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第四十九話【兄の優しさ】
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脱衣所にある洗面台に置かれた、持ってきたメイク落としを取り出す。
鏡に映っている姿は、あの高級マンションを出た時とは全く違う。
眉毛は太く、のっぺらな顔。
唇も色味は全くなく。
青いカラーコンタクトもしていない。
春生が気持ち悪いといったメイクである。
顔面を拭き終わったメイクシートをゴミ箱にポイっと放り込み、服を脱いでいく。
数時間前に着た洋服は変わり果てた姿になっている。
スカートについていた取り外しのできるベルトはすべて外し、どこにでもあるプリーツスカートへ変貌し、ウエストを2回ほど折ってパーカーからスカートが見えないようにしてあった。
白いロングパーカーは前をぴっちりと閉め、スカートのベルトをウエストに着け、ワンピース風にした。
バッグはパーカーの内側に入れて目立たないようにし、パッと見では手ぶらに見せる。
髪の毛は前髪をポンパにし、残りはぴっちりとゴムで縛ってすっきりさせた。
眼鏡は見えにくくはなるけど、いったん外してタクシーに乗り込むまではかけずにいた。
とにかく、あの特殊メイク美少女から少しでもかけ離れた印象を出すための外見を選んだつもりだ。
「ふぅ…」
私の居場所を常に監視している兄のおかげで
この家に来ることがわかっていたのだろう。
お風呂には湯が張ってあり、私が大好きなグレープフルーツの香りのする入浴剤が入れてある。
「いい香りだぁ。」
シャワーをざっと浴びて湯舟に浸かる。
水位が上がってちょっとだけバスタブからお湯が溢れる。
「ふぁぁぁぁ。きもちぃー!さいっこー!」
気を張りっぱなしだったあのマンションで過ごした1日半。
あの日、隣の住人の居場所を教えてしまったあの日。
まさかヤクザと追いかけ子をする羽目になるなんて思いもしなかった。
まともに家でお風呂に入ることもできずに、気を張って過ごした数週間。
もっと早く春生を頼ればよかったのかもしれないと思うけれど。
今はここにたどり着いた安心感でいっぱいだ。
久しぶりにリラックスして寝れるわぁ…
お湯に口までつかり、ぷくぷくと空気を出して、温かいお湯に幸せを感じながら、浸る。
自分ではどうにもできなかったあの人たちとのことも
兄がいてくれれば問題なく解決するだろう。
(はぁぁぁぁ。ほんっと疲れたー。今日はあったまって、さっぱりして、寝よう。そうしよう。)
お風呂を出て、この家に置きっぱなしになっていた着替えに袖を通し、リビングに戻る。
「はーるきー。」
「なにー?」
リビングから通じる春生の仕事部屋に声をかける。
「お風呂ありがと!私ホットミルク作るけど春生なにのむー?」
「あー…エナドとってー」
「マジか、この時間からエナドか。」
「いーだろー、俺のガソリンなの!」
「あいあい」
冷蔵庫から黒い缶と牛乳パックを取り出し、電子レンジにマグカップに入れた牛乳を突っ込み、回っている間に、春生にエナジードリンクを持っていく。
「今は何してるの?」
モニターが青白く光り、それぞれ違う動きをしている。
春生が今向き合っているデスクは3台のPCと6台のモニターがつながっている。
中心に位置している2台のPCモニターには私が映っていた。
「深月の逃走ルートにあった防犯カメラに写っていたものを置き換えてる。」
「うわ、何千台分?」
「深月がこっちに来てる間にも同時進行でしてたから、残りの台数はそこまでじゃないかなぁ」
(同時進行って…まじか…)
こういうときには頼もしいと思うのだろうが、やっぱりちょっと常軌を逸脱している気がする。
「今、あの人たちどうしてるか見てる?」
