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四章
そんな装備で大丈夫か? ・・・・・・十分だ
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「私もこれ書いてみたい!」
俺にとっては今すぐにも焼却処分したい例の本を、大事そうに両手で抱きしめるように抱えながら言う少女。
・・・・・・うん。書くな、とは言わないから、それ以外の内容にしてくれ。マジ頼む。
「へぇ。あなた、中々良い目をしてるじゃない」
少女の目を覗き込むようにして偉そうにそう言う貧乳。
何かむかつく光景だなこれ。
「あなた、名前は?」
「エ、エレナっ」
貧乳に名前を問われ、言葉に詰まりながらも必死に名乗るエレナ。
「そう、良い名前ね」
貧乳の態度に対し、やっぱむかつくなぁ、と思った俺は、
「私はミー「貧乳」よろしくね!」
名前を言う絶妙なタイミングで言葉を被せてやった。あー、きもちぃー。
「ちょっと! 一体どういうつもりよあなた!!」
「・・・・・・え? 俺、何かしたっけ?」
大事なところで言葉を被せられ、キレてくる貧乳に俺はもう一つの固有スキル、『すっとぼけ』を発動した。
「ひん、にゅう?」
おそらく言葉の意味を理解していないであろうエレナは、俺にその意味を聞いてくる。
「貧乳っていうのはね? 胸が貧相っていう意味で、このお姉さんの名前なんだよ?」
「え・・・・・・、そう、なの?」
意味がわかった途端、貧乳に同情の視線を向けるエレナ。
「違うわよ! 変な事吹き込まないで!!」
「ああ、でも安心しろよ? あいつはもうダメだけど、エレナちゃんはまだ希望があるからね?」
そう言い、ぐっ、とエレナに親指を突き出す俺。
「・・・・・・。・・・・・・・・・・っ!?」
俺の言った言葉に一瞬首を傾げるエレナであったが、すぐに顔を真っ赤にして自分の胸をバッ、と両手で隠した。
「それ、普通にセクハラ発言だからね・・・・・・」
「え、どこが・・・・・・」
周りを見ると、貧乳だけでなく、その場に居た女性陣全員から俺に向けて軽蔑にも良く似た視線が送られていた。
え、どうして? 何故に? ホワァイ・・・・・・。
貧乳で遊び過ぎた所為か、いつの間にか俺は、知らず知らずの内にとんでもない地雷を踏んでしまったらしい。
全く、女性の扱いは難しいぜ・・・・・・。
「良い? この失礼な奴は最低クズロリコン野郎。もうわかってるとは思うけど、名前のとおり危ない変態だから気を付けてね?」
「なっ、何勝手に間違った名前を教えてんだよ! マジでそれで覚えちまったらどうするつもりだ!!」
「はあ!? あなたが先に仕掛けて来た事でしょう!? これでおあいこですぅ!!」
もうこの短時間で何度目かわからない言い争いをしている内に、ソフィーちゃんが「こっち、が、零時様、で、そっち、が、ミーナさん、ですよ?」と、俺達の正しい名前をエレナに教えていてくれた。
その後、俺達の方へと向き直ったエレナは、
「はは、二人共仲が良いのね」
微笑みながらそう言った。
「「あ、すみません。それだけは本当にありえないので勘弁して下さい」」
その言葉に俺達は真顔で、全く同じタイミングで返す。
「むぅ・・・・・・。全く、いい加減にせぬか二人共」
そんな俺達に対し、ほとほと呆れた様子のヴェルが止めに入って来た。
「今はそんなくだらぬ事で言い争っておる場合ではなかろうて。もう後数刻で日が沈む、その前にやらんといかん事など山程あるのだぞ?」
「「「「と、言うと?」」」」
全員の声が被る。
「む、まず行く道が決まった以上、少しでも距離を稼ぐ事。そして何よりも重要なのは食料の調達」
「「「「食料?」」」」
またも被る。
「うむ、これだけ人数が増えたのだ。我が持つ食料では到底足りん。このままでは少なくともこの中の三人は夕飯は無しになるであろうな」
「「「「――――っっ!!」」」」
