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第五十三話【吐き出したくなる過去】
しおりを挟む某年、某日。
セミの大合唱がうだるような暑さを増長させる、そんな日。
私は春生と、春生の母親である夏美さんと出会うことになる。
新しい母親だと聞かされ、春生と夏美さんと過ごすことになった。
この頃までが、私の人生において最高潮の幸せだったかもしれない。
あ、まぁ今も幸せなんだけど。それはまたちょっと別なのだ。
夏美さんは私を可愛がってくれて、春生もめちゃくちゃ可愛がってくれた。
まぁあの頃の私はきっと天使だったんだろう。
いつも笑顔だったし。私も春生と夏美さんは大好きだった。
でも父親は…
もともと祖母に育ててもらっていた時ですら、顔を合わせたこともなかったし。
その後も月に1~2回くらいしか顔を合わせたことはなかった。
結局、夏美さんは父と別れることになり、春生とともに家を出て行ってしまった。
それが小学生に入って2年目くらいか…
その後の吉沢深月は壮絶な人生を送ることになる。
父のネグレクト。
食事もろくに取れず、顔を合わせれば暴力と暴言。
父親が何をしている人なのかも知らず。
外面がいいだけの父との生活は本当に苦痛でしかなかった。
それでもギリギリの生活が出来たのは、祖母と夏美さんと春生との思い出があったからだ。
祖母と住んでいた家に、一度だけ行ったことがあるけれど、その時にはもうほかの人が住んでいた。
生きるか死ぬかでいうとギリギリ死なない程度の生活。日常と化した暴力と暴言と、父の私への対応。
中学に上がったある日。私は父に犯されることになる。
なにがどうなってそうなったのかは覚えていないんだけど。
それから顔を合わせれば、そういう行為をすることになる。
ただ、愛情があるような、そういうたぐいの行為とは程遠い。
暴力の上の暴力でしかない性行為だった。
体力もない、子供の私が、抗えるわけもなく。
ただひたすら、その行為が終わるのを待つしかない。
そういう時間。
…思い出しただけで吐き気がする。
そんな私を助けてくれたのが、春生だ。
ずっと小さい頃の私のことを気にかけてくれていたらしく
春生がアノ才能を開花させて私のことを探してくれたおかげで
私はあの死にたくても死ねない生活から救い出されたのだ。
春生と夏美さんのおかげで、徐々に体力も回復し、愛情をもって接してもらうことで、昔のよう…とまでもいかなくても笑顔で生活できるようになった。ってわけ。
ね?壮絶でしょ?
たまーにこうやって吐き出したくなるのよ。
この過去。
「なぁーぅ」
どこからともなく現れた黒猫ちゃんに撫でながら話しかけている様は、
はたからみたら、さぞ怖いだろう。
でもいいんだ。
だってここには私とこの黒猫ちゃんしかいないんだから。
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