58 / 106
❸
第五十三話【吐き出したくなる過去】
しおりを挟む某年、某日。
セミの大合唱がうだるような暑さを増長させる、そんな日。
私は春生と、春生の母親である夏美さんと出会うことになる。
新しい母親だと聞かされ、春生と夏美さんと過ごすことになった。
この頃までが、私の人生において最高潮の幸せだったかもしれない。
あ、まぁ今も幸せなんだけど。それはまたちょっと別なのだ。
夏美さんは私を可愛がってくれて、春生もめちゃくちゃ可愛がってくれた。
まぁあの頃の私はきっと天使だったんだろう。
いつも笑顔だったし。私も春生と夏美さんは大好きだった。
でも父親は…
もともと祖母に育ててもらっていた時ですら、顔を合わせたこともなかったし。
その後も月に1~2回くらいしか顔を合わせたことはなかった。
結局、夏美さんは父と別れることになり、春生とともに家を出て行ってしまった。
それが小学生に入って2年目くらいか…
その後の吉沢深月は壮絶な人生を送ることになる。
父のネグレクト。
食事もろくに取れず、顔を合わせれば暴力と暴言。
父親が何をしている人なのかも知らず。
外面がいいだけの父との生活は本当に苦痛でしかなかった。
それでもギリギリの生活が出来たのは、祖母と夏美さんと春生との思い出があったからだ。
祖母と住んでいた家に、一度だけ行ったことがあるけれど、その時にはもうほかの人が住んでいた。
生きるか死ぬかでいうとギリギリ死なない程度の生活。日常と化した暴力と暴言と、父の私への対応。
中学に上がったある日。私は父に犯されることになる。
なにがどうなってそうなったのかは覚えていないんだけど。
それから顔を合わせれば、そういう行為をすることになる。
ただ、愛情があるような、そういうたぐいの行為とは程遠い。
暴力の上の暴力でしかない性行為だった。
体力もない、子供の私が、抗えるわけもなく。
ただひたすら、その行為が終わるのを待つしかない。
そういう時間。
…思い出しただけで吐き気がする。
そんな私を助けてくれたのが、春生だ。
ずっと小さい頃の私のことを気にかけてくれていたらしく
春生がアノ才能を開花させて私のことを探してくれたおかげで
私はあの死にたくても死ねない生活から救い出されたのだ。
春生と夏美さんのおかげで、徐々に体力も回復し、愛情をもって接してもらうことで、昔のよう…とまでもいかなくても笑顔で生活できるようになった。ってわけ。
ね?壮絶でしょ?
たまーにこうやって吐き出したくなるのよ。
この過去。
「なぁーぅ」
どこからともなく現れた黒猫ちゃんに撫でながら話しかけている様は、
はたからみたら、さぞ怖いだろう。
でもいいんだ。
だってここには私とこの黒猫ちゃんしかいないんだから。
0
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。


お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪

ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。


地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる