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四章
気持ちの良い朝+エスタニア国内
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朝、眩しい日差しと鳥の鳴き声で気持ち良く起床し、汲んできた水で顔を洗い、『空想具現化』で出した歯ブラシで自然の美味しい空気を吸いながら歯を磨き、出発の準備を整える。
そして、俺はこう言うんだ。最高の朝だな、と。
「・・・・・・」
そう俺の中では決めていたはずだったのに・・・・・・っ。
「あぁあああっ! エレナっ、起きたのなら早くこれを飲んで!! ちょ、何で口を開こうとしないの!? もしかしてまだ寝惚けてるの!? あ、そっかっ、寝惚けているから黒炎が溢れ出しちゃってるのか! ああもうっ、エレナっ! 何でも良いから早く口を開けてぇえええ!!」
「むっ、と、とりあえず一旦落ち着かんか、ファフニール!」
「あっ、テントとかいうのに火が燃え移っちゃったわよ!」
嘘だろ!? どのテントに――――
「あれ、は確か、零時様、の・・・・・・」
って、俺のかよ!! は、早く出ねぇと・・・・・・っ。
「何だあいつのかー。なら放っておいても良いんじゃない?」
良いわきゃねぇだろこのクソド貧乳!!
「それ、はどう、かと・・・・・・」
「じゃあ、とりあえず水でもぶっかけておきましょうか。この程度なら、いくら神滅級の黒炎って言っても鎮火出来るでしょうし」
え、ちょ、おま、何言って・・・・・・。
既に所々に穴が開いてるこの状況で、ってああああああっ!! 出入り口に火がぁ! 逃げ場ナッシング!!
「それ、せーのっ!」
「――――待っ」
止めるよう叫ぼうとしたが、時既に遅し、というやつで、俺が声を上げようとした時にはもうバケツに入っていた水が宙を舞っていた・・・・・・。
そして、そのまま俺のテントへと直撃。見事に火は鎮火された。
ただ・・・・・・、
「・・・・・・・・・・」
直撃した先が不幸にも出入り口だった為、中に居た俺はモロにその水を浴びてしまった。
「――――ぶぇっくしょいっ!」
くそ、変に格好良いからって理由で出入り口をくるくるタイプにしなけりゃ良かったぜ・・・・・・。
こうなるってわかってたらチャック式を出してたのに・・・・・・。
「おーい、最低クズロリコン野郎ー。もう出て来ても良いわ、よ・・・・・・」
鎮火した事により危険はもう無いと伝えに来た貧乳がテントを覗き込む。
すると、中でびしょ濡れになっている俺を発見した貧乳は、あ・・・・・・、という顔をし、少しの静寂の後、俺にこう言った。
「最高の、朝ね・・・・・・?」
「最悪の朝だよこの野郎」
この後、滅茶苦茶水ぶっかけた。
「「――――びぃえっくしょい!!」」
二人揃って盛大にくしゃみをかます俺と貧乳。
「む・・・・・・。全く、お主等二人はいつもいつも・・・・・・」
呆れながら俺達にタオルを渡してくるヴェル。
「今回のは確実に俺の所為じゃない、とだけは言っておこう」
俺はタオルを受け取り、じとっ、と貧乳の方に視線を送りながら言う。
「ふ、ふんっ。それが助けてもらった相手に言う言葉かしらね」
こいつ、最初は見捨てる気満々だったろうが・・・・・・っ。それを何恩着せがましく抜かしてんだ。
「あ、あのっ」
「ん?」
そんな俺達の前にエレナがもじもじとしながら話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あの、ごめんなさい。私の所為でレイジとミーナが・・・・・・」
おそらく私の所為、というのは暴走しかけた事を言っているのだろう。
まあ、事の発端は確かにそれが原因なのだが・・・・・・。
「大丈夫! 丁度水浴びしたいなって思ってたところだったからさ!」
ぺこりと謝るエレナが可愛かったのでそんな事は水に流す事にした。水だけに、な?