「すっげぇ捜してる。」
「いや、その発言だけでめちゃくちゃ怖いんだけど」
捜されているというのも、めちゃくちゃ怖いんだが、それを把握している兄も怖い。
電子レンジが主張をしたのでホットミルクを取りに行く。
ホットミルクに、はちみつを1さじ突っ込み、くるくると溶かす。
今日は寝ろって言われたけど、自分の部屋で寝るのは何となく嫌な気分で。
私は結局、ホットミルクを持ったまま春生の部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。
「みーつき、自分の部屋で寝な。」
「やだ。」
「やだって…」
モニターから目を離さずに声をかけた春生は、拒否した私に目だけ向けた。
「だって。やだ。」
「駄々っ子か」
右手を額にあててアチャーとでもいうようにつぶやく春生の声は
実際は微塵も困っては居なさそうだった。
「ところで深月さん。GPSはカバンだけっぽいんですけど。タクシー代どこから出したの?」
「あー、あのバッグ。内側に一枚布縫い付けてあるの。春生が入れたGPSは底板の内側じゃん。私はバッグの内側。四隅に丸めた万札を8枚。と底に2万分。」
「おぅ…カスタムしたのねー。えらいえらい。」
左手で私においでと合図されたので、傍に行くと頭を撫でられた。
くすぐったい。
「財布とスマホは無理だったけどね。仕方ないよね。」
「まぁなぁ。…うぉし、防犯カメラ終わり。」
「ありがとう。」
「んー、まだやる事あるけど…こっちのが先。」
ん。
と春生が腕を広げて私に向き直った。
(あー。やっぱりこの人は…)
手に持っていたマグカップをデスクに置いて春生に抱き着いた。
じわっと目頭が熱くなる。
「あーもう。なんでこんなになるまでお兄ちゃんに頼らないの。お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えないですよー」
「だ…っ、だって…」
「だってじゃないのー。迷惑なんて思わないから。ね?」
優しく頭を撫でる春生の手が暖かくて、目から溢れた熱いものが頬を伝わった。
鏡に映っている姿は、あの高級マンションを出た時とは全く違う。
眉毛は太く、のっぺらな顔。
唇も色味は全くなく。
青いカラーコンタクトもしていない。
春生が気持ち悪いといったメイクである。
顔面を拭き終わったメイクシートをゴミ箱にポイっと放り込み、服を脱いでいく。
数時間前に着た洋服は変わり果てた姿になっている。
スカートについていた取り外しのできるベルトはすべて外し、どこにでもあるプリーツスカートへ変貌し、ウエストを2回ほど折ってパーカーからスカートが見えないようにしてあった。
白いロングパーカーは前をぴっちりと閉め、スカートのベルトをウエストに着け、ワンピース風にした。
バッグはパーカーの内側に入れて目立たないようにし、パッと見では手ぶらに見せる。
髪の毛は前髪をポンパにし、残りはぴっちりとゴムで縛ってすっきりさせた。
眼鏡は見えにくくはなるけど、いったん外してタクシーに乗り込むまではかけずにいた。
とにかく、あの特殊メイク美少女から少しでもかけ離れた印象を出すための外見を選んだつもりだ。
「ふぅ…」
私の居場所を常に監視している兄のおかげで
この家に来ることがわかっていたのだろう。
お風呂には湯が張ってあり、私が大好きなグレープフルーツの香りのする入浴剤が入れてある。
「いい香りだぁ。」
シャワーをざっと浴びて湯舟に浸かる。
水位が上がってちょっとだけバスタブからお湯が溢れる。
「ふぁぁぁぁ。きもちぃー!さいっこー!」
気を張りっぱなしだったあのマンションで過ごした1日半。
あの日、隣の住人の居場所を教えてしまったあの日。
まさかヤクザと追いかけ子をする羽目になるなんて思いもしなかった。
