3獣と檻の中

蓮雅 咲

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第三話【一切関係ございません】

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吉沢深月。25歳。152㎝.45㎏.
職業はWEBライター。干物女。
人付き合いが嫌いで、人と会うことがほぼない職業を選び、引きこもり万歳の精神で生きている。

うなじがすっきり見えるくらいの長さの後ろ髪は、サイドに向かって前下がりに切りそろえられ、いわゆるボブカットという髪型だ。キノコにならない程度が好み。
前髪は少し重ためで目がうっすら隠れるほどの長さ。
黒曜石のような真っ黒な髪色に、同じ色の瞳。
日に日に悪くなる視力を補うため、少し大きめの黒縁眼鏡をかけている。
引きこもりのせいで、肌の色は病的に白く、一切日焼けをしていない。
太陽は天敵。目が死ぬ。

そんな引きこもりの私には、人には言えない趣味がある。
《のぞき》である。
のぞきといっても女性や男性のセクシャルなお色気収集のノゾキではない。
まぁ一部そういうこともある人もいるのかもしれないが。
私の趣味は《情報を覗く》、というものだ。
弱みが欲しい、とか。
そういうことではない。
いわゆるセキュリティーの突破の先にある、《人には内緒》なことがどんなモノなのかってのが知りたいという知的好奇心。といえば聞こえが少しは良くなるだろうか。

とはいえやりすぎるとお縄になる。
できるなら両手を布で覆われパトカーに乗せられるような事は拒否したい。
豚箱の飯がうまいかどうかは、まだ私は知りたくもないのだ。

自分用PCを与えられたのが15歳。
そこから興味本位で始めたことだが
人の《秘密》を知ることにハマってしまった私は、寝食を忘れてパソコンとお友達になった。
高校を卒業するころにはその界隈では名前が知られていた。
あ、本名じゃないよ?もちろん。

故に《隠れ家》を設けることにした。
それが自宅Bである。
ちなみにあの安アパートは自宅A。

拠点をほかに持つことで私に興味を持つであろうモノからの追跡を逃れやすくする算段だった。
そう、そういうつもりだったのだ。

だがたった2週間で自宅Bを探し当てられ、私はいまヤクザの事務所にお宅訪問中である。


(んー、変だなぁ…私を見つけられるような情報網があるのに、隣人を見つけられない……?)


私はちょっと不思議に思って目の前のニヤついてる男の目を見る。

「ちなみに、あの情報あってました…?」
私は問いかける。

「あぁ、ちゃぁーんといたぜ?お前の情報通りにいてくれて助かったわ。持ってかれたモノも後生大事に抱えててくれたおかげで後始末も楽にできたしな。」

猶更わからない。
わからない…が、さっきの3つの質問にきちんと答えなければならなくなったのは確かだ。
ここをはっきりしとかないと明日は東京湾に私の死体が発見される…
私は自分の命とこれからの人生が大事である。

「先ほどのご質問にお答えしますね。
私はちょっと《好奇心旺盛でノゾキが趣味》な単なる一般人です。
隣の家の男とは《一切関係ない》というのが事実ですね。挨拶すらしたことありませんし、顔を合わせた記憶もありません。
あとどこまで知っているか…ですが。正直隣の家の男に関しては《所在》しか知りませんでしたし。その後は行方不明になったことしか知りません。むしろその後のことに関しては興味がないので詮索もしておりません。」

男たちは顔を見合わせる。
ほぼ知らないに等しい答えに対して訝しんでいる様子だった。

「というかぶっちゃけていうと、あの部屋で仕事していたので7日間3回ずつ朝昼晩と各1時間以上ドアが壊れそうなノックとインターホンの爆音連打と怒声のせいで、まともに仕事できる時間が夜中かから朝までなのがすさまじいストレスで近所迷惑すぎてでもあなた方にかかわりたくないのと締め切り近くてイライラしていたのが相まって耐え切れずに情報漁っただけなので。ていうか本当に3徹だったんです死ぬかと思った…あの日締め切り開けで寝ようとしてたのに1時間もたたないうちに起こされてブチギレてただけなんで許して欲しいんですけど…」

辟易していた…本当に…という顔を私はして(事実本当に辟易していたし)両手で顔を覆いながら下を向く。

「俺たちについては?」
「存じ上げませんでしたし、興味もありません。」

今さっき、どこのどなたかは知ってしまいましたが記憶を抹消するつもりなのでお気になさらず…
それに関してだけ言えばそこの眼鏡スーツがした失言なのでそっちに矛先を持って行ってもらいたい。

「ヤツが持って行ったモノに関しては?」
「あの人が何をしたのかなんて知る気力もありませんでしたし、興味もありませんでしたし、現在進行形で知りません。」

本当に辟易…という私の気持ちを察してほしい。
顔を覆ったまま首を横にフリフリと振ってため息を吐く。

「ヤツと血縁関k「あるわけありません」」
「恋b「なんで見たこともない人と付き合えるんですか」」

大体こちとら一度も男おらんねんぞ!!!

「性的関k「だからどうやったらあったこともない人と関係持てるんですか…!!!」

しつこい!!!
ぶちぎれんぞゴルァ!!
というほど額に青筋立てて怒鳴る。

クハハハハハと目の前の男が体をくの字にして笑う。
口元に手をあてて吊り目がちな目を細めて本気で爆笑している男は無邪気という言葉が似合いそうなほど楽しそうだ。
ひどくない?こちとら一個も楽しい話題なんかなかったぞ…

「おい」
と、まだクククと笑いながら後ろに控えていた眼鏡スーツに声をかけた。
するとすっと部屋から出ていく。

「大体こっちが調べたことと一緒だな、嘘はついていないようだし、迷惑をかけたうえに情報までくれたお前に謝礼を払おう。」
クククッとまだ笑ってる。
なにがそんなにおかしかったんだか知らんがいい加減笑うのやめてほしい。
こっちは暴力団事務所に連れてこられてヒヤヒヤしてんだ。

「とりあえず、今回の情報料で1千万。家を出なきゃいけなくなった分、100万。今回の口止め料500万。」
「…大盤振る舞いですねぇ」
(現状何にも知らないのとおんなじなんだがなぁ…情報料がそれくらいってことは…隣人の価値は億単位だなぁこりゃ。)

「今回の働きに見合った金額だぜ」
「そりゃまぁどうも。」

「「じゃぁ」」

私と目の前の男の発言が被った…

私の「じゃぁ」はこれで終わりの意味。
目の前の男の「じゃぁ」はこれからが本番だとでも言いたげな声。


やべぇ…
目の前の男の瞳が漆黒に揺らめいていた。
さっきまでの無邪気に笑っていた笑みではなく、片方の口の端をニヤリと上げるあの不敵な笑みだ。

コンコンとドアノックが入りかちゃりとドアを開けて入ってきたのは
さっき出て行った眼鏡スーツイケメン。
と、もう一人。

明らかに筋肉質な体系にあったスーツとツーブロックにしている短髪、顎には少し伸ばした髭が色気を醸し出した、いかつい男。
いかついといってもガタイがよく男前な顔が真顔だからそう見える…感じがする。
目の前の黒獅子もいかついし強面だがそのニヤリと笑う顔面からはいかにも裏稼業ととれる顔。
ツーブロックにしている男は黒獅子よりはわずかに柔和な雰囲気がする。

このツーブロックの髭男、最近みたなぁという印象だった。

どうでもいいけどなんでここの部屋にはイケメンしかおらんのか…

カチャンと眼鏡スーツが私に向けてローテーブルの上にアタッシュケースを置いて開いた。
その間に目の前の男が座っているソファーに髭男が座る。
えー…だれぇ…ここにきて新キャラいらないデス…

「さて、メンツもそろったことだし。改めて交渉と行こうじゃねぇか…?」

黒獅子がニヤリと不敵に笑う。

嫌な予感しかしない…が、逃げられる気もしない。
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