天使の住まう都から

星ノ雫

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二章

036 二度目の討伐

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 さて、やっと俺達までボス戦の順番が回って来たぞ。
 今回も前回のような攻撃パターンで戦うのだが、今回止めを刺すのはキリムの役になった。その為、今回キリムの弓攻撃は無しだ。
 前回同様俺は左のミノタウロスを担当し、右のミノタウロスはトマス君とリンメイの二人に任せる事に。
 リンメイにはトマス君の戦いを参考にするようにって事で二人での行動にしたけど、本当はトマス君に万が一が有っては困るからって意味もあってこの配置。

「じゃ、皆よろしく!」

「「「おー!」」」

 今回司令塔であるサリムの掛け声に、皆で返事をして部屋に入る。
 扉が閉まると、前回同様魔法陣が三つ出現してミノタウロスが三体現れてきた。

「いくよ!」

 完全に実体化したのを見計らって、真ん中の奴にサリムの最大級の攻撃魔法が放たれた。
 最近教えてもらったが、サリムは 【鬼火の焔】 というギフトを持っていて、普通の攻撃魔法の炎よりも強力な青い炎を操れる。
 このギフトは威力が強いだけでなく自在に炎を操れるため、敵に炎をまとわりつかせる事も可能だ。

 サリムの炎に焼かれて苦しむミノタウロスにキリムが風のように駆け、舞うような斬撃で止めを刺す。
 キリムは 【風神の舞い】 というギフトを持っており、攻撃に風魔法の威力を乗せる事ができる。
 そのため弓では威力を強めたり狙いを大幅に修正できるし、剣ではあり得ないリーチで切り裂く事ができるし、真空波を飛ばす事も出来る。

 今回俺は、覚えた投擲術を使ってみたかったので駆け寄りながら左手で投擲を放つ。
 先日教えてもらったばかりの、生活魔法程度の魔力マナを使った場合の投げ方だ。
 これは打ち出す時に風魔法で錐揉きりもみ回転させて威力を増すと共に、標的までの軌道を補正するように打ち出すという方法。
 俺は銃のライフリングを知っていたので魔力マナを練る時にイメージし易く、直ぐに使う事ができた。これは自衛隊時代の知識に感謝だ。

 ――カァン!

 ゲッ! とりあえずどこでも良いので当たれと投げたら、運悪くミノタウロスが前に構えていたバトルアックスに当たってしまった。
 慌ててミノタウロスの攻撃を躱し、弾薬ホルダーのように腕や腰などに仕込んであるアイアンニードルの針を一本引き抜き、もう一度投擲する。
 今度は脇腹に深々と刺さり相手を怯ませる事に成功した。

 いかんな、攻撃を躱す時危なかった。これ投擲をしようと意識しすぎて他の行動が疎かになってる。
 もっと一連の戦闘行動の一つとして慣れていかないと、逆にこちらが隙を作ってしまっているぞ。

 刺さった針を引き抜こうとしている隙を狙い剣に紫電を纏わせ左手首を切り飛ばし、片手で持っていた斧を地面に落とした。
 そのまま剣を返し逆袈裟に切り上げる。キリムが来てくれたので止めは任せよう。

 俺の方も無事にミノタウロスを仕留め、トマス君達の方はどうだろうと見ると、もう勝負がついていた。

「リンメイさん、見えましたか?」

「見えた見えた!」

 どうやらトマス君の実技講習も上手くいったようだね。
 リンメイは戦闘時にギフトの恩恵を得る事ができて大喜びだ。

 無事にボスを討伐できたということで、お待ちかねの宝箱。
 皆出現した宝箱のもとへ集まってくる。低層一つ目とはいえ、やはりこの時はワクワクしてしまう。

「じゃ、開けるねー」

 サリムの掛け声と共に一つ目が開けられる。

「おっ? 指輪だ。これってたしか……」

「これは魔法威力増加(弱)の指輪ですね」

 覗き込んだトマス君が答えてくれた。
 流石ギフト持ち。その場で何のアイテムか分かるってとても便利だね。

「サリムに良さそうだね」

「うーん、あたし(中)をこの前買っちゃったばかりなんだよねー」

 そう言いながらちょっと得意げに、指にはめている指輪を見せてくれた。

「じゃ、欲しい人が無さそうならこれは売却かなー」

「あっ! でしたら僕が買い取っても良いですか?」

 トマス君が名乗りを上げた。

「皆良いかな? ――ではこの指輪はトマス君が買い取りと言う事で」

「あー分かった。トマス君、さてはサリーちゃんにあげるんだな」

「あっ、いやー、そのー、アハハ」

 キリムのからかいにトマス君は笑いながら誤魔化しているが、トマス君がサリーちゃんを好きな事、皆知ってんだよね。
 やるなトマス君。サリーちゃんが今度ボス戦に挑む時のためにプレゼントするのかな?

「じゃ、二つ目開けるねー」

 中には淡い光を放つ小さな宝石が入っていた。魔石……とは違うようだ。

「あっ、これ魔導石じゃない?」

「小さいけど魔導石ですね。当たりだと思いますよ!」

 魔石が電池だとしたら魔導石はモーターのように様々な力を生み出す役割らしく、これを核に魔動機や魔道具が作られるらしい。
 また、武器や防具にも様々な付加能力を付けるのに使用されるんだとか。
 低層の冒険者個人ではまず使用しないため、売却一択となっている。

「さあ、三つ目はどうかな?」

 最後はお約束の古銭だった。全部アイテムってのは流石にないか。

「あははっ、やっぱり古銭だったね」

「なんとなくそんな気はしてたよ」

「じゃ、後ろもつかえてるでしょうし、転移門ポータル抜けて五層に行きましょう」

「「「りょうかーい」」」



 転移門ポータルを抜け、俺達はフィールドエリアの五層に降り立った。
 ラキちゃんとトマス君は今回初なので、この光景にやはり驚いて見入っている。いきなり空が現れるから驚いちゃうよね。
 おや? リンメイも初めてだったのかな? 先ほどから呆気に取られている。

「あれ? リンメイも初めてだったのか?」

「えっ? わっ、わりぃかよ……」

「いいや、到達おめでとう」

「あっ、ありがと……」

 と言う事は今回三人が初踏破か。改めて三人に向き直る。

「ラキちゃんにトマス君にリンメイ、五層到達おめでとう!」

 そう言い俺が拍手して祝福すると、キリムとサリムも併せて 「おめでとう!」 と祝福の言葉を述べて一緒に拍手をしてくれた。

「「ありがとうございます!」」 「ありがと……」

 ラキちゃんとトマス君は満面の笑みで、リンメイは照れたようにはにかんでいた。



 それから俺達は前回同様さっさと帰りの転移門の方へ行き、エントランスホールまで戻ってきた。
 これで三人も転移門ポータルに登録されたはずだから一安心だ。

「じゃ、今回の戦利品をさっさと換金して広場で一息いれましょ」

「そうだな。俺とサリムで納品に行ってくるから、皆はちょっと待ってて」

 冒険者ギルド支店まで来た俺達はキリムとサリムに納品をお願いして待つ事にする。
 今日も納品カウンターは冒険者でごった返している。
 そんな納品カウンターを眺めながら、リンメイはポツリと呟いた。

「ギフト使えばあんなに強いのに、なんであいつ等ギルドの納品受付なんてやってんだ?」

「皆が皆、戦闘が得意と言う訳ではありませんからね。危ない事しなくても十分生活できるだけ稼げるのはやはり魅力です。――因みに、本採用での 【鑑定技能】 持ち職員のお給金はこんな感じです」

 そう言ってトマス君はリンメイに耳打ちする。

「なっ!? そんなに貰ってるのか!?」

「もしリンメイさんも職員になりたくなったら言ってください。推薦してあげますよ」

 そう言い、トマス君はニッコリと笑った。なんかいつの間にか営業スマイルになってるぞ。
 しかし幾らもらってるんだろう。危ない事せずに高給取りなんて羨ましすぎる。

「むむむ……」

 おいおい、リンメイ悩みだしたぞ。そんなに高額なのか……。

「臨時職員もいつでも募集しているので気軽に言ってください。 【鑑定技能】 持ちは常に喉から手が出るほど欲しいですからね」

「そうなんだ……。お金に困ったらやってみようかな……」

「是非! 臨時職員の方がいると僕達も休暇が取りやすくて助かるんですよー」

 あー、替えが利かない職は休むの大変そうだもんなあ。トマス君も推すわけだ。
 おっ、キリムとサリムが戻って来た。

「ただいまー……って、どうしたの?」

「おかえり。トマス君がリンメイを臨時職員に勧誘してたとこ」

「あはは、なるほどね。――じゃ、広場の方で……と思ったけど、やっぱり以前ハンス達と祝勝会した 『季節の恵み亭』 まで行かない?」

「それでいいよー」 「はーい」

「ゴメンね。――リンメイもその方が落ち着くでしょ?」

「おっ、おう」

 ああそうか、リンメイに気を遣ったのか。広場だと会いたくない冒険者と鉢合わせするかもしれないしな。
 それから俺達は 『季節の恵み亭』 で報酬の分配をした後、三人の五層初踏破を祝った。
 沢山並べられた料理を肴に、ラキちゃんとトマス君はソフトドリンクで、俺達はエールをあおる。

 早速リンメイはトマス君に色々とギフトに関するレクチャーを受けていた。
 実際に戦闘で使ってみて疑問に思う部分もかなりあったのだろう。熱心に聞いている。
 良かった。この調子ならリンメイはもう大丈夫な気がする。

 ラキちゃんはトマス君が買い取った指輪を見せてもらっていた。
 うっ、しまったな。性能うんぬん関係なく、ああいうアクセサリーに興味が行くお年頃じゃないか。
 今度良さげなアクセサリーが出たらラキちゃんに進呈しようかな。俺も、もう少し気配りができるよう精進しよう。

「ハンス達、この前もう九層ボス倒したらしいんですよ。ずるい」

 ほろ酔い加減なサリムが、愚痴っぽくハンス達の近況を教えてくれた。ずるいって……。

「凄いな、あいつ等もう中層冒険者じゃないか」

「彼ら前衛としてバランスが良い構成ですからね。結構いろんなパーティから誘われてるんですよ」

「特に魔法偏重パーティから人気ね」

 パワーファイターに頑強な盾役に隠密行動できる斥候と、たしかに前衛としてのバランス良いもんな、あいつ等。
 ダンジョンでの活動のために六人構成のパーティが多いと思われがちだが、低層や中層では結構三人で活動しているパーティが多い。
 三人同士で臨時パーティを組みやすいし、魔導学院などからの依頼でダンジョンの護衛も三人指名が多いからだ。
 そして中層以降になると、馬が合う者同士、自然と六人の固定パーティになっていく事が多いんだそうな。

「キリム達は最近何層位まで行ったんだ?」

「最近は八層ですね。できたら中層以降で安定して探索できるようになりたいから、早めに九層ボスを倒したいと思ってます」

「あたしと兄さんも今度誘われてるパーティで九層ボスに行く事になってんですよー」

「おぉ、頑張ってな! 土産話を楽しみにしているよ」

「ふふーっ! 期待して待ってて!」

 たしか十層は海に囲まれた大きな島で、海辺の動植物採取が可能なんだっけ?
 海かぁ、いいな……。
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