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第四十六話【深夜の帰宅】
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「ありがとうございましたー」とタクシーの運転手に告げ、車を降りる。
大通りを走り去るテールランプを見送り、深夜の閑静な住宅街に静まり返る路地をちょっと歩く。
用心に用心を重ねるに越したことはない。
目的地はここから徒歩10分。
ぴんぽーん。
ガサっという通話が開始されたノイズが聞こえた後。
『入りなー』という聞きなれた、ちょっと間延びした声と共に、入り口のドアのロックが外れる音がした。
鉄製の自動ドアが、センサーによって開く。
エレベーターのドアが閉まると、自動的に動き出し、ポンという柔らかい音と共にドアが開く。
(相変わらずだなぁ)
この家のエレベーターは、設定してある人間か、もしくは家主が許可を出した人間が乗っている時しか動かない。
非常階段もドアに似たようなことを設定している。
もちろん解除もできるが本当の非常事態のみだ。
エレベーターを降りて右手にあるドアには縦長のポールのようなものが張り付いており、ドアノブとしての機能をしている。
そのノブを触ると青い光がドアノブから光り、上下にその光が動く。
センサーである。
私の手をスキャンニングすると、カチャリとまたロックの外れる音がし、ノブをスライドさせ中に入る。
「みつきぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい」
ドアが自動的に閉まり、ロック音が聞こえたのを確認し、足を進めたところで奥から叫び声が聞こえた。
バタン!ドタドタドタ!!
ものすごい勢いで駆けてきた男を「ぐぇっ」と抱きとめる。
「おにいちゃんは心配したよぉぉぉおおおお!!もうなんであんなところいったの!!深月から連絡ないとこっちは動けないんだからねっ!わかってるの!!もう!!!あんな心配させないでよ!!ずっとみてたけど!!ずっとみてたけどぉぉぉぉぉぉおおおお」
若干ストーカーじみた発言をしたのはこの際スルーで。
見てたのかよとか突っ込むのは無駄なのだ、この人に関しては。
「わかったわかったからちょっとっ!くるs…じぬっ」
ぎゅううううっと腕を締め付けられ、顔が埋もれている私は酸欠で死にそうである。
「ああ、ごめんね?痛かった?何かされてない?けがは?」
「怪我はしてないよ。案外大事に扱われてた。」
「よかったぁぁぁぁ、もうっ!危ないことはしないって約束したから独り暮らし許してるんだからね!?こんなことあるならさせるんじゃなかった!!!」
過保護か!
いや、ヤクザに拉致られたら誰でもこうなるか。
そりゃそうだわ。
「とりあえず、飲み物かなんか頂戴。ちょっとゆっくりしたい。」
「みつきぃぃぃ!!ちょっとちゃんと聞いてるの!?ちょっと見ないうちに荒んじゃって…お兄ちゃん悲しいよっ」
「荒んでないから、大丈夫。ちゃんと話はするし、落ち着いて?春生。」
すんすんと、泣いているように鼻を鳴らし、私の手を引きリビングに連れていくこの男。
私の兄である。
暗いところで見ると黒っぽく見えるが、真紅に染め上げたちょっと長めの髪。
左耳には小ぶりのループピアスが二つ。
細身だけどしっかりと筋肉のついた体躯。
外国人のような彫りの深い、でも少し可愛らしくも見える顔面の作り。
だが生粋の日本人。
会う度にオーバーに愛情表現をするこの人は、私の《趣味》の師匠でもある。
ソファーに座らされ、冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、渡される。
春生はというと己はちゃっかり温かいコーヒーをマグに入れていた。
「私もコーヒーがいい」
「ダーメ。これは俺用。あったかいのがいいんだったら白湯上げる。」
「白湯嫌い。」
「知ってる。」
「嫌がらせか」
「お兄ちゃんを心配させた罪は重い!」
ビシーっと指をさされた。
テンション高いなぁもう…
パキっとペットボトルの封を切り、こくりと水を飲む。
「でー、どうして龍桜会なんてとこに捕まったわけ?お兄ちゃんとっても気になります。理解できるように話してね?」
さわやかに、かつ、にこやかに、ヤクザたちみたいな分かり安い怒気なんて孕まずに、聞かれる。
けど、めっちゃ怖い。後ろに闇背負ってる…
「その前にお風呂入らせて…」
「だーめ。時間ないよ。俺が対処できる範囲でバックアップしてやるから、詳細教えてもらわないとすぐ動けないでしょー」
「はぃ…」
大通りを走り去るテールランプを見送り、深夜の閑静な住宅街に静まり返る路地をちょっと歩く。
用心に用心を重ねるに越したことはない。
目的地はここから徒歩10分。
ぴんぽーん。
ガサっという通話が開始されたノイズが聞こえた後。
『入りなー』という聞きなれた、ちょっと間延びした声と共に、入り口のドアのロックが外れる音がした。
鉄製の自動ドアが、センサーによって開く。
エレベーターのドアが閉まると、自動的に動き出し、ポンという柔らかい音と共にドアが開く。
(相変わらずだなぁ)
この家のエレベーターは、設定してある人間か、もしくは家主が許可を出した人間が乗っている時しか動かない。
非常階段もドアに似たようなことを設定している。
もちろん解除もできるが本当の非常事態のみだ。
エレベーターを降りて右手にあるドアには縦長のポールのようなものが張り付いており、ドアノブとしての機能をしている。
そのノブを触ると青い光がドアノブから光り、上下にその光が動く。
センサーである。
私の手をスキャンニングすると、カチャリとまたロックの外れる音がし、ノブをスライドさせ中に入る。
「みつきぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいい」
ドアが自動的に閉まり、ロック音が聞こえたのを確認し、足を進めたところで奥から叫び声が聞こえた。
バタン!ドタドタドタ!!
ものすごい勢いで駆けてきた男を「ぐぇっ」と抱きとめる。
「おにいちゃんは心配したよぉぉぉおおおお!!もうなんであんなところいったの!!深月から連絡ないとこっちは動けないんだからねっ!わかってるの!!もう!!!あんな心配させないでよ!!ずっとみてたけど!!ずっとみてたけどぉぉぉぉぉぉおおおお」
若干ストーカーじみた発言をしたのはこの際スルーで。
見てたのかよとか突っ込むのは無駄なのだ、この人に関しては。
「わかったわかったからちょっとっ!くるs…じぬっ」
ぎゅううううっと腕を締め付けられ、顔が埋もれている私は酸欠で死にそうである。
「ああ、ごめんね?痛かった?何かされてない?けがは?」
「怪我はしてないよ。案外大事に扱われてた。」
「よかったぁぁぁぁ、もうっ!危ないことはしないって約束したから独り暮らし許してるんだからね!?こんなことあるならさせるんじゃなかった!!!」
過保護か!
いや、ヤクザに拉致られたら誰でもこうなるか。
そりゃそうだわ。
「とりあえず、飲み物かなんか頂戴。ちょっとゆっくりしたい。」
「みつきぃぃぃ!!ちょっとちゃんと聞いてるの!?ちょっと見ないうちに荒んじゃって…お兄ちゃん悲しいよっ」
「荒んでないから、大丈夫。ちゃんと話はするし、落ち着いて?春生。」
すんすんと、泣いているように鼻を鳴らし、私の手を引きリビングに連れていくこの男。
私の兄である。
暗いところで見ると黒っぽく見えるが、真紅に染め上げたちょっと長めの髪。
左耳には小ぶりのループピアスが二つ。
細身だけどしっかりと筋肉のついた体躯。
外国人のような彫りの深い、でも少し可愛らしくも見える顔面の作り。
だが生粋の日本人。
会う度にオーバーに愛情表現をするこの人は、私の《趣味》の師匠でもある。
ソファーに座らされ、冷蔵庫からミネラルウォーターを出し、渡される。
春生はというと己はちゃっかり温かいコーヒーをマグに入れていた。
「私もコーヒーがいい」
「ダーメ。これは俺用。あったかいのがいいんだったら白湯上げる。」
「白湯嫌い。」
「知ってる。」
「嫌がらせか」
「お兄ちゃんを心配させた罪は重い!」
ビシーっと指をさされた。
テンション高いなぁもう…
パキっとペットボトルの封を切り、こくりと水を飲む。
「でー、どうして龍桜会なんてとこに捕まったわけ?お兄ちゃんとっても気になります。理解できるように話してね?」
さわやかに、かつ、にこやかに、ヤクザたちみたいな分かり安い怒気なんて孕まずに、聞かれる。
けど、めっちゃ怖い。後ろに闇背負ってる…
「その前にお風呂入らせて…」
「だーめ。時間ないよ。俺が対処できる範囲でバックアップしてやるから、詳細教えてもらわないとすぐ動けないでしょー」
「はぃ…」
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