竹くん。さすがに深月ちゃんに関しては完全な偶然だと思うけどね。そこまで計算してたら気持ち悪い。まぁ最初から気持ち悪い男なんだとは思うけどねぇ。』
「もちろん、吉沢順平の情報はお持ちなのでしょうね?」
『吉沢順平に関していえばさっき話した内容がほぼ全てだね。田辺に入った時期の確定的情報がなくてねぇ…多分だけど、田辺の構成員に成り代わっている可能性が高い。もともと構成員だったってなるとちょっと調べにくいんだよ……まぁ、でも、あたりはついてる。ある程度時間掛ければ突き止められるよん』

「いくらだ?」

静かに財田が口に出した。

『アハハハ!いいねぇ!さすが組長さん!嫌いじゃないよ!でもその交渉はまた後で、ね!
とりあえず、今日の二鉢くんへ渡した情報の詳細はそういうこと。』

今回の情報だけでも龍桜にとっても藤倉にとっても有益な情報だったと思うけど?
そう言ったスマホ越しの声に、全員息を飲む。

確かに吉沢順平に関しては、財田をはじめとする全員がノーマークだったのだ。
財田も失踪したまま死亡扱いになっているなんていうのは、業界ではよくある話だからこそ、どこかで野垂れ死んでいるだろうと思っているし、深月の件がなければ、調べようとすることもなかっただろう。
タニカワ製薬側から調べたとしても、10年以上前のことなど、どれだけ情報が残っているか…
龍桜会が独自に調べたとしても、いずれにせよ吉沢順平にたどりつくことは難しかっただろう。

『良かったよぉ、お役にたてて。これで少しはそっちの動きも発展するんじゃないかな。』

「ところで、ハチィ。」
「…え?俺ッスか?」
「お前この人S Bとどこで知り合ったァ?」

『ボクが勝手に二鉢くんに連絡を取ったんだよん』
「どういうことだ?アァ?」
『吉沢深月を嗅ぎまわってたからねぇ、ちょーっと協力してあげようかなって☆』
「何を企んでやがる…」

SBの思惑が一切読めず、3人が3人ともスマホを睨む。

『嫌だなぁ、さっきも言ったでしょ。こっちはこっちで色々とあるのよ。
……ただ、ボクがやりたいコトってのは君らのためになることでもある。だからwin-winなんだ。』

君らはタニカワ、田辺、深月の情報が知りたい。
ボクはその情報を渡す。
ね?win-winでしょ?

ケラケラと語るその軽さが、聞いている男たちには信用に値しない。
なにがwin-winだ、と三人が思う。
SB側のメリットを話されていない以上、龍桜会を利用しようとしていることしか理解できないのだ。

「お前のやりたいことってのは何なんだァ?お前のメリットってのが今のところねぇぞ?」
『もちろん、交換条件を出させてもらうよ!情報屋が情報をタダで渡すわけないもんね♪』

スマホからピリっと張りつめた空気が漂い、プツっとノイスが走った後。

『吉沢順平の殺害と、吉沢深月の保護。コレがボクが求める条件だ。』

ボイスチェンジャー越しではない、男の声が静かにそう告げた。
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