うん、異世界!

ダラックマ

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三章

毒を操りし竜

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 森の上空をしばらく飛んでいる間に、ヴェルから白竜についての情報を教えてもらった。

 まずその白竜というのは、地球でも有名なあの『ファフニール』らしい。

 毒を吐くドラゴン。

 何でも、毒の息を吐くだけでなく、それを自身の身体に纏わせて猛毒の風の刃として放つ事も出来るそうな。

 しかも毒の種類は一つではなく、致死毒、麻痺毒、睡眠毒、神経毒、と言った様々な毒の息を使い分けるみたいだ。

 その事もあってか、もし何らかの理由で戦闘にでもなろうものなら、とてつもなく厄介な相手になる、とヴェルは言っていた。

 確かに、そんな相手に接近戦をしようものなら毒をその身に浴びる覚悟で仕掛けないとだし、かと言って遠距離戦に持ち込んだとしても、猛毒の刃が無数に飛んでくる。

 まあ、どんな毒が来ようとも固有ユニークスキル=〈異能力無限付加〉がある以上、俺にはあまり問題は無いのだが、他の三人はそうも言ってられない。

「む、見えたぞ。ゲイム、亡者の町だ」

 ならば俺達がとるべき手段は一つ、出来る限り戦闘には持って行かず、なるべく穏便に済ませる事。

「ここが・・・・・・」

「よし、降りるわよ」

「おうよ」

「む、了解した」

「は、い・・・・・・」

 俺達はゲイム、亡者の町へと降り立った。

「む・・・・・・、ついに、この地に足を踏み入れてしまったか・・・・・・」

 到着早々またも顔がどんどん青ざめていくヴェル。

「おい、大丈夫かヴェル」

 だが、俺はこの後知る事になる。ヴェルが何故ここまで嫌がっていたのか、何故この町が亡者の町と呼ばれ、誰も寄り付かないようになったのかを・・・・・・。

「・・・・・・・・・・っ!」

 そして、背後に気配を感じた俺が勢い良く振り返ると、そこに居たのは、



「あっんらーっ、空からこぉんな可愛い坊やとしっぶいオジ様が降って来るなんてぇ。やだっ、あたしったらツイてるわぁ~ん!」



 タイトワンピースに身を包んだ、超絶ガタイの良いおっさんだった・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・は?」

 そう、ゲイム、亡者の町とはすなわち・・・・・・、

「うっふんっ。バチコーンッ」(※ウインクの音です)

「――ギィヤァアアアアアアアアアアアッッッ!!」

 ホモの、楽園・・・・・・・・・・。

「ヴェ、ヴェル!」

 危険(主にケツの)を察知した俺はすぐさまヴェルの元へと駆け寄り、背中合わせの状態になる。

「おいヴェルっ、何なんだよここは!」

「むぅ・・・・・・、『ホモの』亡者の町だと何度も言っておろうが・・・・・・・・・・」

「いやっ、その頭に付いてるやつは初耳なんですがっ!?」  

 言ってる間にどこからともなく現れた何体ものおっさん達の亡霊が、俺達を囲んでいた。

 そして、「ケツを出せー、ケツを出せー」とか言いながら、じりじりと距離を詰めてくる。

「ひぃっ!」

 逃げようにも相手は亡霊。俺の攻撃が通じるのかどうかも定かではないし、飛んで空に逃げたとしてもヴェルと離れた瞬間に確実にヤられる・・・・・・っ! 何かそんな気がする!!

「ど、どうすれば・・・・・・。そ、そうだ、相手がホモだというのなら、貧乳達に道を切り開いてもらえば」

 そう思い、貧乳とソフィーちゃんに助けを求めるべく、二人が居る方に視線を向けると、

「・・・・・・あ、あは、これはまた、じゅるり。やはりここに来たのは正解ね、じゅるり」

「・・・・・・フンスカー、フンスカー」

 手でカメラの形を作り、キラキラと目を輝かせながらこちらを観察する彼女等の姿がそこにあった・・・・・・。

「――――何やってんだお前等っっ!!」

「見てわからないのっ!? 取材よ!!」 

「何のだよっっ!!」

 くそっ、貧乳だけでなく、まさかソフィーちゃんまで特殊な性癖の持ち主だったとはっ!

