上 下
22 / 55
魔剣の予定が子守している

魔剣の予定が子守している−1−

しおりを挟む
相棒は、どういうわけか、持ち主に試し斬りをさせたくなる何かがあるのだろうか。
持ち主が代わる度に罪もない人を試し斬りしようとするたびに逆らい持ち主が大けがを負う。
次第に人を怨むようになり、その身に纏う気がどんどんと禍々しくなってしまった。

それでも、私に向ける笑顔は、まだ昔のままなのが救いかもしれない。
少しずつ、少しずつ、相棒の狂気が私にまとわりつき、澱のように沈んでいく。

私達が光を失い誰の目にも触れなくなって久しい。
今は店奥の部屋に捨て置かれている。

このまま時間だけが流れるように過ぎていくのだろうか。
それとも相棒が狂気に飲まれて魔と化してしまって2人で災いを振りまくのだろうか。

ゆるゆると時間が過ぎていく。
陽は昇り。
日が沈む。
何度繰り返したことだろうか。

ある日、どんよりとした霞がかかった空気が、パリンと音を立てて割れた。
真っ白な光で目が眩む。
目が慣れてくると、自分をマジマジと見入っている無精髭の男が立っていた。
男が居るだけで、濁った空気が清々しい空気に変わっていく。


「いいな。破魔の剣か」


男が触れた途端、身に纏わり続けていた 澱んだ空気が霧散していく。
体も軽くなったような気がして、思いっきり空気を吸い込むと、男がニヤリと見返してくる。
居るだけで、空気を澄み渡らせるのに、男の笑いは、清々しいというよりも、逆に胡散臭さを増長させてくる。
そんな男の笑みなど気づかず、店主が慌てて男の言葉に反応する。


「とんでもない。どちらかというと災いを呼ぶとかで、売れてもすぐ戻ってくる曰く付きでして」
「そうか?ま、いいや、これにする」


相棒が一緒じゃないと私は何処にも行くつもりはない。
グッと踏ん張ると、男は私の方をチラリと見た後、周りを見回し、相棒に目を止めた。


「ああ、これもか」


男が無造作に相棒を手に取った。
あっ!と思った時は遅く、相棒が男の頬を切りつけていた。
すーっと血が滲み男はそれをニヤっと笑いながら拭う。


「お客様、大丈夫でございますか?」
「ん?ああ。それにしても禍々しいな」


そう言いながらも男は楽しそうに相棒を舐めまわしている。
相棒からのどす黒い気を感じているはずなのに、男は自分自身に危険が及ぶことは無頓着で、どちらかと言えば、相棒から発せられている気配を気に入っているようだった。
相棒を値踏みした後、


「二振り分は用意してないんだよな」


男はガシガシと頭をかきながら、私達を見、目配せしてしたあと今度は店主に話しかけた。


「こっちは、かなりヤバい感じなんだけど、やっぱり売り物なんだよな?」
「・・・ヤバいってどれくらい?」


店の主が恐る恐る聞き返している。
聞かずとも、買い求めようとした者が何人も怪我を負っているのは店主が十分に承知している事なのだが。
知っていて売りつけようとしているのは商売人としてあっぱれと言ったところか。
一応、曰く付きだと説明をしているのだから、親切なのかもしれないが。


「ああ、俺だからこれで済んだけどな?」


男が血を拭って店主に見せつける。
相変わらず胡散臭い笑顔が張り付いている。
その笑いだけでも店主には十分効果はあるようで、店主は半歩ほど後ずさる。


「タガが外れた感じがするな。死人が出るかもしれないな」
「ま、まさか」
「いや、今は俺がコイツの禍々しい気配を抑えているから問題ないけどな」

ー抑えているのは私だけどねー

「こっちも何だか曰く付きらしいし、この二振りまとめてどのくらいだ?」
「これくらいでしょうか」


店主は、売っても大丈夫そうな相手なのを見て取り、ようやく曰く付きのものが売れそうだと、気を取り直して、パチパチとソロバンを弾いて見せると、男がそこから玉をはじいて値を下げる。


「いや、それは・・・」
「そうか。それじゃ、こっちだけで。まあ、精々、死人が出ないようにすることだな」
「お客様、脅さないで下さいよ」


店主が無意識に汗を拭っていた。
気持ちは売ってしまいたいのだろうが、まだ、商売人としての損得勘定の方が勝っていると言っているところだろうか。


「いや、もう、禍々しいったらないね」


男はそう言って、相棒を店主へ差し出しながら、私の方を見てくる。

ああ、ここで脅せってことだな?
いいだろう。いつまでも、こんな店奥の湿った所に居ても仕方がない。
この男に、私たちの運命を委ねるのも一興かと、スっと一振りして、店主が持つソロバンを切る。


「ヒッ」
「ああ、コレはもうダメだな。暴走し掛かってる。ご主人は制御出来ればいいですがね。俺は予算が合いそうもないので、残念だけど、こっちだけで」


男は私を手に取り、相棒をグイグイと店主に押し付けるが店主は受け取ることは出来ない。
受け取ったとたん、切られるとでも思っているのだろう。
私が相棒を抑えることができる限りは、そういうことは起こらないけれど、それに気づいているのは男だけだ。
さらに、男は店主をたたみかけるべく、店主に語りかける。


「このまま、下に置くとですね、ヤバい事になりそうなんですよ。受け取って貰えないですかね」
「わ、分かりました。先程の値段でいかがでしょうか」
「いや、さっきよりも、禍々しさが増してきたしね、これだけやっかいな代物だとその値段ではちょっと・・・」
「...。」
「...。」
「わ、分かりました。この値段で」
「それなら買いましょう」


こうして私達は、無精髭の男に引き取られることになった。









しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

もう終わってますわ

こもろう
恋愛
聖女ローラとばかり親しく付き合うの婚約者メルヴィン王子。 爪弾きにされた令嬢エメラインは覚悟を決めて立ち上がる。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

公爵様、契約通り、跡継ぎを身籠りました!-もう契約は満了ですわよ・・・ね?ちょっと待って、どうして契約が終わらないんでしょうかぁぁ?!-

猫まんじゅう
恋愛
 そう、没落寸前の実家を助けて頂く代わりに、跡継ぎを産む事を条件にした契約結婚だったのです。  無事跡継ぎを妊娠したフィリス。夫であるバルモント公爵との契約達成は出産までの約9か月となった。  筈だったのです······が? ◆◇◆  「この結婚は契約結婚だ。貴女の実家の財の工面はする。代わりに、貴女には私の跡継ぎを産んでもらおう」  拝啓、公爵様。財政に悩んでいた私の家を助ける代わりに、跡継ぎを産むという一時的な契約結婚でございましたよね・・・?ええ、跡継ぎは産みました。なぜ、まだ契約が完了しないんでしょうか?  「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくださいませええ!この契約!あと・・・、一体あと、何人子供を産めば契約が満了になるのですッ!!?」  溺愛と、悪阻(ツワリ)ルートは二人がお互いに想いを通じ合わせても終わらない? ◆◇◆ 安心保障のR15設定。 描写の直接的な表現はありませんが、”匂わせ”も気になる吐き悪阻体質の方はご注意ください。 ゆるゆる設定のコメディ要素あり。 つわりに付随する嘔吐表現などが多く含まれます。 ※妊娠に関する内容を含みます。 【2023/07/15/9:00〜07/17/15:00, HOTランキング1位ありがとうございます!】 こちらは小説家になろうでも完結掲載しております(詳細はあとがきにて、)

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

〖完結〗私が死ねばいいのですね。

藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。 両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。 それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。 冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。 クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。 そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全21話で完結になります。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

処理中です...