天使の住まう都から

星ノ雫

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一章

015 大ネズミ狩り 2

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 ――ふぅ、なんとか都市の出口まで戻ってこれたぞ。

 出口から外に出ると、空はもう茜色に染まっている。
 それほど戦闘で苦労する事は無かったが初めてという事もあり、結構時間がかかってしまったようだ。
 松明たいまつも思ったより消費した。次はもう少し考えないといけないな。

 俺は水場で目立つ汚れだけ落とすと、急いで冒険者ギルドへ報告に行く事にした。
 この依頼の報告は建屋内のカウンターにではなく、外から回った解体処理場の方にあるカウンターで行う。
 まぁ……臭いからね!

 解体作業場の受付は解体作業場の職員であろうエプロンをしたおじさんがやっていた。

「こんにちは、大ネズミ狩りの達成報告に来ました」

「おうお疲れさん。それじゃ確認するから討伐証明の尻尾とスタンプカードを出してくれ。
 ――あと鍵とルートマップもな」

 俺は討伐証明の品を渡し、鍵とルートマップを返却する。
 受付のおじさんはそれを確認すると、尻尾は捨てて、入れてあった袋を返してくれる。

「よし、十三匹の討伐だから小銀貨三枚に銅貨九枚な。またよろしく頼むぜ。
 ――あと、そこの水場は自由に使ってくれて構わないからな」

「わかりました。ありがとうございます」

 一匹銅貨三枚ってところか。たしかに割と良い収入なのかもしれない。
 ただ臭くて汚いのがねえ。早速水場を借りて装備の細かな汚れを落としていく。

 それからミリアさんに言われた通り、公衆浴場へ行く事にした。
 俺自身、大家さんの綺麗な家にこの臭いで入りたくないからね……。



 公衆浴場にある脱衣箱ロッカーはしっかり鍵が付いており結構大きく奥行きがあるので、軽装鎧や剣なども入れる事ができた。
 さあて風呂だ風呂!

 体を念入りに洗い、湯船に浸かる。あぁー良いもんだね風呂は。この世界にも湯船に浸かれる風呂があると知った時は本当に嬉しかったよ。
 くつろいでいると、見知った顔に声を掛けられた。

「こんにちはおじさん、ここで会うなんて珍しいですね」

「うぃーっす!」

「……ちわ」

 初めての剣術講習からよく顔を合わせる少年三人が挨拶してきた。たしか礼儀正しい子がトーイ。威勢がいいのがハンス。寡黙な感じなのがミステル。

「今日から大ネズミ狩り始めたんでね、臭うからここに来たのさ。
 お前らは今日もダンジョン?」

「まーなー。おっさんも早く大ネズミ狩りなんて終わらせてダンジョン来いよな」

「ハハ、頑張るよ。――ところでお前らはいつも三人だけでダンジョンに潜ってるの?」

「今んとこはなー。でも下の階層に行く毎にやっぱ三人じゃ厳しいかなーって最近思ってる」

「ダンジョンの最大人数は六人ですからね。いずれ僕たちも後三人は欲しいと思ってるんです」

 ダンジョンは、五層ごとにある広大なフィールドエリアへ行くための転移門ポータルがある部屋には門番がいて、この門番がいる通称ボス部屋に入れるのが最大で六人らしい。
 それに、六人以上で進むと魔物からアイテムが全くドロップしなくなるそうだ。その事から、ダンジョンは六人で挑む事が当たり前になっている。

「ボス部屋挑むまでには臨時でもいいから人数増やしたいな」

「……かわいい子がいい」

 あーうん、健全な男子だし、やっぱり華が欲しいよね。
 ――魔法という腕力に左右されない強大な力がある世界だから、冒険者には女性が結構な数いる。でもやっぱり男の方が多いんだよね。

「カイトたちのパーティは? 女の子二人いるし、あそこも丁度三人でいいんじゃないか?
 先日ダンジョン復帰しようかなって言ってたぞ」

 先日湿原で一緒になったパーティの事を思い出し、提案してみる。

「カイト達のとこはなぁ……なんか俺たちの入る雰囲気無さそうじゃん?」

「俺たちそっちのけでいちゃいちゃされたら殺意が湧く……」

「まぁ僕は良いとは思うんですけど二人がコレですからね、アハハ。
 カイト達もパーティメンバー増やすのに苦労してるみたいですよ。男はこいつらみたいに気まずいと思う奴が多いし、女の子はハーレムの一員と思われたくないらしいですし」

「だから人畜無害そうな俺を誘ってくれたのか……」

 思わず呟いたら、三人にゲラゲラと笑われてしまった。くっそー……。
 そういえば……と、ふと思った事を聞いてみる。

「やっぱりパーティに入れるなら同族の子がいいのか?」

「いや、そんな事ないぜ。その辺俺らは気にしない。――なんで?」

「いや、只人以外の種族の子達も講習で結構見るからな。彼らはどうかなと思ったんだよ」

「うーん、只人で固まってる俺らにはなかなか厳しいかもな」

「アイツ等はアイツ等でもうパーティ組んでるでしょうからね」

「向こうも三人くらいのパーティと合流でないと無理だな……」

「ほら、王国の只人至上主義があるじゃないですか、あれで只人だけのパーティは結構警戒される場合があるんですよね」

 ここアルティナ神聖皇国の隣国カサンドラ王国は只人至上主義を掲げていて、所謂亜人の迫害をしている。
 迫害を逃れてこの国へやってくる亜人の人達が結構いるんだとか。また、ダンジョン目当てに冒険者としてやってくる只人の王国人もそれなりにいるらしい。

「迷惑な話だな」

「全くです」

「んじゃ俺らそろそろいくぜ。おっさんまたなー」

 出ていく彼らに手を振る。さて、もう少ししたら俺も帰るか。



 玄関口で一応臭いの確認をしてから中に入る。臭いの残る装備品は、暫く庭にある納屋に置いて良い事になっている。

「ただいま帰りました」

「はいお帰りなさい。ご無事でなによりです」

「今日も大家さんのお弁当とても美味しかったです」

「お粗末様でした」

 そう言ってにっこりと微笑んでくれる。本当に大家さんの笑顔には癒される。

 カランコロンとドアベルが鳴る。丁度ミリアさんも帰って来たようだ。

「ただいまーっと。――お、ケータさんも今帰りなのね。無事に帰ってこれたようでなにより」

「ありがとうございます。ちゃんとミリアさんに言われた通り、公衆浴場に入ってきましたよ」

「おっ、えらいえらい」

 そう言いながらも臭いを嗅がれ、辛うじて合格を貰えた。

「二人とも荷物を置いてきてご飯にしましょうか」

「はーい」 「わかりました」

 それから三人で食事を楽しみ、今日の出来事を語り合った。
 ダンジョンに行けるようになるにはあと九回か……。



 そんなこんなで剣術などの講習を受けたり大ネズミ狩りへ行ったりしている。
 最近は俺もハンス達に倣って対人用の剣術も学んでいる。駆け引きや体の構造を利用などといった事は昔習った徒手格闘や空手の動きがかなり役立っているような気がする。
 そのため、最近は体術も織り交ぜた戦闘スタイルになってきている。

 魔法も最近は身体強化の練度も上がってきて、魔法の訓練も次のステップに移ってきている。
 体外への魔力マナ行使ができる事が魔法士としての条件なのであるが、大家さん曰く俺にも魔法士としての才があるらしい。やったね!
 最近は火をつけたり、水をちょろちょろと出したり、簡易的なかまどを土で作ったり、そよ風を発生させたり……と生活魔法を教えてもらっている。
 様々な属性の生活魔法を経て、最も適正の高い属性を見つけるんだそうな。但し、適性が無く生活魔法で終わる場合もある。

 大ネズミ狩りも今日で七回目だ。もう随分と慣れてきた感じがする。
 今日も朝から受付の列に並ぶと、前に並ぶ少年達の話声が聞こえた。
 ダンジョンはまだ早いと思った子らが、結構大ネズミ狩りにも混ざってるんだよね。

「なあ、第二下水処理場でゴブリンの浮浪者いたの見たか?」

「ああ見た見た。みの被った奴だろ? すっげえ臭うからすぐわかった。物欲しそうに俺らが弁当食うの見てやがんだよな」

「くせえから石投げたら逃げてったぜ、ぎゃはは」

 ――ゴブリンの浮浪者がいるのか。中間地点が第二下水処理場のルートはまだ行った事がないな。

 なんて思っていたら、今日はその第二下水処理場が中間地点のルートとなった。



 早速ルートマップの案内に従い都市の入口を見つけ、ルートに沿って大ネズミを討伐していく。
 最近は生活魔法の一つで光源を発生させることができるのだが、魔力マナは身体強化に使うから戦闘に影響してくるため少しでも温存したい。
 それに光源と身体強化といった併用はまだ集中力が必要だ。それも並列思考的なやつが。
 そのため今はまだ、いざという時以外は使わない事にしている。だから相変わらず松明たいまつを使っている。

 暫く進んで行くと、まだ中間地点には程遠いはずなのに日の光が見えてきた。
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