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第六章
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去の館に避難してきた者たちは皆、雨に打たれることなど気にすることなく、本道を遡ってくる水が迫って来る前に立ち止まって、声もなく目の前の水の流れを見つめている。
昨日まで目の前に見えていた光景は、もう記憶の中にしかないのだ、と黒い水を前にして思うのだった。
そして、この丘まで逃げてこられた住人はいいが、ここにいない住人たちはどうなったのだろうか。皆、別の安全な場所に逃げられたのだろうか。不安と現実を直視しなくてはいけなかった。
陽が沈む頃、弱まっていた雨は完全に止んだ。黒い雲は北の空に流れて行き、夜空には星が見えた。
本道には陽が沈んでも佇んだままの者がいる。去の館から従者が下りてきて館に帰るよう話をした。
夫が……
息子が……
向こうにいるのだ、と声を絞って言う。
男たちは去の館に妻子や親を先に避難させたり、または優先して先に歩かせて途中ではぐれたりしたのだろう。丘の下に取り残された者たちを思いながら、こぼれ落ちる涙を拭って、丘の上に帰って行った。
その一報を聞いた時は気を失ってしまった去だったが、目を覚ましてからは気丈に振る舞って、逃げて来た住人達の様子を見に行ったり、怪我人の手当の指揮をとった。
住人達を世話する弟子や見習いの女人、侍女や従者たちを労いに回って、座ろうとしないので、側近の侍女たちは心配して、去に言った。
「去様、少しはお休みください。それに、何か召し上がってください。朝餉も食べておられません」
去は首を横に振って拒否を示したが思いと止まったようで。
「すまないね……。部屋に戻って、少し休むとしよう」
と言って、部屋に戻った。
しかし、侍女が引いた褥の上に座りはしたが、横になることはない。
「あの子はどうしているだろう。水から上がっただろうか。まだ水の中にいるなら、きっと寒い思いをしている……それに一睡もできないだろうに……」
と声を詰まらせた。
あの子とはもちろん蓮のことだ。
去は孫同然の蓮がいなくなったことに緊張の糸が緩むと憔悴した姿を見せた。
「去様、温かいものを召し上がってください」
侍女から渡された少量のお粥が入った椀から伝わる温かさに、涙が込み上げた。
「ああ、蓮……。早く私の前に出てきておくれ。お前を失うなんて耐えられないよ」
痩せた去が肩を落としてむせび泣く姿を周りの者たちも見ていられなかった。
去は自ら匙で粥を掬って三口ほど口の中に入れて喉を通した。
椀を返してからほどなくして、去は目を瞑ったので侍女が体を支えて横たわらせ、束の間眠らせた。
館の食堂、渡り廊下など寝ていた者が夜明けとともに起きだした。
東の山の稜線が赤くなり、空との境が見え始めたころ、再び本道を下った。去の館の男たちが道を塞ぐ水の前で篝火を焚いて寝ずの番をしていたのだが、その焚火よりもずっと下の方まで水位が下がっている。
白々とあたりが明るくなっていく中、皆、手を取り合って、目の前の水に浸かった村を見つめた。目に見えて水が引いているのがわかった。
「この調子だと昼には大方の水は引くのではないか?」
「そうなってほしい」
願う思いを口にした。
「朝餉の用意ができたそうだ!一旦館に戻ろう!」
そう声が掛かって、皆、自ら坂を上って行った。
朝餉を食べ終わったらやることがたくさんある。ここに立ち止まっていてはいけない。皆、するべきことをするためには、動ける体を用意することが必要とわかっているのだ。
館では食堂や渡り廊下で粥や握った搗き米が配られた。皆、雨が止み、水が引いていることを知って、家の様子を見に帰られると安堵して、食欲も出て来た。そこへ、おーい、と坂の方から声がして、去の館の庭に村人が十人ほど現れた。それは、昨日からこの館にいる者たちではない。疲労の濃い顔ではあるが、温かい食べ物や着替え、安心して休める場所に辿り着いた安堵の表情をした新たに去の館に辿り着いた村人たちだった。
「無事だったのね」
「ここに来られたのだな。よかった。よかった」
見知った顔を見つけた者たちは駆け寄ってお互いの無事を喜び合った。
大人の男の膝くらいまで水が引いたことによって、木の上や屋根の上に逃げて、一晩を過ごした者たちが歩いて去の館まで来たのだ。
食堂は今さっき館に辿り着いた者たちと、今から家に帰る者たちで入れ替わっていき、用意した朝餉がうまく行きわたった。
夜が明けて去の館に来た者たちの話を聞くと、阿万川に近い家は皆、跡形もなく流されているらしい。川から離れている家は水に浸かったが家が倒れるのは免れた。家の中に水が入って来たため、子供や年寄りを屋根に上げて、男たちは柱を支えて夜を越したという話もあった。
