8 / 62
第一章 マルチ商法女、攻撃作戦
第七話 一斉コメント砲、発射
しおりを挟む
四月十二日、夜。済は慌ただしく仕事を切り上げ、シャワーや食事もそこそこに、デスクトップPCの前に座っていた。入里への誕生日一斉コメント攻撃が始まるのを待ちきれないためだ。
攻撃開始にはまだ数時間あるが、まるで遠足前日の生徒のように落ち着かない。はやる気持ちを抑えながら、吉井、新城とメッセージをやり取りしていた。
「二人とも協力してくれてありがとう。ついにこの日がやってきたな。」
「昔を思い出すなあ。よく夜通し祭りに参加して、終わったらオフ会したっけ。懐かしいぜ。」
「こっちは呼びかけしといた。少なくとも二十人はコメントしてくれるらしい。」
「よし、ありがとう。酒でも飲んで零時を待とう。」
久しぶりに三人で話すこともあり、学生の頃の思い出や、昔参加した特定祭りなど、すぐに積もる話に花が咲いた。あっという間に時間が過ぎ去っていき、気づけば十一時を過ぎていた。メッセージグループには緊張感が立ち込め、日付が変わるまでの時間が無限にも感じられる。十一時五十分になったところで空気が真剣モードに変わり、吉井が手順の確認に入った。
「済が書き込んだら怪しいから、まずは俺が噂に聞いた体で書き込む。」
「それを待って、俺が仲間に合図を出す。ここで一気にメッセージが膨れ上がるはずだ。」
「もしも途中で相手が反論してきたら、俺が渡した証拠画像を貼り付けてくれ。」
零時。Facebookに入里の誕生日通知が出た。
「よし、攻撃開始だ。」
「頼んだぞ、ヨッさん!」
「いっけえええええええ!!」
済の脳内にCH○GE and A○KAの「Y○H!Y○H!Y○H!」が流れ出す。あくまで心配する風を装い、吉井が誕生日メッセージを投稿する。
「入里さんお久しぶりです、吉井です。誕生日おめでとうございます!ところで噂に聞いたのですが、マルチ商法の勧誘やってるって本当ですか?色々問題が多いビジネスなのでやめたほうがいいですよ...。何かあったら相談して下さいね。」
誕生日は全体公開設定になっているため、誰でもコメント・参照可能になっている。吉井のコメントに続き、高専生連盟のメンバーが書き込む。
「お誕生日おめでとうございます!私も噂でそう聞きました。友達を勧誘してたみたいですけど、友達なくすからやめたほうがいいと思います...。」
「Happy Birthday!僕も入里さんがネットワークビジネスやってるって聞きました!昔僕もやってたんですけど、本当にやめたほうがいいですよ♪」
コメントの勢いは当初の想定よりも激しく、軽く五十件を超えていた。流れるコメントを追っていると、合間に普通のメッセージが入っている。作戦を全く知らずに誕生日メッセージを送った人は、溢れるマルチ商法の指摘コメントを見てさぞ驚いているだろう。コメントの勢いがおかしいことに気づいたのか、夜中にも関わらず入里から返信が来る。
「吉井さんお久しぶりです。誰から聞いたかは知りませんが、私はマルチ商法なんてやってませんよ☆」
すかさず吉井が返信する。
「ええっ、そうなんですか?それじゃこれは何ですか?」
コメントには、済が渡した動かぬ証拠、「会社のイベント」といってアメリカに行った時のセミナー写真と、そこに写っていたロゴを拡大した画像が添付されていた。
それがトリガーとなり、他のユーザーも次々と証拠写真を貼り付けていく。入里のタイムラインはさながら同じ写真で荒らされたような状態になっていた。画面に溢れるNatureVantage、NatureVantage、NatureVantage……。
「確かにマルチですけど、他と違って危なくないですよ(*^_^*)」
と、入里が拙い反論をしていたものの、コメントの勢いが激しすぎるためすぐ埋もれ、全く意味はなかった。その後彼女から返信が来ることはなく、一時間ほどで投稿は非公開設定になった。済が見たところ、その時点でコメントの数は三百を超えていた。入里は思ったよりも多くの人を怒らせていたらしい。
「アカウント非公開にして逃げたか。それにしても思ったより凄い人数だな笑」
「済の大衆扇動力の賜物だろう。前に送ってた煽り文が結構効いてるみたいだぞ。」
新城から協力を取り付けた後、作戦を思い付いた人間の紹介が必要だろうということで、済は団体で使っているDiscordサーバーに呼んでもらったのだった。そこで済は、
「東西大学出身、大日本データ勤務の青山済と申します。私が皆様に今回ご協力願いたいのは、選民思想に毒され、会社員として日々社会に貢献している我々を常日頃攻撃している者に対する天誅でございます。今回のターゲット入里麻里奈は、私に対して『既存のレールに乗っている人間には価値がないのだ。』と攻撃をしてきました。またこれです。こうした選民思想に毒された意識高い系の一部は、いつも我々をこういった形で攻撃してくるのです。何故誰に迷惑を掛けて生きているでもない我々が、このように攻撃されねばならんのでしょうか。そして今回、彼女がマルチ商法を行っているという確かな証拠が出てきました。これは彼らに一矢報いるチャンスです。選民思想に溺れるものは、別の選民思想によって痛い目に遭わされるということを、今こそ知らしめるのです。労働者たちよ!立て!!」
というコメントを残し、会員を煽ったのだった。
時刻は夜一時。攻撃開始からわずか一時間しか経っていなかったが、極度の興奮状態だったため三時間は経っているように感じられる。それにしても非公開にするとはつまらんな、と思いながらメッセージをやり取りしていると、吉井が
「おい、これ見てみろ。」
とURLを送ってきた。
済はその先で、炎が燃え広がる様を見た。
攻撃開始にはまだ数時間あるが、まるで遠足前日の生徒のように落ち着かない。はやる気持ちを抑えながら、吉井、新城とメッセージをやり取りしていた。
「二人とも協力してくれてありがとう。ついにこの日がやってきたな。」
「昔を思い出すなあ。よく夜通し祭りに参加して、終わったらオフ会したっけ。懐かしいぜ。」
「こっちは呼びかけしといた。少なくとも二十人はコメントしてくれるらしい。」
「よし、ありがとう。酒でも飲んで零時を待とう。」
久しぶりに三人で話すこともあり、学生の頃の思い出や、昔参加した特定祭りなど、すぐに積もる話に花が咲いた。あっという間に時間が過ぎ去っていき、気づけば十一時を過ぎていた。メッセージグループには緊張感が立ち込め、日付が変わるまでの時間が無限にも感じられる。十一時五十分になったところで空気が真剣モードに変わり、吉井が手順の確認に入った。
「済が書き込んだら怪しいから、まずは俺が噂に聞いた体で書き込む。」
「それを待って、俺が仲間に合図を出す。ここで一気にメッセージが膨れ上がるはずだ。」
「もしも途中で相手が反論してきたら、俺が渡した証拠画像を貼り付けてくれ。」
零時。Facebookに入里の誕生日通知が出た。
「よし、攻撃開始だ。」
「頼んだぞ、ヨッさん!」
「いっけえええええええ!!」
済の脳内にCH○GE and A○KAの「Y○H!Y○H!Y○H!」が流れ出す。あくまで心配する風を装い、吉井が誕生日メッセージを投稿する。
「入里さんお久しぶりです、吉井です。誕生日おめでとうございます!ところで噂に聞いたのですが、マルチ商法の勧誘やってるって本当ですか?色々問題が多いビジネスなのでやめたほうがいいですよ...。何かあったら相談して下さいね。」
誕生日は全体公開設定になっているため、誰でもコメント・参照可能になっている。吉井のコメントに続き、高専生連盟のメンバーが書き込む。
「お誕生日おめでとうございます!私も噂でそう聞きました。友達を勧誘してたみたいですけど、友達なくすからやめたほうがいいと思います...。」
「Happy Birthday!僕も入里さんがネットワークビジネスやってるって聞きました!昔僕もやってたんですけど、本当にやめたほうがいいですよ♪」
コメントの勢いは当初の想定よりも激しく、軽く五十件を超えていた。流れるコメントを追っていると、合間に普通のメッセージが入っている。作戦を全く知らずに誕生日メッセージを送った人は、溢れるマルチ商法の指摘コメントを見てさぞ驚いているだろう。コメントの勢いがおかしいことに気づいたのか、夜中にも関わらず入里から返信が来る。
「吉井さんお久しぶりです。誰から聞いたかは知りませんが、私はマルチ商法なんてやってませんよ☆」
すかさず吉井が返信する。
「ええっ、そうなんですか?それじゃこれは何ですか?」
コメントには、済が渡した動かぬ証拠、「会社のイベント」といってアメリカに行った時のセミナー写真と、そこに写っていたロゴを拡大した画像が添付されていた。
それがトリガーとなり、他のユーザーも次々と証拠写真を貼り付けていく。入里のタイムラインはさながら同じ写真で荒らされたような状態になっていた。画面に溢れるNatureVantage、NatureVantage、NatureVantage……。
「確かにマルチですけど、他と違って危なくないですよ(*^_^*)」
と、入里が拙い反論をしていたものの、コメントの勢いが激しすぎるためすぐ埋もれ、全く意味はなかった。その後彼女から返信が来ることはなく、一時間ほどで投稿は非公開設定になった。済が見たところ、その時点でコメントの数は三百を超えていた。入里は思ったよりも多くの人を怒らせていたらしい。
「アカウント非公開にして逃げたか。それにしても思ったより凄い人数だな笑」
「済の大衆扇動力の賜物だろう。前に送ってた煽り文が結構効いてるみたいだぞ。」
新城から協力を取り付けた後、作戦を思い付いた人間の紹介が必要だろうということで、済は団体で使っているDiscordサーバーに呼んでもらったのだった。そこで済は、
「東西大学出身、大日本データ勤務の青山済と申します。私が皆様に今回ご協力願いたいのは、選民思想に毒され、会社員として日々社会に貢献している我々を常日頃攻撃している者に対する天誅でございます。今回のターゲット入里麻里奈は、私に対して『既存のレールに乗っている人間には価値がないのだ。』と攻撃をしてきました。またこれです。こうした選民思想に毒された意識高い系の一部は、いつも我々をこういった形で攻撃してくるのです。何故誰に迷惑を掛けて生きているでもない我々が、このように攻撃されねばならんのでしょうか。そして今回、彼女がマルチ商法を行っているという確かな証拠が出てきました。これは彼らに一矢報いるチャンスです。選民思想に溺れるものは、別の選民思想によって痛い目に遭わされるということを、今こそ知らしめるのです。労働者たちよ!立て!!」
というコメントを残し、会員を煽ったのだった。
時刻は夜一時。攻撃開始からわずか一時間しか経っていなかったが、極度の興奮状態だったため三時間は経っているように感じられる。それにしても非公開にするとはつまらんな、と思いながらメッセージをやり取りしていると、吉井が
「おい、これ見てみろ。」
とURLを送ってきた。
済はその先で、炎が燃え広がる様を見た。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。


日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる