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第二話【強制お宅訪問】
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あのアパートの一件の2週間後。
早々に私は後悔している。
本気で後悔している。
(……どうしてこうなった……?)
いやほんとに。
おかしいんだって…なんで私がヤクザの事務所にお宅訪問(強制)しなくちゃいけないんだよ…
白いだぼだぼのパーカー。
黒地でサイドにピンク色のラインが2本入ったジャージ生地のハーフパンツ。
黒縁眼鏡、すっぴん。
どこからどう見ても芋。芋女。
前髪をちょんまげのように縛っていたのは、かろうじて移動中に外させて頂いた。
こんな格好で申し訳ありません組長さま。
でも許してほしい。
押しかけてきたのはあなた方であって、外出する準備の時間をくださらなかったのもあなたの部下です。
私は大き目のパーカーの袖をぎゅっとつかみ、ため息とともに頭を下げ自分の膝を見る。
3人掛けの高級そうな黒革のソファー
8畳ほどの部屋。
入り口のドアを入って右奥には大きなテーブル、パソコンモニター、マウス。椅子。
その手前に私たちが座っているソファーが2つ向かい合わせに並び、間にローテーブルが置かれている。
目の前に鎮座している男はニヤっと片方の口の端を上げながら、足を組んで高そうなソファーにふんぞり返っている。
黒い髪。漆黒の瞳。暗めのグレーのスーツは高級そう。
スーツ越しでもわかる、筋肉質な胸板。まるで百戦錬磨の百獣の王。
いいえて妙だな。
まぁいいや。
その姿は漆黒の獅子とでも言われていそうである。
強面ではあるが客観的に言わせていただくと、クソイケメン。
夜の新宿の街を歩けば、その顔につられて行列ができそうなほどである。
私の例えが語彙力なさ過ぎて死にそう。
多分モデルとか言われても100人が100人信じそうな顔面偏差値だと思われる。
その後ろにはあの日いた眼鏡スーツお兄さん。やっぱりあの中では一番お偉い人だったのか。
ニコニコと笑顔を張り付けている眼鏡イケメンはなんでかわからないが、あの日には見せていない満面の笑みだ。
今日は紺色の細かいストライプの細身のスーツ。
とてもお似合いです。
線の細いお顔立ちで、目の前の黒獅子とは違ったイケメンである。
例えるならそれなりの立場のジャニーズ系。
そして長髪で金髪のハーフアップにしたチャラ男である。チャラ男もなかなかに整った顔立ちだがこの二人と一緒だとちょっと目劣りする。
ごめんねチャラ男。不細工って言ってないからいいよね?
あの日。私はあのアパートを解約しに家を出た足で不動産屋に行き、3日ほど地方に旅行にいった上で、自宅Bに戻った。
そしてざっと隣の家の住人の所在をあらった後、どうやら行方不明になった感じだったので(あっ(察し)となったので次に住む住居を探していた。
あの安アパートそこそこ立地がよかったんだよなぁ…くそがぁぁぁぁ
とか唸りながら新しいおうち(隠れ家)を探していたのになかなか見当たらず
どうしよっかなぁと試行錯誤をしていたこの2週間。
そう、この2週間だ。
たかだか2週間でこのヤクザたちは私の居場所を割り当て、自宅Bに顔を出し私はそのまま強制連行されたのだ。
「まぁそんなにかしこまるな。」
そう持ち掛けた目の前の黒獅子は、その長い脚を組み換えながら
「取って食いやしねぇよ、ちゃんと質問に答えてくればなァ…」
ククッと笑いながら不敵な顔で微笑んだ。
質問に答えなければ食われるのか…
カニバリズムなのか、東京湾に沈められるのかどっちだろうな…
そんなことを考えながら
「……答えられる範囲でなら答えますが。私にメリットあります…?」
と答えていた。
…やらかしたぁぁぁぁ!!!!
そう思ったのは目の前の男が一瞬あっけにとられた顔をしてククッと喉で笑った後だった。
(うわぁ…わっるい笑顔だぁ)
目が笑ってない。目が。
口元はニヤついているのに、その目にはギラついた漆黒の揺らめきが見えた。
ヤクザ相手になんで私は煽るようなこと言った!?
アホかアホなのかそうか私は死にたいんだなバカか!!!
考えよりも口が先に出る自分を呪いたい。
「へぇ…メリット…ねぇ…」
「いや、すいませんなんでもないです、ほんと、答えられることなら答えますんでどうかさっきの失言はとりけs」
「そりゃ無理ってもんだ、一度放った言葉は覆せない。なにより録音してるだろ?お前も了承してお互いに証拠もってるだろうが」
「そうですねすいませんほんと申し訳ありませんっ!」
五分前にお互いにボイスレコーダーで言質を取ることを了承してのお話合い開始だったのに、無かった事になんてできるわけがない。しかもヤクザ相手に。
「メリットなぁ…そうだな。お前さんが、俺らの知りたいことに対してきちんと答えてくれるのであれば、お前の命の保証と…情報によっては謝礼金をだしてもいい。ってのはどうだ」
「命の保証と謝礼ですかぁ…」
そもそもなんで命を狙われなくちゃいけないんだ…勘弁してほしい。
たかだか隣に住んでる男の居場所を教えただけなのに……
「なんであなた方に命を狙われなくちゃいけないんですかね。そもそもの話なんですが。」
そう。そもそも論。
「私は《たまたま》隣の家に住んでいた男の居場所を《たまたま》知っていたので、毎日3回も来る必死な人たちに《たまたま》教えた。それだけです。」
「たまたま…ねぇ」
目の前の男は後ろに控えているスーツの男と顔を見合わせ、またニヤっと私に向き直ると、眼鏡スーツのニコニコイケメンが口を開いた。
「吉沢さん。貴女が契約していたあの部屋の隣に住んでいた男は、暴力団の中でも関東1と言われる藤倉組傘下、龍桜会の《大切な資金》を持ち逃げしていました。我々はあの場所には戻らないとわかっていながらも1週間通い詰めたのです。なぜだかわかりますか?」
「見つからなかったからではないんですか?」
「そうだ。《見つからなかった》。」
私が答えたあと間髪入れずに黒獅子が答える。
…あれ?見つからなかった?
たった2週間で私を見つけることが出来た、この男たちが
《私があの男を見つけることができたのに》この人たちはあの男を見つけられなかった…?
「さて、我々が見つけられなかったあの男を。貴女はさっくりと見つけ私に居場所をくれました。
そんな貴女があの男と関係がない…とは、我々には思えませんし。それを《たまたま》で見過ごすほど、我々は甘くはないということです。」
(……やってしまった………!!)
後悔だ。後悔。
《私が見つけられた》のにヤクザが《見つけられなかった》ということは
私が見つけるスキルがあるということが完全に把握されている。
かつ、そんな人たちに私が見つかるなんてあってはならなかったのに…!!
や、やらかしたぁぁぁぁ
はぁぁぁぁぁ…
私は深いため息をついた。
今すぐ逃げたい本気で逃げたいやばいやばいやばい……!!
「さて、では質問に入ろうか。」
目の前の男がまたもやニヤッと口の端を上げて面白そうに私を見ながら前のめりになった。
「《お前は何もの》で《あいつとの関係》は?《お前はどこまで知ってる?》」
早々に私は後悔している。
本気で後悔している。
(……どうしてこうなった……?)
いやほんとに。
おかしいんだって…なんで私がヤクザの事務所にお宅訪問(強制)しなくちゃいけないんだよ…
白いだぼだぼのパーカー。
黒地でサイドにピンク色のラインが2本入ったジャージ生地のハーフパンツ。
黒縁眼鏡、すっぴん。
どこからどう見ても芋。芋女。
前髪をちょんまげのように縛っていたのは、かろうじて移動中に外させて頂いた。
こんな格好で申し訳ありません組長さま。
でも許してほしい。
押しかけてきたのはあなた方であって、外出する準備の時間をくださらなかったのもあなたの部下です。
私は大き目のパーカーの袖をぎゅっとつかみ、ため息とともに頭を下げ自分の膝を見る。
3人掛けの高級そうな黒革のソファー
8畳ほどの部屋。
入り口のドアを入って右奥には大きなテーブル、パソコンモニター、マウス。椅子。
その手前に私たちが座っているソファーが2つ向かい合わせに並び、間にローテーブルが置かれている。
目の前に鎮座している男はニヤっと片方の口の端を上げながら、足を組んで高そうなソファーにふんぞり返っている。
黒い髪。漆黒の瞳。暗めのグレーのスーツは高級そう。
スーツ越しでもわかる、筋肉質な胸板。まるで百戦錬磨の百獣の王。
いいえて妙だな。
まぁいいや。
その姿は漆黒の獅子とでも言われていそうである。
強面ではあるが客観的に言わせていただくと、クソイケメン。
夜の新宿の街を歩けば、その顔につられて行列ができそうなほどである。
私の例えが語彙力なさ過ぎて死にそう。
多分モデルとか言われても100人が100人信じそうな顔面偏差値だと思われる。
その後ろにはあの日いた眼鏡スーツお兄さん。やっぱりあの中では一番お偉い人だったのか。
ニコニコと笑顔を張り付けている眼鏡イケメンはなんでかわからないが、あの日には見せていない満面の笑みだ。
今日は紺色の細かいストライプの細身のスーツ。
とてもお似合いです。
線の細いお顔立ちで、目の前の黒獅子とは違ったイケメンである。
例えるならそれなりの立場のジャニーズ系。
そして長髪で金髪のハーフアップにしたチャラ男である。チャラ男もなかなかに整った顔立ちだがこの二人と一緒だとちょっと目劣りする。
ごめんねチャラ男。不細工って言ってないからいいよね?
あの日。私はあのアパートを解約しに家を出た足で不動産屋に行き、3日ほど地方に旅行にいった上で、自宅Bに戻った。
そしてざっと隣の家の住人の所在をあらった後、どうやら行方不明になった感じだったので(あっ(察し)となったので次に住む住居を探していた。
あの安アパートそこそこ立地がよかったんだよなぁ…くそがぁぁぁぁ
とか唸りながら新しいおうち(隠れ家)を探していたのになかなか見当たらず
どうしよっかなぁと試行錯誤をしていたこの2週間。
そう、この2週間だ。
たかだか2週間でこのヤクザたちは私の居場所を割り当て、自宅Bに顔を出し私はそのまま強制連行されたのだ。
「まぁそんなにかしこまるな。」
そう持ち掛けた目の前の黒獅子は、その長い脚を組み換えながら
「取って食いやしねぇよ、ちゃんと質問に答えてくればなァ…」
ククッと笑いながら不敵な顔で微笑んだ。
質問に答えなければ食われるのか…
カニバリズムなのか、東京湾に沈められるのかどっちだろうな…
そんなことを考えながら
「……答えられる範囲でなら答えますが。私にメリットあります…?」
と答えていた。
…やらかしたぁぁぁぁ!!!!
そう思ったのは目の前の男が一瞬あっけにとられた顔をしてククッと喉で笑った後だった。
(うわぁ…わっるい笑顔だぁ)
目が笑ってない。目が。
口元はニヤついているのに、その目にはギラついた漆黒の揺らめきが見えた。
ヤクザ相手になんで私は煽るようなこと言った!?
アホかアホなのかそうか私は死にたいんだなバカか!!!
考えよりも口が先に出る自分を呪いたい。
「へぇ…メリット…ねぇ…」
「いや、すいませんなんでもないです、ほんと、答えられることなら答えますんでどうかさっきの失言はとりけs」
「そりゃ無理ってもんだ、一度放った言葉は覆せない。なにより録音してるだろ?お前も了承してお互いに証拠もってるだろうが」
「そうですねすいませんほんと申し訳ありませんっ!」
五分前にお互いにボイスレコーダーで言質を取ることを了承してのお話合い開始だったのに、無かった事になんてできるわけがない。しかもヤクザ相手に。
「メリットなぁ…そうだな。お前さんが、俺らの知りたいことに対してきちんと答えてくれるのであれば、お前の命の保証と…情報によっては謝礼金をだしてもいい。ってのはどうだ」
「命の保証と謝礼ですかぁ…」
そもそもなんで命を狙われなくちゃいけないんだ…勘弁してほしい。
たかだか隣に住んでる男の居場所を教えただけなのに……
「なんであなた方に命を狙われなくちゃいけないんですかね。そもそもの話なんですが。」
そう。そもそも論。
「私は《たまたま》隣の家に住んでいた男の居場所を《たまたま》知っていたので、毎日3回も来る必死な人たちに《たまたま》教えた。それだけです。」
「たまたま…ねぇ」
目の前の男は後ろに控えているスーツの男と顔を見合わせ、またニヤっと私に向き直ると、眼鏡スーツのニコニコイケメンが口を開いた。
「吉沢さん。貴女が契約していたあの部屋の隣に住んでいた男は、暴力団の中でも関東1と言われる藤倉組傘下、龍桜会の《大切な資金》を持ち逃げしていました。我々はあの場所には戻らないとわかっていながらも1週間通い詰めたのです。なぜだかわかりますか?」
「見つからなかったからではないんですか?」
「そうだ。《見つからなかった》。」
私が答えたあと間髪入れずに黒獅子が答える。
…あれ?見つからなかった?
たった2週間で私を見つけることが出来た、この男たちが
《私があの男を見つけることができたのに》この人たちはあの男を見つけられなかった…?
「さて、我々が見つけられなかったあの男を。貴女はさっくりと見つけ私に居場所をくれました。
そんな貴女があの男と関係がない…とは、我々には思えませんし。それを《たまたま》で見過ごすほど、我々は甘くはないということです。」
(……やってしまった………!!)
後悔だ。後悔。
《私が見つけられた》のにヤクザが《見つけられなかった》ということは
私が見つけるスキルがあるということが完全に把握されている。
かつ、そんな人たちに私が見つかるなんてあってはならなかったのに…!!
や、やらかしたぁぁぁぁ
はぁぁぁぁぁ…
私は深いため息をついた。
今すぐ逃げたい本気で逃げたいやばいやばいやばい……!!
「さて、では質問に入ろうか。」
目の前の男がまたもやニヤッと口の端を上げて面白そうに私を見ながら前のめりになった。
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