3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第四十二話【広い車内を狭く使う】※

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「ふ…ぅ…んっ」

ぶっちゃけすんごく拍子抜けである。
あんなに警戒してた佐々木さんも、何もいう事なくショルダーバッグを渡してくれた。
「確かに女性にカバンはつきものですし、持たせてあげましょう。今から用意するのも難しいですし。そのポーチの中身だけチェックはさせてもらいますが」
なんてポーチの中身だけ確認されたけど。ポーチの中身は《化粧に使われるもの》しか入ってないし。

「深月。舌、出せ。」
「や…ぁ…んぅ…」

その後、全員でマンションの入り口に降りたときに見た光景は、
黒塗りの、異様に長い車。そう、リムジン。
その後ろに黒塗りのベンツ。

(このリムジンに乗るんすか…まじっすか…)

黒塗りのベンツも嫌だがリムジンとかめちゃ目立つ。ヤクザが目立つ車のっていいのか?
この車でカーチェイスとか始まったらすごい面倒で嫌だ。

リムジンの後部座席のドアが黒服に開けられ、財田が無遠慮に乗り込む。
佐竹さんが私の背中を押し、先に入るように促した。
サイドシートには山村さん。
運転席には佐々木さんが乗り込んだようで、私は戸惑いつつもリムジンに入る。
佐竹さんが入ったのを確認した外の黒服がドアを閉め、奥のシートの真ん中に、長い脚を組んで座っている財田さんの隣に行くように佐竹さんに押し込められた。
広い車内、黒革の立派なシート。高級ワインが置かれているブルーにライトアップされているテーブル。
広いL字のシートにみっちり詰められた3人。
違和感でしかない。
なんだこれ。
両サイドには高級なスーツに身を包んだ屈強なヤクザ。
パーカー姿の自分。
違和感。
私が場違い。
何故リムジンになぞしたのか。
どういう立ち位置に私は居たらいいのか。
ちなみに3人ほど黒服はついてくるらしいのだが、多分リムジンの後ろにいたベンツで一緒に移動するのだと思う。

「ん…ふぁ…」

所で。
今なんでちょいちょい甘い息を漏らしているのかというと
財田さんが私の唇を貪っているからである。

腰を抱き、右手は私の首から顎をしっかりと支え、絶え間ないディープなキッスをされている。
食べられそうという表現が似合うその荒々しい口づけは、ぬるぬると分厚い舌を絡め、唾液を交換している。

「ふ…ぷぁっ」

左隣に座っている佐竹さんはというと機嫌悪そうに煙草に火をつけていた。

「ちょ、ちょっと!すとっぷ!!」

ニヤニヤと笑う財田さんの楽しそうな顔を睨み、財田さんの顔面を手で押しのける。

「なんだ?何か不都合でもあったかァ?」
「不都合…とかそういう、あるけど!そうじゃなくて…!」

(なんで急にキスとかされるの!しかもこんなところで!佐竹さんもいるのに!!)

「やァっと深月に触れる時間が出来たんだぜ?お前と遊ぶことの何が悪い?」
「佐竹さんも、佐々木さんや山村さんだっているでしょう!?」
「構う必要なんかないだろ。佐々木達も運転席側からは聞こえないぜ?モニターがあるから何をしてるかはわかるだろうがなァ」
「見てるんじゃん!嫌です!!」

全力の拒否だ。
こういう行為をすることも嫌なのに、他人に見られるなんてもっての他だ。
腕をつっぱり財田さんの胸を押す。
腰を抱かれているのでそれ以上逃げられない。

ピピピ、ピピピと佐竹さんの方から電子音が聞こえた。
首をそっちに向けると、佐竹さんに頭を抱きかかえられた。
するりと財田さんの腕の拘束が解け、今度は佐竹さんの胸に顔をうずめる羽目になる。

「ぶふっ」
「時間か。てか30分てよォ。お前は家でも深月独占してるし、風呂もはいったんだろ?今日くらい俺に譲れよ」
「いくらシロでも無理。てか、決めたことは守れ。」
「へいへい」

なんの話をしてるのかわからんけど、30分で交代するってことだけは読み取れた。
なでなでと抱えられている頭をこすられる。
顔を上げさせられ、今度は佐竹さんにキスをされる。

「んっ」

ちゅっ
とバードキスから入るこの男のキスは、優しくて、慈しむようなキスだ。
何度も繰り返される、バードキス。
唇だけではなく、瞼、額、頬、耳。
ちゅっちゅっといたるところに落としていく唇にくすぐったさを覚えた。
首筋に顔をうずめられたとき、スゥーと車が止まる。

佐々木さんの声がスピーカーを通して「着きました」と聞こえた。
ノックと共にドアが開き、黒服が顔を覗かせる。

「チッ」
佐竹さんの舌打ちと、財田さんの笑い声が同時で、困惑したと共に、キス以上の行為が無かったことに安堵した。
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