3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第三十一話【男達の夜】2

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すぅすぅと寝息を立ててベッドに横になっている彼女の眉間には皺が寄っている。
濡れタオルで一度体を丁寧に拭いて、ルームウェアを着させ、彼女の部屋に寝かせた。

くりくりと眉間の皺を伸ばすようにそこに指を当て撫でてやる。
んんっと喉を鳴らして手を払い、横向きに寝がえりをうつ。

寝ていても邪険にされてちょっと笑ってしまう。

ポコンとスマホが鳴る。
シロの仕事が終わったようだ。

せっかくなので寝顔を撮り、二人に送ってやる。

音をあまり立てないように彼女の部屋を出て
『癒しを送って差し上げましたよ。うれしいでしょう?』なんて送ってやる。
既読が付いたかと思えば、速攻でコール音が鳴った。

緑の受話器ボタンを押して、開口一番怒鳴られるだろうとスピーカー部分を耳から離す。

『ふざけんな!クソが!!』

一呼吸おいて「どうしました?」と答えてやる。

『俺で遊ぶんじゃねぇ!!ていうか深月使って遊ぶな!!…つうかまた気絶したンか?』

ガルルとでも聞こえてきそうなほどの怒声に思わず笑みがこぼれる。

「ちょっとヒカルと同じようなことをしただけですって、安心してください。寝てるだけですし。」
『……安心て…べつにそんなんじゃねェけど』
「あ、あとでメイド服の写真もお送りしますよ、とっても可愛らしいかったです」
『俺にもよこせ』
『おい!携帯奪うんじゃねェ!つか前見やがれ事故ったら殺すぞ!!』

電話口で騒ぎまくる幼馴染を微笑ましいと思えばいいのか、いつまでもガキだと思えばいいのか…

「シロ、それより力仕事終わったんなら一度事務所戻るんですか?」
『いや、直接帰る。本部への連絡は佐々木に任せてある。シュウは朝一番に後片付け頼むわ』
「了解しました。」
『30分で戻る。』

プツっと通話が切れ、チャット画面に切り替わる。

ふと彼女が寝ている部屋のドアに視線が行き、クっと喉がなった。

(覚悟したほうがいいかもしれませんね。貴女を巡る運命を)


+++++


マグカップをかちゃりとローテーブルに4個置いて、山村は邪魔にならないようにソファーの端に座る。
それを横目で見て、佐竹がポケットから煙草を取り出し火をつける。

「どうでした?」
「どうもこうも。普通。」

今日の仕事の状況を聞くために三嶋が財田に対して口を開く。
それに対して、面倒くさそうに、ソファーの背もたれに腕をかけ、財田は上を見上げる。

「拉致に関わった人間・人数に関してはこっちで調べたのと合致。情報は全部書面で佐々木に本部に渡すように手配させた。ルートに関しては佐藤じゃ詳しいことまで知らされてなかったようだが、俺らの情報と変わりない。佐藤は要済みからの破棄。」
「なるほど。佐藤はほぼ役に立たなかったんですねぇ…」
「裏が取れただけでもましだ。大した情報をもってなかったとしても佐藤は上層にいるメンツだぞ。」
「上層の末端とはいえ、下の奴らの総括だ。なのに大したモン持ってなかったってのがなァ。かなり慎重に管理してるンだよなァ…佐藤の口が堅かったってことか、情報を渡してなかったのか。」
「それだけ慎重に情報を管理している割に、安易な行動っていうのが気にはなりますねぇ…」

馬鹿ではないはずなのに、起こした行動が大胆というか、馬鹿。
と、三嶋が続ける。

「まぁなぁ…聖合側がこの二件の問題をどう処理するのかが見ものだな。女絡みだけでも潰しかねない勢いで動いてるからな、本部。」
「ルートの方はちょっと情報が足らないですからねぇ…」
「親父には触りだけ話してるけど、ブチギレてたわ。」
「そういや、シロ、親父さんなんだって?」
「両方ぶっ潰せってよ。」
「…聖合会はどうせ本部側で物理的に潰すんでしょうけど、問題はタニカワですよねぇ」
「表からにしろ裏からヤルにしろ、表社会で生きてるやつが裏社会の事よく知らずに潜り込んできたんだ。それ相応の対処してやらねェとなァ」

黒獅子が目を光らせながらクククと喉を鳴らした。

「何はともあれ、タニカワの情報が足りない。今動ける状態じゃないのは確かだな」

ふぅーと紫煙を吐き出しながら佐竹が放った発言で話題の切り替えとなったのか

「そういや、深月は?」

と財田が口に出す。

「寝ていますよ。今日はヒカルにも可愛がられて疲れてしまったみたいですね。」

肩をすくめる三嶋に対し、財田が目線だけを三嶋にギロリと向け

「無茶させてねぇだろうな」
「コスプレさせるためにカードゲームしただけですよ」
「お前がそれだけで終わらせるわけないだろが…」

はぁ、とため息交じりに佐竹が口を出す。

「どれだけ酷い男だと思ってるんですか…可愛らしく恥じらう子猫を愛でただけですよ…」
「その子猫の写真、来てないんだが?」
「あぁ、忘れてました。今グルチャに投げますよ。」

そそくさとスマホを出し緑色のアイコンをタップする。
メッセージアプリのグループチャットへ、恥ずかしがる彼女の写真をポンポンと送り続ける。
本人があずかり知らぬ所で、メイド服を着た自分の写真が共有されていることを知ったら発狂すること間違いなしだが、男たちはそんなことお構いなしに己の端末に保存していく。

「よくまぁ深月アイツが撮ること許したな」
「え?許可は得ていませんよ」
「…隠し撮りかよォ」
「あ、これ凄くよくないです?」

深月がベッドでうつ伏せ、お尻を突き上げている。
顔は真っ赤で、微かに目が潤んでいる。
真横から写されている画像。
まるで男を誘っているように見えるその画像に誰かの喉がゴクリと鳴る。

「シュウ……仕事したな」
「ナイス過ぎんだろ…」

可愛らしいメイド服。
うるんだ瞳。
ちらりと覗く肌色の絶対領域。

「画像編集した僕に感謝はないんですか?」

「「よくやった」」

ドヤ顔で眼鏡を上げる三嶋と、スマホから視線を外すことをしない、上司たちに山村がそっとため息をつく。

(今日の三人、変態すぎる…)

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