3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第三十四話【ため息が二つ】

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「…こうすれば怖くないだろ。」

佐竹さんが言うが否か、私の足を持ち上げ姫抱っこ状態にした。
佐竹さんの体にすべての体重を預ける形になって、
それはそれで居心地が悪い。
佐竹ファンから見れば奥歯をギリギリとしてハンカチを噛みちぎりそうになるだろうが
私にとってはまた身動きが取れない体勢に、腹が立った。

(だからぁ!そういう事じゃないんだってヴァ!!!)

なんだこいつ!なんなんだほんとに!!
佐竹を見上げる形になってニヤつく男をギリィっと睨みつける。
確信犯だ。絶対。

「いちゃついてんじゃねェよ…俺の存在忘れてんだろお前らァ…」

んっとに、俺は全然触れてねェのによォ…呆れた顔を見せる財田さんに、そういやこの人が発端で拉致られたんだったとなんかすいません。と心でつぶやく。
あれ?謝る理由なくね?私この人たちから逃げる事考えてんのになに謝ってるんだろう…
ともあれ、コーヒーを飲みたくてせっかく持ってきたコーヒーに手を伸ばす。

……届かねぇ…。
佐竹さんの体にすっぽりと納められ、ローテーブルにギリギリ届くくらいの距離の私の指先。

「コーヒーください」
「おう」

頼まないとマグカップまで届かない自分の腕の短さに腹が立つ。
これもどうせ計算なのだ。
このずるい男はちょっと私の身体を自分の身体で押しながら私のマグを取って手渡してくれた。

「ざっす」

適当な感謝の言葉に意味はない。
だってこいつがそう仕組んだのだから。

「深月、夜まで山村と二人だ。昼前には俺らも仕事に行かなきゃならん。」
「はい」

望むところだ。やる事はたくさんある。
財田さんが話始めたのでマグカップを両手で持ちながら男の方を見る。

「ヒカルが話したとは思うが、24時間体制で、玄関のドアに2人がついてる。外に出ようとしても無駄だ。下の階にウチの組員達が住んでてな、常時20人ほど待機してる。1階ロビーにもサロンに数人配置している。外部から狙われても反応ができるようになっていて、もし、外部からの侵入があったとしてもすぐにわかる。もちろん、お前が逃げようとしてもすぐに対応ができるようにしてある。」

無駄なことはすんなよ…ってことっすかー
やだなぁもう…やっぱり朝外に出なくてよかった。出てたら今日のお出かけ(脱出チャンス)はなくなっていた。

「大丈夫ですよー。ちゃーんとお迎えに来るのまってますって。」

コーヒーをくぴっと飲みながら興味なさそうに反応する。
淡々と告げられる警戒態勢の話をされて、辟易する。
そんなに私が逃げることを警戒しなくてもいいのに。
絶対この家から出さないって念を押すように告げる男達。
そこまでして私を逃がしたくないのは理解できないが、なんかすごい。もう何度となく逃がさないと言われてるのだ。そこまで念を押す必要ってあるのか?

(本当によく分かんないなぁ…)

アノ人に言えばここのセキュリティーなんてどうにかしてくれそうだが、繋ぎをとるための手段が今はない。
どのみちチャンスは外出した時しかない。
今はそのチャンスを活かすために悟られるわけにはいかないんだ。

「そうそう、時計と化粧に必要なものが欲しいです。」

話題をそらすために、欲しいと思ったものを提案する。

「け、化粧?」

財田さんが不思議な顔をした。
なんだ、私が化粧しちゃダメなのか。私だって一応簡単でもできるんだぞ。

「せっかくお出かけするんでしょう?いくら引きこもりでもお外に出るときはしますよ。」
「お前俺らの前で化粧なんてしたことないだろ」
「それはいつでも急に来るからでしょうが。三嶋さんとの初対面は仕事明け、財田さんと佐竹さんとの初対面はアポなしいきなりお宅訪問からの拉致。3度目の佐竹さんのお迎えの時は、事務所に拉致られた後、1度も家に帰ってないんですよ…荷物になるメイク道具なんて一つも持ってませんでしたからね?」
「あ、あぁ…そうか」

まくし立てるようにガウガウと噛みつく私の勢いに押されたのか黒獅子様がシュンとなった。
耳としっぽが下に垂れてるような光景が見えるようだ。
急に頭を撫でられる感覚にビクっとする。
おちつけー、とでも言うようにナデナデナデナデとずっと大きな手が髪をさする。

「一式欲しいので、後で山村さんに買いに行ってもらってもいいですか?」
「…わかったその間、誰かお前に着ける。山村任せたぞ」
「はい。」

キッチンに戻っていた山村さんが返事をした。

「シロ、ヒカル。お話し中すみません、私はそろそろ行きます。2時までに終わらせて一度事務所に戻りますので報告はその時に。」

三嶋さんが朝見せたラフな格好ではなく、ピシっとしたスーツ姿で階段を下りてきた。
二人が三嶋さんに目を向け、「わかった」と財田さんがうなずくと三嶋さんが私に目を向けた。

「昨日は楽しかったですね。また遊びましょう。」

佐竹さんに抱きかかえられている事など気にも留めずに私の額にちゅっと唇をつけた。

「じゃぁ、お先に失礼しますね。また後で。」

三嶋さんがリビングを出ていくのを見送り、「んじゃ」と膝に手をつき立ち上がる財田さんの声をきっかけに佐竹さんも私をソファーに置いて立ち上がる。

「仕事の準備するかー…あーやだやだ。俺も仕事休んで深月といちゃつきたい」
「させるか。」
「お前らはさー、深月と時間あったからさーいいけどさー?
おかしくねェか?なんでTOPが率先して仕事して部下に女任せなきゃなんねェんだよ!お前らが働けよォ俺深月とセックスしてっから」
「お前の采配だろうが」
「俺がやる!っていえばいいだろうがァ、クソがー」

私にとって不穏な発言を含む文句を言いながら自室に向かう男たち。

キッチンから出てきた山村さんと私だけが、リビングに残される形になるのだが
大きなため息が二つ。リビングに響いた。
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