うん、異世界!

ダラックマ

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五章

〈マジアガるわ~。マジ卍祭り〉その2

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 それから数十分後、食事とヴェル達の魔力供給を終えた俺達は宿を後にし、祭りで賑わう街へ出かけていた。

「やっぱ人多いな・・・・・・」

「まあ、ただでさえこのエスタニアは人口が多いのに、そこに他種族まで居るんじゃ仕方無いわよ」

 宿の前の通路ではそんなに多くは無かったが、市場に出た途端に急激に密度が大きくなり、俺達は人混みの一歩手前で立ち往生していた。

「空から見て回ったほうが良いかもな」

「む、そうだな」

「ならエレナはファフニールが抱えて来てくれ。俺が先に上がって空の様子を見てくる」

「ええ、わかったわ」

 そして、俺は皆より先に『飛行能力』でゆっくりと飛び上がる。すると、

「ピーッ、ピピーッ! そこの人ーっ、速やかに降りて来て下さーい!」

 笛を鳴らしながら近くに居た一人の兵士さんが俺に向かってそう叫んできた。

「え、ああ、はい・・・・・・」

 俺、何かしたっけ? と思いつつ、素直にその指示に従って地に足を下ろす。

「・・・・・・あの、何か?」

 俺がそう兵士さんに問うと、申し訳無さそうにこう答えた。

「すみません。緊急時では無い場合の飛行はこの祭りの最中は禁止となっておりまして・・・・・・」

 わお、マジか。

「む、そうであったか。すまぬな、知らぬ事であったとはいえ、迷惑をかけた」

 俺に代わり、その兵士さんに謝罪をするヴェル。

「いえいえ、この後もしっかりと守って頂けさえすれば、何も問題はありませんので」

「む、了解した」

「そういえば、皆様はこちらはもうお持ちでしたでしょうか?」

 そう言い、兵士さんは一枚の紙を俺達に見せてくる。

「「「「「「?」」」」」」

「これはこの国の案内図です。王城のすぐ近くで配布されているのですが、まだお持ちで無いようでしたらどうぞ?」

「あ、ありがとうございます・・・・・・」

 すげぇ気持ちはありがたいし、この兵士さんがすげぇ親切なんだって事もわかる。だけどねぇ・・・・・・。

 何? このミ○キーやらエ○モやらが居そうな某テーマパーク臭がする案内図は・・・・・・。

「では、自分はこれで」

 俺達に案内図を渡した後、その兵士さんは自分の持ち場へと戻って行った。

「と、とりあえず、ここの露店は後にして、まずは人が少ない所から見て回ってみるか」

「む、そうであるな」

 そうして、俺達も兵士さんに貰った案内図を頼りに、この市場を後にしたのだった。




 しばらく歩くと、中央に噴水がある何ともオシャンティーな大きな広場に出た。

「ここで少し休憩していくか」

 ここも人は多かったが、あの市場程では無いのと、露店も少なからず出ていたので、俺は他の皆にそう提案をする。

「じゃあ何か飲み物でも買ってきましょうか?」

「む、では我も共に行くとしよう。流石にお主一人では全員分は厳しかろう?」

 そういうファフニールを案じ、ヴェルも買い出し班に名乗りを上げた。

「っ! ヴェルガルド、それってもしかして・・・・・・っ」

「む、ああ、先に言っておくが、愛の告白などでは決して無いからな?」

「あぁんっ、ヴェルガルドのいけずぅ!」

 うん、もう何でも良いから行くなら早く行って来てくれ。

 若干周りから注目浴びてて恥ずかしいんだよ。

「む、皆は何が良い? 特に希望が無いのならこちらで勝手に選ばせてもらうが?」

 ヴェルのその問いに、一人ずつ希望を言っていく。

「肉!」

「肉!」

 あれ、これ確か飲み物の話だったよな? てか、お前等さっき肉食ったばかりだろうが。

「む、二人は希望無し、っと・・・・・・。エレナとレイジは何が良いか?」

 あれまぁ、ヴェルさん。お見事なスルースキルです事。

「私は甘いのがいい!」

「俺は何でも。そっちに任せるよ」

「む、了解した。では行って来るのでな、少しこの場で待っておれ」

 そうヴェルは言い残すと、露店がある方へとファフニールと連れ立って歩いて行った。

「ふぅ、ようやく行ったか・・・・・・」

 注目を集めていた元凶の二人がやっとここから離れていったので、俺は一息つきながら近くにあったベンチに腰を下ろす。

「・・・・・・ん?」

 しかし、俺はそこである事にふと気が付いた。

「何なんだ、一体・・・・・・?」

 そう、それは、周り、と言っても一部の人達から未だジロジロと視線をこちらに注がれていたのだ。

「・・・・・・。・・・・・・・・・・」

 しかも、何を言っているのかまでは聞こえないが、その人達はこちらに指まで指して何やら話しているのも見てとれた。

 いや、マジ訳わかんねぇんだけど・・・・・・。

「なあ、何かあいつら俺達の方を・・・・・・」

 俺が貧乳やソフィーちゃんに、何でこっちを見てるんだろう、的な事を尋ねようとしたその時、



「――――あぁあああのっ!! 『マジエン』のソーたんですよねっ!?」



 その中のキモデブ代表みたいな一人の男が俺達、ではなく、ソフィーちゃんの前まで一気に駆け寄って来てそう言った。

 ・・・・・・は? マジエ、何? ソーたん? どゆこと?

