3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第五十一話【冷静さと、焦り】

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春生視点___

泣き疲れて眠った深月を自分のベッドに寝かせ、再びPCデスクに戻る。
深月をなだめるのに思ったよりも時間を要してしまった。

深月が逃走に使ったのはタクシーだ。
デパートからの脱出自体はよかったが、タクシーが戴けない。
タクシーが通ったルートは把握しているが、監視カメラの情報が多すぎる。
タクシー会社のデータ改ざんはできなくはないが、運転手の記憶まで改ざんできるわけじゃない。
金をいくら積んだところで、人の口に戸は立てられないのだ。

(どうすっかなぁ…)

対応が若干遅れてくれた財田のおかげで多少の時間は稼げるだろうが…
なんでこんな面倒ごとに首突っ込んだんだお前は…
すやすやと眠っている妹をチラ見してため息を吐く。

深月の話ぶりでは、隣人の男がどんなことをやらかして龍桜会におっかけられてたかも知らないようだった。

(財田は知ってるんだろうか。深月が何も知らないってこと。)

とは思ってみても今更どうにもならない。
知らないことを知る方法を知っている深月が、監視対象にならないほうがおかしいのである。

とにかく血眼になって探している財田側の話は、深月からの情報も必要だ。
最悪の状態を考えとかないとなぁ…

何が最善なのか。
どういう経路を通って落ちをつけるか。
考えないといけない。

ガリっと口に入れていた飴をかみ砕き、再びキーボードを叩いた。



+++++


龍桜会 事務所


「ああ、わかった。詳しい書類は…ああ、了解。」

スマホの赤い受話器マークをタップし、電源を切る佐竹。
デスクにもたれてたばこを吸っていた財田に向かって「一本くれ。切れた」とたばこをせがんだ。

デパートから急ぎ事務所に戻る間に、組員に連絡。
半数を深月捜索に当たらせ、丸三日。

未だに見つかる気配を見せない。
深月の居場所を特定できる情報が足らなさ過ぎる。

デパートから街中に出て行った映像は残っているものの、途中のビルに入ってからの映像が忽然と消えた。
近辺のカメラ映像をすべて確認するわけにはいかず、足取りを調べるのが困難を極めていた。

深月を逃がした佐々木と山村は、指の一本を落とすことを覚悟していたが、
落ち度はあれど、連絡を受けてすぐに指示せず部屋に戻るように言ったのは財田本人である。
男子トイレに隠れて機会を伺い、佐々木達が離れてから脱出したであろう隙を与えたのは財田ということになり、己の落ち度が一番のきっかけであるが故に、処分は別に用意すると告げてある。

「しかし、吉沢さんは頭がよく回りますね。」
「監視カメラの映像、変えてるってことだよなァ、アレ。」

ふぅーと紫煙を吐き出し、面倒なことをするもんだと漏らす黒獅子が頭をガリガリと掻いた。
重苦しい空気が漂う。

「クソッ」

佐竹がデスクを蹴り、派手にガゴンという音が室内に響く。
反動で傍に置かれていたゴミ箱が吹っ飛んだ。

「ヒカルは特別に彼女に入れ込んでいましたしね…なんでか知りませんが。」
「先に目を付けたのは俺なんだがなァ」
「お前じゃねぇよ。ずっと…探してたんだ。」

ソファーに座っていた三嶋が訝し気に見上げる。

「お前らと出会った頃の話だ。初めて深月に会った。アイツが俺の捜しているミツキだと確信したのは化粧をしたアイツを見たときだ。やっと見つけたと思った矢先に逃げられたんだ。たまったもんじゃない。」

絞り出すように告げる佐竹。

「だとしてもだ。ガキの頃のアイツの話なんか知らねェよ。俺は今のアイツを気に入ってんだ。たまったもんじゃねぇのはお前だけじゃねェよ。」
「同感ですね…欲しいものは手に入れる。それが僕達のやり方でしょう?」

ふてぶてしく告げた財田。
ニヤリと口角を上げる三嶋。
佐竹がそんな2人を眺め、ふぅと息を吐いた。
いつも通りの幼なじみを見て、少し落ち着いたようだった。

「今来た電話なんだが。実家の俺の部下からの連絡だった。深月の《改ざん前の過去》が手に入ったらしい。1時間ほどでここに持ってくる。」
「改ざん前の過去?何の話ですか?」
「ああ、シュウはアイツの経歴みてないんだっけか」
「アイツの情報がキレイすぎてな。複雑な家庭事情なのにキレイすぎて違和感しかでてこねぇんだ。」
「佐々木が本人に聞いてみたらしいんだが、未成年だったから情報が保護されていたんじゃないですか?ってよ。」
「だとしてもヒカルとシロが違和感を覚える経歴…なんだとしたら」
「改ざんしてるってのが妥当だろってなァ」
「まぁ、深月さんを探すのも時間がまだかかりそうですし、その改ざん前とやらを見るところから始めましょうか」
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