まともに家でお風呂に入ることもできずに、気を張って過ごした数週間。
もっと早く春生を頼ればよかったのかもしれないと思うけれど。
今はここにたどり着いた安心感でいっぱいだ。
久しぶりにリラックスして寝れるわぁ…
お湯に口までつかり、ぷくぷくと空気を出して、温かいお湯に幸せを感じながら、浸る。
自分ではどうにもできなかったあの人たちとのことも
兄がいてくれれば問題なく解決するだろう。
(はぁぁぁぁ。ほんっと疲れたー。今日はあったまって、さっぱりして、寝よう。そうしよう。)
お風呂を出て、この家に置きっぱなしになっていた着替えに袖を通し、リビングに戻る。
「はーるきー。」
「なにー?」
リビングから通じる春生の仕事部屋に声をかける。
「お風呂ありがと!私ホットミルク作るけど春生なにのむー?」
「あー…エナドとってー」
「マジか、この時間からエナドか。」
「いーだろー、俺のガソリンなの!」
「あいあい」
冷蔵庫から黒い缶と牛乳パックを取り出し、電子レンジにマグカップに入れた牛乳を突っ込み、回っている間に、春生にエナジードリンクを持っていく。
「今は何してるの?」
モニターが青白く光り、それぞれ違う動きをしている。
春生が今向き合っているデスクは3台のPCと6台のモニターがつながっている。
中心に位置している2台のPCモニターには私が映っていた。
「深月の逃走ルートにあった防犯カメラに写っていたものを置き換えてる。」
「うわ、何千台分?」
「深月がこっちに来てる間にも同時進行でしてたから、残りの台数はそこまでじゃないかなぁ」
(同時進行って…まじか…)
こういうときには頼もしいと思うのだろうが、やっぱりちょっと常軌を逸脱している気がする。
「今、あの人たちどうしてるか見てる?」
「すっげぇ捜してる。」
「いや、その発言だけでめちゃくちゃ怖いんだけど」
捜されているというのも、めちゃくちゃ怖いんだが、それを把握している兄も怖い。
電子レンジが主張をしたのでホットミルクを取りに行く。
ホットミルクに、はちみつを1さじ突っ込み、くるくると溶かす。
今日は寝ろって言われたけど、自分の部屋で寝るのは何となく嫌な気分で。
私は結局、ホットミルクを持ったまま春生の部屋に戻り、ベッドに腰掛けた。
「みーつき、自分の部屋で寝な。」
「やだ。」
「やだって…」
モニターから目を離さずに声をかけた春生は、拒否した私に目だけ向けた。
「だって。やだ。」
「駄々っ子か」
右手を額にあててアチャーとでもいうようにつぶやく春生の声は
実際は微塵も困っては居なさそうだった。
「ところで深月さん。GPSはカバンだけっぽいんですけど。タクシー代どこから出したの?」
「あー、あのバッグ。内側に一枚布縫い付けてあるの。春生が入れたGPSは底板の内側じゃん。私はバッグの内側。四隅に丸めた万札を8枚。と底に2万分。」
「おぅ…カスタムしたのねー。えらいえらい。」
左手で私においでと合図されたので、傍に行くと頭を撫でられた。
くすぐったい。
「財布とスマホは無理だったけどね。仕方ないよね。」
「まぁなぁ。…うぉし、防犯カメラ終わり。」
「ありがとう。」
「んー、まだやる事あるけど…こっちのが先。」
ん。
と春生が腕を広げて私に向き直った。
(あー。やっぱりこの人は…)
手に持っていたマグカップをデスクに置いて春生に抱き着いた。
じわっと目頭が熱くなる。
「あーもう。なんでこんなになるまでお兄ちゃんに頼らないの。お兄ちゃんはそんな子に育てた覚えないですよー」
「だ…っ、だって…」
「だってじゃないのー。迷惑なんて思わないから。ね?」
優しく頭を撫でる春生の手が暖かくて、目から溢れた熱いものが頬を伝わった。
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