「む、そこで、だ。考えたのだが、働かざるもの食うべからずという言葉があるであろう? 夕飯を欲すると申すのであれば、道中で各々が協力して食材を入手し、我の下へと持って来るが良い。そうすれば、我がその食材をどのようにでも調理してやろうではないか。どうだ? これであるなら少しはやる気が沸いては来ぬか?」
「・・・・・・おもしれぇ」
ヴェルのその提案に、俺はぼそりと一言そう呟く。
「・・・・・・おい、貧乳。まさかこの状況でまだ野蛮だとか何とか抜かすつもりじゃねぇだろうな? 協力だぞ? 勿論わかってるよな?」
「・・・・・・あら、何の事かしら? 私は一度だってそんな事口にしていないわよ? それに、美味しいお肉を食べられるのなら協力だろうが何だろうがしてやろうじゃないの」
「・・・・・・肉っ」
ゴゴゴゴ・・・・・・ッ、と夕飯に対する熱意を表に出しまくる俺達三人。
「で、でも私、狩りをした事なんて一度も・・・・・・」
そんな俺達とは裏腹に、エレナはどこか不安そうにそう言った。
「なら、お肉はあのお兄さん達に任せて、エレナは私と一緒に野菜とか果物でも探しましょうか」
「うんっ!」
「うむ、決まったな。これでようやく、この地を発つ事が出来る・・・・・・」
「ああ、すぐに出発だ。準備は、良いな・・・・・・?」
「ええ・・・・・・」
「ニヤ・・・・・・」
俺の言葉と同時に、貧乳はレイピアを、ソフィーちゃんは大剣を、そして俺はそこら辺に落ちている鉄パイプを拾って(武器を持っていない為)構えた。
「「「フフ、フフフ、フフフフフフフ・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
「「「・・・・・・・・・・」」」
ドス黒いオーラを放ちながら建物の出口に向かう俺達を、冷めた視線で見つめるヴェル、ファフニール、エレナ。
「さあ、狩りの時間だ・・・・・・」
そうして、俺達はこのゲイム、亡者の町を後にしたのだった。
*************************************
時は少し遡り、零時がまだヴェルガルドと契約して間もない頃の〈エスタニア王国〉では――――
あれからエスタニアへ帰還したガルシアは、帰還早々レイフォードに黒竜についての事を任せ、ガルシア自信もすぐ王城へと向かい、国王、そしてこの〈エスタニア王国〉の最大戦力と言える帝等に謁見をし、今回起きた事態の全てを報告した。
その結果、現状では黒竜と謎の男についてはまだ何もわかってはいなかった為、一先ずは国の警備の強化をするという対策のみでその日の会議は終了し、どちらかの正体がわかり次第、もう一度話し合いの場が設けられる事となった。
その日の晩、ガルシアは街の酒屋で一人、酒を飲みながら男が出した謎の防御障壁の事について考えていた。
・・・・・・あの防御障壁、全くの無傷だった。それも五十人もの総攻撃を受けたにも関わらず、だ。
〈光系統〉の魔法障壁に似てはいたが、あれだけの上級魔法による攻撃を受けては同じ上級、いや、例え極級クラスの障壁でも傷やヒビの一つくらいは入るはず・・・・・・。
だとしたら、それはもう神位級か、神滅級クラスの防御障壁という事になる。
「はっ、とんだ化け物に遭遇してしまったって事か? こりゃ・・・・・・」
そう言い、グビッ、とグラスに残る酒を飲み干す。
「おう、良い飲みっぷりじゃねぇか隊長さん」
そうカウンターの中から私に話しかけて来たのは、この店のマスターのアニキンニクンさん。
名前のとおり、筋肉ムキムキで兄貴肌な人だ。
正直、アニキンニクンというのは呼び辛いので、私は略してアニキさんと呼んでいる。
「一体どうしたよ。さっきから難しい顔ばっかしてるぜ?」
「いや、今日の仕事で少し不可解な事があってな。それを考えていたんだ」
「ほー。確かに、軍の仕事は色々と大変って聞くしなー。ま、そういう時もあらぁな」
そしてアニキさんは私の目の前に新しいグラスをスッ、と置いてきた。
「ん? アニキさん、私はおかわりを頼んだ覚えは無いんだが・・・・・・」
「それはサービスだ。いつもうちを贔屓にしてもらってるしな。それに、」
「それに?」
「これは俺のやり方だけどな? 悩んで、必死になって考えて、それでも解決しない時はとりあえず美味い酒を飲む! そうすりゃあ、不思議と頭が冴えてくんだよ」
ハッハッハッ、と笑いながら私にそうアドバイスをくれるアニキさん。
「ははは、その方法で効果があるのはアニキさんだけだと思うけどな」
「まあまあ、そう言わずに一回試してみろって。今なら俺の上腕二頭筋もセットで触らせてやるぜ?」
「あ、それは遠慮しておく」
マッスルポーズをしながらきゅっきゅっ、と自慢の筋肉を披露してくるアニキさんに、私はそう即答した。
「かーっ、連れねぇなぁ隊長さんは」
「アニキさんが少し特殊なだけだよ。普通なら皆同じ反応をする」
「ひゅー、言ってくれるねぇ」
二人してそんな他愛も無い雑談をしていると、
「――――あっ! ガルシア隊長、やはりここでしたか!!」
レイフォードがバンッ、と勢い良く扉を開け、私の名前を呼びながら入って来た。
「んん? 誰だあいつは。隊長さんの知り合いか?」
アニキさんはレイフォードの方を睨みつけるように凝視しながら私に問いかけてくる。
「あ、ああ、すまない。あれはメイジ隊に在籍する私の部下だ。それと扉だが、もし壊れていたら私が弁償させてもらうから安心してくれ」
「ん? ああ、それは別に構わねぇよ。扉なんざ壊される事はしょっちゅうだからな」
・・・・・・慣れというものは怖いな。
「あのっ、ガルシア隊長! これ――」
「その前に、ここの店主に何か言う事があるだろう。いくら慌てていたとはいえ、あのような野蛮な店の入り方はとても褒められたものではないぞ?」
レイフォードが妙に慌てた様子で鞄から一枚の紙を取り出し、こちらに来ようとするところを私はそう言葉でレイフォードを止めた。
「あ、突然大きな音を立ててしまってすみませんでした」
素直に謝るレイフォードにアニキさんは「ああ、気にすんな気にすんな」と言って笑顔で許してくれた。
「よし。で、一体どうした、レイフォード」
「あ、はい! 頼まれていた例の黒竜の正体がわかったんです、けど・・・・・・」
「何!? それは本当か!!」
「はい・・・・・・。隊長、その前に一つ確認なのですが、隊長は我々があの黒竜を退けたと言っていましたよね?」
「ああ、確かにそう言ったが」
私はその時、レイフォードの様子が何かおかしいと悟った。
顔も段々と青ざめていくのが見てとれる。
「大丈夫か、レイフォード」
心配になった私はレイフォードにそう声をかける。すると、
「た、隊長。我々は、とんでもない化け物を相手にしていたようです・・・・・・」
「それは、どういう」
そして、レイフォードは私に黒竜についての報告を続けた。
「例の黒竜の名は、バハムート。黒炎を操る、神滅級の使い手です・・・・・・っ」
「なん、だと・・・・・・っ。という事は・・・・・・」
「・・・・・・そうです。我々は黒竜を『退けた』のではなく、『見逃してもらった』という事です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
神滅級。そんな化け物を本当に相手にしていたのかと思うと、私は血の気が引き、冷や汗が止まらなかった。
*************************************
〔パーティーに新たなメンバーが正式に加わりました〕
『レイリアス・ファフニール』
『竜種』・年齢不詳・ヤンデレ
『エレナ』
黒炎使い・13歳・まさかの腐
〔あ、ヴェルガルドについてはまだでしたのでついでに〕
「む、ついで!? 我はついでであるか!?」
『ヴェルガルド・バハムート』
「無視!?」
〔以上〕
「嘘っ! 終わり!? 我に対する扱いが酷過ぎるのではないか!?」
〔・・・・・・・・・・ちっ〕
「何故そこで舌打ち!?」
えー、黒炎使いじじい花お化け、以上
「むっ!? じじいはまだ良いとして、花お化けとは一体何なの――」
〔それでは皆さん、またお会いしましょう。バイバ○キーン〕
「むっ、ちょ、まっ――」
※ちなみにガルシアはメンズです。
俺にとっては今すぐにも焼却処分したい例の本を、大事そうに両手で抱きしめるように抱えながら言う少女。
・・・・・・うん。書くな、とは言わないから、それ以外の内容にしてくれ。マジ頼む。
