27 / 106
❷
第二十二話【男のスイッチってよくわからない】
しおりを挟む
ピピピ。ピピピ。
向かい側のソファから電子音が鳴り始めた。
チッと小さく舌打ちをした財田がソファに置かれていたスマホを手に取り、画面をタップする。
「ああ。そうか。わかった。」
短く返事をする財田さんの声に硬さがこもっている。
「ヒカル。着替えて出るぞ。下の奴ら5.6人くらい見繕っておけ」
「はぁ、俺らに休みってのはないんかねぇ」
「本家がゴタついてるからなァ。今はドコもカシコも忙しいンだよ。」
「分かっちゃいるが、もうちょい他に仕事振って欲しいもんだ…」
不機嫌そうに頭をガシガシ掻きながら財田さんが言うと、佐竹さんはそっと私を膝から下ろし、立ち上がった。
「シュウ、今日はお前に預ける。《大事》に扱え。悪いな深月、今日はバタバタしてお前といられる時間がねぇ」
三嶋さんに一言告げると、私の前に来て申し訳なさそうに膝を折る。
いや、私あなたとの時間なんかこれっぽっちも望んでないので大丈夫です。
口には出せない言葉を内心に留め、首を横に振りながら「大丈夫です」の部分だけ声に出す。
財田さんが、そうか。と立ち上がり、そのままオデコにキスを落とした。
そうこうしているうちに、黒服が数人リビングに入ってきて佐竹さんから指示を貰っている。
名残惜しそうに私を横目で見ながら階段を上っていく財田さん。
「案外忙しいんですね?」
三嶋さんにこそっと声をかける。
「昼間オヤジさんに呼ばれたのを覚えていますか?ちょっとその件でゴタゴタしていましてね。今の電話もそのことでしょう。私ではなく、佐竹が呼ばれたということは力仕事でしょうねぇ。大変だ。」
クスクスっと手を口元において笑う三嶋さんはとても楽しそうだ。
力仕事ってなんだろ…工事現場でも行くんだろうか。
ハテナと首をかしげると思ったことが口にでいたのか。
似たようなものですよ。とまたクスクス笑われた。
リビングが厳つい男たちでわちゃわちゃしてきた。
大変居心地が悪い。
こっちをチラチラと見ている黒服もいる。
いつの間にか佐竹さんも自室に行っていたようで
数日前に見たようなピシっとしたスーツで二人が階段を下りてきた。
場所が違えば、社交界で赤い絨毯の引かれた階段を下りているような、カッコいい男たちの姿に一瞬見蕩れる…が、何度も言う。
相手はヤクザの若頭とその右腕。
お疲れ様ですっ若!
と厳つい大の男たちが一斉に財田さんに向かって腰を90度に折る。
うっわ、ガチだ。ガチの奴だ。
事務所にお宅訪問させられたときも、何人も黒服は居たが、財田さんはすでにお部屋にいたのでこんな光景は見ていない。
かなり年上であろう男たちを従える財田という男の権力を、まざまざと見せつけられてドキマギする。
顔が赤くなる系のドギマギではない。
恐怖で青くなるほう。
興味もなさそうに「ああ」と挨拶に返すと、私のほうを向いて、「言ってくる」と手を向けた。
「深月、いい子にしてろよ?山村は置いていく。何かあったらすぐ連絡しろ。」
私宛ての発言、仕事に行く前絶対それだな。いいけど。
私宛てに言われた後は三嶋さんに向けてのものだ。
「いってらっしゃいませ。帰りに連絡は入れてくださいよ。一応。」
「わかってる。」
短く返答した財田さんは軽く右手を上げ、男たちの先頭を切ってリビングを出て行った。
「んじゃ、俺もいってくるわ。」
私の頭をわしゃわしゃと撫で、少し背中を丸めしぶしぶというように佐竹さんもリビングを後にする。
その背中を見送り、昼間とはメンツは違えど二人きりにさせられた私は、前回のことを踏まえて若干身を固めた。
「そんなに固くならないでください。これから一緒に住む相手ですよ?」
カチャっと私と自分のマグカップを手に取り、キッチンに向かいながら三嶋さんがクスっと笑う。
無茶言うな。
佐竹さんとは最後までしなかった(はず)とは言え、監禁されてる女が監禁してる男に一緒に住むとか言われて、何されるかわからんのに緊張しないわけないだろ。
佐竹さんが最後までしなかったのは私が気を失ったからだと思う。
でもそう何度も気を失うようなことがあるわけじゃないだろう。
三嶋さんが私に見せていた柔らかい物腰だとか、言動だとかは他の二人よりは幾分、気が楽にはなってるけれど、あの二人と一緒に行動していて冷徹な部分がないなんてことはない。
腐ってもヤクザの片棒を担んでいるのだ。
やる時はヤルだろう。
やり始めたら止まらないかもしれないし……
…まぁ?三嶋さんが私の陳腐な身体に興味があるのかも分からないし?
綺麗でグラマラスなお姉ちゃんが好きかもしれないし?
「コーヒーおかわりしますか?それとも違うものにしますか?」
キッチンから声がかかる。
「あ、ならお水を」
ピリついた黒服の気迫に圧倒されたからか、喉が渇いていたので水を頼んだ。
片手にコーヒー。片手にミネラルウォーターのペットボトルを持って、三嶋さんはソファーに座った。
私の真横だ。
うん。真横。
体と体の隙間は5センチほど。
近くない?
ずりっと座ってる位置をずらすつもりが、コーヒーを持っていたはずの手で腰を抑えられていた。
「……。」
「どうしました?」
どうしましたじゃない!!腰!!!手!!!
じろり、と男の顔を睨めつける、がどこ吹く風。とでもいうようにニコっと微笑まれた。
グイっとさらに体の距離を縮められて、悲鳴を上げそうになるが、耐える。
「貴女は、とても可愛らしいですね。アイツらが貴女に興味を持つように。私も貴女にとても興味があるんですよ?」
長い指が私の頬から顎にかけて滑る。
(あっれぇぇぇぇ、この人もめっちゃ怖いんですけどぉぉぉぉぉ!!!)
私に興味無いんじゃね?っていう淡い期待は裏切られた。
うっとりと眺められ、気が付いた時には両手がふさがっていたはずの男の手には何も握られておらず、腰を抱かれて顔を撫でられる。
んん……!?
いつどんなスイッチが入ってこうなった…!?
視線を外すことを許されない強い瞳に、私は目を見開いたまま
そっと口づけされるのを黙って見ることしかなかった。
向かい側のソファから電子音が鳴り始めた。
チッと小さく舌打ちをした財田がソファに置かれていたスマホを手に取り、画面をタップする。
「ああ。そうか。わかった。」
短く返事をする財田さんの声に硬さがこもっている。
「ヒカル。着替えて出るぞ。下の奴ら5.6人くらい見繕っておけ」
「はぁ、俺らに休みってのはないんかねぇ」
「本家がゴタついてるからなァ。今はドコもカシコも忙しいンだよ。」
「分かっちゃいるが、もうちょい他に仕事振って欲しいもんだ…」
不機嫌そうに頭をガシガシ掻きながら財田さんが言うと、佐竹さんはそっと私を膝から下ろし、立ち上がった。
「シュウ、今日はお前に預ける。《大事》に扱え。悪いな深月、今日はバタバタしてお前といられる時間がねぇ」
三嶋さんに一言告げると、私の前に来て申し訳なさそうに膝を折る。
いや、私あなたとの時間なんかこれっぽっちも望んでないので大丈夫です。
口には出せない言葉を内心に留め、首を横に振りながら「大丈夫です」の部分だけ声に出す。
財田さんが、そうか。と立ち上がり、そのままオデコにキスを落とした。
そうこうしているうちに、黒服が数人リビングに入ってきて佐竹さんから指示を貰っている。
名残惜しそうに私を横目で見ながら階段を上っていく財田さん。
「案外忙しいんですね?」
三嶋さんにこそっと声をかける。
「昼間オヤジさんに呼ばれたのを覚えていますか?ちょっとその件でゴタゴタしていましてね。今の電話もそのことでしょう。私ではなく、佐竹が呼ばれたということは力仕事でしょうねぇ。大変だ。」
クスクスっと手を口元において笑う三嶋さんはとても楽しそうだ。
力仕事ってなんだろ…工事現場でも行くんだろうか。
ハテナと首をかしげると思ったことが口にでいたのか。
似たようなものですよ。とまたクスクス笑われた。
リビングが厳つい男たちでわちゃわちゃしてきた。
大変居心地が悪い。
こっちをチラチラと見ている黒服もいる。
いつの間にか佐竹さんも自室に行っていたようで
数日前に見たようなピシっとしたスーツで二人が階段を下りてきた。
場所が違えば、社交界で赤い絨毯の引かれた階段を下りているような、カッコいい男たちの姿に一瞬見蕩れる…が、何度も言う。
相手はヤクザの若頭とその右腕。
お疲れ様ですっ若!