 こいつ等といい、この町のホモ亡霊連中といい、この世界にはもっとまともな奴は居ねぇのか!

 二人に助力を求めるのは早々に諦め、何か突破口は無いかと必死に考えていると、

「・・・・・・何やら外が騒がしいと思って来てみれば、お客さんかしら?」

 目の前の亡霊達の背後からそう女性の声が聞こえてきた。

「・・・・・・?」

 そして、その女性は俺達に群がるホモ亡霊達に向かって、

「ちょっと通してくれないかしら?」

 と言った瞬間、ザッ、とホモ亡霊達が目にも止まらぬ速さで女性に道を開けた。

「うふっ、どうぞ姉さん。でも姉さんが外に出てくるなんて、一体どういう風の吹き回し?」

 その中の一人が女性に問いかける。

「言ったでしょ? 騒がしかったからちょっと気になって出て来たのよ。それに、知っている声が聞こえてきたような気もした・・・・・・・・・・か、ら?」

女性は話している最中に何かに気付いたのか、俺達の方を凝視しながらその場で固まっていた。

「ヴェ、ヴェ・・・・・・」

何かしらの確信を得られたのか、女性は、

「ヴェルガルドぉおおおおおお!! んんっ、とうっ!」

「い・・・・・・っ!?」

 ヴェルの名を叫びながらこちらへ全力疾走で駆け寄り、俺の一歩手前で飛び上がる。

「シュタッ!」

「む・・・・・・・・・・っ」

 そして、ヴェルの前に着地すると、振り返りざまに勢い良くヴェルに向かって抱きついた。

「ああっ、ヴェルガルド! 本物のヴェルガルドぉ!!」

 すりすりすりすりっ、と顔をヴェルの胸に擦り付ける女性。

「むぅ! えぇいっ、離れんか!」

 それを必死に引き剥がそうとするヴェル。

 えー、てかヴェル良いなぁ。マジ裏山・・・・・・。

「・・・・・・っ、毎度毎度と、いちいち抱きつかんとお前は気が済まぬのかっ、ファフニール!!」

 え・・・・・・っ? ファフニール??

「ああんもう、ヴェルガルドのい、け、ずぅ~。 久しぶりなんだからこのくらい良いじゃない~」

「む・・・・・・っ、久方ぶりなのは誰の所為だと・・・・・・っ」

 え、てか、ちょ、ちょっと待って! そんなに動かれると俺のケツが無防備に・・・・・・っ!

 俺がマイヒップを何とか守りきろうと必死になっていると、

「なぁんだ、その子達姉さんのお知り合いだったのねん。なら手を出す訳にもいかないし、私達はここいらで退散させてもらうわ~ん」

 あのタイトワンピースのホモ亡霊がそう言い踵を返した。

 そして、それについて行くかのように他の亡者達も次々と俺達に背を向ける。

「一体、何が・・・・・・」

「またねん、ぼ、う、やっ」

 ん~むちゅっ、と最後に俺に向かって投げキッスをした後、ホモ亡霊達は完全に姿を消したのだった。

「助かった、のか・・・・・・・・・・?」

 何故突然ホモ亡霊達が引いたのか、疑問ではあったが、それよりも今は自身の(何とまでは言わないが)大切なものを守りきる事が出来た事に対しての安堵の方が勝った。

「はぁん、ヴェルガルド、ヴェルガルドぉ」 

「むぅううっ、離れっ、鬱陶しいわぁ!!」

 未だに攻防を繰り広げている二人。

「えーと、ヴェルさん? もしかしてこの人が?」

 俺は先程ちらっと聞こえてきた事が真実なのかどうかをヴェルに確認する。

「・・・・・・むっ? あ、ああこやつが我が探していたファフニール、だあっ!」

 言い終える前に勢いに負けたヴェルは体制を崩し、その場に座りこけた。

「うふ、うふふ。探してくれていただなんて、そぉんなに私に会いたかったのね、ヴェルガルドぉん。 私も会いたかったわ~」

 ・・・・・・・・・・イラッ、ズゴンッ!

「イタッ! む、何故我を殴るのだ、レイジ!」

「いや、何か無性に腹が立ってな? 気付いたら殴ってた」

「理不尽!!」

「ボクマダコドモダカラムズカシイコトバワカラナイヤー」

「む・・・・・・・・・・、お、おいレイジ? 何をするつもりなの、だ・・・・・・・・・・?」

 真顔+棒読みでそんな事を言われた後、頭上でパキパキと指を鳴らされ、身の危険を感じるヴェル。

「安心してくれヴェル。あと一発だから、一発で、全てを終わらせるから・・・・・・」

「は、えっ!? 終わらせる、というのは一体何を終わらせるつもりなのだ!?」

「・・・・・・しっかり避けろよ? でないと、死ぬぞ?」

「――いやっ、動けない相手にかける言葉ではないぞそれはっ!!」

「ショ○~~~~ッ!!」

「お、落ち着くのだレイジ! せめて話をっ」

「シャ○アアアアアアアアオッッ!!」

 ヴェルの制止空しく放たれる俺の拳。だが、

「――――っっ!?」

 そのまま直撃するかと思われた俺の一撃は、拳がヴェルに届く寸前で女性、いやファフニールによって防がれてしまった。

「ヴェルガルドを傷つける事は、私が許さない・・・・・・・・・・っ」

 尋常ならぬ殺気を俺に向けて放つ。そして、

「・・・・・・はっ!」

 ヴェルに覆い被さったまま、人型から竜の姿に戻るファフール。

「な、何事ですかこれは!」

「あ、あのあの、これは、一体?」

「見ての通り、例の白竜さんがご立腹みたいなんだよ。てか、今までの事見てなかったのか?」

 俺のその問いに二人は、

「い、いや~、少しネタちょ、報告書を纏めるのに時間がかかってね」

 はい、ダウト。思いっきりネタ帳って言いかけてたし、それにその手に掴んでる薄い本が何よりの証拠だ。

「あ、あのあの、信じて下、さい、零時様。私、はしっかりと、見て、いましたからっ」

 うーん、色々と矛盾しまくりだけど、まあ可愛いからセー、

「・・・・・・・・・・ニヤ」

 あ、やっぱりダウト。俺は見逃しはしなかったよ? 可愛さで頬が緩んだ俺を見てダークソフィーちゃんが顔を出したのを。それが君の敗因さ。

 まあそんな事はさておき、今は目の前に居るファフニールを何とかしないとなのだが、

「・・・・・・名乗りなさい。その後でヴェルガルドに手を出そうとした事、たくさん後悔させてあげるから」

 ・・・・・・うん、ファフニールを何とかする前に、こっちが何とかされちゃいそう。

 だって俺達三人があれやこれやとやっている内に、奴さんは既に毒の息を身に纏いっていて、バチバチに戦闘の意思を俺に投げかけてきているのだから。

 てか、あいつの下に居るヴェル大丈夫なのかね。あれだとモロに毒を浴びてるような・・・・・・。

「ふっ、ヴェルガルドの事なら心配いらないわ。絶対的な愛の前には私の毒なんて全く意味を成さないのだから!」

 ちょ、さり気なく俺の心を読むな。

 それにどういう理屈だよ、それ。
 
「はあ、仕方ねぇか・・・・・・・・・・。零時だ」

 ゲームとかでよくある毒マークが思いっきりヴェルから出ているのを見て、しぶしぶ名乗る事にした俺。

 このまま長引かせるとヴェルがマジでヤバい事になりそうだったしな。

「そう、私はレイリアス・ファフニール。さあレイジ、私の毒に犯される覚悟は良いかしら?」

「畜生! その毒っていう言葉が無ければ大歓迎だったんだけどな!」

 そうして、どうしても避けたかった戦闘が今、幕を開けた。
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