「私も気にしてないから、ね? だからほら、顔を上げて?」
「う、うん・・・・・・」
俺と貧乳が笑顔でそう言うと、下げていた頭をゆっくり上げるエレナ。
「むぅ、だが、この二人がこうもずぶ濡れの状態では、出発しようにも・・・・・・」
ヴェルが再び俺達の方を向き、少し困った表情をする。
「ファフニールよ、お主の風魔法で何とかする事は可能であるか?」
「あら、愛しのヴェルガルドが頼ってくれるのなら、例えどんな手段を使おうとやり遂げてみせるわん」
「む、普通で頼むぞ・・・・・・?」
「はいはーい」
そして、ファフニールが俺達へと二、三歩近寄り、
「じゃ、いくわよ? 『ストーム』」
「おわっ」
「きゃっ」
ファフニールがそう言った瞬間、風魔法である『ストーム』が俺達を包み込んだ。
すると、何と言う事でしょうか。俺と貧乳のびしょんびしょんだった服が見る見るうちに乾いていくではありませんか。
ただちょぉっとばかし風が強過ぎて、踏ん張ってないと飛ばされそうにはなるけど。
そうして、堪える事およそ一分。俺達の服はからっからに乾き切っていた。
「さ、これでもう大丈夫でしょ?」
「お、おう。ありがとなファフニール」
「ありがとうございます!」
「別に良いわよこれくらい」
素直に礼を言う俺達に対し、いつもの調子で返すファフニール。
そんな一見冷たそうなファフニールだが、何か気分的には、面倒見の良いお姉さんが一人居るって感じがして、俺は別に悪い気はしなかった。
「む、すまぬなファフニー」
「――――あぁんヴェルガルドぉ! 私頑張ったから褒めて? 褒めちぎって? いやむしろ○してぇええ!!」
・・・・・・まあ、これさえ無ければの話だがな。
「ぬあぁああ! 鬱陶しい! 後でいくらでも褒めてやるから、今は離れぬかファフニール!! それと最後のは却下だ!!」
「あぁん、もう、つれないわねぇ。ま、良いわ。王国に着いた後で存分に褒めてもらいましょっ」
そう言い、ヴェルから離れたファフニールであったが、離れた瞬間、
「・・・・・・今夜にでも、ね?」
と、背筋が凍るような声と笑顔でぼそりと呟いた。
あぁ・・・・・・、すごーく良い顔をしていらっしゃる。
「・・・・・・むぅ、では、そろそろ先を行くとするか」
「ええ」
「うん」
「わかりましたっ」
「は、い」
「お、おう・・・・・・」
聞こえていなかったのか、安堵の表情を浮かべて俺達にそう伝えるヴェル。
だが、これで良かったのかもしれない。だって、世の中には知らない方が幸せな事なんて、たくさんあるのだから・・・・・・。
そして、俺を除く全員が歩き始める中、俺は心の中でヴェルに敬礼をしてから歩を進めたのだった。
*************************************
同時刻、〈エスタニア王国〉――――
「ご報告致します!!」
私達は黒竜の正体が判明したあの夜から、黒竜に関する情報を一日かけて更に詳細に集め、この日、再度国王と帝等に謁見をしていた。
「先日お話させて頂いた黒竜の件ですが、ここのレイフォード・ソリスの尽力により、その正体が判明致しました!」
私のその言葉により、国王を除くその場に居た全員がざわついた。
それを国王はスッ、と少し手を上げ、静めた後、
「ふむ、申してみよ」
と、私に一言そう言った。
「はっ! その黒竜の名はバハムート。〈火系統〉の神滅級、黒炎を操りし英雄にございます!!」
「「「「「――――っ!!」」」」」
「何と・・・・・・」
その報告に、場に居た者の全員が驚愕で言葉を失った。そして、場はまたも混乱状態に陥った。
「王よ! こうしては居れません! 今すぐにでも黒竜討伐隊の編成を組み、備えなければ!!」
「落ち着け炎帝。仮にも相手はあの『第一次全種族どっかーん大戦』の英雄だぞ? 相手の意図がわからない以上、むやみに敵意を向けるのは止めておいた方が良いと俺は思うけどな」
「怖気づいたか地帝!! 黒竜は正式な申請も無しにこのエスタニアへと進行して来たんだぞ!? 意図ならその時点ですでに分かり切っている事ではないか!!」
