天使の住まう都から

星ノ雫

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二章

055 十九層のボス

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 昨晩のカードゲーム大会の勝者はカテリナさんだった。
 ネックレスはいつの間にか買い取りの権利ではなく、そのまま獲得の権利となってしまったので、余計に盛り上がってしまった。

 うちら三人は、まあ手に入ったら良いな程度に思っていたが、他の面子はそうではなかったようで非常に悔しがっていた。
 確かに魔力マナ量の少ない冒険者には垂涎の逸品だったからね。
 でも男子諸君はカテリナさんのニコニコ顔が見れて満更でも無い顔となり、あっさりと諦めがついたようだった。

 今回俺達が宿泊したトラップ部屋も、先日襲撃者から奪った魔動焜炉コンロを入れると無事開いてくれた。
 さて、今日はなんとしてもボス部屋まで辿り着いてボス攻略をしたいところだ。



 トラップ部屋から一時間程進むと、昨日ラキちゃんが推測した通り、下り階段のエリアがあった。

「よかった、下り階段があったね」

「ああ。後はここから先がボス部屋まで続いてくれることを祈るばかりだ」

 俺達は水分補給程度の小休止を挟むと、すぐに移動を再開する。
 ここはボス部屋の座標からかなり離れた場所なので、まだまだ結構な距離を移動しなければならないからだ。

 この頃には的確な道を示すラキちゃんのルート予想を誰もが頼りにしていたので、ラキちゃんが示す道を何の疑いも無く進むようになっていた。
 ただ、正しい道と言う事は行き止まりには当たらないので宝箱と遭遇する機会も無いわけだが、そこは今回はグッと我慢だ。
 今は再構築までにボス部屋前のエリアに行くのが目的だからね。

 ここまで来ると魔物の攻撃も激しくなってくるが、今は九人で行動しているので全く危なげなく進んで行けている。
 アーマークロコダイルやスパイクアリゲーターなどワニの魔物は皮素材がかなり良い値段で取引されるのだが、今は六人以上のためダンジョンの制約に引っかかってしまい、ドロップアイテムが全く出ない。
 そこだけが少々残念だったりする。



 降りてきた階段からボス部屋の座標まで半分以上は来た頃だろうか。
 丁字路の分岐で片方は見える距離で行き止まりだったのだが、そこにはなんと宝箱があった。

「おっ! あれ位は開けてこうぜ!」

「……勿論だ!」

 いつものように宝箱を開ける担当以外は全員で周囲を警戒する。

「じゃ、ラキちゃん開けてくれる?」

「はーい」

 ラキちゃんが宝箱を開けると、そこには籠手が入っていた。
 俺が今使っている籠手に近いが、更に殴るに特化したような造りをしている。
 これは付与効果関係無く欲しい!

「おっ、籠手だな。えーっとこの効果は……」

「欲しい!」

 俺はリンメイの説明も待たず宣言してしまう。
 リンメイはちょっと驚いたようだ。

「おっ、おう。――まぁ待ちなよおっさん。この効果は攻撃魔法の飛距離延長」

「「「おおっ!」」」

 魔導学院の生徒さん三人が揃って声を上げる。

「ただ、伸びる距離は一メトレ(メートル)だけだけどな」

「一メトレですか……」

 途端に三人とも微妙な顔をしてしまう。まあ一メトレしか飛距離が伸びないんじゃねえ。
 因みに一メトレは大体一メートルと同じと考えればいい。分かりやすいね。

「おっさんが買い取りでいいんじゃねぇか?」

「いいのかおっさん。付与効果はおっさんには全く意味ねーぞ?」

「いいよいいよ、この徒手格闘に適した作りが気に入ったんだから」

「そっか。――じゃ、これはおっさんが買い取りでいいな?」

 皆は首肯で答えてくれたので、早速俺が取り出した。
 良いじゃん良いじゃん。これならアイアンニードルだろうがぶん殴っても痛く無さそうだ。
 それでいて今まで使っていた籠手同様、薬草をそのまま摘む事が可能なほど指は滑らかに動かせそうだ。
 拳打も手刀も掌底も裏拳も考えられた作りが実に良い。
 今は移動を優先したいので俺は籠手を鞄に仕舞い、さっさとこの場所を移動する事にした。



 宝箱のあった丁字路から随分と進み、遂に俺達はボス部屋前のエリアに辿り着いた。
 今回は道が途切れる事無く辿り着けたので、全員が安堵する。

 ボス部屋前のエリアには誰もおらず、ボス部屋への入り口も開いたままだった。
 そのためいつでも突入できる状態だったが、もうお昼の時間はとっくに過ぎていたから、まずは昼食を兼ねた休憩を挟みたい。

