3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第六十六話【吉沢順平】

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「「「!?」」」

「あ、聞いてたんスか…趣味わりぃ」

小さいため息とともに呆れたような声で、自分のポケットに目をやるハチ。

『まぁまぁ』

「ハチ、どういうことだ。」

急に聞こえた、加工された音声の主と喋る己の部下に対して、怒気をはらんだ声で圧をかける。

「ボス…コレっス」

ハチがパーカーに手を突っ込みスマホの角をつまみ、3人に向ける。
画面中心にはSBという文字が表示され、『やぁやぁ龍桜会のみなさん!』という声とともに中心のアイコンが大小と大きさを変えている。

「なんで通話つなげてんだお前、殺されてぇのか?」
「ボス!!ちょ!!落ち着いて!!」
『そうそう、二鉢くんはのミスはスマホ持ってたってだけだよ!ね!二鉢くん!』
「SBこれ以上しゃべるなっス!!」
『あ、この通話そっちのスマホからじゃ切れないから、ごめんね☆』

これ以上佐竹の逆鱗に触れるようなことをしてほしくなくて
スマートフォンの画面にある赤いボタンを連打するハチを小馬鹿にするようにケラケラと笑った。

「ああああああああああああああ!!!」

佐竹がそのスマホを奪って床に叩きつけようと振りかぶるが、まるで見えているかのように『二鉢くんのスマホ壊しても無駄だよ?そこにいる全員へ電話できるから、ね』とSBが告げる。

4人が顔を見合わせたタイミングで、財田が口を開く。

「はぁ…で、あんたは誰なんだ。」

『あ、そうだ。自己紹介がまだだったね!はじめまして。龍桜会の幹部及び組長さん!僕はSB。情報屋をしています。今日そちらに届いている、吉沢深月・吉沢順平の情報は僕が二鉢くんに渡しました。ということで二鉢くんよりは詳しくお話しできると思うよ?』

財田に目配せされた佐竹が、全員が聞こえるようにローテーブルの上にスマホを置き、スピーカーボタンをタップした。

『まぁまぁ、とりあえず落ち着いてみんな座ったらいいよ!』

ほんとはさー、二鉢くんがそっちに行くのもうちょっと後だと思っててね、準備大忙しでやったから映像でお届けできないのさ。声だけでごめんね!

などとぺらぺらと喋りながらカチカチとノイズが入る。
財田、三嶋、そして佐竹と順にローテーブルを囲んでいるソファーに座り、二鉢は佐竹の座る背もたれに片足をかけるように体重を乗せ、佐竹の持つ資料をのぞき込む。

『よっっと、お待たせ。んじゃ吉沢順平についてざっと説明するよー』


さっきも二鉢くんが言ったように、吉沢順平は死んでいる。
でもそれは、戸籍上だけ。
吉沢順平という人間は戸籍を変えて生きている。
もともと吉沢深月が救助された段階で、【吉沢順平】は警察に追われる立場になっていた。
だから順平は娘を捨て、己を捨て、違う戸籍を買い取り、今も違う人間として生活している。

吉沢順平 
タニカワ製薬入社後、エリートコースまっしぐらで、たった5年で役職についてる。
その後、黒い噂は何度となく立つが、煙に巻いていたっぽいね。
失踪前2年ほどは、本部長の地位まで持っていた。
その頃には社内では知らない人がいないほどヤクザとの黒い噂、横領などの噂は信憑性がある話としてそうとう言われてたみたい。
ただ、確たる証拠はつかめていなかった様で、解雇とかの話はなかったみたいなんだけど。
社内の誰かが告発したみたいで、失踪1年ほど前には警察が動き出していたようだね。
警察も大手薬品メーカーの上層部の逮捕ってことで、かなり慎重に動いていたみたいなんだけど、一番有力な横領で逮捕ってことで捜査してたみたいだけど、巧妙だったみたいで、証拠がなかなか出てこない。
そんな時に、吉沢深月の関連で通報が入る。
【吉沢深月が1週間外出していない】って。吉沢深月の報告書のほうにも書いたけど、彼女は大分ひどい扱いを受けてたようだね。
児童相談所でも警察でも吉沢順平をマークしてたし吉沢深月を気にはかけていた。
だから、最悪の事態を想定して近所の人が助け出したって感じだったみたいだね。

順平は、どうしてなのか、警察の動きを知っていたかのように、深月ちゃん救出前2週間から出社しておらず、自宅にも帰宅していない。

以後、吉沢順平は行方不明のまま、戸籍上は死亡として扱われている。


『そして、田辺組に一人の男がひっそりと増えるんだ…』
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