3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第三十話【男達の夜】1#

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「オラァ!」
「うぁぁぁぁぁ!!!」

怒声と共にゴキュッという鈍い音がして
音の発生源である身体の持ち主から悲鳴が上がる。
ドサッと前のめりで倒れる男の足は本来絶対に向かない方向に向き、震える両手で折れた足を掴もうとしている。
触る方が痛いだろうにと
その光景を無表情で眺めている男が思う。

口に当てていたタバコの煙を肺に入れ、外に吐き出す。

「なァ、佐藤サン。どうしたい?」

武器を持って立っている黒服達を視線だけで退かし、倒れている男に問いかける。

コツコツとコンクリートを鳴らしながら男の顔のそばに寄ってしゃがみ、持っていたタバコを男の頬に擦り付けて火を消す。
呻くことしかしない男の頭を掴み、視線を向けさせる。

「選ばせてやるよ、俺は優しいからなァ」

痛みと屈辱で涙を流している男の頭をコンクリートに叩きつけ

「拷問されて死ぬか、リンチされて死ぬか…」

ニヤリと口の端を上げて、告げる。

「それとも……」

死刑宣告。


+++++

シュボ…キン…
タバコに火をつけ、一息つく。

上に言われていた案件がひとつ片付き、これから後処理だ。
処理自体は部下にやらせるから問題は無い。
引き出すべき情報も全て引き出した。

「佐竹」
「なんだ」
「アッチは本家が処理するだろ?
もう俺らのコッチでの仕事はねェよな」
「あぁ、あとはルートの方だけだな」
「あー、クソめんどくせぇ」
「ルート処理が終わるまで深月アイツが大人しく居てさえくれれば…」

楽できるんだが…
ヒカルがスーツのポケットからタバコを取りだし火をつけた。

タバコから立ち上る紫煙を眺めながらため息を吐く。
凄腕のハッカーが見つけ出した隣人の男ゴミ
バタバタと問題が起きたタイミングを見計らって、己の危険を察知し、逃げた先は対抗している組だった。
こっちのミスで逃がした手前、処理は俺らがしなければならず、かと言って無闇矢鱈に薮をつついて抗争の火種を作る訳にも行かず、四苦八苦していた所に知らされた男の行方。
見つけたのは女だった。

話には聞いていたが、地味な女だった。
化粧っ気もなく、俺たちを見ても驚きも怯みもしない。
見た目も金も持ち合わせている男が3人もいて、なびくわけでもなく。
ヤクザだからとオドオドビクビクする訳でもなく。
表情が顔に出ないタイプ…もしくは表情が乏しいのかとも思ったが、声が震えているわけでもない。
無表情で冷静に状況を読み、交渉するアイツとの初対面を思い出す。
キモが座っていると思った。
まだ20ソコソコの女がヤクザの事務所に拉致られ、冷静でいられることに驚いたし、泣き叫ぶことも、わめくこともなく、交渉するのだ。
面白いと思わないはずがない。

深月のことを調べ、ざっと経歴を見た。
出身、家族構成、学歴、友好関係。
調べても大したことは出てこなかった。
情報の書き換えでもしたかのように、誰でもわかる情報のみ。

なんなら友好関係で出てきたのは仕事の付き合いのみで、仲のいい友人は一人もいない。
小中と病弱で学校にはほぼ行っておらず、高校は通信制。
最終学歴は高校。
若干家族構成が複雑で、両親とも既に他界しており天涯孤独…となってる事くらい。

深月が生まれたときに母親は死亡。
5歳で再婚。
6歳で再び離婚。
以後父親と過ごす。

施設に入ったという記録はなく、15の時に父親が失踪。
父親失踪から一人で生活をしていた。
母親と父親の親戚などは疎遠で交流はなく、どちらの両親もすでに他界しているため頼ることはできなかったようだ。
生死不明のまま、昨年死亡扱いにしている。

まぁ、なんというか。
情報自体は間違ってないんだろうが、情報が綺麗すぎる。
普通ここまで複雑な家庭環境なら何らかの細かい情報があっても良さそうなのだ。
母親についてももちろんだが、父親の情報が極端になさ過ぎている。

「アイツの情報違和感あるんだよなァ…」
「意図的に消してある…か」
「自分で消したんだろうなァ」

何を誰に知られまいとしたのか。
分かりはしないが…

単なる不思議チャンではない。というだけでなく
アイツの中身を作った人生そのものを、俺は知りたいと思った。
俺たちに怯まず意見を言い、興味を持つわけでもなく。
関わりたくないと頑なに拒否するくせに、時折見せる無防備な雰囲気と、能面のような死んだ表情筋。
冷静に判断しているはずなのに偶にでる失言や慌てぶり。
そこら辺にいる女とは違う雰囲気に、危うさを感じさせるあの女。

アイツに興味を持つなというほうが
無理な話だ。


「んじゃそろそろ行くか。お前ら、後の処理は任せる。終わったら佐々木にでも連絡しとけ。佐竹行くぞ。」
「ああ」

立ち上がり、パンパンと脚を叩いてあくびをしながら車に向かう。
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