「確かに、炎帝の言うとおりかもしれないにゃー。次に黒竜が現れたのなら、最悪の事態になる可能性が高い、って考えていた方が良いかもしれにゃいねー」
「風帝、お前まで・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
数人の帝等が言い争う中、国王はただ黙ってその議論に耳を傾けていた。
「どうされますか? 王よ」
帝の一人、水帝が国王に尋ねる。
「えっ? あ、ああ、すまぬ。・・・・・・で、何だっけ?」
「・・・・・・? ですから、黒竜についての対策の事で、・・・・・・って、王よ、どうされましたか?」
と、水帝が言いかけた直後に汗をダラダラと流し始めた国王に対し、次はその身を案じる方向で尋ねた。
「んんっ? いや、何でも、何でも無い! だが、しばしの間待ってくれ!」
国王はそう言い、突然頭を抱え始めた。
「(あ、やっばい! ほんとやっばい!! 多分あいつが無申請で堂々と接近してたのってあれではないか? あれはまだワシが国王に即位したばかりの頃、何故かあいつと面識を持ち、何故か共に酒を飲んでいた時に・・・・・・)」
~(国王回想)~
「おぉい、英雄さんよぉ~。おれぁ、ヒック、やったぜ? この国の国王になったんだぜぇ? ヒック、すげぇだろぉ~?」
「むぅ、少し飲み過ぎではないかお主・・・・・・」
「かてぇこと言うなってぇ、なぁ? あの英雄様と飲めるなんざ、ヒック、滅多にねぇんだからよぉ~」
「はあ、言っておくが、我はもう少ししたら抜けさせてもらうぞ? 明日の昼頃にはここを発つ予定であるしな」
「は!? 明日!? それは突然過ぎるぜぇ、俺達親友じゃなかったのかよぉ~」
「む、一体いつお主と我が親友などというものになったのかは気にはなるが、これは決定事項だ。何と言われようが、それ以上ここに滞在するつもりは無い」
「ふ~ん、ま、良いや。じゃあまた遊びに来いよ。英雄さんなら顔パスにしておいてやるからさっ」
「む・・・・・・。顔、パス? とは一体何なのだ?」
「何だよそんな事も知らねぇのかよぉ。良いか? 顔パスってのはなぁ~? かくかく、しかじか、かくぅー」
「む、それでは『停戦協定』が・・・・・・」
「んな古い取り決めなんてどうでも良いんだよ! それに国王は俺だぜぇ? 俺が良いって言ったら良いんだよっ」
「む、ふむ・・・・・・。なるほ、ど?」
~(国王回想、終幕)~
「(ああああああっ!! 絶対あれだぁあああああっ! 歳を重ね過ぎたのもあるが、完っ全に忘れておったわぁああああああっ!! どうする? 今からにでも正直に皆に・・・・・・)」
「王よ!」
「え?」
「最早一刻の猶予もありませぬ! お命じ下されば、我等はいつでも事態の収拾にあたる所存!!」
「(・・・・・・むっりぃいいいいいいいっ!! こんなに皆がやる気に満ち満ちている状況で今更、『あ、それワシの所為』、とか絶対言えない!! ワシにはそんな度胸も無ければ根性なんて皆無であるからしてぇえええええええ!!)」
「王よ! ご決断を!!」
頭を抱え続ける国王に対し、炎帝が代表して国王に下知を求めた。
「え、えぇと・・・・・・、う、うむ。好きにするが、良い!」
「「「「「――――はっ!」」」」」
国王のその言葉に帝等全員が一斉にバタバタと部屋を後にしていく。
私とレイフォードも退室しようとしたその時、ふと目に入った国王の表情は、どこか沈んでいるようにも見えた。
「(うぅわ、どうしようどうしようっ。好きにしろとか言ってもうた所為で皆行ってしもうたではないか! うああああっ、これは早いうち、皆に説明せねば・・・・・・っ)」(※本音)
私はその表情を見て思った。黒竜、バハムートとはやはり、このエスタニアにおける最大戦力である帝等全員が束になってかかっても勝利出来るかどうかすら危うい、のだと。
「(そ、そうさっ。今日が無理でも明日になれば、きっとワシだってほんの少しの勇気が・・・・・・っ)」(※現実)
だからもし、敵に回るような事があれば、それ程にまで強大な相手になりうるのだろう・・・・・・。
我等が王よ、お気持ちお察し致しました。微力ながらこのガルシア、全身全霊を持ってこの任務あたらせてもらいます!
「(・・・・・・とりあえず、娘達とケーキバイキング行こう)」(※逃避)
そうして、国王を除く全ての者が退出した。
「明日の事は~、明日に考える~」
その少しした後、上機嫌で歌いながら国王も部屋を後にしたのであった。
*************************************
戻って、零時達視点――――
「なあヴェル。そういやずっと聞きたかったんだが、『停戦協定』ってのがあるのに、何でお前は申請も無しにエスタニアに近づいたんだ? それも軍が出てくる程の距離まで」
「む? いや、どうやら我はあの国に関したら顔パス、というものらしいのでな。それでだ」
「は? 顔パス?」
正直、今の俺にはこいつが何を言っているのかが理解不能であった・・・・・・。
そして、俺はこう言うんだ。最高の朝だな、と。
「・・・・・・」
そう俺の中では決めていたはずだったのに・・・・・・っ。
「あぁあああっ! エレナっ、起きたのなら早くこれを飲んで!! ちょ、何で口を開こうとしないの!? もしかしてまだ寝惚けてるの!? あ、そっかっ、寝惚けているから黒炎が溢れ出しちゃってるのか! ああもうっ、エレナっ! 何でも良いから早く口を開けてぇえええ!!」
「むっ、と、とりあえず一旦落ち着かんか、ファフニール!」
「あっ、テントとかいうのに火が燃え移っちゃったわよ!」
嘘だろ!? どのテントに――――
「あれ、は確か、零時様、の・・・・・・」
って、俺のかよ!! は、早く出ねぇと・・・・・・っ。
「何だあいつのかー。なら放っておいても良いんじゃない?」
良いわきゃねぇだろこのクソド貧乳!!
「それ、はどう、かと・・・・・・」
「じゃあ、とりあえず水でもぶっかけておきましょうか。この程度なら、いくら神滅級の黒炎って言っても鎮火出来るでしょうし」
え、ちょ、おま、何言って・・・・・・。
既に所々に穴が開いてるこの状況で、ってああああああっ!! 出入り口に火がぁ! 逃げ場ナッシング!!
「それ、せーのっ!」
「――――待っ」
止めるよう叫ぼうとしたが、時既に遅し、というやつで、俺が声を上げようとした時にはもうバケツに入っていた水が宙を舞っていた・・・・・・。
そして、そのまま俺のテントへと直撃。見事に火は鎮火された。
ただ・・・・・・、
「・・・・・・・・・・」
直撃した先が不幸にも出入り口だった為、中に居た俺はモロにその水を浴びてしまった。
「――――ぶぇっくしょいっ!」
くそ、変に格好良いからって理由で出入り口をくるくるタイプにしなけりゃ良かったぜ・・・・・・。
こうなるってわかってたらチャック式を出してたのに・・・・・・。
「おーい、最低クズロリコン野郎ー。もう出て来ても良いわ、よ・・・・・・」
鎮火した事により危険はもう無いと伝えに来た貧乳がテントを覗き込む。
すると、中でびしょ濡れになっている俺を発見した貧乳は、あ・・・・・・、という顔をし、少しの静寂の後、俺にこう言った。
「最高の、朝ね・・・・・・?」
「最悪の朝だよこの野郎」
この後、滅茶苦茶水ぶっかけた。
「「――――びぃえっくしょい!!」」
二人揃って盛大にくしゃみをかます俺と貧乳。
「む・・・・・・。全く、お主等二人はいつもいつも・・・・・・」
呆れながら俺達にタオルを渡してくるヴェル。
「今回のは確実に俺の所為じゃない、とだけは言っておこう」
俺はタオルを受け取り、じとっ、と貧乳の方に視線を送りながら言う。
「ふ、ふんっ。それが助けてもらった相手に言う言葉かしらね」
こいつ、最初は見捨てる気満々だったろうが・・・・・・っ。それを何恩着せがましく抜かしてんだ。
「あ、あのっ」
「ん?」
そんな俺達の前にエレナがもじもじとしながら話しかけてきた。
「どうしたの?」
「あの、ごめんなさい。私の所為でレイジとミーナが・・・・・・」
おそらく私の所為、というのは暴走しかけた事を言っているのだろう。
まあ、事の発端は確かにそれが原因なのだが・・・・・・。
「大丈夫! 丁度水浴びしたいなって思ってたところだったからさ!」
ぺこりと謝るエレナが可愛かったのでそんな事は水に流す事にした。水だけに、な?
「私も気にしてないから、ね? だからほら、顔を上げて?」
「う、うん・・・・・・」
俺と貧乳が笑顔でそう言うと、下げていた頭をゆっくり上げるエレナ。
「むぅ、だが、この二人がこうもずぶ濡れの状態では、出発しようにも・・・・・・」
ヴェルが再び俺達の方を向き、少し困った表情をする。
「ファフニールよ、お主の風魔法で何とかする事は可能であるか?」
「あら、愛しのヴェルガルドが頼ってくれるのなら、例えどんな手段を使おうとやり遂げてみせるわん」
「む、普通で頼むぞ・・・・・・?」
「はいはーい」
そして、ファフニールが俺達へと二、三歩近寄り、
「じゃ、いくわよ? 『ストーム』」
「おわっ」
「きゃっ」
ファフニールがそう言った瞬間、風魔法である『ストーム』が俺達を包み込んだ。
すると、何と言う事でしょうか。俺と貧乳のびしょんびしょんだった服が見る見るうちに乾いていくではありませんか。
ただちょぉっとばかし風が強過ぎて、踏ん張ってないと飛ばされそうにはなるけど。
そうして、堪える事およそ一分。俺達の服はからっからに乾き切っていた。
「さ、これでもう大丈夫でしょ?」
「お、おう。ありがとなファフニール」
「ありがとうございます!」
「別に良いわよこれくらい」
素直に礼を言う俺達に対し、いつもの調子で返すファフニール。
そんな一見冷たそうなファフニールだが、何か気分的には、面倒見の良いお姉さんが一人居るって感じがして、俺は別に悪い気はしなかった。
「む、すまぬなファフニー」
「――――あぁんヴェルガルドぉ! 私頑張ったから褒めて? 褒めちぎって? いやむしろ○してぇええ!!」
・・・・・・まあ、これさえ無ければの話だがな。
「ぬあぁああ! 鬱陶しい! 後でいくらでも褒めてやるから、今は離れぬかファフニール!! それと最後のは却下だ!!」
「あぁん、もう、つれないわねぇ。ま、良いわ。王国に着いた後で存分に褒めてもらいましょっ」
そう言い、ヴェルから離れたファフニールであったが、離れた瞬間、
「・・・・・・今夜にでも、ね?」
と、背筋が凍るような声と笑顔でぼそりと呟いた。
あぁ・・・・・・、すごーく良い顔をしていらっしゃる。
「・・・・・・むぅ、では、そろそろ先を行くとするか」
「ええ」
「うん」
「わかりましたっ」
「は、い」
「お、おう・・・・・・」
聞こえていなかったのか、安堵の表情を浮かべて俺達にそう伝えるヴェル。
だが、これで良かったのかもしれない。だって、世の中には知らない方が幸せな事なんて、たくさんあるのだから・・・・・・。
そして、俺を除く全員が歩き始める中、俺は心の中でヴェルに敬礼をしてから歩を進めたのだった。
*************************************
同時刻、〈エスタニア王国〉――――
「ご報告致します!!」
私達は黒竜の正体が判明したあの夜から、黒竜に関する情報を一日かけて更に詳細に集め、この日、再度国王と帝等に謁見をしていた。
「先日お話させて頂いた黒竜の件ですが、ここのレイフォード・ソリスの尽力により、その正体が判明致しました!」
私のその言葉により、国王を除くその場に居た全員がざわついた。
それを国王はスッ、と少し手を上げ、静めた後、
「ふむ、申してみよ」
と、私に一言そう言った。
「はっ! その黒竜の名はバハムート。〈火系統〉の神滅級、黒炎を操りし英雄にございます!!」
「「「「「――――っ!!」」」」」
「何と・・・・・・」
その報告に、場に居た者の全員が驚愕で言葉を失った。そして、場はまたも混乱状態に陥った。
「王よ! こうしては居れません! 今すぐにでも黒竜討伐隊の編成を組み、備えなければ!!」
「落ち着け炎帝。仮にも相手はあの『第一次全種族どっかーん大戦』の英雄だぞ? 相手の意図がわからない以上、むやみに敵意を向けるのは止めておいた方が良いと俺は思うけどな」
「怖気づいたか地帝!! 黒竜は正式な申請も無しにこのエスタニアへと進行して来たんだぞ!? 意図ならその時点ですでに分かり切っている事ではないか!!」
「確かに、炎帝の言うとおりかもしれないにゃー。次に黒竜が現れたのなら、最悪の事態になる可能性が高い、って考えていた方が良いかもしれにゃいねー」
「風帝、お前まで・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
数人の帝等が言い争う中、国王はただ黙ってその議論に耳を傾けていた。
「どうされますか? 王よ」
帝の一人、水帝が国王に尋ねる。
「えっ? あ、ああ、すまぬ。・・・・・・で、何だっけ?」
「・・・・・・? ですから、黒竜についての対策の事で、・・・・・・って、王よ、どうされましたか?」
と、水帝が言いかけた直後に汗をダラダラと流し始めた国王に対し、次はその身を案じる方向で尋ねた。
「んんっ? いや、何でも、何でも無い! だが、しばしの間待ってくれ!」
国王はそう言い、突然頭を抱え始めた。
「(あ、やっばい! ほんとやっばい!! 多分あいつが無申請で堂々と接近してたのってあれではないか? あれはまだワシが国王に即位したばかりの頃、何故かあいつと面識を持ち、何故か共に酒を飲んでいた時に・・・・・・)」
~(国王回想)~
「おぉい、英雄さんよぉ~。おれぁ、ヒック、やったぜ? この国の国王になったんだぜぇ? ヒック、すげぇだろぉ~?」
「むぅ、少し飲み過ぎではないかお主・・・・・・」
「かてぇこと言うなってぇ、なぁ? あの英雄様と飲めるなんざ、ヒック、滅多にねぇんだからよぉ~」
「はあ、言っておくが、我はもう少ししたら抜けさせてもらうぞ? 明日の昼頃にはここを発つ予定であるしな」
「は!? 明日!? それは突然過ぎるぜぇ、俺達親友じゃなかったのかよぉ~」
「む、一体いつお主と我が親友などというものになったのかは気にはなるが、これは決定事項だ。何と言われようが、それ以上ここに滞在するつもりは無い」
「ふ~ん、ま、良いや。じゃあまた遊びに来いよ。英雄さんなら顔パスにしておいてやるからさっ」
「む・・・・・・。顔、パス? とは一体何なのだ?」
「何だよそんな事も知らねぇのかよぉ。良いか? 顔パスってのはなぁ~? かくかく、しかじか、かくぅー」
「む、それでは『停戦協定』が・・・・・・」
「んな古い取り決めなんてどうでも良いんだよ! それに国王は俺だぜぇ? 俺が良いって言ったら良いんだよっ」
「む、ふむ・・・・・・。なるほ、ど?」
~(国王回想、終幕)~
「(ああああああっ!! 絶対あれだぁあああああっ! 歳を重ね過ぎたのもあるが、完っ全に忘れておったわぁああああああっ!! どうする? 今からにでも正直に皆に・・・・・・)」
「王よ!」
「え?」
「最早一刻の猶予もありませぬ! お命じ下されば、我等はいつでも事態の収拾にあたる所存!!」
「(・・・・・・むっりぃいいいいいいいっ!! こんなに皆がやる気に満ち満ちている状況で今更、『あ、それワシの所為』、とか絶対言えない!! ワシにはそんな度胸も無ければ根性なんて皆無であるからしてぇえええええええ!!)」
「王よ! ご決断を!!」
頭を抱え続ける国王に対し、炎帝が代表して国王に下知を求めた。
「え、えぇと・・・・・・、う、うむ。好きにするが、良い!」
「「「「「――――はっ!」」」」」
国王のその言葉に帝等全員が一斉にバタバタと部屋を後にしていく。
私とレイフォードも退室しようとしたその時、ふと目に入った国王の表情は、どこか沈んでいるようにも見えた。
「(うぅわ、どうしようどうしようっ。好きにしろとか言ってもうた所為で皆行ってしもうたではないか! うああああっ、これは早いうち、皆に説明せねば・・・・・・っ)」(※本音)
私はその表情を見て思った。黒竜、バハムートとはやはり、このエスタニアにおける最大戦力である帝等全員が束になってかかっても勝利出来るかどうかすら危うい、のだと。
「(そ、そうさっ。今日が無理でも明日になれば、きっとワシだってほんの少しの勇気が・・・・・・っ)」(※現実)
だからもし、敵に回るような事があれば、それ程にまで強大な相手になりうるのだろう・・・・・・。
我等が王よ、お気持ちお察し致しました。微力ながらこのガルシア、全身全霊を持ってこの任務あたらせてもらいます!
「(・・・・・・とりあえず、娘達とケーキバイキング行こう)」(※逃避)
そうして、国王を除く全ての者が退出した。
「明日の事は~、明日に考える~」
その少しした後、上機嫌で歌いながら国王も部屋を後にしたのであった。
*************************************
戻って、零時達視点――――
「なあヴェル。そういやずっと聞きたかったんだが、『停戦協定』ってのがあるのに、何でお前は申請も無しにエスタニアに近づいたんだ? それも軍が出てくる程の距離まで」
「む? いや、どうやら我はあの国に関したら顔パス、というものらしいのでな。それでだ」
「は? 顔パス?」
正直、今の俺にはこいつが何を言っているのかが理解不能であった・・・・・・。
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父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。
友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」
貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。
「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」
耳を疑いそう聞き返すも、
「君も、その方が良いのだろう?」
苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。
全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。
絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。
だったのですが。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
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