「へぇ。あなた、中々良い目をしてるじゃない」
少女の目を覗き込むようにして偉そうにそう言う貧乳。
何かむかつく光景だなこれ。
「あなた、名前は?」
「エ、エレナっ」
貧乳に名前を問われ、言葉に詰まりながらも必死に名乗るエレナ。
「そう、良い名前ね」
貧乳の態度に対し、やっぱむかつくなぁ、と思った俺は、
「私はミー「貧乳」よろしくね!」
名前を言う絶妙なタイミングで言葉を被せてやった。あー、きもちぃー。
「ちょっと! 一体どういうつもりよあなた!!」
「・・・・・・え? 俺、何かしたっけ?」
大事なところで言葉を被せられ、キレてくる貧乳に俺はもう一つの固有スキル、『すっとぼけ』を発動した。
「ひん、にゅう?」
おそらく言葉の意味を理解していないであろうエレナは、俺にその意味を聞いてくる。
「貧乳っていうのはね? 胸が貧相っていう意味で、このお姉さんの名前なんだよ?」
「え・・・・・・、そう、なの?」
意味がわかった途端、貧乳に同情の視線を向けるエレナ。
「違うわよ! 変な事吹き込まないで!!」
「ああ、でも安心しろよ? あいつはもうダメだけど、エレナちゃんはまだ希望があるからね?」
そう言い、ぐっ、とエレナに親指を突き出す俺。
「・・・・・・。・・・・・・・・・・っ!?」
俺の言った言葉に一瞬首を傾げるエレナであったが、すぐに顔を真っ赤にして自分の胸をバッ、と両手で隠した。
「それ、普通にセクハラ発言だからね・・・・・・」
「え、どこが・・・・・・」
周りを見ると、貧乳だけでなく、その場に居た女性陣全員から俺に向けて軽蔑にも良く似た視線が送られていた。
え、どうして? 何故に? ホワァイ・・・・・・。
貧乳で遊び過ぎた所為か、いつの間にか俺は、知らず知らずの内にとんでもない地雷を踏んでしまったらしい。
全く、女性の扱いは難しいぜ・・・・・・。
「良い? この失礼な奴は最低クズロリコン野郎。もうわかってるとは思うけど、名前のとおり危ない変態だから気を付けてね?」
「なっ、何勝手に間違った名前を教えてんだよ! マジでそれで覚えちまったらどうするつもりだ!!」
「はあ!? あなたが先に仕掛けて来た事でしょう!? これでおあいこですぅ!!」
もうこの短時間で何度目かわからない言い争いをしている内に、ソフィーちゃんが「こっち、が、零時様、で、そっち、が、ミーナさん、ですよ?」と、俺達の正しい名前をエレナに教えていてくれた。
その後、俺達の方へと向き直ったエレナは、
「はは、二人共仲が良いのね」
微笑みながらそう言った。
「「あ、すみません。それだけは本当にありえないので勘弁して下さい」」
その言葉に俺達は真顔で、全く同じタイミングで返す。
「むぅ・・・・・・。全く、いい加減にせぬか二人共」
そんな俺達に対し、ほとほと呆れた様子のヴェルが止めに入って来た。
「今はそんなくだらぬ事で言い争っておる場合ではなかろうて。もう後数刻で日が沈む、その前にやらんといかん事など山程あるのだぞ?」
「「「「と、言うと?」」」」
全員の声が被る。
「む、まず行く道が決まった以上、少しでも距離を稼ぐ事。そして何よりも重要なのは食料の調達」
「「「「食料?」」」」
またも被る。
「うむ、これだけ人数が増えたのだ。我が持つ食料では到底足りん。このままでは少なくともこの中の三人は夕飯は無しになるであろうな」
「「「「――――っっ!!」」」」
「む、そこで、だ。考えたのだが、働かざるもの食うべからずという言葉があるであろう? 夕飯を欲すると申すのであれば、道中で各々が協力して食材を入手し、我の下へと持って来るが良い。そうすれば、我がその食材をどのようにでも調理してやろうではないか。どうだ? これであるなら少しはやる気が沸いては来ぬか?」
「・・・・・・おもしれぇ」
ヴェルのその提案に、俺はぼそりと一言そう呟く。
「・・・・・・おい、貧乳。まさかこの状況でまだ野蛮だとか何とか抜かすつもりじゃねぇだろうな? 協力だぞ? 勿論わかってるよな?」
「・・・・・・あら、何の事かしら? 私は一度だってそんな事口にしていないわよ? それに、美味しいお肉を食べられるのなら協力だろうが何だろうがしてやろうじゃないの」
「・・・・・・肉っ」
ゴゴゴゴ・・・・・・ッ、と夕飯に対する熱意を表に出しまくる俺達三人。
「で、でも私、狩りをした事なんて一度も・・・・・・」
そんな俺達とは裏腹に、エレナはどこか不安そうにそう言った。
「なら、お肉はあのお兄さん達に任せて、エレナは私と一緒に野菜とか果物でも探しましょうか」
「うんっ!」
「うむ、決まったな。これでようやく、この地を発つ事が出来る・・・・・・」
「ああ、すぐに出発だ。準備は、良いな・・・・・・?」
「ええ・・・・・・」
「ニヤ・・・・・・」
俺の言葉と同時に、貧乳はレイピアを、ソフィーちゃんは大剣を、そして俺はそこら辺に落ちている鉄パイプを拾って(武器を持っていない為)構えた。
「「「フフ、フフフ、フフフフフフフ・・・・・・・・・・・・・・・・」」」
「「「・・・・・・・・・・」」」
ドス黒いオーラを放ちながら建物の出口に向かう俺達を、冷めた視線で見つめるヴェル、ファフニール、エレナ。
「さあ、狩りの時間だ・・・・・・」
そうして、俺達はこのゲイム、亡者の町を後にしたのだった。
*************************************
時は少し遡り、零時がまだヴェルガルドと契約して間もない頃の〈エスタニア王国〉では――――
あれからエスタニアへ帰還したガルシアは、帰還早々レイフォードに黒竜についての事を任せ、ガルシア自信もすぐ王城へと向かい、国王、そしてこの〈エスタニア王国〉の最大戦力と言える帝等に謁見をし、今回起きた事態の全てを報告した。
その結果、現状では黒竜と謎の男についてはまだ何もわかってはいなかった為、一先ずは国の警備の強化をするという対策のみでその日の会議は終了し、どちらかの正体がわかり次第、もう一度話し合いの場が設けられる事となった。
その日の晩、ガルシアは街の酒屋で一人、酒を飲みながら男が出した謎の防御障壁の事について考えていた。
・・・・・・あの防御障壁、全くの無傷だった。それも五十人もの総攻撃を受けたにも関わらず、だ。
〈光系統〉の魔法障壁に似てはいたが、あれだけの上級魔法による攻撃を受けては同じ上級、いや、例え極級クラスの障壁でも傷やヒビの一つくらいは入るはず・・・・・・。
だとしたら、それはもう神位級か、神滅級クラスの防御障壁という事になる。
「はっ、とんだ化け物に遭遇してしまったって事か? こりゃ・・・・・・」
そう言い、グビッ、とグラスに残る酒を飲み干す。
「おう、良い飲みっぷりじゃねぇか隊長さん」
そうカウンターの中から私に話しかけて来たのは、この店のマスターのアニキンニクンさん。
名前のとおり、筋肉ムキムキで兄貴肌な人だ。
正直、アニキンニクンというのは呼び辛いので、私は略してアニキさんと呼んでいる。
「一体どうしたよ。さっきから難しい顔ばっかしてるぜ?」
「いや、今日の仕事で少し不可解な事があってな。それを考えていたんだ」
「ほー。確かに、軍の仕事は色々と大変って聞くしなー。ま、そういう時もあらぁな」
そしてアニキさんは私の目の前に新しいグラスをスッ、と置いてきた。
「ん? アニキさん、私はおかわりを頼んだ覚えは無いんだが・・・・・・」
「それはサービスだ。いつもうちを贔屓にしてもらってるしな。それに、」
「それに?」
「これは俺のやり方だけどな? 悩んで、必死になって考えて、それでも解決しない時はとりあえず美味い酒を飲む! そうすりゃあ、不思議と頭が冴えてくんだよ」
ハッハッハッ、と笑いながら私にそうアドバイスをくれるアニキさん。
「ははは、その方法で効果があるのはアニキさんだけだと思うけどな」
「まあまあ、そう言わずに一回試してみろって。今なら俺の上腕二頭筋もセットで触らせてやるぜ?」
「あ、それは遠慮しておく」
マッスルポーズをしながらきゅっきゅっ、と自慢の筋肉を披露してくるアニキさんに、私はそう即答した。
「かーっ、連れねぇなぁ隊長さんは」
「アニキさんが少し特殊なだけだよ。普通なら皆同じ反応をする」
「ひゅー、言ってくれるねぇ」