「ぼ、僕、先々月に行われたライブ行きましたっ! あのライブの時のソーたん、すっごく良かったし滅茶苦茶可愛かったです!! あ、勿論ファンクラブにも入ってま・・・・・・っ」

「おいっ、お前ソーたんが困ってるだろう! それと俺だってソーたんと話したいんだよ! そろそろ代われって!!」

「あ、次俺もっ!」

「僕もっ!」

「拙者もっ!」

 すげぇ勢いで瞬く間にソフィーちゃんの前へと増え続ける野郎共。

 正直すっごいむさい・・・・・・っ。

「な、なあ、俺全く状況が理解出来てないんだけど、良かったら教えてもらえる?」

 そんな中、俺は貧乳の方へとずりずりと近づき、こそこそと尋ねた。

「ああ、これはね・・・・・・。かくかく、しかじか、かっくぅー、よ」

「・・・・・・ごめん。今までの事全部謝るから、普通に教えて下さい。マジですんませんでした」

 ここぞとばかりに溜まりに溜まった仕返しをしてきた貧乳に対し、俺は深々と頭を下げ、懇願した。

「仕方無いわねぇ、とりあえずこのむさ苦しい空間から出ましょ。話はそれから。ほら、エレナもこっちおいで」

「え、良いのか? ソフィーちゃんを一人にしても・・・・・・」

「大丈夫よ。見たところソフィーの信者っぽいし、仮に変な行動をする奴が居たとしても、ソフィーか周りの信者達が規約違反とかでそいつをボコボコにするでしょうしね」

 し、信者? 規約? ボコボコ? 何それ怖い。

「わかったらさっさと動くっ」

「う、うす・・・・・・」

 そう言われるがまま、俺、エレナの二人は貧乳の後に続き、突如として出来た人混みから早急に離脱した。

「あーもう、気持ち悪いったらありゃしないわね。毎回思うけど、何でソフィーは平気なのかしら」

「で、ひ・・・・・・、いやミーナさんや。あれは一体どういう事なので?」

 ついいつもの癖で貧乳と呼びかけた時に、ん? と脅しを含んだ笑顔を向けられた為、俺は焦って言い直し、再度尋ねた。

「まあ簡単にわかりやすく説明すると、ソフィーは聖騎士の仕事の合間に『マジエン』っていうグループでアイドル活動してて、信者達からはソーたんって呼ばれてるのよ。まあ、グループって言ってもソフィー一人だけなんだけどね」

 って、おいおいっ。一人だけって、それグループでも何でも無いだろ。グループの意味知ってんのかそれ考えた奴・・・・・・。

「で、ソフィーの周りに群がってる連中はファン、まあ私達はその怖過ぎる程の熱狂的な姿を見て、勝手に『ソフィー信者』って呼んでる」

 あ、信者ってそっから来てるのね。まあでも、あいつらの必死な姿とあの目を見れば、そう呼びたくなる気持ちもわからんでもないな・・・・・・。

「以上だけど、何か他に質問はある?」

「いや、大体は理解出来たよ・・・・・・。さんきゅ」

 俺は一向に静まる気配の無いソフィー信者達の方をげんなりと見つめながら、そう貧乳に返した。

「あぁ! ソーたんっ! 握手をっ、今日こそは握手をぉ!!」

「はぁ!? ずりぃ!! それなら俺だって!!」

「あ、じゃあ俺も!」

「僕も!」

「拙者も!」

 うわぁ・・・・・・。とうとう握手会まで開かれそうだよ・・・・・・。

 ヴェル達が戻ってきたらおったまげるだろうな、これ・・・・・・。

「あ、あのあの・・・・・・」

 すると、今の今まで口を噤んでいたソフィーちゃんが、握手を求めてくる信者達に対して口を開いた。



「・・・・・・はあ、握手はしないって何度も何度も言ってますよねぇ? 何なんですか? 脳みそ空っぽなんですか? 早くその汚い手を引っ込めてもらえますか? 目障りです」



「「「・・・・・・・・・・・・・・・・」」」

 その瞬間、俺達の時が数秒止まった。

**************************************

 〈???視点――――〉

 くそっ、折角今なら話しかけられると思ったのに、何だあの野次馬は・・・・・・っ。

 あれでは近づく事すらも儘ならないではないか!

 いや、落ちつけ、落ち着くんだ。あの群集が立ち去ったのを見計らってからでもまだ遅くは無い。

 故に、ここは待機だ・・・・・・。

 そう自分に言い聞かせ、私は再び物陰へと身を潜めた。
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