「とりあえず昼飯にしないか?」

「そうですね。腹を満たして少し休憩してからボスに挑みましょう」

 炙ったハムとチーズを日持ちするパンに挟んだだけの簡単なサンドイッチ弁当を皆で食べる。
 今朝、ボスに挑むなら携帯食料よりもこっちの方が腹に力が入るって話になり、皆で準備した弁当だ。

「ところで、おっさん達は本当に三人でボスに挑むのか?」

「ああ、そのつもり」

「本当に大丈夫か?」

 ハンスの言葉に、彼らのパーティ全員が俺達を心配そうに見ている。

「多分何とかなると思うよ。うちには優秀な二人がいるからね」

「……んじゃいいけどさ。――ボスの攻略方法は昨日教えた通りだ。気ぃつけろよ」

「分かった、ありがとう」

 昼食が終わると、ハンス達はもう一度ボスの攻略をパーティで確認していた。
 あいつ等は護衛という立場でもあるし、万が一があってはいけないからな。
 ただ、ハンス達の方は三人も優秀な魔法士がいるから瞬殺のような気もするんだが……。

「じゃ、先に行く。出た所で待ってるから、必ず三人で来いよ!」

「ああ! お前らも頑張れよ!」

 それからハンスだけでなく皆からも激励されてしまう。
 やはり三人で挑むのは心配されてしまうよね。

 そして、ハンス達はボス部屋に入って行った。

「皆に心配されてしまったな」

「しょーがねえさ。三人で挑もうなんてふつーしねえしな」

 それから俺達もハンス達に教えてもらったボス攻略を参考に、攻略手順を確認していく。

 それ程待つ事も無く、ボス部屋の扉が開いた。
 やはりあっと言う間に倒してしまったようだな。

「よし! 俺達もやるぞ!」

「「おーっ!!」」

 ボス部屋に入ると、そこはコの字に水路のあるエリアだった。
 水路は人の通れる通路により正方形に区切られているが、水の中は繋がっているようだ。

 ここのボスはジャイアントイビルアイズ。あのキモイ姿のヤツメウナギのようなイビルアイズのでかい奴だ。
 討伐するためには左右合わせて八つの目を潰さないといけない。
 ヤツメウナギは目と七対の鰓孔で八目と呼ばれているが、コイツは四対の本物の目から成っている。

 本当は体に致命的なダメージを与える事でも倒せるらしいが、外皮はとても硬く弾力があり、更にはぬめっているために得物の刃が通りにくい。
 そのため、大抵の冒険者は目を潰して討伐している。

「二人とも準備は良いですかー?」

「「おっけー!」」

「じゃ、閉めまーす」

 ラキちゃんにボス部屋の扉を閉めてもらうと、コの字型の水路に囲まれた床のエリアに巨大な魔法陣が出現する。
 そして魔法陣から巨大なイビルアイズが登場すると、すぐに跳ねて水路に潜った。
 うーん、でかいと更にキモイな!

 ボスは区切られた水路のどこかから頭を出し、水弾をこちらに向けて撃ち込んでくる。
 そしてまた水に潜るという行動をとる。
 そのため遠距離攻撃により、ひたすら目を狙わないといけないように思われがちだが、実はそうでもない。

 ボスが水弾を放つ時にこちらも遠距離攻撃を口というか顏に打ち込むと、怒って噛みつき攻撃をしてくる。
 そのタイミングを狙って近接戦闘職が目を狙えば良いとの事。これがハンス達が教えてくれた攻略法だ。
 遠距離攻撃のできる冒険者が最低は一人は必要だが、これにより近接戦闘職でも十分に戦力となる事ができる。

「あそこだおっさん!」

 俺よりも先にボスの出てくる水面を察知したリンメイが、出てくる水路の位置を指差してくれる。
 出てきたボスは情報通り水弾を撃ち込んできたので、ラキちゃんの結界により防いでもらい、俺とリンメイは素早くアイアンニードルの針を投擲する。

 ――パシーン! 

 ――ピキパキッ!

 ボスがでかすぎて俺の投擲からの雷魔法では全身をマヒ状態にする事はできないようだったが、雷撃傷を起こす事はできたようだ。
 リンメイの投擲からの氷魔法はボスの口の周りを凍らせてしまい、良い感じにダメージを与えている感じだった。

「くるぞ!」

 サンドワームのようなキモイ形状の口が俺達に襲い掛かる。
 タイミングを見計らって横に飛び、ボスの口が床面にめり込むと同時に俺達はこいつの目にそれぞれ左右から攻撃を仕掛ける。
 今は丁度ボスの口が床に突き立てられている状態なので、目も届く位置に縦に並んでいる。

 俺は目の一つを投擲による魔法で潰し、もう一つの目を紫電を纏わせた剣で突いて潰す。
 リンメイも氷属性を纏わせた双剣による刺突で二つほど潰したようだ。目が凍りついている。

 ――残り四つ!

 暴れながら水に戻っていくボスから距離を取り、再び同じ攻撃が来るのを待つ。
 さあ次はどっから来る?

 今度は左側の水路から立ち上がってきた。
 リンメイは最初の攻撃で水弾を撃つタイミングを計ったようで、ボスが水弾を吐き出す前にアイアンニードルの針を口の中に投擲し、水弾を撃つタイミングで氷魔法を発動させる。
 なんと水弾は口の所でつっかえてしまった。
 マジかよ、リンメイの戦闘勘は恐ろしいな。

 俺が投擲をする必要も無く、ボスは凍った水弾を口に詰まらせながら再び噛みつき攻撃を仕掛けてきた。
 狙われる位置を一つにするために固まっていた俺達は、再びパッと散開する。
 透かさず投擲による魔法攻撃を打ち出して目を一つ潰し、最後は剣を突き立てて雷魔法を流し込み目を破壊した。
 リンメイの方も上手くいったようで、ジャイアントイビルアイズは崩れ始めた。

「よしっ!」

「やったー!」

「なんからくしょーだったな!」

「パターンが決まってたからな。イレギュラーも無く上手くいって良かったよ」

 ボスが消えると、今回も宝箱が三つ現れた。

「早速開けようぜ!」

「「おう!」」

 ラキちゃんが一つ目を開けてくれると、中には海で使う銛のような槍が入っていた。

「槍だな。魔力マナを流せば水弾を撃ち出せる。――誰かいるか?」

 俺もラキちゃんも首を横に振る。
 誰も必要ないので、只人の標準サイズで売るために俺が取り出す。

 続いて二つ目の宝箱も開けてもらう。

「斧かぁ。魔力マナを流せばインパクトの時に普通の二倍の衝撃が起こる。――これも……いらんよな?」

 俺もラキちゃんも首肯で応える。
 この斧も俺が取り出した。

 二つとも使いこなせる人が手に入れればそれなりに良い品なんだろうが、俺達には必要無さそうな武器だった。
 あと一つ。どうか俺達に有用なアイテムであってくれ。

「おっ! 籠手だ。魔力マナを流せばスモールシールド位の結界が出せる。これ良いな!」

 その籠手は大変女性に好まれそうな、花柄の凝った意匠が施された気品ある作りをしていた。
 はっきり言って女性用だな、この籠手は。

「ラキには結界魔法があるから付与効果は意味ねーけど、ラキの好きそーな花柄のデザインだし、どうだ?」

「えっ、いいの? でも……うーん、やっぱりリンメイお姉ちゃんが使って。私はまた今度でいいから」

「いいのか?」

「うん。その付与効果はきっとリンメイお姉ちゃんの役に立つはずだから」

「そっか、なんかわりぃな……。ありがたく使わせてもらうよ!」

「うん!」

 リンメイは箱から取り出すと、早速装備してみる。

「いいね、似合ってるよ。お洒落さんだぞ」

「うんうん! お洒落さん!」

「そっ、そうか? ふへへ、ちょっと魔力マナ流してみようかなっ」

 リンメイはこの籠手を手に入れた事がとても嬉しかったようで、照れ隠しのように装備した籠手に魔力マナを込めてみた。
 すると小さいながらも結界のようなシールドが両手に現れる。

「おぉー!」 「綺麗!」

 なんとシールドは花の形状をしていた。
 透き通ったでっかい花が一輪ずつ両手に付いているようで、ラキちゃんの言う通りとても綺麗だ。

「ちょっ……、これかなり恥ずかしいな!」

「別にいいんじゃないか?」

「綺麗だしとっても良いよー」

「うーん……まぁいっか」

 恥ずかしいと言いつつも、リンメイはとても満足気な顔をしている。
 双剣を扱う都合上、盾は持てないのでこの装備は非常に有用だと思う。
 最後に良い装備が出て本当に良かった。

「――よし、んじゃそろそろ行くか。ハンス達が待ってるし」

「だな。早く無事を知らせてやろうぜ」

 そうだな、きっと心配しながら待ってるだろうし、さっさと転移門ポータルを抜けてハンス達を安心させてやろう。
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