３獣と檻の中

❸

第五十九話【佐竹犬…？】

「ふはっ、ほんとにお前、色気ねぇなぁ」

くくっと、吹き出しながら笑う佐竹さん。
そりゃねぇ、常に色気垂れ流しているような男に言われてしまえば、言い返す言葉もないわけで。

「でも、そんなところも可愛い。」

蕩ける様な声で佐竹さんが続ける。

もともと佐竹さんは、発言はアレだが行動がデレデレだったような気がするわけだが。
こうやって直に言葉に出すのはあまりなかったように思う。

「かっ！かわ…い…とか！いらないんで！！」

恥ずかしい。
恥ずかしくて死ぬ。
イケメンの破壊力無自覚なの超怖い！！
私の顔がゆでだこになっている自覚はある。
ボンって音とともに頭から湯気が出ている！絶対！

佐竹さんから顔をそらし、右腕で顔を隠す。
と、左の腕も同時に動いた。
忘れてた、私まだ指錠つけられたままだった。

「どうでもいいのでコレ、外してください！もうさすがにいいでしょ！！」

佐竹さんの顔を覆うように、手のひらを顔に向けて突き出す。
クスクスと笑いながら「わかったわかった」と外してくれた。
カチャンと床に転がる音がして、そのまま手を捕まれる。

大きな手だ。
男の人の、大きな手。

私に触るとき、この大きな手はいつも優しい。
私を傷つけることのない、この手は、怖くない。


「深月。これから俺は、お前とセックスする。」

反射的に佐竹さんの顔を見た。
さっきまでの楽しそうな笑った顔ではなく、真剣な、でも熱を帯びた目をした顔だ。

誰が誰と何をするのか。
一語一語区切って。

「深月。いいか。俺はお前が欲しい。」

どう、いうこと？
いや、たぶんするんだろうということは分かっていたんだけどね？じゃなかったらこんなよくわからん部屋連れ込まないですよね。
でも、そんな宣言する意味はなに？

「え…っと？」

何を言っていいかわからないし、なんでそんなことを言ってるかもわからない。

「今日は、最後までする。前みたいに気を失ったとしても、やめない。」
「性欲処理なら他を当たっていただけ「違う」」

……えぇ……？
食い気味に遮られたんだけど？

「そういうことじゃない。俺は…『深月』が欲しいんだ。」
「あの…よくわからないんですけど……」
「深月が嫌なことはしない。でもお前と最後まですることは譲れない。」

えぇ……
なんか、全然よくわからないうちに、全然理解できないことまで発展してるんだけど……？

でっかい犬が、お預けされているような感覚に陥っている。
宣言されているのに、握った手を放さず、私の許可を待っている感じがしていてだな。
どういう状態なのコレ。

前のこの人たちだったら、なにも言わずに決定事項だと先に進んでいるはず。

私を見つめて、私の言葉を待っている佐竹さんに、何を言っていいかわからず「う、あ、え？」とか言葉にならないことを言うしかなくて…

どうしたらいいの…

「……セックスするのは絶対なんですよね。」
「あぁ。」
「最後までするんですよね。」
「そうだ。」
「それに拒否権は「ない」」
「……ですよね。」

拒否権がないのに、佐竹さんは私に何を望んでるのか……

ちょ、やめて、そんな捨てられた子犬みたいな顔しないで。
そんな顔されても野生の狼だって私知ってるんだからな！

「なら、何を待ってるんですか。拒否権がないなら、私の許可なんかいらないじゃないですか。」

ていうかね、巨大なベッドの上で大男と小学生みたいな私が向かい合って手を握って、エッチするって言ってんのに一向に始まらないこの絵面がカオスなんですけど。

「深月。」
「はい。」

佐竹さんは、握っている私の手をじっと見つめると、ぎゅっと握って、顔を上げた。

「怖かったら言え。」
「なう。」
「…すまん。」
「……嘘です。ふはっ」

しゅんと耳が垂れたのが見えるくらいショボンとした佐竹さんがあまりにかわいくて。
思わず笑ってしまった。