天使の住まう都から

星ノ雫

文字の大きさ
上 下
4 / 114
一章

004 木級冒険者

しおりを挟む
「お待たせしました。こちらがケイタさんの冒険者証ギルドカードとなります。――まず、ケイタさんは階級が一番下の木級冒険者からのスタートとなります。下から順に、木、黒曜、鉄、銅、銀、金、白金プラチナとなっております。昇級の条件は依頼達成の貢献度を軸とし、素行、賞罰などを加味した上でこちらで決めさせていただいております。貢献度がある基準以上を満たしたら、ギルドから昇級審査のご案内をさせていただきます。ただ、鉄から銅への昇級には必ず読み書き可能というのが必須条件となります。……ですので、ケイタさんはその分有利となりますね」

 受付のお姉さんは冒険者の階級について説明してくれた後、カードを渡してくれた。木級だけあって木の板だった。
 いかにも最低ランクっぽい感じ。でもなんか嬉しいよね。こういう免許証や資格を手に入れた時って。
 あと、女神様本当にありがとうございます! この年で読み書き覚えるなんて地獄でしかないから助かりました!

冒険者証ギルドカードは身分証の代わりにもなりますので、無くさないように気を付けてくださいね。再発行には銀貨1枚の手数料を頂きます」

 小銀貨じゃなくて銀貨! 手数料高いなあ。無くさないように気を付けないと。

「それでは次に、冒険者の活動内容ですが、基本あちらの掲示板に貼られる依頼をこなしていただきます。依頼は階級により分かれておりますが、推奨人数も書かれている場合がありますのでご注意ください。――掲示板横に座っているのは職員見習いのサリーです。彼女は依頼を読むことができない冒険者のためにあそこで待機しておりますが、他にも質問すれば分かる範囲で答えてくれますので、ご活用ください」

「わかりました。――さっき、早速助けてもらいましたよ」

 あの子、サリーちゃんて言うのか。
 お姉さんは首肯しゅこうし、説明を続けてくれる。

「もう一つ、どちらかというとこの都で冒険者として活動される方はこちらがメインとなってしまう感じですが、ダンジョンに潜って様々な素材や宝箱などから手に入れるアイテムをギルドに卸す事で、ギルドに貢献していただいております。素材はほぼ全て常設依頼として受け付けておりますのでよろしくお願い致します」

 宝箱! 実際には誰が置いてんだよって深く考えちゃいけない謎ギミックなのにゲームじゃ当たり前にあって一番ドキドキわくわくな、あの宝箱!

「また、素材の買取受付なのですが、こちらのギルド内でも可能なのですがダンジョンから手に入れた場合、殆どの方はダンジョン出てすぐの所にある支店の方に卸して頂いておりますね。建物はここよりも大きいのですぐにわかりますよ」

 ああ、だからここは人が少なかったのか。納得。

「わかりました。後で俺も支店の方へ足を運んでみますね」

 しかし、受付のお姉さんは俺の言葉に難色を示してしまう。

「とは言え、ケイタさんに記入していただいた用紙を確認しますと、武器を扱う技能が全く無いので、いきなりダンジョンへの入場は許可できません。――というかケイタさん武器もお持ちでないですよね?」

「え、あ、はい……」

「習得技能に徒手格闘技と書かれてましたが、正直なところダンジョンではオーガなど戦闘能力の高い種族の方以外は、何かしらの武器が扱えないと生き残れません。――と言いますか、彼らも普通に武器を持って戦ってます」

 武器か……。俺、今は手桶しか持ってないからなあ。まずは装備を整えなきゃいけないな。

「実はどこで情報を入手してくるのか知りませんが、支店の方に直接行き冒険者登録時に虚偽の内容を書かれて、いきなりダンジョンへ入っていく新人の方が多いのです。――まぁ、そういった方々はほぼ数日以内にダンジョンの肥やしとなってしまいますけどね」

 うへぇ、なんか怖い事言ったぞ。
 あっ、町に入る時に冒険者志望の奴がかなりいたのに、この本店で殆ど見かけない理由が分かった気がする。
 みんな向こう見ずだなあ……。

「えっと、では私はどうしたらよいのでしょう?」

「もちろん、まずはあちらの掲示板で等級に見合った依頼をこなして慣れていってもらいます。街の外ではどんな依頼にも危険は付きまといますので、できたら早めにケイタさんには武器による戦闘技術を磨いていって欲しいですね」

「武器による戦闘技術ですか……。そういった技術が学べる道場のような場所ってあるんです?」

「はい、勿論ありますよ。武器の扱いに関してはギルドお勧めがいくつかありますし、魔法に関してはあちらのカレンダーに講習日が書かれていますので、ぜひご参加ください」

 ふむ、武器の扱いを教えてもらえる場がある事は分かった。だけど、武器って言われても色々あるよな……。

「うーん……、まずどんな得物を使うかも決めなきゃいけないのか」

「そうですねえ……、未経験から始めるのでしたら剣か短槍か弓ですかねえ。弓は矢の都合があり、お金が結構かかってしまいますが」

 俺、銃剣道なら教育隊でちょろっとだけやった事があるから短槍がいいかも。
 でも折角、剣と魔法のファンタジーな世界に来たんだし、やっぱ剣も使えるようになりたいなあ。
 くそう、こんな事なら剣道でも習っておけばよかったなあ。

「なら、とりあえず剣か短槍の扱いを習いたいですね」

「剣や短槍でしたら毎日この本店裏にある訓練施設でも担当職員が指導してますよ。受付で受講料を払えばいつでも参加できます。また、見学でしたら無料ですので、良かったら帰りに覗いてみてはどうですか?」

 おっ、ギルドでも講習を行っているのか。
 折角だし見学して行こうかな。どの武器を選ぶのが良いのか分かるかもしれないし。

「分かりました。――そうですね、後で覗いてみようかな」

「それが良いと思います。では、ざっとでしたが説明はこの位でよろしいですかね? また何かあればいつでも質問してください。――それでは、ケイタさんの冒険者としてのご活躍を期待しております」

「ありがとうございました」

 席を立とうとしたのだが、横に置いていた手桶を見て大事な事を思い出す。

「あっとそうでした! こちらのギルドでお勧めの宿とかってあります? ――できたら家庭菜園させてもらえる所がよいのですが……」

「家庭菜園ですか? うーん……ちょっとそういった要望を叶えられる宿はどこにも無いと思いますよ。薬草栽培とかされるパーティは庭付きの借家を借りていると聞きますが」

 あれ? 女神様に言われたから、この世界ならそんな宿が普通にあるんだろうなって思ってたんだが……、まさか無いのか?

「……因みに、どういった植物を育てたいんですか?」

「実は故郷から持ってきた芋なんです。人参芋にんじんいもと言って、焼き芋にすると、とても甘くて美味しいんですよ」

 手桶をひょいと持ち上げ、受付のお姉さんに見せてあげる。

甘芋あまいもですか! へ、へぇ~、ほ~、ふーん……そ、そうですね……」

 受付のお姉さんは顎に手を当て、何やら考え始めた。
 おっ、ひょっとして当てがある?

「……宿とは違い下宿という形になりますが、上手くいけば育てる場所を貸してもらえるかもしれませんよ?」

「本当ですか!」

「そこの大家さんは薬師の方なんですけど、優先的に薬草を卸してくれたり、たまに薬草畑の作業を手伝ってくれる冒険者の方なら格安で下宿させても良いと仰ってるのです。なので交渉次第では薬草畑の隅にお芋を植えさせていただけるかもしれませんよ?」

 おおおっ! やった! なんという幸運!

「ぜひ紹介していただきたいです!」

「わかりました。とりあえず紹介状を準備致しますので、それを持って訪ねてみてください。ただし、紹介状を持って行っても必ず下宿させてもらえるとは限りませんので、その事は先に言っておきますよ。要はケイタさんの交渉次第という事です。――頑張ってくださいね」

 そう言うとお姉さんは紹介状の準備をしに、奥の方へ行ってしまった。



「ではこちらの紹介状と簡単な案内地図をお渡しします。申し遅れましたが、私は当ギルドの受付を担当しておりますミリアと申します。ギルド職員のミリアからの紹介で来たと言ってください」

「わかりました。ありがとうございます!」

 訓練施設の見学はまた今度にして、俺は早速手書きの案内に従い、下宿先の家を訪ねてみる事にした。
 まずは生活拠点を確保しないとね。

 ミリアさんの書いてくれた案内を頼りに向かった先は、冒険者ギルド本店のある繁華街からはそれほど離れていなかったが、とても閑静な場所に在った。
 そのお宅はお店兼工房アトリエのようで、庭先には薬草と思われる草花が整然と植えられている。家に隣接して小さいながらも温室まである。

 外見は何と言うか、すっごいメルヘンチックなお家だった。思わず見入ってしまう……。
 こんな場所で生活できるなら、それだけでこの世界へ来てよかったと思えてしまうだろう。……うん、間違いなく。

 ――どうか下宿させてもらえますように……。

 祈りながら、俺はお店側の入り口の扉に手を掛けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結]異世界転生したら幼女になったが 速攻で村を追い出された件について ~そしていずれ最強になる幼女~

k33
ファンタジー
初めての小説です..! ある日 主人公 マサヤがトラックに引かれ幼女で異世界転生するのだが その先には 転生者は嫌われていると知る そして別の転生者と出会い この世界はゲームの世界と知る そして、そこから 魔法専門学校に入り Aまで目指すが 果たして上がれるのか!? そして 魔王城には立ち寄った者は一人もいないと別の転生者は言うが 果たして マサヤは 魔王城に入り 魔王を倒し無事に日本に帰れるのか!?

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

異世界転移ボーナス『EXPが1になる』で楽々レベルアップ!~フィールドダンジョン生成スキルで冒険もスローライフも謳歌しようと思います~

夢・風魔
ファンタジー
大学へと登校中に事故に巻き込まれて溺死したタクミは輪廻転生を司る神より「EXPが1になる」という、ハズレボーナスを貰って異世界に転移した。 が、このボーナス。実は「獲得経験値が1になる」のと同時に、「次のLVupに必要な経験値も1になる」という代物だった。 それを知ったタクミは激弱モンスターでレベルを上げ、あっさりダンジョンを突破。地上に出たが、そこは小さな小さな小島だった。 漂流していた美少女魔族のルーシェを救出し、彼女を連れてダンジョン攻略に乗り出す。そしてボスモンスターを倒して得たのは「フィールドダンジョン生成」スキルだった。 生成ダンジョンでスローライフ。既存ダンジョンで異世界冒険。 タクミが第二の人生を謳歌する、そんな物語。 *カクヨム先行公開

クラス召喚に巻き込まれてしまいました…… ~隣のクラスがクラス召喚されたけど俺は別のクラスなのでお呼びじゃないみたいです~

はなとすず
ファンタジー
俺は佐藤 響(さとう ひびき)だ。今年、高校一年になって高校生活を楽しんでいる。 俺が通う高校はクラスが4クラスある。俺はその中で2組だ。高校には仲のいい友達もいないしもしかしたらこのままボッチかもしれない……コミュニケーション能力ゼロだからな。 ある日の昼休み……高校で事は起こった。 俺はたまたま、隣のクラス…1組に行くと突然教室の床に白く光る模様が現れ、その場にいた1組の生徒とたまたま教室にいた俺は異世界に召喚されてしまった。 しかも、召喚した人のは1組だけで違うクラスの俺はお呼びじゃないらしい。だから俺は、一人で異世界を旅することにした。 ……この物語は一人旅を楽しむ俺の物語……のはずなんだけどなぁ……色々、トラブルに巻き込まれながら俺は異世界生活を謳歌します!

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

処理中です...