マルチ商法女と戦っていたら、もっととんでもないものと戦うことになってしまった件

青山済

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第五章 恐怖!カルト宗教

第五十三話 山崎が語る、科学の道の秘密教義

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「それにしてもあんなところがよく分かったな、本当にありがとう。下手をすると死ぬまで軟禁生活だったぜ。」

夜の高速道路に乗り、追手が来ないことを確認すると山崎が礼を言った。

「まあ、話すと長くなるんだがな……。」

済はこれまでの経緯を手短に話し、済が科学の道に、吉井がサークルに潜入中であることを話した。

「……というわけで、あのSMSと、吉井が持ってたサプリのラベルから、もしかしてと思って行ってみたんだよ。」
「そうか。助けも求めてみるもんだな。あれは本当に体調が悪くて隣町の病院に連れて行ってもらった時、信者の隙を見て公衆電話から送ったんだ。一瞬しかチャンスがなかったから町の名前しか送れなかったけどな。」
「しかし、何だってあんなところに軟禁されてたんだ?」
「ヨッさんなら知ってると思うが、俺はもともとサイエンス・ムーブメントって宗教に入ってたんだ。そこで天道加世、本名梅田加代子って女の人と知り合ったんだが、これが北朝鮮マニアの面白いおばさんでな、旦那の有一さんとも仲良くしてもらってたんだ。知り合ってから何年か経った時、仲の良い信者を集めて飲み会をやるって言われてついていったら、『近々東京で独立しようと思う、ゆくゆくは宗教産業複合体を作りたい、今は準備中だからまた連絡する。』って言われたんだよ。」
「宗教産業複合体!?」
「聞き慣れない言葉だが、日本だと宗教が出版社や仏具屋を持ってることは多いし、韓国じゃ家庭協会がマスコミから食品、自動車メーカーまで入ってる企業集団を作り上げてて、財閥の一つと見なされてるな。というか山崎は、今もあの宗教を信じてるのか?」
「今は全然信じてないな。その理由も後で話す。結局四年前に、まだ完全ではないけど給料は出せるからって言われて立ち上げに誘われたんだよ。その時はブラックな職場に限界が来てて、給料も出るんなら出家してみるかって思って、軽い気持ちで付いていったんだ。そしたら群馬の山の中に連れて行かれて、そこからは軟禁生活よ。まだ完成してない工場の敷地にプレハブ作りの実験室を与えられてな、作ってたのが……」
「シャブだろ。」

吉井が山崎の前に答えを言った。

「やっぱり気付いてたか。その時は完全に洗脳されてて、言われるままに取り組んだら、一週間くらいで形にはなった。エフェドリンじゃなくてフェニルアラニンからの合成だから面倒臭かったけど、色んなジャーナルと契約してて、論文は読み放題だったからな。合成を何回か繰り返して、手順を完全に整備した後、透き通ったブツを持って天道加世に報告したらえらく喜ばれてな、『あなたを教団の最上位信者にしてあげる、この教団の本当の教義を教えてあげる。』って言われて東京本部の五階に連れて行かれたんだ。」
「何というかブレイキング・バッドみたいだな。」
「五階には入れてないが、あそこは何があるんだ?」
「あそこには教団の金と秘密経典を管理する金庫があるんだ。仰々しい祭壇があって、いかにも上位信者しか入れない部屋っぽくなってるけど、結局は金と秘儀を一般信者から隔離するのが目的だな。とはいっても金はそんなに置いてなかったけど。部屋に入ると天道加世が恭しく金庫を開けて何かを取り出したんだが、それが何とボロボロの大学ノートだったんだよ。中を見ると、ボールペンで走り書きされたような文字がずらずらと並んでいた。」
「もしかして、お筆先か?」
※お筆先:天理教の聖典の一つで、教祖中山みきが自動書記で書かれたとされる。今ではある種のトランス状態にあったと思われるが、当時は神のお告げを受けたとして宗教的に重要な意味があった。正確には「おふでさき」。

「それに近いもんだと思う。俺が読むのに四苦八苦してると、天道がニコニコしながら説明してくれたよ。教祖が言うには、一万年前の氷河期、南極に飛来したUFOの中にある『何か』が乗り込んでいたが、寒さのために眠ってしまった。ところがその『何か』は、地球温暖化と共に目覚め、鳥類や哺乳類に寄生を始めた。『何か』は南極から鳥やクジラを経由して寄生を進め、人類もほぼ寄生されてしまっている。『何か』はネガティブエネルギーを持っており、寄生されると悲しみや不安といった負の感情を抱くようになってしまう。それを取り除くためには、科学的なカウンセリングや自己啓発セミナーで『何か』を叩き出すしかない。」
「遊星からの物体Xかよ!!」
「俺もびっくりして、全然話が飲み込めなかった。何かの冗談かと思ったんだが、教祖は至って真面目だった。そして、さらに恐ろしいことを口にしたんだ。人類はもう『何か』に寄生されつくしてしまった、一度リセットして、我々だけで人類を再構築するしかないって。……天道加世は完全に頭がイカれちゃってたんだ。B級SFホラーみたいなストーリーが終末論に結びついちゃってた。」
「遊星からの物体Xは名作だけどな。」
「つまり、教団の上位者は終末論に染まってしまっていて、MASKの梅田有一も、サークルの島村義弘も、全員この思想にやられちゃってた。ただし、教祖は異様に選民思想が強くて、この真実の教えはごく一部の人にしか教えてはならない、何故なら『何か』に気付かれてしまうからだと言っていた。宗教には珍しく根本教義を隠していたり、あんまりガツガツ布教してなかったのもこのせいだ。本物は向こうから勝手にやってくると信じてるからな。それに金ならサークルやらMASKで巻き上げればよくて、何もしなくても教団自体は維持できる。」
「そうすると、サークルがニューステージの製品を取り扱わなくなったのは……。」
「契約解消を言い出したのはニューステージ側らしい。ただ、サークルとしてもちょうど良かったんだな、工場と生産体制が整ってきてて、元から契約は切るつもりだった。俺は工場の完成に関係なく、たまにシャブを合成するだけのニート生活だったけどな。」

山崎の証言で、おおよその組織の姿が分かった。その後、済は陽子の妹について話を切り出した。
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