Infinity 

螺良 羅辣羅

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第二部 wildflower

第五十二話

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 若田城を発って二日目。礼と耳丸は順調に帰り道を進んでいた。
 往路での山犬に襲われたことが、礼にはもちろん耳丸にとっても恐怖の出来事であったので、夜は家を見つけては頼み込んでその中や軒先で休ませてもらった。山犬に出くわさないように注意をした。
 旅はたまに通り雨に降られるくらいで、都に帰る妨げになるようなことは起こらなかった。
 街道ですれ違うのは、大きな押し車を押し歩いている大勢の男たちと、馬に乗った荷主だった。都に向かって現地の特産物を持って行き、帰りには都にしかないものを車の荷台に乗せて持って帰っているのだ。そんな姿を何回も見送った。
 そして、大王軍の証である揃いの紅の緒を結んだ鎧を着こんだ兵士が三列に並んで進行していく姿も見た。若見が言っていたように、都やその他の土地から夷討伐のために、多くの兵士が送り込まれているということだろう。
 街道の往来では、女と見ると囃し立てたり、腕をとって脇道に引っ張ったりと、粗暴な兵士たちの姿が見られた。そんな輩に絡まれないようにと、耳丸は礼を前に出して立ち止まることなく進ませた。
 礼は多くの兵士が列を成して、黙々と北の地を目指している姿を馬上から振り返った。どうか、大王軍に勝利をと、願う。そして、どうか実言を助けて、と祈った。
 往路では十五日かかったところを、帰路では十二日で戻って来られた。
 往来の人たちの言葉は、耳慣れたものであり都が近くなっていると感じられた。この旅をやり終えられる予感がした。そうすると余裕が出てきた。できるだけ村を見つけてはその軒を借りて休むようにしているが、その家に病人がいれば礼は時間を取って診てやった。お産を終えて間もない母親が寝込んでいると聞くと、礼は訪ねて行き、体の具合を診た。夫の妹に抱かれている赤子も同じように具合を診るのだが、その視線は玉のように光り輝く宝を見つめるようにうっとりとしている。無垢で自由な表情をじっと見つめて、優しく微笑んでいる。実言の命を救ったら、次は束蕗原に残してきた双子へと思いが募ってきたのだろう。身代わりのようにその子供を抱いて、永遠の時間を楽しむかのようだ。耳丸が帰ることを促さないと、いつまでも抱いたまま放そうとしなかった。
 耳丸はこんな礼の姿を見ていると、一にも二にも早く束蕗原に舞い戻ることを考える。来た道と同じように、岩城家の領地のある佐田江の庄へと向かい、そこから都へと帰る道を通るか、それとも、佐田江の庄は通らず、泡地関を通って都に入るか悩んでいた。
 泡地関は、近淡の湖の南に位置する関所である。佐田江の庄は近淡の湖の北を通る道である。泡地関を通ると二日程度早く都に帰れるはずだ。
 佐田江の庄へ寄っていれば、居心地のいい屋敷で少し長居をしそうだった。礼のためにも泡地関を通ったほうがいいかと思った。
「礼。この先の道なんだが、少し近道になる泡地関を通ろうと思っているのだ。佐田江の庄には寄らない道なのだが」
 耳丸は、ここが佐田江の庄と泡地関へ向かう道を別ける手前での久しぶりの野宿で、焚き火の火を見ながら礼に言った。
「少しでも早く束蕗原に戻れたほうがいいだろう」
 礼は少し間をおいて、黙って頷いた。
「では、もう休もうか」
 木の根元に礼を寝かせて、耳丸は焚き火を挟んで反対側に横たわった。
 都まで、あと十日も経たないうちにこの旅は終わる。それは、大きな責任をやっと下ろせる喜びであるのに、物悲しさを感じる。それがなぜなのか、考えているとなかなか寝付けなかった。
 泡地関は険しい関所である。深い谷を通って、坂を登る。そのため、日数はかかるが道は平坦で周りに村の多い、佐田江の庄の道が好まれるのである。
 翌日から、耳丸たちは泡地関へ向かった。
 馬上で進んだり、馬を降りて歩いたりと、降りたり登ったりする道に苦戦しながら前へと進んだ。思いの外、上り坂のきつさにヘトヘトになった。
 関の手前に、二、三の農家が寄り集まった集落があったがそこを通り過ぎて先を急いだ。夜になったので野宿した。耳丸は川沿いを進んで、岩穴のある場所を見つけた。本当に、耳丸はこういった場所を見つけるのが得意だ。岩穴の中に、荷物を運び込んで、すぐに横になって眠った。
 翌日は目覚めの良い朝で、近くの川で身支度を済ませ、馬に水を飲ませた。火を起こして炊いた飯と山の中で見つけた生り物を食べた。
 もう少しで、泡地関である。関所を越えれば、もう都に着いたと言っていいほどである。
 礼と耳丸はゆっくりと岩穴の前を離れ、泡地関の道へと戻っていく。
 くるぶしに掛かるほどの丈に茂った草むらの中を馬を引いて横断しているときだった。
 礼は予感がする。それは、悪いものだ。あの時と似ている。自分が左目に矢を受けたとき、右肩に矢を受けたとき、両方に感じたものだ。
 やって来る。やって来る。
 何が?誰が?
「礼?」
 先を歩いていた耳丸が後ろを振り返った。礼が立ち止まっているのを心配してみている。
 礼は、悪い予感についてどういったらいいものか一瞬躊躇した。
 その時!
 いきなり、耳丸の馬が嘶き、前足を上げて立ち上がった。勢いよく足が上がりすぎて、背中から倒れてしまった。耳丸はつられて倒れそうになったので手綱を放した。何にそれほど驚いたのかと、混乱した。次に礼が悲鳴をあげた。
「耳丸!後ろ!」
 耳丸はすぐに振り返ったが自分の真上に太刀が振り下ろされるのに気づくのが遅れて、ギリギリの所でかわしたが、背中を薄く切られた。上着に縦の赤い筋が滲んだ。
 耳丸はすぐさま手に持っていた荷物を放り投げて、腰に下げている太刀を鞘から抜いた。
 礼は、自分の馬がつられて騒ぐのを持っている手綱を緩めたり引っ張ったりして必死に抑えた。
 耳丸と黒い影は縺れたり重なり合ったりした。剣を合わせて力一杯ぶつかりあったらすぐに離れて、間合いをとって睨み合った。
 礼は離れた所からその姿を見ていた。
 黒い影は野盗だとわかった。髪は伸び放題の蓬髪で、頬は髭に覆われ、肌は日に焼けて汚れにまみれていて、着ているものは古びてぼろぼろに裂けて真っ黒なのだ。やたらと目の周りと、持っている抜き身が白くギラギラと光っている。
 礼は二人に近寄ることもできず、ついたり離れたりしているのをオロオロしながら見守った。
 耳丸と野盗は剣を合わせるだけでなく、足を出して転がしたり、力で押し倒したりと激しく動き回っている。礼は少し離れた所に生えている背の低い木に手綱をくくりつけて、また耳丸の元に戻っていった。
 二人は激しく斬り結びながら、右へ行ったかと思ったら今度は左へ行き、お互い押し引きして体の位置が交互に入れ替わっている。礼が加勢したくても、動きが早くて入って行けない。
 二人の命の取り合いの戦いは、激しく、荒い息遣いが静寂の中に響くのだった。
 野盗の伸ばした足に、耳丸の足はすくわれ、それを立て直すのに耳丸が踏ん張っていると隙ができて、野盗の太刀が振り下ろされた。耳丸も自分がやられるのを待っているわけにはいかない。太刀を避けるために体を精一杯低く逃がしながら、太刀を相手へ振り上げた。
「耳丸っ!」
 再び礼の悲鳴が響いた。
 耳丸は左肩から袈裟懸けに切られて、後ろに倒れこんだ。耳丸が出した太刀も野盗の腰から足にかけて捉え、切りつけたのだった。
 二人は次々にその場に倒れこんだ。しばらくしても耳丸は起き上がってくることはなく、反対に野盗はうつ伏せに倒れた体を、ゆっくりと四つん這いになって起こし始めた。礼は、薬箱に隠し持っていた短剣を持ち出し、鞘を払うと、抜き身を両手で持った。
「わあぁっ」
 短剣を腹に据えて、真正面から野盗に向かって走って行った。礼が突き出した短剣を野盗は手で押さえて、礼の左頬を思いっきり平手で張った。礼の体は宙を舞うように飛び上がり、そして、落下した。
 膝をついていた野盗は立ち上がった。耳丸の太刀は野盗の太ももを切っていて、傷口は大きく口を開けて、どす黒い血を流している。立ち上がっても体を支えることができず、ふらふらとしている。
 痛がっている場合ではない。礼はすぐさま起き上がると、もう一度短剣を握りなおして低い姿勢をとると、渾身の力を込めて野盗の腹に自分の体の重さを乗せてぶつかった。野盗はそのまま礼に押されて後ろに倒れこんだ。礼の短剣は野盗の腹に刺さっている。礼は迷わず天を向いている短刀の柄を両手で持って、下へと押し込む。野盗も手を伸ばして礼の喉に指をかけた。強い力が礼の首を絞めてきた。顔が赤らみ、息苦しさが増してくる。 
 それでも、礼は逃げるわけにはいかない。礼も力一杯柄を握りしめ、野盗の体の中に短剣を沈めていく。どちらが先に終わるか、我慢比べだ。絶対に先には終わらない、と礼は思う。
 耳丸は、体を起こすことはできないが、体をよじって、首を動かし礼の方を見た。
 礼の体が宙に舞って、落ちて、それでもすぐさま立ち上がると、野盗にぶつかって行った。
 何をしているんだろう。野盗に向かっている場合ではない。礼は逃げなくてはいけないのに。逃げ延びて都に帰らなくてはいけない。野盗と取っ組み合っても勝てるわけがないのに。
 耳丸は必至に礼の様子を見ようと首を伸ばすと、野盗の手が礼の首を掴んでいるが見えた。礼は振りほどく素振りを見せることなく、反対に自分から野盗に覆いかぶさって、最後にはその体を野盗の上に倒して行った。とうとう礼は息の根を止められてしまったのか。耳丸は全く自由にならない体をどうにか礼の方へ向かわせようと、足を動かした。
 もうダメだ……
 と、礼は思った。相手も命がけで喉を絞めてくる。気が遠くなった。しかし、礼も全身全霊で野盗を倒そうと、短剣を押し込んだ。
「……ッハ!」
 礼は、急に喉が自由になって、身体が新鮮な空気を入れようと、上を向いて口を開けた。
 礼が短剣の刃を全て野盗の体の中に入れた時、野盗の指が礼の首から離れ、腕はだらりと落ちた。
 礼はすぐさま、座ったまま後ろへ後ずさった。野盗の目に生気はなく、空の景色を映していた。両手は野盗の体から噴き出した血で濡れている。人を殺したのだと、意識した。倒すとはそういうことだとわかっているはずなのだが。人の命を救うことが仕事と思っていたのに……。礼はしばし放心したが、我に返って、血濡れた手を草で拭って、立ち上がると耳丸の元に走った。
「耳丸!」
 礼が自分に近づいてくるのを見て耳丸は安心した。そして、全身の力が抜けて、自分の身体ではなくなる感じがした。全身が動かなくなる前にと、右手で懐を探った。
 礼は耳丸の右の傍に跪くと、飾り帯を解いて、上着を脱いだ。脱いだ上着を持って、耳丸の左側に移動し、傷口に当てた。
「……れ……れ、い」
 耳丸の傷口も野盗と同じように血が溢れ出ていて、みるみるうちに礼の上着を赤く染めていく。
「耳丸、動かないで」
 礼の声は悲鳴になった。
「……これ、……これを」
「しゃべらないで。血を止めなくてはいけないの」
 耳丸は、自分が左肩から下に切られたことはわかっている。相当深いはずだ。体の自由はきかなくなったし、もう気が遠くなりかけている。自分はここまでだろう。それを、悟った。
「行け。……これを持って、行け」
 耳丸は懐から小さな筒を出そうと思っても手が震えてうまく指先に捉えられない。懐から転がるように出てきた筒を、なんとか指で押さえて、礼に取れと目で言う。
「関所、見せろ。……通れる」
 耳丸は若田城で高峰に依頼して用意してもらった関所の通行証を礼に持たせないと、と必死だ。礼は、耳丸の指と一緒にその筒を握り、手を離す時にその筒だけ受け取った。傷口を押さえて、礼は祈るばかりだ。どうか、どうか血よ、止まってくれ、と。
「……れい、行け。……一人に、してしまうが、どうか……無事に都へ……」
 途切れ途切れに耳丸は言葉を発する。
「ダメだ。耳丸、あなたを置いて行けるわけないじゃないか。黙って!」
 礼は、力一杯に傷口を押さえて、これ以上耳丸の体から血を出て行かせないようにと格闘している。
「……早く、都へ。……子供に」
「黙るんだ、耳丸!この旅は私が言い出したことよ。あなたを無理やり引き連れて始めてしまった。それを私だけが帰るなんてできるわけない。一緒に行ってくれた。帰るのも一緒だ。だから、黙って、じっとして!」
 耳丸は、もうこれ以上は言うまいと思ったが、それは自分の意思ではない。
 もう、口が動かないのだ。
 勇ましい礼の姿が脳裏に浮かぶ。山犬に襲われた時に、木の上から飛び降りて耳丸を助けたことや、実言の恐ろしい傷口に怯むことなく向かい治したこと。そして、今しがたの耳丸を守るために野盗と刺し違える覚悟で、短剣を握って向かって行き、そして倒した。
 だけど、都随一の貴族の一員の女人が、こんな山奥で野盗に襲われ、野盗といえども人を殺した。なんて、過酷なことをさせてしまったのだろうか。これも、自分が泡地関を通ろうと考えたためだ。
 耳丸は後悔しながら、目を閉じる。閉じてはだめだ、と必死に抵抗するが無駄なことだ。
 礼に向かって、一人で行け、というのはそれもまた過酷なことだ。しかし、きっと礼はその柔軟さと才覚で都にたどり着けるはずと信じる。
 どうか、どうか無事に都へたどり着いて欲しい。最後まで……一緒に……。
 さっき見た時には、空は青かった。雲ひとつなかったのに、なぜか雨が降り始めたな、と耳丸は思った。
「耳丸!」
 礼が自分の名を呼んでいる。悲痛な叫びだ。
 礼は、耳丸を覗き込んで、必死に名前を呼んだ。勝手に涙が溢れてきて、目の淵から真っ直ぐに、耳丸の顔に落ちる。
 耳丸は、抗うことができず、かろうじて開けていた目を閉じた。
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