と厳つい大の男たちが一斉に財田さんに向かって腰を90度に折る。
うっわ、ガチだ。ガチの奴だ。
事務所にお宅訪問させられたときも、何人も黒服は居たが、財田さんはすでにお部屋にいたのでこんな光景は見ていない。
かなり年上であろう男たちを従える財田という男の権力を、まざまざと見せつけられてドキマギする。
顔が赤くなる系のドギマギではない。
恐怖で青くなるほう。
興味もなさそうに「ああ」と挨拶に返すと、私のほうを向いて、「言ってくる」と手を向けた。
「深月、いい子にしてろよ?山村は置いていく。何かあったらすぐ連絡しろ。」
私宛ての発言、仕事に行く前絶対それだな。いいけど。
私宛てに言われた後は三嶋さんに向けてのものだ。
「いってらっしゃいませ。帰りに連絡は入れてくださいよ。一応。」
「わかってる。」
短く返答した財田さんは軽く右手を上げ、男たちの先頭を切ってリビングを出て行った。
「んじゃ、俺もいってくるわ。」
私の頭をわしゃわしゃと撫で、少し背中を丸めしぶしぶというように佐竹さんもリビングを後にする。
その背中を見送り、昼間とはメンツは違えど二人きりにさせられた私は、前回のことを踏まえて若干身を固めた。
「そんなに固くならないでください。これから一緒に住む相手ですよ?」
カチャっと私と自分のマグカップを手に取り、キッチンに向かいながら三嶋さんがクスっと笑う。
無茶言うな。
佐竹さんとは最後までしなかった(はず)とは言え、監禁されてる女が監禁してる男に一緒に住むとか言われて、何されるかわからんのに緊張しないわけないだろ。
佐竹さんが最後までしなかったのは私が気を失ったからだと思う。
でもそう何度も気を失うようなことがあるわけじゃないだろう。
三嶋さんが私に見せていた柔らかい物腰だとか、言動だとかは他の二人よりは幾分、気が楽にはなってるけれど、あの二人と一緒に行動していて冷徹な部分がないなんてことはない。
腐ってもヤクザの片棒を担んでいるのだ。
やる時はヤルだろう。
やり始めたら止まらないかもしれないし……
…まぁ?三嶋さんが私の陳腐な身体に興味があるのかも分からないし?
綺麗でグラマラスなお姉ちゃんが好きかもしれないし?
「コーヒーおかわりしますか?それとも違うものにしますか?」
キッチンから声がかかる。
「あ、ならお水を」
ピリついた黒服の気迫に圧倒されたからか、喉が渇いていたので水を頼んだ。
片手にコーヒー。片手にミネラルウォーターのペットボトルを持って、三嶋さんはソファーに座った。
私の真横だ。
うん。真横。
体と体の隙間は5センチほど。
近くない?
ずりっと座ってる位置をずらすつもりが、コーヒーを持っていたはずの手で腰を抑えられていた。
「……。」
「どうしました?」
どうしましたじゃない!!腰!!!手!!!
じろり、と男の顔を睨めつける、がどこ吹く風。とでもいうようにニコっと微笑まれた。
グイっとさらに体の距離を縮められて、悲鳴を上げそうになるが、耐える。
「貴女は、とても可愛らしいですね。アイツらが貴女に興味を持つように。私も貴女にとても興味があるんですよ?」
長い指が私の頬から顎にかけて滑る。
(あっれぇぇぇぇ、この人もめっちゃ怖いんですけどぉぉぉぉぉ!!!)
私に興味無いんじゃね?っていう淡い期待は裏切られた。
うっとりと眺められ、気が付いた時には両手がふさがっていたはずの男の手には何も握られておらず、腰を抱かれて顔を撫でられる。
んん……!?
いつどんなスイッチが入ってこうなった…!?
視線を外すことを許されない強い瞳に、私は目を見開いたまま
そっと口づけされるのを黙って見ることしかなかった。
0
お気に入りに追加
546
あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

マッサージ
えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。
背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。
僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。


お兄ちゃんはお医者さん!?
すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。
如月 陽菜(きさらぎ ひな)
病院が苦手。
如月 陽菜の主治医。25歳。
高橋 翔平(たかはし しょうへい)
内科医の医師。
※このお話に出てくるものは
現実とは何の関係もございません。
※治療法、病名など
ほぼ知識なしで書かせて頂きました。
お楽しみください♪♪

ナイトプールで熱い夜
狭山雪菜
恋愛
萌香は、27歳のバリバリのキャリアウーマン。大学からの親友美波に誘われて、未成年者不可のナイトプールへと行くと、親友がナンパされていた。ナンパ男と居たもう1人の無口な男は、何故か私の側から離れなくて…?
この作品は、「小説家になろう」にも掲載しております。


地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる