54 / 114
二章
054 迷宮
しおりを挟む
次の日。
俺達は簡単な朝食を済ませると、さっさとキャンプを片づけて移動を開始する。
十七層から仕切り直しなのに再構築まであと二日なので、余りゆっくりしていられないからだ。
十七層へ戻ると、昨晩の内に皆で当たりを付けた方角へ進んで行く。
さて、この当たりを付けた方角なんだが、うちのパーティ三人だけはその先に間違いなく階段がある事を知っている。
昨日キャンプしていた時に、ラキちゃんが階段エリアの座標から判る範囲で十八層のマップを作成してくれていたからだ。
そこには十七層に上る階段と、その階段から進める位置に十九層へ降りる階段がある事を確認していた。
俺達は現れる魔物を屠りながら順調に進んで行く。
ハンス達は昨日の時点であの階段からではボス部屋まで辿り着けない事を確認しているので、随分と探索速度が速いなと感じていたが……。
なるほどな、優秀な魔法士が三人もいるんだ、そりゃ早い訳だ。
魔法士が一人しかいない普通のパーティなら水路を越えるための魔法を一人で六人分も行使しないといけないが、彼らの場合は魔法士一人で自分ともう一人を受け持てば済んでしまう。
俺達とは違い正攻法で全ての水路を越えて進んでたんだな。
「おっさんとリンメイ、良いブーツ持ってんだなー」
「ふふん、良いだろう。うちにはラキちゃんという幸運の天使がいるからな、引きが良いんだよ」
「あはは、羨ましい限りですよ」
「……あやかりてぇ」
ハンス達と行動を共にするので、ラキちゃんの飛行能力を使う訳にはいかない。
そのため、水路を渡る時は俺がラキちゃんを背負っている。
やはり亜空間収納を含め、どうしても注目を集めてしまうラキちゃんの能力は極力隠したい。
十七層では道を間違えそうになる度に、ラキちゃんがそれとなく教えてくれる。
移動しながらのマッピングを今回もラキちゃんが行っているので、違和感は無いはずだ。
俺達が先日見つけたトラップ部屋も通り越し、ずんずんと進んで行く。
「なんか恐ろしく順調に進んでいるな」
「ホントだね、まるで買ったマップ見ながら進んでるようだよ」
「……ラキちゃんはマッパーとしての才能ある」
順調に進んだ俺達は、二時間程で十八層に降りる階段まで来ることができた。
「ちょっと休憩しようぜ。流石にこのペースで進み続けるのは辛い」
「そうだね。皆ここで休憩って事でいいかな?」
「いいよー」
確認を取るまでも無く、皆は既に腰を下ろしていた。
とりあえず休憩しながら、俺達はマップを確認して進む方向を検討する。
「今日中に十九層に降りる階段まで行けるといいな」
「そうだな、そうすれば明日中にはボス部屋まで辿り着けんだろ」
昼食にはまだ早い時間だったので、このエリアではおやつなどを摘まみ水分補給をするだけで再び移動開始する。
今日の残りの時間は全て十八層に費やすのかと思っていたが、三十分も経たずに、もう下り階段まで来てしまった。
「あれ、随分と近くにあったんだな」
「本当だ。――今日はまだ時間があるし、一先ず降りてボス部屋までのルートを少しでも探索しとかない?」
「それでいいぞー」
十九層に降りると、ボス部屋の座標とこの階段エリアの座標を照らし合わせる。
昨日ハンス達が書き上げた部分も含め検討し、まずは最短ルートでボス部屋まで行けないか進んでみる事に。
ところが……。
「ここからもボス部屋には行けない!?」
かなり移動してマップがどんどん完成していくと、ボス部屋まで辿り着けない事に気が付いてしまう。
時間も昼を過ぎてしまったので、結局降りてきた階段まで戻って昼食を取る事に。
「この階段じゃなかったって事か?」
「うーん、一旦十八層まで戻る? この階段までそれほど時間掛からなかったし、他に別の階段があったのかも」
「かもな……」
昼食を取りながらすったもんだしていると、ラキちゃんが控えめに手を上げた。
「はい、ラキシスさん」
「えっと、今いるこの場所からこっちにはまだ進んでないから、もしかしたら上り階段があるかもしれないなーと思います」
ラキちゃんは十九層のマップを指差し、まだ進んでなかった方角を差す。
そして十八層のマップも取り出して空白部分を指差した。
「もし上り階段があれば、十八層のこの区間はまだ空白なので、進んだ先に別の下る階段があるかもしれないなーと思います」
「ふむふむ」
「あー、今回は迂回しなきゃたどり着けないパターンか?」
ラキちゃんは思いますと言っているが、確信を持って言っているのを俺とリンメイは知っているので強く推す。
「俺はラキちゃんの推測に賛成だ」
「あたいも。――飯食ったらこっち行ってみようぜ」
「そうだね、異論がなければ昼食後に向こうの方を探索してみよう」
誰も異論は無いようだったので、休憩を終えるとラキちゃんの推測に従い、昇り階段を探しに向かう事となった。
それから三十分も経たない内に、俺達は上り階段を見つける。
「あったね」
「流石ラキちゃんだ」
「えへへ」
十八層に上り、ひたすら下り階段を求めて探索していく。
これまで書かれたマップの隙間を縫うように道が続いており、十九層のボス部屋のある座標からはどんどんと離れていく。
「今回の迷宮、やらしー作りだなぁ……」
「ホントだね。この先に階段があるとしたら、十九層はボス部屋まで相当長い距離を移動しなきゃいけなくなるよ」
暫く進んだ所で、ラキちゃんが俺の袖を引っ張り合図してきた。
「ん? どうしたの?」
「ここ……」
そう言いマップを指さした箇所は、十七層にあったトラップ部屋と同じような、空間がありそうな壁面だった。
――もしかして!
「リンメイちょっと……」
「ん? どうしたんだ?」
俺達三人は輪になり、リンメイにラキちゃんの示した箇所をトントンと指差して教えてあげる。
「あっ!」
「行ってみていいか?」
「いいぜいいぜ! 見に行こう!」
「おっさん達、何コソコソやってんだ?」
どうやら俺達がコソコソとやってる姿が、ハンス達やカテリナさん達には随分と気になったようだ。
「ん? ああ、ちょっといい物見つけたかもしれない」
「いい物?」
「まぁ見れば分かる。――皆ちょっと付いて来てくれよ」
俺達はハンス達をラキちゃんが示した場所に案内する。
そこは何の変哲もない直線通路だった。
但し、十七層でトラップ部屋を見つけた時と同じように通路は深いプールのように水で満たされ水路と化している。
「カテリナさん達にお願いがあるんだけどさ、水路の始まりとなってるココからあの真ん中辺りまで、こちらの壁側の水を退かしてもらえないかな?」
カテリナさん達は何のために? といった感じの表情をするも、とりあえず行動に移す事を了承してくれる。
「結構距離がありますね」
「一人であそこまではちょっと厳しいかもね」
「一気にやるんじゃなくて、移動しながら進む分だけ退かしていくか?」
魔導学院の三人はあれこれと思案する。
どうやら、ラキちゃんのように一気に道を作るのは厳しいようだ。
「なんなら、水上歩行であの辺まで行って、あの辺だけ水を退かしてもらうでもいいよ」
「その方が作業を分担できるので、そうしましょう」
カテリナさん達はそう言い、水上歩行の魔法を行使する人と、水を退かす魔法を行使する人とに分かれた。
早速俺達はラキちゃんが示した箇所まで移動し、水面の上に立つ。
「この辺ですか?」
「うん、そうだね。――じゃ、お願いします」
「分かりました」
セレニス君が水を退かす担当となったので、魔法を行使してくれる。
そして水の無くなった壁面には……。
「「「あっ!!!」」」
「あったな、やっぱり!」
予想どおり、十七層にあったトラップ部屋へ続く通路と全く同じものが、そこにあった。
「おっし! 行こうぜ!」
驚いている皆をよそに、リンメイはさっさと通路に入って行く。
俺とラキちゃんも続くと、慌ててハンス達も付いてきた。
「よっしゃ! 全く同じだ!」
「「「あっ、宝箱!!!」」」
この隠し部屋にも宝箱が三つ並んでいた。
十七層と同じなら、真ん中のがまたトラップのはずだ。
「マジかよこれ!」
「おじさん達はこの隠し部屋の存在を知ってたんですか!?」
「ああ、実は十七層で偶然見つけてな。十八層でも似たような空間があるとラキちゃんが教えてくれたんだ」
「……早速開けよう!」
居ても立っても居られない感じのミステルがさっさと箱を開けようと催促するが、リンメイに待ったを掛けられる。
「真ん中の宝箱は多分迷宮宿と同じトラップだから気を付けな」
リンメイの言葉に再びハンス達は驚いてしまう。
「本当ですか!?」
「ああ、十七層のはそうだった。階層によってトラップの箱が違うかもしんねーけどな」
「迷宮宿なら今日はここでキャンプしようぜ!」
「それがいいね!」
流石だなハンス達は。ちゃんと迷宮宿の存在を知っているようだ。
「あの、迷宮宿って何ですか?」
「迷宮宿ってのは迷宮エリア内にあるトラップ部屋の事なんだよ。トラップを発動させると入口が閉まって安全に宿泊できるから付いた名前だね」
「へぇー」
俺達が答える必要も無く、カテリナさんの質問にはアレックス君が答えてくれていた。
アレックス君はきっとお姉さんにでも教えてもらったんだろうね。
「とりあえずトラップが発動するか試してみようか」
「そうだな」
「……んじゃ開けるぞ。真ん中だったな?」
――ガコン!
ミステルが真ん中の箱を開けると、前回同様に下り階段一段目がスライドして入り口が閉じてしまった。
「「「おおー」」」
「閉じたね。――おじさん、開ける時も迷宮宿と同じだったんですか?」
「そうだよ。先日は俺のお古の鎧を入れたら開いた」
「分かりました。――皆、今日はここでキャンプという事で良いかな?」
「勿論おっけーだ」
「ああ! ゆっくり寝れるぜ」
見張りが必要無くゆっくりと寝る事ができるので、誰も異論は無く大喜びだ。
「んじゃ、そろそろ宝箱開けていいかー?」
「……さっさと開けよう」
「おう! 悪い悪い。さっきから気になって仕方ねーもんな」
まず右側の箱を開けると、剣が入っていた。形状からして両手剣ぽい。
赤い宝石が付いて柄が炎のような意匠がされており、かなりかっこいい。
「これかなり良いぞ。魔法士の素質無くても魔力込めれば炎属性攻撃ができる。――欲しい奴いるか?」
「欲しい!」
力強く手を上げたのはハンスだった。
まあ今ここにいる面子で両手剣扱うのはハンスだけだしね。
「他にはいないっぽいね。――じゃこれはハンスが買い取りと言う事で」
「いやっほぅ!!」
ハンスは大喜びで宝箱から剣を取り出すと、早速鞘から抜いて魔力を込めてみる。
――ゴウッ!
おおっ、アルシオーネさんほどの派手さは無いが、刀身にうっすらと炎の層が出来ているのが見える。
「うっ……、これ俺の魔力量じゃ常時発動して使うのはキッツイな」
「インパクトの瞬間だけか、突き刺した後で発動するだけでもいいかもね」
「そうだな。いざって時に使えるだけでもかなりでかい。――やったぜ!」
「……もーいいか? さっさと次いくぞ」
続けて左側の宝箱を開けると、美しい宝石の付いた小さなペンダントトップのあるネックレスだった。
女性陣から歓声が上がる。
「これもかなりいいな。魔力を消費する時、魔力の消費量をこれが少しだけ補ってくれる。なんか大気から魔力を吸収して変換してくれるみたい」
今度は全員から歓声が上がる。
このネックレスはラキちゃんがギリメカリスに目からビームをぶっ放した時のような感じに、大気から魔力を吸収するのか。
魔力量が少ない冒険者にとってはかなり嬉しいアイテムなんじゃないだろうか。
「なっ!? マジかよすげー欲しい!」
「これ欲しい奴ー?」
全員が手を上げた。
魔導学院の三人も手を上げている。
「まっ、そうなるよなあ……。――クジで決めるか?」
「こっ、これで決めようぜ!」
そう言いハンスが掲げたのは、ハンスの持ってきてたカードゲームだった。
「いいね。――じゃ、異論がなければ夕食後にこのネックレスを賭けた勝負といこうか」
それから皆、慌ただしくキャンプの準備を始める。
この日の夜はネックレスを賭けたカードゲーム大会となった。
俺達は簡単な朝食を済ませると、さっさとキャンプを片づけて移動を開始する。
十七層から仕切り直しなのに再構築まであと二日なので、余りゆっくりしていられないからだ。
十七層へ戻ると、昨晩の内に皆で当たりを付けた方角へ進んで行く。
さて、この当たりを付けた方角なんだが、うちのパーティ三人だけはその先に間違いなく階段がある事を知っている。
昨日キャンプしていた時に、ラキちゃんが階段エリアの座標から判る範囲で十八層のマップを作成してくれていたからだ。
そこには十七層に上る階段と、その階段から進める位置に十九層へ降りる階段がある事を確認していた。
俺達は現れる魔物を屠りながら順調に進んで行く。
ハンス達は昨日の時点であの階段からではボス部屋まで辿り着けない事を確認しているので、随分と探索速度が速いなと感じていたが……。
なるほどな、優秀な魔法士が三人もいるんだ、そりゃ早い訳だ。
魔法士が一人しかいない普通のパーティなら水路を越えるための魔法を一人で六人分も行使しないといけないが、彼らの場合は魔法士一人で自分ともう一人を受け持てば済んでしまう。
俺達とは違い正攻法で全ての水路を越えて進んでたんだな。
「おっさんとリンメイ、良いブーツ持ってんだなー」
「ふふん、良いだろう。うちにはラキちゃんという幸運の天使がいるからな、引きが良いんだよ」
「あはは、羨ましい限りですよ」
「……あやかりてぇ」
ハンス達と行動を共にするので、ラキちゃんの飛行能力を使う訳にはいかない。
そのため、水路を渡る時は俺がラキちゃんを背負っている。
やはり亜空間収納を含め、どうしても注目を集めてしまうラキちゃんの能力は極力隠したい。
十七層では道を間違えそうになる度に、ラキちゃんがそれとなく教えてくれる。
移動しながらのマッピングを今回もラキちゃんが行っているので、違和感は無いはずだ。
俺達が先日見つけたトラップ部屋も通り越し、ずんずんと進んで行く。
「なんか恐ろしく順調に進んでいるな」
「ホントだね、まるで買ったマップ見ながら進んでるようだよ」
「……ラキちゃんはマッパーとしての才能ある」
順調に進んだ俺達は、二時間程で十八層に降りる階段まで来ることができた。
「ちょっと休憩しようぜ。流石にこのペースで進み続けるのは辛い」
「そうだね。皆ここで休憩って事でいいかな?」
「いいよー」
確認を取るまでも無く、皆は既に腰を下ろしていた。
とりあえず休憩しながら、俺達はマップを確認して進む方向を検討する。
「今日中に十九層に降りる階段まで行けるといいな」
「そうだな、そうすれば明日中にはボス部屋まで辿り着けんだろ」
昼食にはまだ早い時間だったので、このエリアではおやつなどを摘まみ水分補給をするだけで再び移動開始する。
今日の残りの時間は全て十八層に費やすのかと思っていたが、三十分も経たずに、もう下り階段まで来てしまった。
「あれ、随分と近くにあったんだな」
「本当だ。――今日はまだ時間があるし、一先ず降りてボス部屋までのルートを少しでも探索しとかない?」
「それでいいぞー」
十九層に降りると、ボス部屋の座標とこの階段エリアの座標を照らし合わせる。
昨日ハンス達が書き上げた部分も含め検討し、まずは最短ルートでボス部屋まで行けないか進んでみる事に。
ところが……。
「ここからもボス部屋には行けない!?」
かなり移動してマップがどんどん完成していくと、ボス部屋まで辿り着けない事に気が付いてしまう。
時間も昼を過ぎてしまったので、結局降りてきた階段まで戻って昼食を取る事に。
「この階段じゃなかったって事か?」
「うーん、一旦十八層まで戻る? この階段までそれほど時間掛からなかったし、他に別の階段があったのかも」
「かもな……」
昼食を取りながらすったもんだしていると、ラキちゃんが控えめに手を上げた。
「はい、ラキシスさん」
「えっと、今いるこの場所からこっちにはまだ進んでないから、もしかしたら上り階段があるかもしれないなーと思います」
ラキちゃんは十九層のマップを指差し、まだ進んでなかった方角を差す。
そして十八層のマップも取り出して空白部分を指差した。
「もし上り階段があれば、十八層のこの区間はまだ空白なので、進んだ先に別の下る階段があるかもしれないなーと思います」
「ふむふむ」
「あー、今回は迂回しなきゃたどり着けないパターンか?」
ラキちゃんは思いますと言っているが、確信を持って言っているのを俺とリンメイは知っているので強く推す。
「俺はラキちゃんの推測に賛成だ」
「あたいも。――飯食ったらこっち行ってみようぜ」
「そうだね、異論がなければ昼食後に向こうの方を探索してみよう」
誰も異論は無いようだったので、休憩を終えるとラキちゃんの推測に従い、昇り階段を探しに向かう事となった。
それから三十分も経たない内に、俺達は上り階段を見つける。
「あったね」
「流石ラキちゃんだ」
「えへへ」
十八層に上り、ひたすら下り階段を求めて探索していく。
これまで書かれたマップの隙間を縫うように道が続いており、十九層のボス部屋のある座標からはどんどんと離れていく。
「今回の迷宮、やらしー作りだなぁ……」
「ホントだね。この先に階段があるとしたら、十九層はボス部屋まで相当長い距離を移動しなきゃいけなくなるよ」
暫く進んだ所で、ラキちゃんが俺の袖を引っ張り合図してきた。
「ん? どうしたの?」
「ここ……」
そう言いマップを指さした箇所は、十七層にあったトラップ部屋と同じような、空間がありそうな壁面だった。
――もしかして!
「リンメイちょっと……」
「ん? どうしたんだ?」
俺達三人は輪になり、リンメイにラキちゃんの示した箇所をトントンと指差して教えてあげる。
「あっ!」
「行ってみていいか?」
「いいぜいいぜ! 見に行こう!」
「おっさん達、何コソコソやってんだ?」
どうやら俺達がコソコソとやってる姿が、ハンス達やカテリナさん達には随分と気になったようだ。
「ん? ああ、ちょっといい物見つけたかもしれない」
「いい物?」
「まぁ見れば分かる。――皆ちょっと付いて来てくれよ」
俺達はハンス達をラキちゃんが示した場所に案内する。
そこは何の変哲もない直線通路だった。
但し、十七層でトラップ部屋を見つけた時と同じように通路は深いプールのように水で満たされ水路と化している。
「カテリナさん達にお願いがあるんだけどさ、水路の始まりとなってるココからあの真ん中辺りまで、こちらの壁側の水を退かしてもらえないかな?」
カテリナさん達は何のために? といった感じの表情をするも、とりあえず行動に移す事を了承してくれる。
「結構距離がありますね」
「一人であそこまではちょっと厳しいかもね」
「一気にやるんじゃなくて、移動しながら進む分だけ退かしていくか?」
魔導学院の三人はあれこれと思案する。
どうやら、ラキちゃんのように一気に道を作るのは厳しいようだ。
「なんなら、水上歩行であの辺まで行って、あの辺だけ水を退かしてもらうでもいいよ」
「その方が作業を分担できるので、そうしましょう」
カテリナさん達はそう言い、水上歩行の魔法を行使する人と、水を退かす魔法を行使する人とに分かれた。
早速俺達はラキちゃんが示した箇所まで移動し、水面の上に立つ。
「この辺ですか?」
「うん、そうだね。――じゃ、お願いします」
「分かりました」
セレニス君が水を退かす担当となったので、魔法を行使してくれる。
そして水の無くなった壁面には……。
「「「あっ!!!」」」
「あったな、やっぱり!」
予想どおり、十七層にあったトラップ部屋へ続く通路と全く同じものが、そこにあった。
「おっし! 行こうぜ!」
驚いている皆をよそに、リンメイはさっさと通路に入って行く。
俺とラキちゃんも続くと、慌ててハンス達も付いてきた。
「よっしゃ! 全く同じだ!」
「「「あっ、宝箱!!!」」」
この隠し部屋にも宝箱が三つ並んでいた。
十七層と同じなら、真ん中のがまたトラップのはずだ。
「マジかよこれ!」
「おじさん達はこの隠し部屋の存在を知ってたんですか!?」
「ああ、実は十七層で偶然見つけてな。十八層でも似たような空間があるとラキちゃんが教えてくれたんだ」
「……早速開けよう!」
居ても立っても居られない感じのミステルがさっさと箱を開けようと催促するが、リンメイに待ったを掛けられる。
「真ん中の宝箱は多分迷宮宿と同じトラップだから気を付けな」
リンメイの言葉に再びハンス達は驚いてしまう。
「本当ですか!?」
「ああ、十七層のはそうだった。階層によってトラップの箱が違うかもしんねーけどな」
「迷宮宿なら今日はここでキャンプしようぜ!」
「それがいいね!」
流石だなハンス達は。ちゃんと迷宮宿の存在を知っているようだ。
「あの、迷宮宿って何ですか?」
「迷宮宿ってのは迷宮エリア内にあるトラップ部屋の事なんだよ。トラップを発動させると入口が閉まって安全に宿泊できるから付いた名前だね」
「へぇー」
俺達が答える必要も無く、カテリナさんの質問にはアレックス君が答えてくれていた。
アレックス君はきっとお姉さんにでも教えてもらったんだろうね。
「とりあえずトラップが発動するか試してみようか」
「そうだな」
「……んじゃ開けるぞ。真ん中だったな?」
――ガコン!
ミステルが真ん中の箱を開けると、前回同様に下り階段一段目がスライドして入り口が閉じてしまった。
「「「おおー」」」
「閉じたね。――おじさん、開ける時も迷宮宿と同じだったんですか?」
「そうだよ。先日は俺のお古の鎧を入れたら開いた」
「分かりました。――皆、今日はここでキャンプという事で良いかな?」
「勿論おっけーだ」
「ああ! ゆっくり寝れるぜ」
見張りが必要無くゆっくりと寝る事ができるので、誰も異論は無く大喜びだ。
「んじゃ、そろそろ宝箱開けていいかー?」
「……さっさと開けよう」
「おう! 悪い悪い。さっきから気になって仕方ねーもんな」
まず右側の箱を開けると、剣が入っていた。形状からして両手剣ぽい。
赤い宝石が付いて柄が炎のような意匠がされており、かなりかっこいい。
「これかなり良いぞ。魔法士の素質無くても魔力込めれば炎属性攻撃ができる。――欲しい奴いるか?」
「欲しい!」
力強く手を上げたのはハンスだった。
まあ今ここにいる面子で両手剣扱うのはハンスだけだしね。
「他にはいないっぽいね。――じゃこれはハンスが買い取りと言う事で」
「いやっほぅ!!」
ハンスは大喜びで宝箱から剣を取り出すと、早速鞘から抜いて魔力を込めてみる。
――ゴウッ!
おおっ、アルシオーネさんほどの派手さは無いが、刀身にうっすらと炎の層が出来ているのが見える。
「うっ……、これ俺の魔力量じゃ常時発動して使うのはキッツイな」
「インパクトの瞬間だけか、突き刺した後で発動するだけでもいいかもね」
「そうだな。いざって時に使えるだけでもかなりでかい。――やったぜ!」
「……もーいいか? さっさと次いくぞ」
続けて左側の宝箱を開けると、美しい宝石の付いた小さなペンダントトップのあるネックレスだった。
女性陣から歓声が上がる。
「これもかなりいいな。魔力を消費する時、魔力の消費量をこれが少しだけ補ってくれる。なんか大気から魔力を吸収して変換してくれるみたい」
今度は全員から歓声が上がる。
このネックレスはラキちゃんがギリメカリスに目からビームをぶっ放した時のような感じに、大気から魔力を吸収するのか。
魔力量が少ない冒険者にとってはかなり嬉しいアイテムなんじゃないだろうか。
「なっ!? マジかよすげー欲しい!」
「これ欲しい奴ー?」
全員が手を上げた。
魔導学院の三人も手を上げている。
「まっ、そうなるよなあ……。――クジで決めるか?」
「こっ、これで決めようぜ!」
そう言いハンスが掲げたのは、ハンスの持ってきてたカードゲームだった。
「いいね。――じゃ、異論がなければ夕食後にこのネックレスを賭けた勝負といこうか」
それから皆、慌ただしくキャンプの準備を始める。
この日の夜はネックレスを賭けたカードゲーム大会となった。
11
お気に入りに追加
35
あなたにおすすめの小説
[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~
k33
ファンタジー
初めての小説です..!
ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

私のスキルが、クエストってどういうこと?
地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。
十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。
スキルによって、今後の人生が決まる。
当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。
聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。
少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。
一話辺りは約三千文字前後にしております。
更新は、毎週日曜日の十六時予定です。
『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~
夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。
が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。
それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。
漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。
生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。
タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。
*カクヨム先行公開

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~
はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。
俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。
ある日の昼休み……高校で事は起こった。
俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。
しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。
……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる