99 / 114
四章
099 情報交換
しおりを挟む
「今この聖都に、カサンドラの近隣諸国から何人もの貴族子女が来ております。――セリオス、貴方のパーティに加わるために」
「えっ……私のパーティにですか!?」
「王子様、アンタは一躍有名になったからね。価値があると看做した連中が、関係を持とうと集まってきたって事さ」
アルシオーネの言葉に、カーミラを捕まえて拳でこめかみをグリグリとしていたマイラが付け加える。
そうか、確かにあれだけ王子様の噂が広まれば、勝ち馬に乗りたいと思う連中も現れるはずだ。中には、側室狙いの令嬢だっているだろう。
「ほー、良かったじゃねーか王子様。――んじゃ、これで二人は俺達とさよならか?」
もう暫くは一緒に冒険をするのかと思っていたが、思っていたよりも早い解散となりそうだ。まあ、これは仕方がないな。
……なんて思ったのだが、どうやらエルレインは快く思わなかったようで顔を曇らせてしまう。
「ケイタさん……そんな冷たい事を仰らないでください。私達は雷樹島まで一緒に旅をした仲ではありませんか……」
「もーっ、エルが可哀想だろ。――まったく、おっさんそういうとこだぞ!」
「お兄ちゃんそういうところですよっ!」
「あっ、はい、すみません……」
まさかリンメイとラキちゃんがエルレインを擁護する側に立つとは思わなかったので、少々驚いてしまった。
俺は正直な所、王子様とエルレインは臨時パーティとして加わっているだけだと認識していたからだ。
二人は俺達とは身分が違うし、冒険者としての方向性もまったく違う。だからきっと王子様は、そう遠くないうちに再びパーティのリーダーとなるため、俺達の元を離れるんだろうなと思っていた。
しかしいつの間にか彼女達は、俺が思っているよりも二人を仲間と認識し、絆を深めていたんだな。なんかごめん……。
「セリオス、貴方はどうしたいとお考えです?」
「私は別に……。まあ、ケイタ達がどうしてもと言うのなら――」
「セリオス、これはとても大事な事です。本心で仰りなさい」
曖昧にはぐらかそうとする王子様をアルシオーネはピシャリと遮り、真意を問いかける。
アルシオーネは真剣そのもので、どうやらこの場面では、普段のように斜に構える事は許さないようだ。
「はっ、はい……。んっ、うん……その……、まず……ラキシス殿以上の癒し手はこの世に存在しないでしょう。リンメイは鑑定によりサポート面だけでなく戦闘に於いても優れている前衛で、鼻が利き斥候もできる。そしてリーダーのケイタは神託により私を含め多くの人々を救い、希少な雷魔法士でもある。正直三人は能力に申し分なく、更にダンジョン探索では精霊魔法士のサリア殿も加わると言う。――世間に勇名を轟かせるという私自身の野望のためには、このパーティに属しているのが最も近道であると……認識しております」
「――では、自らリーダーとなるのではなく、今後もケイタさんのパーティに在籍したいという事でよろしいのですね?」
「お恥ずかしながら……。――あの、やはりパーティーのリーダーを務める事のできない男はダメ……という事でしょうか?」
最後は絞り出すようにして答えてしまう。アルシオーネに認めてもらいたい王子様にとっては、口に出すのも辛い現実なのだろう。
だが、アルシオーネは表情を緩めて語りかける。まるで出来の悪い弟を諭すように。
「……貴方は王族です。いずれは人を導く側となってもらわねば困りますが、今はまだ多くを学ぶ時期と思っておりますので、それは問題ありません。――もう一度確認します。セリオスとエルレインさんは今後もケイタさんのパーティにいたいという事でよろしいのですね?」
「「はい」」
「分かりました。――ならばお二人は、これからセリオスのパーティに加わりたいという貴族子女からケイタさん達を守らなければなりません」
「えっ、ケイタ達を守る……ですか?」
「そうです。思い出しなさい、多くの貴族は平民の命など何とも思っておりません。寧ろ、いつでも替えの利く、それこそ家畜同様に思っている輩もいる位です。そのような存在と認識している平民が、本来自分達が収まるべきと考える席に既にいたら、それだけで怒りを覚えるでしょう。それどころかセリオスが彼らを拒めば、自分は平民にも劣るのかとプライドが傷つけられ、決して許せないでしょう。――そのような方々は間違いなく、ケイタさん達を排除しにきますよ?」
アルシオーネの言葉に、黙って聞いていた俺達は唖然としてしまう。
貴族の連中は俺達が王子様とパーティ組んでるだけで許せない!?
「はぁ!? ちょっと待ってよ。あたいらが王子様とパーティ組んでるだけで命狙われるって事なの!?」
「残念ながらね……。だからあたし個人としては、こいつ等をリンメイ達のパーティから外して欲しいと思ってる」
「お姉ちゃん……」
メイランはリンメイを守るかの如く後ろから包み込むように抱きしめ、優しく答えてあげる。
確かにメイランの言う事は最もだろう。ここで俺達が縁を切るのが、一番波風立たずに安全に解決する方法なんだから。
「それにケイタさん達じゃなくても、もう王子様は普通に平民の冒険者とパーティを組む事ができないでしょうね。――彼らが目を光らせているうちは」
「そんな……」
ああそうか、ヒスイの言う通りだ。別に俺達だけでなく、今後王子様が平民の冒険者とパーティを組む度に、そのメンバーは自分達の席を奪う邪魔者となってしまう。
てことは、もう王子様は貴族子女とパーティを組むしかないって事じゃないか。下手したら、エルレインのようにパーティに選ばれた貴族だって、命を狙われる危険性がある。
流石の王子様も、そんな連中を気が置けないパーティメンバーには迎えたくないだろう。どうやら王子様も理解ができたようで、愕然としてしまっている。
「まったく……、これだからお貴族様は大っ嫌いなんだよ」
忌々しそうに吐き捨てるメイランには、全くもって同感だ。まさか王子様が名を売ることによって、こんな弊害が生じてしまうとは……。
連中、少し前まではハルジャイールとの戦が始まるかもしれないのに国から逃げた弱虫と王子様の噂を流していたくせに、今度は勝ち馬に乗るために擦り寄ってきやがるとはな。
しかも、既にパーティメンバーとなっている平民の俺達が邪魔だと!? ああもう、貴族って奴は本当にめんどくさい!
「アルシオーネ様……、どうしたらよいのでしょう?」
「そうですわね……、カサンドラの貴族ならばセリオスが強権を振るえばある程度はなんとかなるでしょうが、他国の貴族はそうもいきません。――難しいですが……彼らには必要以上にハルジャイール王国の恐怖を煽るなどして詭弁を弄するしかないでしょうね。ただ……セリオス、貴方にそれができて?」
「正直、自信がありません……」
「でしょうね……。貴方昔からそういうところが苦手でしたから。――これはセリオスに勇名を馳せてごらんなさいと言った私にも責任があります。……仕方がありません、少しお時間を儲けて私と対話のレッスンを致しましょう」
「ほっ、本当ですか!? あ……おほんっ」
王子様は場違いなほどに喜色満面な顔となって返事をするもんだから、その場にいた全員がやれやれと呆れてしまう。
「ったく……、四十層目指すまでに何とかしてくれよ王子様」
「あら、皆さん四十層を目指すんですの?」
「はい。それもあって俺達、皆さんに一度お会いしたかったんです。できたら三十層から四十層までの情報を教えて頂きたくて」
「そうでしたか……」
王子様は単純にアルシオーネに会いたかっただけだろうが、俺達が彼女達に会いたかったのは、四十層までのダンジョン攻略に関する情報が欲しかったからだ。
しかし情報が欲しいと伝えた途端、冒険者の顔となった彼女達は難色を示してしまう。リンメイになら何でも教えてくれそうなメイランですら、メンバーの顔色を伺って躊躇ってしまっているようだ。
「うーん、いくらリンメイちゃん達の頼みでも、そうホイホイ教えてあげるのはちょっと抵抗あるわね。――分かるでしょ? あたしたちは冒険者なんだから」
「タダで教えてくれとは言わないよ。あたいら皆が喜びそうな、とっておきの情報仕入れて来たんだ。その情報と交換でどう?」
聖都の周辺は、神聖魔導帝国時代の遺跡と思われる人工物の名残が、そこかしこに点在している。
その中に紛れるように、そこは存在していた。
「ここが、ケイタさんがこの世界へやってきた転移門ですか……」
「ですね。女神様にこの世界へ送られた俺は、ここで気を失ってました」
俺達が 『紅玉の戦乙女』 に教えた情報とは勿論、雷樹島でナタリアさんから聞いたダンジョンの転移門の秘密だ。
その検証のために俺達は今、俺がこの世界へ飛ばされた転移門まで来ていた。
俺達が教えてもらった秘密のエリアはダンジョン四十層から別のダンジョンの四十層へ移動するための場所なのだが、例外として雷樹島などのような秘境に設置された転移門とも繋がっている。
その例外である転移門ならば、一つのダンジョンを四十層まで攻略する事で利用可能となる。但し、一度でもそこに訪れていないといけないという制限はあるが。
そんな例外として存在する転移門が、なぜか聖都の近くにも一つあった。――それは、俺がこの世界へ飛ばされてきた転移門だ。
これを使えば、既に四十層へ到達している 『紅玉の戦乙女』 ならばすぐに検証が可能である。
先程この情報を教えたところ、彼女達はすぐにでも確かめてみたくて居ても立っても居られなくなったので、じゃあこれから皆で行ってみようかって事となった。
折角なので、大家さんも誘って来ている。
「この転移門の周辺……どうやら私の家と同じで、今でも認識阻害で守られているようですね。ここの存在を知っていないと、人でも魔物でも無意識にここを避けるようになっています」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。ですので、ケイタさんが案内してくれないと、皆だけでは多分ここは見つける事ができなかったでしょうね」
そうだったのか。だから気を失っていても魔物に襲われる心配が無かったんだな。流石は女神様、しっかりと考えて送ってくれていたことに今更ながら感謝します。
今回俺はここの存在を皆に教えるにあたり、俺が別の世界からの迷い人であり、この世界へやってきた理由も、ここまでの道すがら教えてあげた。
ラキシスを助けるために俺が女神様に遣わされてこの世界へ来たと知ったラキちゃんは、出会いが偶然ではなく必然だったと知り、先程から変な含み笑いをしながら俺の背中に顔を埋めるように、ずっと俺に張り付いている。
「えーっと……、ラキシスさん、そろそろ離しては頂けませんか?」
「うふふふふー、だーめーでーすーっ」
「あらあら、急に甘えん坊さんになっちゃいましたね」
「ラキのやつ、ひっつき虫になっちゃったな」
とりあえず、全員で転移門の魔法陣の中へ入ってみる。これで条件が揃っている 『紅玉の戦乙女』 は、全員が秘密のエリアへ転移するはずだ。
――そう思ったのだが……。
「おやおや? 何も起こらないね?」
「本当ですわね……。どういう事でしょう?」
「まさか……、ガセネタだった!?」
全員に不穏な空気が流れるが、未だに俺の後ろに張り付いたままのラキちゃんがすぐに答えを教えてくれる。
「ご安心ください。皆さんは今ここを登録しましたので、後はダンジョンの四十層から秘密のエリアに入り最終的な利用許可の登録をすれば、今後は利用可能となりますよっ」
「あっ、そういう事ですのね」
「なるほどね。じゃ、早速ダンジョンへ行ってみようぜ!」
「ええ、そうしましょう!」
「なら俺達は、ここで待ってるよ」
「分かりました。――では後ほど」
俺達はまだこの転移門を使う事ができないから、 『紅玉の戦乙女』 に付いて行っても仕方がない。
そのため、彼女達が転移門を潜ってこちらへやってくるまで、暫くここで待つことにした。
お茶を沸かして一息つきながら、のんびりと待つこと暫し。
空が次第に茜色となり少々肌寒くなってきたなと感じた頃、突然、転移門周辺の大気の魔力に変化が生じる。
俺でも変化に気が付くほどだったので、全員がハッとして転移門の方へ注目する。
「きたっ!」
リンメイの声と共に次々と転移門から現れる 『紅玉の戦乙女』 のメンバー。どうやら全員無事に、転移門を潜ってこれたようだ。
「おかえりー」
「皆さん、遅くなってすみません」
「リンメイ、本当にあったよ秘密のエリア!」
「すげーぜ、いろんな場所へ繋がってる転移門が、ずらーっと並んでるんだよ!」
「そうそう! ここに繋がる転移門探すのにちょっと手間取っちゃったくらい!」
「僕さあ、知らない間に故郷にある転移門も登録してたみたいでさ、さっき一瞬で故郷に帰っちゃったんだよねー」
「なにが帰っちゃったんだよねーよ! ――まったく、カーミラが突然いなくなって、あたしらかなり焦ったんだから!」
なんかもう 『紅玉の戦乙女』 は全員が大はしゃぎだ。
彼女達はこの転移門の情報を大いに気に入ってくれたようで、早速別の都市にあるダンジョンへ転移門の登録しにいかないか? なんて話し出しているほど。
俺達としても情報が正しかったことが分かり、ダンジョン攻略のやる気が更に湧いてきた。
「では俺達の情報は正しかったと確認できた事ですし、これで俺達にダンジョン攻略の情報を教えてもらえますか?」
「ええ、勿論ですわ。これほどの情報を頂いたのです。私達もそれ相応のお返しをしない訳にはまいりません」
「助かります。――では日も落ちてきた事ですし、とりあえず今日はもう帰りましょう」
『紅玉の戦乙女』 はダンジョンに潜るところを多くの人に見られているため、怪しまれないよう再び転移門を潜って帰っていった。
そんな彼女達を、俺達は羨ましそうに見送る。
「あーぁ、あたいらも早く使えるようになりたいなぁ」
「本当ですね」
「なぁに、ダンジョンの情報も貰える事になったし、きっとすぐに使えるようになるさ。――んじゃ、俺達も帰ろうぜ」
これで信頼のおける先輩冒険者から、ダンジョンの情報を貰える確約を得た。後は準備を整えて、いよいよダンジョン攻略だ。
「えっ……私のパーティにですか!?」
「王子様、アンタは一躍有名になったからね。価値があると看做した連中が、関係を持とうと集まってきたって事さ」
アルシオーネの言葉に、カーミラを捕まえて拳でこめかみをグリグリとしていたマイラが付け加える。
そうか、確かにあれだけ王子様の噂が広まれば、勝ち馬に乗りたいと思う連中も現れるはずだ。中には、側室狙いの令嬢だっているだろう。
「ほー、良かったじゃねーか王子様。――んじゃ、これで二人は俺達とさよならか?」
もう暫くは一緒に冒険をするのかと思っていたが、思っていたよりも早い解散となりそうだ。まあ、これは仕方がないな。
……なんて思ったのだが、どうやらエルレインは快く思わなかったようで顔を曇らせてしまう。
「ケイタさん……そんな冷たい事を仰らないでください。私達は雷樹島まで一緒に旅をした仲ではありませんか……」
「もーっ、エルが可哀想だろ。――まったく、おっさんそういうとこだぞ!」
「お兄ちゃんそういうところですよっ!」
「あっ、はい、すみません……」
まさかリンメイとラキちゃんがエルレインを擁護する側に立つとは思わなかったので、少々驚いてしまった。
俺は正直な所、王子様とエルレインは臨時パーティとして加わっているだけだと認識していたからだ。
二人は俺達とは身分が違うし、冒険者としての方向性もまったく違う。だからきっと王子様は、そう遠くないうちに再びパーティのリーダーとなるため、俺達の元を離れるんだろうなと思っていた。
しかしいつの間にか彼女達は、俺が思っているよりも二人を仲間と認識し、絆を深めていたんだな。なんかごめん……。
「セリオス、貴方はどうしたいとお考えです?」
「私は別に……。まあ、ケイタ達がどうしてもと言うのなら――」
「セリオス、これはとても大事な事です。本心で仰りなさい」
曖昧にはぐらかそうとする王子様をアルシオーネはピシャリと遮り、真意を問いかける。
アルシオーネは真剣そのもので、どうやらこの場面では、普段のように斜に構える事は許さないようだ。
「はっ、はい……。んっ、うん……その……、まず……ラキシス殿以上の癒し手はこの世に存在しないでしょう。リンメイは鑑定によりサポート面だけでなく戦闘に於いても優れている前衛で、鼻が利き斥候もできる。そしてリーダーのケイタは神託により私を含め多くの人々を救い、希少な雷魔法士でもある。正直三人は能力に申し分なく、更にダンジョン探索では精霊魔法士のサリア殿も加わると言う。――世間に勇名を轟かせるという私自身の野望のためには、このパーティに属しているのが最も近道であると……認識しております」
「――では、自らリーダーとなるのではなく、今後もケイタさんのパーティに在籍したいという事でよろしいのですね?」
「お恥ずかしながら……。――あの、やはりパーティーのリーダーを務める事のできない男はダメ……という事でしょうか?」
最後は絞り出すようにして答えてしまう。アルシオーネに認めてもらいたい王子様にとっては、口に出すのも辛い現実なのだろう。
だが、アルシオーネは表情を緩めて語りかける。まるで出来の悪い弟を諭すように。
「……貴方は王族です。いずれは人を導く側となってもらわねば困りますが、今はまだ多くを学ぶ時期と思っておりますので、それは問題ありません。――もう一度確認します。セリオスとエルレインさんは今後もケイタさんのパーティにいたいという事でよろしいのですね?」
「「はい」」
「分かりました。――ならばお二人は、これからセリオスのパーティに加わりたいという貴族子女からケイタさん達を守らなければなりません」
「えっ、ケイタ達を守る……ですか?」
「そうです。思い出しなさい、多くの貴族は平民の命など何とも思っておりません。寧ろ、いつでも替えの利く、それこそ家畜同様に思っている輩もいる位です。そのような存在と認識している平民が、本来自分達が収まるべきと考える席に既にいたら、それだけで怒りを覚えるでしょう。それどころかセリオスが彼らを拒めば、自分は平民にも劣るのかとプライドが傷つけられ、決して許せないでしょう。――そのような方々は間違いなく、ケイタさん達を排除しにきますよ?」
アルシオーネの言葉に、黙って聞いていた俺達は唖然としてしまう。
貴族の連中は俺達が王子様とパーティ組んでるだけで許せない!?
「はぁ!? ちょっと待ってよ。あたいらが王子様とパーティ組んでるだけで命狙われるって事なの!?」
「残念ながらね……。だからあたし個人としては、こいつ等をリンメイ達のパーティから外して欲しいと思ってる」
「お姉ちゃん……」
メイランはリンメイを守るかの如く後ろから包み込むように抱きしめ、優しく答えてあげる。
確かにメイランの言う事は最もだろう。ここで俺達が縁を切るのが、一番波風立たずに安全に解決する方法なんだから。
「それにケイタさん達じゃなくても、もう王子様は普通に平民の冒険者とパーティを組む事ができないでしょうね。――彼らが目を光らせているうちは」
「そんな……」
ああそうか、ヒスイの言う通りだ。別に俺達だけでなく、今後王子様が平民の冒険者とパーティを組む度に、そのメンバーは自分達の席を奪う邪魔者となってしまう。
てことは、もう王子様は貴族子女とパーティを組むしかないって事じゃないか。下手したら、エルレインのようにパーティに選ばれた貴族だって、命を狙われる危険性がある。
流石の王子様も、そんな連中を気が置けないパーティメンバーには迎えたくないだろう。どうやら王子様も理解ができたようで、愕然としてしまっている。
「まったく……、これだからお貴族様は大っ嫌いなんだよ」
忌々しそうに吐き捨てるメイランには、全くもって同感だ。まさか王子様が名を売ることによって、こんな弊害が生じてしまうとは……。
連中、少し前まではハルジャイールとの戦が始まるかもしれないのに国から逃げた弱虫と王子様の噂を流していたくせに、今度は勝ち馬に乗るために擦り寄ってきやがるとはな。
しかも、既にパーティメンバーとなっている平民の俺達が邪魔だと!? ああもう、貴族って奴は本当にめんどくさい!
「アルシオーネ様……、どうしたらよいのでしょう?」
「そうですわね……、カサンドラの貴族ならばセリオスが強権を振るえばある程度はなんとかなるでしょうが、他国の貴族はそうもいきません。――難しいですが……彼らには必要以上にハルジャイール王国の恐怖を煽るなどして詭弁を弄するしかないでしょうね。ただ……セリオス、貴方にそれができて?」
「正直、自信がありません……」
「でしょうね……。貴方昔からそういうところが苦手でしたから。――これはセリオスに勇名を馳せてごらんなさいと言った私にも責任があります。……仕方がありません、少しお時間を儲けて私と対話のレッスンを致しましょう」
「ほっ、本当ですか!? あ……おほんっ」
王子様は場違いなほどに喜色満面な顔となって返事をするもんだから、その場にいた全員がやれやれと呆れてしまう。
「ったく……、四十層目指すまでに何とかしてくれよ王子様」
「あら、皆さん四十層を目指すんですの?」
「はい。それもあって俺達、皆さんに一度お会いしたかったんです。できたら三十層から四十層までの情報を教えて頂きたくて」
「そうでしたか……」
王子様は単純にアルシオーネに会いたかっただけだろうが、俺達が彼女達に会いたかったのは、四十層までのダンジョン攻略に関する情報が欲しかったからだ。
しかし情報が欲しいと伝えた途端、冒険者の顔となった彼女達は難色を示してしまう。リンメイになら何でも教えてくれそうなメイランですら、メンバーの顔色を伺って躊躇ってしまっているようだ。
「うーん、いくらリンメイちゃん達の頼みでも、そうホイホイ教えてあげるのはちょっと抵抗あるわね。――分かるでしょ? あたしたちは冒険者なんだから」
「タダで教えてくれとは言わないよ。あたいら皆が喜びそうな、とっておきの情報仕入れて来たんだ。その情報と交換でどう?」
聖都の周辺は、神聖魔導帝国時代の遺跡と思われる人工物の名残が、そこかしこに点在している。
その中に紛れるように、そこは存在していた。
「ここが、ケイタさんがこの世界へやってきた転移門ですか……」
「ですね。女神様にこの世界へ送られた俺は、ここで気を失ってました」
俺達が 『紅玉の戦乙女』 に教えた情報とは勿論、雷樹島でナタリアさんから聞いたダンジョンの転移門の秘密だ。
その検証のために俺達は今、俺がこの世界へ飛ばされた転移門まで来ていた。
俺達が教えてもらった秘密のエリアはダンジョン四十層から別のダンジョンの四十層へ移動するための場所なのだが、例外として雷樹島などのような秘境に設置された転移門とも繋がっている。
その例外である転移門ならば、一つのダンジョンを四十層まで攻略する事で利用可能となる。但し、一度でもそこに訪れていないといけないという制限はあるが。
そんな例外として存在する転移門が、なぜか聖都の近くにも一つあった。――それは、俺がこの世界へ飛ばされてきた転移門だ。
これを使えば、既に四十層へ到達している 『紅玉の戦乙女』 ならばすぐに検証が可能である。
先程この情報を教えたところ、彼女達はすぐにでも確かめてみたくて居ても立っても居られなくなったので、じゃあこれから皆で行ってみようかって事となった。
折角なので、大家さんも誘って来ている。
「この転移門の周辺……どうやら私の家と同じで、今でも認識阻害で守られているようですね。ここの存在を知っていないと、人でも魔物でも無意識にここを避けるようになっています」
「えっ、そうなんですか?」
「はい。ですので、ケイタさんが案内してくれないと、皆だけでは多分ここは見つける事ができなかったでしょうね」
そうだったのか。だから気を失っていても魔物に襲われる心配が無かったんだな。流石は女神様、しっかりと考えて送ってくれていたことに今更ながら感謝します。
今回俺はここの存在を皆に教えるにあたり、俺が別の世界からの迷い人であり、この世界へやってきた理由も、ここまでの道すがら教えてあげた。
ラキシスを助けるために俺が女神様に遣わされてこの世界へ来たと知ったラキちゃんは、出会いが偶然ではなく必然だったと知り、先程から変な含み笑いをしながら俺の背中に顔を埋めるように、ずっと俺に張り付いている。
「えーっと……、ラキシスさん、そろそろ離しては頂けませんか?」
「うふふふふー、だーめーでーすーっ」
「あらあら、急に甘えん坊さんになっちゃいましたね」
「ラキのやつ、ひっつき虫になっちゃったな」
とりあえず、全員で転移門の魔法陣の中へ入ってみる。これで条件が揃っている 『紅玉の戦乙女』 は、全員が秘密のエリアへ転移するはずだ。
――そう思ったのだが……。
「おやおや? 何も起こらないね?」
「本当ですわね……。どういう事でしょう?」
「まさか……、ガセネタだった!?」
全員に不穏な空気が流れるが、未だに俺の後ろに張り付いたままのラキちゃんがすぐに答えを教えてくれる。
「ご安心ください。皆さんは今ここを登録しましたので、後はダンジョンの四十層から秘密のエリアに入り最終的な利用許可の登録をすれば、今後は利用可能となりますよっ」
「あっ、そういう事ですのね」
「なるほどね。じゃ、早速ダンジョンへ行ってみようぜ!」
「ええ、そうしましょう!」
「なら俺達は、ここで待ってるよ」
「分かりました。――では後ほど」
俺達はまだこの転移門を使う事ができないから、 『紅玉の戦乙女』 に付いて行っても仕方がない。
そのため、彼女達が転移門を潜ってこちらへやってくるまで、暫くここで待つことにした。
お茶を沸かして一息つきながら、のんびりと待つこと暫し。
空が次第に茜色となり少々肌寒くなってきたなと感じた頃、突然、転移門周辺の大気の魔力に変化が生じる。
俺でも変化に気が付くほどだったので、全員がハッとして転移門の方へ注目する。
「きたっ!」
リンメイの声と共に次々と転移門から現れる 『紅玉の戦乙女』 のメンバー。どうやら全員無事に、転移門を潜ってこれたようだ。
「おかえりー」
「皆さん、遅くなってすみません」
「リンメイ、本当にあったよ秘密のエリア!」
「すげーぜ、いろんな場所へ繋がってる転移門が、ずらーっと並んでるんだよ!」
「そうそう! ここに繋がる転移門探すのにちょっと手間取っちゃったくらい!」
「僕さあ、知らない間に故郷にある転移門も登録してたみたいでさ、さっき一瞬で故郷に帰っちゃったんだよねー」
「なにが帰っちゃったんだよねーよ! ――まったく、カーミラが突然いなくなって、あたしらかなり焦ったんだから!」
なんかもう 『紅玉の戦乙女』 は全員が大はしゃぎだ。
彼女達はこの転移門の情報を大いに気に入ってくれたようで、早速別の都市にあるダンジョンへ転移門の登録しにいかないか? なんて話し出しているほど。
俺達としても情報が正しかったことが分かり、ダンジョン攻略のやる気が更に湧いてきた。
「では俺達の情報は正しかったと確認できた事ですし、これで俺達にダンジョン攻略の情報を教えてもらえますか?」
「ええ、勿論ですわ。これほどの情報を頂いたのです。私達もそれ相応のお返しをしない訳にはまいりません」
「助かります。――では日も落ちてきた事ですし、とりあえず今日はもう帰りましょう」
『紅玉の戦乙女』 はダンジョンに潜るところを多くの人に見られているため、怪しまれないよう再び転移門を潜って帰っていった。
そんな彼女達を、俺達は羨ましそうに見送る。
「あーぁ、あたいらも早く使えるようになりたいなぁ」
「本当ですね」
「なぁに、ダンジョンの情報も貰える事になったし、きっとすぐに使えるようになるさ。――んじゃ、俺達も帰ろうぜ」
これで信頼のおける先輩冒険者から、ダンジョンの情報を貰える確約を得た。後は準備を整えて、いよいよダンジョン攻略だ。
0
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる