ゲーマー女、化け猫を拾う

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長い指と熱い舌

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果穂は真剣だった。

そっとパッケージから出した薄べったいそれテーブルに置き、ふぅ…と一息吐く。今回買ったトレカは5枚、全25種類から狙うのは2種類のイラストだ。

「…セイッッ!!!」

勢い良く声を上げた瞬間、視界の端で黒猫がビクッと小さく反応した。カードを包む紙をひっ剥がし果穂の目に入ったのは2番目に狙っていたカードだった。

「やったあああノアきゅん出たああああ!!し、しかもホロなんですけどぉーー!?」

果穂が夢中でそのカードを拝んでいると、先程まで悠長に毛繕いをしていた秋が人型になってひょっこり肩から覗く。

「…前から思ってたけど、なんで果穂はその紙切れにお金掛けてんの?」

「ただの紙切れじゃないの!ブロマイドなの、愛の結晶なのこれは!」

「でも既にいっぱい持ってるじゃん」

「だってなかなかノアきゅんとルシウス様が出ないんだもん…はぁ、やっと手に入って感激、まじ眼福」

うっとりイラストを眺める果穂に、秋は心底分からないという顔をした。

「でもそのキャラ散々ゲーム画面で見てるのに、わざわざ紙でもほしいの?」

「違うんだよ、そのキャラのグッズを収集することに意味があるんだよ」

「ふぅん…」

納得はしてなさそうな相槌だ。まあ、確かにオタ活とか推し活は同じ人間にも理解してもらいにくかったりするからな。背後の秋にやっと視線を向けた果穂はまた大きく叫んだ。

「ちょっと!人型になるなら服着てよ!!」

「下は履いてるじゃん。これから上も着るって」

「着てから声かけて!」

相手は化け猫とはいえ、こちらは一応嫁入り前の身なんですけど。スラリと引き締まった上半身に果穂はドギマギする。不意打ちは駄目だ、取り乱してしまう。精神を落ち着かせる為にノアきゅんに視線を戻した。キラキラと輝くホログラムの中にシルバーヘアの憂いを帯びた美少年がいて、ついにんまりと頬が緩む。

「猫が人間に変身するなんて、それこそノアきゅんみたく小柄で可憐で儚げな猫顔童顔をしがちなのになあ。そんで髪は金か銀色が鉄板だね」

「小柄でも可憐でも儚げでも猫顔童顔でも金髪でも銀髪でもなくてお生憎様ー」

長袖Tシャツを七部くらいに袖捲りしながら秋が言った。二次元における王道獣人ならまだ夢心地は続くのにと果穂は思う。黒猫の時の秋はまごうことなく可愛い美猫だけど、人間になった瞬間外見から猫みが減るというか、本当に端正でイケメンな『男の人』になってしまうからなんというか…最近ちょっと、

「……生々しいんだよね」

「え、どういう意味?」

当初はまだ良かった。
猫が人に化けた衝撃の余韻が残っていて、妖怪と暮らすことに精一杯だったし、新鮮さで誤魔化せていた節もある。しかしその摩訶不思議さに慣れてしまった今、ただただ心地の良い人間の異性と暮らしている気分になってしまっているのだ。だから『男っぽさ』を不意打ちで見せつけられるとより複雑な、以前にはなかった感情が浮き上がってしまう。

どうしよう。
気まぐれな猫で、愛するペットで、片や妖怪でもあるこの生き物に恋愛感情を抱いてしまったら本当にどうしよう。それってすごくややこしくない?
しかも秋からは一飼い主としてしか認識されていないのがひしひしと伝わってくる。信頼はされているし好かれてもいるんだろうけど、決して恋情ではない。というか、そもそも妖怪が恋をするのかもよく分からないしさ。

だからこそ、ここ最近の果穂は邪念を払う様により一層推し活に励んでいた。
少し前までの自分を思い出せ。座右の銘『モリモリ働いてモリモリ課金せよ!』を取り戻すのだ。お前が愛すのは決して裏切らない画面の向こうのイケメンたちなんだから。

「私は残りのカードを開封した後アートブックに目を通して、推し活ノートのスクラップもしないといけないので!」

「先に風呂入ってもいい?」

「いいよ!でもちゃんとパジャマ着て出て来て!ごゆっくり!」

秋の顔を直視できないまま、果穂はノアきゅんに向かったまま言葉を返した。
一番狙いのルシウス様カードは当たらなかった。






寝つきが悪い。
暗闇の中ベッドで果穂は何度も寝返りを打った。要因は確実に分かっている。

…最近発散してないしなぁ。

ほぼ不可抗力で始まった同居生活。しかもお互い個人の部屋があるような通常のルームシェアでもなく、ただのワンルーム。秋が転がり込んで来たといってもいい。普通そういった狭い部屋に男女が共に住むとなると大概は恋人だったり夫婦だったりな関係性であるはずなのだが…果穂と秋は違う。同じベッドで寝たりするのにそういう関係からは程遠い。

…つまり一人だったら気にせずできた一人エッチが手付かずになってしまったのだ。

布団の中でモゾモゾしながら果穂は悶々としていた。秋の気配は近くにない。恐らく猫の姿で床に蹲っているのかもしれない。バレないかな?果穂が恐る恐る右手をパジャマの中に滑らせた時だった。

「…するの?」

自分より体格の大きい気配が背後からして果穂は硬直する。秋はゆっくりベッドの端に腰掛けると布団の中に滑り込んで来て、片手で果穂の手首を制した。

「手伝うよ果穂」

「え、いや、あの、な、なにが?」

「自慰オナニー」

剥き出しの表現に果穂は横になったまま泡を吹きそうになった。恥辱ここに極まれり。ああ、このまま失神して気づいたら一ヶ月後とかになってないかな。

「最近してないでしょ?…最後したのは俺がまだ人型の姿を見せる前?」

果穂はとうとう声も出せなかった。そうだ、本当に秋を拾った当初はただの猫だと思っていた訳だから…

「……み、見てた?」

「うん、じっくり」

終わった。

「でも一人でシてる果穂は可愛いなって思ってたよ。…俺たちも性欲はあるから気持ちは分かる」

妖怪にフォローされている。頭の中であああああああと大きく叫んでいる果穂を他所に秋は至って冷静だった。
パジャマのズボンの中に入れかけていた果穂の手を退かし、秋は自らの手を代わりに滑り込ませて来た。それは肉球の柔らかい長毛の前足じゃない、筋張った人間の『男』の腕だ。下着の中で秋の指がそわそわと表面の毛を撫でる。こちらの様子を伺っているようだった。

「緊張してる?」

「あ、えと…」

そりゃ緊張するよ!!

「大丈夫?嫌ならしないけど、…元々最後まではしないつもりだったし」

いよいよ会話まで人間みを帯びて来た。後ろから秋の逆の腕が、果穂の体の下を潜る。正面に回ったその手がパジャマ越しに果穂の胸を掠めた。

「…っ」

「適度に発散しとかないと辛いでしょ?」

そうだけど、そうだけど!

「……秋は嫌じゃない?」

「嫌だったら申し出てないけど」

…そりゃあそうか。
恥ずかしさでなかなかYESの意思表示が出せない果穂に、秋は少し笑って鼻先を髪に擦り付けた。

「じゃあ本当に嫌になったら教えて」

そう言うと、長い中指の先が果穂の足の付け根の先を割って入る。細い指の節張った部分が通過して思わず身体が反応してしまう。秋の腕に袖捲りした部屋着がチラリと見えて、驚かせないようにきちんと部屋着を着てくれたんだなと果穂はふと思った。ピッタリとくっついた背後からふわりとシャンプーの香りがする。使ってるのは同じものだけど、秋の方が髪が長いから香りがよりするのかも。男がよく女子の髪の香りについて熱く語る気持ちがなんとなく分かるな。

「……すごい濡れてる」

折角現実逃避していたのに、秋の低くて囁くような声に一瞬で現実に戻されてしまった。街を歩けるば女性の視線を独り占めするような美男子にベッドの中ですっぽり包まれながら、長い脚を絡められてアソコ触らせてんだからそら濡れるわ…!
ついにつぷりと侵入してきた指に思わず果穂は熱い息を漏らした。

「…っ、はあ…っ」

「…なか熱い」

もう片方の手はパジャマの中を潜ってお腹辺りを掠めた。ひんやりとした手が果穂の体の中心をなぞって上がる。全神経がバラバラと動く両手に向いてしまうのに、背後から声を掛けられると途端耳が性感帯のように反応してしまっていた。秋の声は、こうして姿が見えないまま聞く秋の声は露骨にセクシーだとかエロい訳ではない。果穂の耳は本来ベテランイケボ声優たちの声を聞き続けてかなり肥えているはずだった。なのにさっぱりとした爽やかな声が、含みある言葉を穏やかに話しかけてくる、それだけのことが果穂の中の何かを強く刺激した。高過ぎず低過ぎず、通る声なのにほんの少しざらつきもあってそれが男性らしさを思わせる。緊張感と安心感を同時に与える不思議な声。本人は言葉責めなんて技は恐らく認識してなくて、ただ思ったことを言っているだけみたいで、それがより一層果穂を背徳感に引き込んだ。
隙を突くように肌けた胸を揉まれて頭の中がぐちゃぐちゃになった。

「ん゙ぁ!…あ、いやっ、んん」

「…嫌?でも一人でシでた時と同じ声だね」

「や、ぅん゙ん゙っ!」

「気持ちよさそう」

秋は元来器用だ。中指にいつの間にか薬指が加わって二本の指はただの抽送から擦り上げる動きへと変化する。中のヒダを掻くように滑ったかと思うとぐっと天井に向けて押し上げられた。絶妙な力加減の指先が狭い空洞を広げながら摩して、ずっと欲しかった快感を与えられる。仰反る果穂の身体はぎゅっと抱きしめられて、左手で乳首をつままれた。下半身にある手は動きを止めてくれない。

「…あ、き…っ!んぁ、も、もうっ」

「いいよ」

短いけど優しい声に従うように、いや、寧ろその声がトドメで果穂はイッた。びくびくと普段使わない筋肉が痙攣して、不可抗力に上半身が跳ねる間、秋はずっと抱きしめていてくれた。

「…キスしてもいい?」

その言葉につい振り返えると至近距離の秋と目が合って、つい果穂から唇を重ねた。果穂の中の一割に満たない理性が『あーあ、絆されても知らないぞ!』と最後の警鐘を鳴らす。きっと私は化け猫に恋愛感情を持ってしまった。
唇の角度を何度も変えて舌を絡め合いながら、果穂は仰向けに寝かされ、柔らかい枕に埋もれるほど激しくキスをされた。元カレの時とは全然違う、心から満たされる感覚。良くない流れだと理解しているのに幸せを感じてしまっていた。

「果穂が気持ちよくなってるの、すごい好き」

秋はうっとりした顔で果穂を見下ろした。

「…秋はドキドキしてる?」

「なんで?大好きな果穂と気持ちよくなってるのにドキドキはしないよ」

…秋が人間だったらいいのに。
そしたら気持ちいい以外にもこの緊張感とか、充足感とか、恋焦がれる気持ちを少しは分かってもらえたかもしれない。胸をやわやわと触りながら口を啄ばむ秋に問いかけた。

「秋は私のことが好きなの?」

「大好きだよ、果穂は世界で一番大切」

これが愛の告白ならなんて熱い言葉だろう。こちらを見据える秋の目は純粋で、真っ直ぐだ。秋にとっての私は何なんだろう、家族か、親友か、飼い主か。その選択肢に『恋人』は入らなさそうだった。

「私が好きだから、シてくれるの?」

「うん、果穂が好き。だからシてあげたい」

ほらね。
果穂の心はチクリと痛んだ。
秋の黒目の中には星屑を散りばめたような金の虹彩があって果穂を釘付けにする。

もう一度キスをした後、秋は下に下がって果穂の両腿を抱えた。

「え?…ちょ、ちょっと」

お尻を少し浮かせられ、脚が開かれたそこに秋が顔を埋める。秘豆を飴玉のようにいきなり口内で舐られて大きく嬌声が出た。

「いやっ、あぁ!…ん、あふ、ん゙っ!」

入口を下から上へ挑発するように何度も舐め上げられて、再び身体が熱ってくる。どうしようもなく気持ち良かった。

「指と舌とどっちが好き?」

そう聞くくせに答えは待たず、先ほどまで指に占領されていたそこに舌先を捩じ込む。さっきより柔らかくて、熱くて、背徳的。たっぷりと唾を抱えた舌がじゅぷじゅぷと音を立てて出入りした。キスの時も思ってたけど、秋は舌も長い。内壁のある一点を舐められたとき果穂は自分でも前兆を察することなく達してしまった。あっという間に渦に飲み込まれて先程よりも激しい絶頂。ガクガクしている間も脚の付け根をガッチリ抑えられて入口とクリを舐め上げられ続ける。止まらない刺激に思わず嬌声が悲鳴に近くなった。

「んぃあ゙あ゙!む、り…っ、イッてるの止まらっ、死ぬ、からぁっ!」

「死んだら蘇生してあげる」

秋は淡々と言うとやっと果穂の脚を解放した。汗ばんだ全身を舐めながら果穂の口元に辿り着くと、酸欠気味の唇を奪う。秋の舌が果穂の口内を懐柔して隙を与えてくれなかった。

本当に殺す気か。

ぷは、と秋を押しのけて唇を離すと唾にしては粘着質な透明な体液が二人の唇を繋いだ。酸欠気味だしもう頭は空っぽだ。

「これからはムラムラしたり身体が辛くなったら言ってね」

秋が嬉しそうに目を細めて言うもんだからついこちらも微笑み返してしまった。すっかり秋のペースに乗せられて前戯されるまでに至ってしまったじゃない。

秋は私が好きで好きでこんなことまでシてくれる。

それは『その先を果穂とシたいから』という返答を期待していた果穂にショックを与えた。私のことが好きだけど、私で性欲を掻き立てられる訳じゃない。

つまりそれは愛情で、そこに恋愛感情はない。
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