避難していた者たちは子供や年寄りを館に置いて坂道を下り、水の中へと入って行った。
去は長年の習性で、夜明けとともに目覚めた。
傍についていた侍女はすぐに去の目覚めに気づいた。去は寝たまま侍女を見て言った。
「蓮は見つかったかい?」
侍女が首を横に振ると、控えめにため息をついて目を瞑ったが、しばらくして目を開けると言った。
「蓮の捜索隊を出しておくれ」
午刻(正午ごろ)が過ぎた頃、去を訪ねて人が来た。
この館をよく訪ねて来ている人だが、去は今、ここに来ていることに驚き、その行動に感謝した。
雨あがりの空は雲一つない快晴になった。
暑い……
蓮は瞼を開けようとしたが、あまりの眩しさに目を閉じたままでいた。
しかし、それは眩しいだけではなく、目を開けて見えた現実を受け入れたくないという気持ちがあったからだ。
私はまだ樹に掴まっているかしら……?私の体は無事なのかしら……?痛いところはないけれど、それは、痛みを感じない世界に行ってしまったから……。
蓮はそんなことが頭をよぎったが、すぐに意識を手放した。
再び意識を取り戻した時は、強烈に喉の渇きを感じた。そしてめまいがする。
蓮は自分が生きているのだと感じた。
水が上がっていた時に足を置いていた枝に、今は尻を着けてまだがった状態だ。体が流されて行かないように幹に回した両手は右手で左手の手首を掴んだままでいた。
何とか体は流されなかったのね……。
うっすらと目を開けると近くに水は見えない。ゆっくりと視線を落とすと、根本近くまで水は引いているのが見えた。
村はどうなっただろうか……。丘の上に避難できなかった人たちは無事かしら。避難できなかった住人達をみんなが探しに来るはず。そして、私のことも誰かが探してくれているはずよ。耐えるのよ、私。
めまいがひどくて、動けない。
蓮は目を瞑り、幹にしがみついて耐えた。
じっとしていた蓮が顔を上げたて耳を澄ました。
声が聞こえる……。
逃げ遅れた人達を探しているのかしら……。この樹の高さはどれくらいかしら……。私の姿は下から見えるかしら……。声を出したいけど出ない……。
「……れん…………れん……」
私の名前?誰か私の名前を呼んでいる……
蓮の耳に遠くで蓮と呼んでいる人の声が聞こえた。
館の人たちが私を探しているのね。
去様!みんな!私は、私はここにいます!
そう叫びたかったが、声は出ない。
「わ……わ……わたし……」
蓮は一生懸命声を出そうとした。自分がいる場所を教えるために。
昨日まで目の前に見えていた光景は、もう記憶の中にしかないのだ、と黒い水を前にして思うのだった。
そして、この丘まで逃げてこられた住人はいいが、ここにいない住人たちはどうなったのだろうか。皆、別の安全な場所に逃げられたのだろうか。不安と現実を直視しなくてはいけなかった。
陽が沈む頃、弱まっていた雨は完全に止んだ。黒い雲は北の空に流れて行き、夜空には星が見えた。
本道には陽が沈んでも佇んだままの者がいる。去の館から従者が下りてきて館に帰るよう話をした。
夫が……
息子が……
向こうにいるのだ、と声を絞って言う。
男たちは去の館に妻子や親を先に避難させたり、または優先して先に歩かせて途中ではぐれたりしたのだろう。丘の下に取り残された者たちを思いながら、こぼれ落ちる涙を拭って、丘の上に帰って行った。
その一報を聞いた時は気を失ってしまった去だったが、目を覚ましてからは気丈に振る舞って、逃げて来た住人達の様子を見に行ったり、怪我人の手当の指揮をとった。
住人達を世話する弟子や見習いの女人、侍女や従者たちを労いに回って、座ろうとしないので、側近の侍女たちは心配して、去に言った。
「去様、少しはお休みください。それに、何か召し上がってください。朝餉も食べておられません」
去は首を横に振って拒否を示したが思いと止まったようで。
「すまないね……。部屋に戻って、少し休むとしよう」
と言って、部屋に戻った。
しかし、侍女が引いた褥の上に座りはしたが、横になることはない。
「あの子はどうしているだろう。水から上がっただろうか。まだ水の中にいるなら、きっと寒い思いをしている……それに一睡もできないだろうに……」
と声を詰まらせた。
あの子とはもちろん蓮のことだ。
去は孫同然の蓮がいなくなったことに緊張の糸が緩むと憔悴した姿を見せた。
「去様、温かいものを召し上がってください」
侍女から渡された少量のお粥が入った椀から伝わる温かさに、涙が込み上げた。
「ああ、蓮……。早く私の前に出てきておくれ。お前を失うなんて耐えられないよ」
痩せた去が肩を落としてむせび泣く姿を周りの者たちも見ていられなかった。
去は自ら匙で粥を掬って三口ほど口の中に入れて喉を通した。
椀を返してからほどなくして、去は目を瞑ったので侍女が体を支えて横たわらせ、束の間眠らせた。
館の食堂、渡り廊下など寝ていた者が夜明けとともに起きだした。
東の山の稜線が赤くなり、空との境が見え始めたころ、再び本道を下った。去の館の男たちが道を塞ぐ水の前で篝火を焚いて寝ずの番をしていたのだが、その焚火よりもずっと下の方まで水位が下がっている。
白々とあたりが明るくなっていく中、皆、手を取り合って、目の前の水に浸かった村を見つめた。目に見えて水が引いているのがわかった。
「この調子だと昼には大方の水は引くのではないか?」
「そうなってほしい」
願う思いを口にした。
「朝餉の用意ができたそうだ!一旦館に戻ろう!」
そう声が掛かって、皆、自ら坂を上って行った。
朝餉を食べ終わったらやることがたくさんある。ここに立ち止まっていてはいけない。皆、するべきことをするためには、動ける体を用意することが必要とわかっているのだ。
館では食堂や渡り廊下で粥や握った搗き米が配られた。皆、雨が止み、水が引いていることを知って、家の様子を見に帰られると安堵して、食欲も出て来た。そこへ、おーい、と坂の方から声がして、去の館の庭に村人が十人ほど現れた。それは、昨日からこの館にいる者たちではない。疲労の濃い顔ではあるが、温かい食べ物や着替え、安心して休める場所に辿り着いた安堵の表情をした新たに去の館に辿り着いた村人たちだった。
「無事だったのね」
「ここに来られたのだな。よかった。よかった」
見知った顔を見つけた者たちは駆け寄ってお互いの無事を喜び合った。
大人の男の膝くらいまで水が引いたことによって、木の上や屋根の上に逃げて、一晩を過ごした者たちが歩いて去の館まで来たのだ。
食堂は今さっき館に辿り着いた者たちと、今から家に帰る者たちで入れ替わっていき、用意した朝餉がうまく行きわたった。
夜が明けて去の館に来た者たちの話を聞くと、阿万川に近い家は皆、跡形もなく流されているらしい。川から離れている家は水に浸かったが家が倒れるのは免れた。家の中に水が入って来たため、子供や年寄りを屋根に上げて、男たちは柱を支えて夜を越したという話もあった。
避難していた者たちは子供や年寄りを館に置いて坂道を下り、水の中へと入って行った。
去は長年の習性で、夜明けとともに目覚めた。
傍についていた侍女はすぐに去の目覚めに気づいた。去は寝たまま侍女を見て言った。
「蓮は見つかったかい?」
侍女が首を横に振ると、控えめにため息をついて目を瞑ったが、しばらくして目を開けると言った。
「蓮の捜索隊を出しておくれ」
午刻(正午ごろ)が過ぎた頃、去を訪ねて人が来た。
この館をよく訪ねて来ている人だが、去は今、ここに来ていることに驚き、その行動に感謝した。
雨あがりの空は雲一つない快晴になった。
暑い……
蓮は瞼を開けようとしたが、あまりの眩しさに目を閉じたままでいた。
しかし、それは眩しいだけではなく、目を開けて見えた現実を受け入れたくないという気持ちがあったからだ。
私はまだ樹に掴まっているかしら……?私の体は無事なのかしら……?痛いところはないけれど、それは、痛みを感じない世界に行ってしまったから……。
蓮はそんなことが頭をよぎったが、すぐに意識を手放した。
再び意識を取り戻した時は、強烈に喉の渇きを感じた。そしてめまいがする。
蓮は自分が生きているのだと感じた。
水が上がっていた時に足を置いていた枝に、今は尻を着けてまだがった状態だ。体が流されて行かないように幹に回した両手は右手で左手の手首を掴んだままでいた。
何とか体は流されなかったのね……。
うっすらと目を開けると近くに水は見えない。ゆっくりと視線を落とすと、根本近くまで水は引いているのが見えた。
村はどうなっただろうか……。丘の上に避難できなかった人たちは無事かしら。避難できなかった住人達をみんなが探しに来るはず。そして、私のことも誰かが探してくれているはずよ。耐えるのよ、私。
めまいがひどくて、動けない。
蓮は目を瞑り、幹にしがみついて耐えた。
じっとしていた蓮が顔を上げたて耳を澄ました。
声が聞こえる……。
逃げ遅れた人達を探しているのかしら……。この樹の高さはどれくらいかしら……。私の姿は下から見えるかしら……。声を出したいけど出ない……。
「……れん…………れん……」
私の名前?誰か私の名前を呼んでいる……
蓮の耳に遠くで蓮と呼んでいる人の声が聞こえた。
館の人たちが私を探しているのね。
去様!みんな!私は、私はここにいます!
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