二人してそんな他愛も無い雑談をしていると、
「――――あっ! ガルシア隊長、やはりここでしたか!!」
レイフォードがバンッ、と勢い良く扉を開け、私の名前を呼びながら入って来た。
「んん? 誰だあいつは。隊長さんの知り合いか?」
アニキさんはレイフォードの方を睨みつけるように凝視しながら私に問いかけてくる。
「あ、ああ、すまない。あれはメイジ隊に在籍する私の部下だ。それと扉だが、もし壊れていたら私が弁償させてもらうから安心してくれ」
「ん? ああ、それは別に構わねぇよ。扉なんざ壊される事はしょっちゅうだからな」
・・・・・・慣れというものは怖いな。
「あのっ、ガルシア隊長! これ――」
「その前に、ここの店主に何か言う事があるだろう。いくら慌てていたとはいえ、あのような野蛮な店の入り方はとても褒められたものではないぞ?」
レイフォードが妙に慌てた様子で鞄から一枚の紙を取り出し、こちらに来ようとするところを私はそう言葉でレイフォードを止めた。
「あ、突然大きな音を立ててしまってすみませんでした」
素直に謝るレイフォードにアニキさんは「ああ、気にすんな気にすんな」と言って笑顔で許してくれた。
「よし。で、一体どうした、レイフォード」
「あ、はい! 頼まれていた例の黒竜の正体がわかったんです、けど・・・・・・」
「何!? それは本当か!!」
「はい・・・・・・。隊長、その前に一つ確認なのですが、隊長は我々があの黒竜を退けたと言っていましたよね?」
「ああ、確かにそう言ったが」
私はその時、レイフォードの様子が何かおかしいと悟った。
顔も段々と青ざめていくのが見てとれる。
「大丈夫か、レイフォード」
心配になった私はレイフォードにそう声をかける。すると、
「た、隊長。我々は、とんでもない化け物を相手にしていたようです・・・・・・」
「それは、どういう」
そして、レイフォードは私に黒竜についての報告を続けた。
「例の黒竜の名は、バハムート。黒炎を操る、神滅級の使い手です・・・・・・っ」
「なん、だと・・・・・・っ。という事は・・・・・・」
「・・・・・・そうです。我々は黒竜を『退けた』のではなく、『見逃してもらった』という事です」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
神滅級。そんな化け物を本当に相手にしていたのかと思うと、私は血の気が引き、冷や汗が止まらなかった。
*************************************
〔パーティーに新たなメンバーが正式に加わりました〕
『レイリアス・ファフニール』
『竜種』・年齢不詳・ヤンデレ
『エレナ』
黒炎使い・13歳・まさかの腐
〔あ、ヴェルガルドについてはまだでしたのでついでに〕
「む、ついで!? 我はついでであるか!?」
『ヴェルガルド・バハムート』
「無視!?」
〔以上〕
「嘘っ! 終わり!? 我に対する扱いが酷過ぎるのではないか!?」
〔・・・・・・・・・・ちっ〕
「何故そこで舌打ち!?」
えー、黒炎使いじじい花お化け、以上
「むっ!? じじいはまだ良いとして、花お化けとは一体何なの――」
〔それでは皆さん、またお会いしましょう。バイバ○キーン〕
「むっ、ちょ、まっ――」
※ちなみにガルシアはメンズです。
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柚木ゆず
ファンタジー
ある日の、放課後のことでした。王立リザエンドワール学院に籍を置く私マリエスは、生徒会長を務められているジュリアルス侯爵令嬢ロマーヌ様に呼び出されました。
「生徒会の仲間である貴方様に、婚約祝いをお渡したくてこうしておりますの」
ロマーヌ様はそのように仰られていますが、そちらは嘘ですよね? 私は常に最愛の方に護っていただいているので、貴方様には悪意があると気付けるのですよ。
ロマーヌ様。まだ間に合います。
今なら、引き返せますよ?
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