46 / 106
❷
第四十一話【緊張】
しおりを挟む
「ところで、みなさん早いご帰宅で、お出かけまで時間ありますけどどうするんですか?」
財田さんたちが帰ってきたのは夕方であり、夜9時という時間までにはまだまだ余裕がありすぎる。
三嶋さんが帰ってくるまで待つというのであれば
地味にいったん部屋にもどってこれからの動きを詰めていきたいんだけれど。
「あー、それなァ」
「晩飯は外で取ることにした。深月、食べたいものあるか?」
私の質問に反応した財田さんに続いて上から説明が降ってきた。
「食べたいものですか…せっかく外に行くならお寿司食べたいです。生魚なかなか一人じゃ食べないですし。」
「っし、なら寿司いくかァ」
上に向けて言ったつもりだったのに財田さんが返事した。
決定権は確かに財田さんなのかもしれないけど、もうどっちに答えたらいいのかわかんねぇなぁ…
ん?ていうか三嶋さんほっといていいの?
ソファーに寄りかかり、スーツのポケットに左手を突っ込み、右手でスマホを高速でスタタとタップしている様は本当になんというか、目の保養になる男である。
しゃべらなければカッコいい男なのにな。
と、思っていたら、いきなり目の前が暗くなった。
「あんまり見つめるな。深月が減るぞ。」
「私が減るってなんですかね」
どうやら佐竹さんに手で目隠しされたようだ。
眼鏡の上からだから光りがないとかではなく、視界が手で埋もれただけである。
手の平しか見えないのは事実なんだけど。
「シュウに伝えたから移動すっかぁ。山村、お前も連れてく。佐々木行き先魚政な。30分で出るぞ。」
「あ、じゃぁちょっと化粧直ししてきます」
佐竹さんの肩に手を置いて、ぴょんと床に降り、私は階段へ足を向ける。
「あ、忘れてた。山村さん、ハンカチとティッシュ用意おねがいしますー」
階段をのぼりながら
私の部屋になかったんですよぉー
と付け加える。
「あ、了解っす」
下からちょっと張った山村さんに笑顔を向け、自室に向かう。
部屋のドアをパタンと閉め。
息を吐く。
緊張してきた。
ゆっくりと、奥の机に近づき、机の上に置いてあるメイクポーチに手をかけ、ジッパーを開く。
ミラーを開き、顔を確認する。
(大丈夫。うまくいく。財田さんはちょっと抜けてる。三嶋さんは今はいない。山村さんも多分あの分では気づいていない。佐竹さんと佐々木さんがちょっと怖いっちゃ怖いけど。大丈夫だ。大丈夫。)
ティッシュを口に挟み、ほとんど取れていたグロスと口紅をいったん軽く落とし、口紅を手に持つ。
緊張で口紅を持つ手が震えている。
キャップを外し、口紅を指に着け、色のついた指を唇に当て滑らせる。
ミラーで他に変なところはないか確認し、特段に問題がないなとミラーをたたみ、ポーチにしまう。
汚れた指をメイク落とし用シートで拭いて、息を無理矢理吐く。
緊張で死にそう。
コンコン。
カチャ。
部屋のドアが開き、
「時間です」
そう佐々木さんが告げた。
死刑執行の声に聞こえる。
このチャンスを逃したらいつ外出できるかわからない。
このチャンスを失敗したら二度と生きて帰れるかわからない。
「はーい。あ、佐々木さん。この化粧ポーチとハンカチとかを入れたいので私のカバンだけ、欲しいんですけど。」
財田さんたちが帰ってきたのは夕方であり、夜9時という時間までにはまだまだ余裕がありすぎる。
三嶋さんが帰ってくるまで待つというのであれば
地味にいったん部屋にもどってこれからの動きを詰めていきたいんだけれど。
「あー、それなァ」
「晩飯は外で取ることにした。深月、食べたいものあるか?」
私の質問に反応した財田さんに続いて上から説明が降ってきた。
「食べたいものですか…せっかく外に行くならお寿司食べたいです。生魚なかなか一人じゃ食べないですし。」
「っし、なら寿司いくかァ」
上に向けて言ったつもりだったのに財田さんが返事した。
決定権は確かに財田さんなのかもしれないけど、もうどっちに答えたらいいのかわかんねぇなぁ…
ん?ていうか三嶋さんほっといていいの?
ソファーに寄りかかり、スーツのポケットに左手を突っ込み、右手でスマホを高速でスタタとタップしている様は本当になんというか、目の保養になる男である。
しゃべらなければカッコいい男なのにな。
と、思っていたら、いきなり目の前が暗くなった。
「あんまり見つめるな。深月が減るぞ。」
「私が減るってなんですかね」
どうやら佐竹さんに手で目隠しされたようだ。
眼鏡の上からだから光りがないとかではなく、視界が手で埋もれただけである。
手の平しか見えないのは事実なんだけど。
「シュウに伝えたから移動すっかぁ。山村、お前も連れてく。佐々木行き先魚政な。30分で出るぞ。」
「あ、じゃぁちょっと化粧直ししてきます」
佐竹さんの肩に手を置いて、ぴょんと床に降り、私は階段へ足を向ける。
「あ、忘れてた。山村さん、ハンカチとティッシュ用意おねがいしますー」
階段をのぼりながら
私の部屋になかったんですよぉー
と付け加える。
「あ、了解っす」
下からちょっと張った山村さんに笑顔を向け、自室に向かう。
部屋のドアをパタンと閉め。
息を吐く。
緊張してきた。
ゆっくりと、奥の机に近づき、机の上に置いてあるメイクポーチに手をかけ、ジッパーを開く。
ミラーを開き、顔を確認する。
(大丈夫。うまくいく。財田さんはちょっと抜けてる。三嶋さんは今はいない。山村さんも多分あの分では気づいていない。佐竹さんと佐々木さんがちょっと怖いっちゃ怖いけど。大丈夫だ。大丈夫。)
ティッシュを口に挟み、ほとんど取れていたグロスと口紅をいったん軽く落とし、口紅を手に持つ。
緊張で口紅を持つ手が震えている。
キャップを外し、口紅を指に着け、色のついた指を唇に当て滑らせる。
ミラーで他に変なところはないか確認し、特段に問題がないなとミラーをたたみ、ポーチにしまう。
汚れた指をメイク落とし用シートで拭いて、息を無理矢理吐く。
緊張で死にそう。
コンコン。
カチャ。
部屋のドアが開き、
「時間です」
そう佐々木さんが告げた。
死刑執行の声に聞こえる。
このチャンスを逃したらいつ外出できるかわからない。
このチャンスを失敗したら二度と生きて帰れるかわからない。
「はーい。あ、佐々木さん。この化粧ポーチとハンカチとかを入れたいので私のカバンだけ、欲しいんですけど。」
0
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。


お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪

ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。


地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる