うん、異世界!

ダラックマ

文字の大きさ
上 下
19 / 77
三章

楽しいお空の時間

しおりを挟む
 人生とは、何をしても上手くいかない事の方が多い、と大人達は口を揃えてよく言っていた。

 だが、俺はその言葉に対してあまり関心を持てず、理解が出来なかった。何故ならば、大人達に大事な事だからと耳にタコが出来る程に言い聞かされてきた結果、その言葉に重みを感じなくなり、深くその言葉について考えなくなってしまっていたからだ。

 しかし、今の俺にはそれが痛い程に理解出来る。

「――ッ! ――ッ!」

 そう、若干拉致気味にこの異世界に呼ばれてからと言うもの、思い通りに事が進んだのは〈異能力無限付加〉という反則並みの能力を手に入れた時ぐらいだからだ。

 あ、後は黒竜を説得出来た事もそうか。

「――ッ! ――ッ!」

 だが、果たしてあれは説得出来た、と言っても良いのだろうか。・・・・・・いや、良くないな、訂正しよう。

 もし説得が成功していて、しっかりとこの黒竜が理解していたのであれば、今頃は悠々とこの黒竜の背に乗って空の旅を満喫していたはずなのだから・・・・・・。

「――ッ! ――ッ!」

 さてお気づきかとは思うが、俺は事前に決めていた通り、先程からこの黒竜に対して必死に止まるよう指示を出している。なのに何故未だに俺がこの史上最悪の絶叫マシンに身柄を拘束されているのかというと、

「もう結構離れたが、まだ飛ぶのか少年―っ!」

「――ッ! ――ッ!」

 ・・・・・・そう、俺の中では指示を出しているつもりが、実際はもの凄い風圧の所為で上手く声が出せていなかったという、何とも悲しい事態に陥っていたのだ。

「少年―っ!?」

 返事が無い、というか返事が聞こえていない黒竜は、俺に何度も聞き返す。

「――――――――ッッ!!」

 それに対し、俺も全力で指示を出そうと試みるが、やはり黒竜に言葉は届かない。

「(こう、なったら・・・・・・っ)」

 付加っ、『念話テレパシー』!

 声も届かない、それに身体も動かせない。このままだと風圧で俺の首がポッキリといくバッドエンドルートしか確実に見えなかった俺は、『念話テレパシー』を付加してこいつの頭の中に直接指示をぶち込む事にした。

『止まってええええっっ!!』

「――――ッッ!?」

 突然頭の中に声が響いた黒竜は、驚きながらもその巨体を急停止させる。

「――おぅぶっ」

 その衝撃で一瞬意識が飛びそうになったが、何とか耐え抜いた。

「・・・・・・む、今の声は、少年か?」

「はあ、はあ・・・・・・。そうだよ、ようやく止まりやがったなこん畜生が・・・・・・」

 普通に何事も無かったかのように聞いてくる黒竜に、俺は悪態まじりにそう答えた。

「とりあえず降ろしてくれるか? これだけ離れればもう大丈夫だろうし」

「む、了解した」

 そう言うと、近くの岩場にゆっくりと降下し、俺を解放する。

「それにしても驚いたぞ少年、まさか念話魔法で指示を出してくるとはな。流石の我も予想外であったぞ」

「・・・・・・・・・・」

 予想外も何も、そうせざるを得ない状況にしたのは貴方なんですけどね。などと、そんな事を思いながら俺はこの黒竜に対し、じと~っ、とした視線を送る。

 すると、その視線に気付いてなのか、それとも気付かずなのかはわからないが、

「それと少年よ、一つ問いたい。一体少年はどのようにして我に念話を飛ばす事が出来たのだ?」

 と、突然俺にそんな質問をしてくる黒竜。

「? どうやってって、普通に?」

 俺はその質問に短くそう答える。

「む、嘘を言うでない少年。何も無しに出会ったばかりの相手に念話を飛ばすなど、普通はありえぬ事くらい少年も知っておるだろう?」

 いや、知らねぇし。完全に初耳学だわ、それ。

「本当は何か仕掛けがあるのではないか?」

 そんな事言われてもなぁ・・・・・・。

 実際、本当に何も無いんだよなこれが。俺はただ付加した『念話テレパシー』能力を普通に使っただけだし、他に説明のしようが、うーん・・・・・・。

「・・・・・・。てか、そのありえないってのはどういう意味なんだ?」

 挙げ句、考えるのに疲れた俺は質問に質問で返す事にした。

「む・・・・・・、それは本気で言っておるのか? 本当に知らぬのか? 少年」

「本当の本気で知らん」

 黒竜のその言葉にきっぱりとそう言い切る俺。

「むぅ、そうであったか。しかし『停戦協定』の事といい、飛翔、障壁、念話、あれだけ魔法を扱えてこのような事も知らぬとは・・・・・・」

 何だか凄いバカにされているような気分だな。いや、バカにされているのか、これ。

「まあ良かろう。我も他人の詮索をするのはあまり好まぬし、知らぬ理由は聞かぬ事にしておこう」

 おいおい、そこは無理にでも聞いてくれよ。でないと俺がバカにされたままになっちまうじゃねぇか。

 あーくそっ、仕方無い、確実に色々聞かれて面倒くさい事にはなるが、名誉挽回の為にここは俺が異世界から来たという事をこの黒竜に・・・・・・、

「それで少年よ、ありえぬ理由というのはだな」

「あ、はい」

 話させてもらえませんでした。何てこった、畜生。

「念話魔法というのは基本的に、契約、言うなれば主従関係を結んでいる者等か、専用の魔法具を互いに所持している者等にしか使用出来ない魔法なのだ」

 ほう、つまりはシンから聞いた転移魔法みたいなもんか。どうやらこの世界では、魔法具とやらが便利系魔法にとって必要不可欠らしい。

「故に何も無しに、というのはありえぬのだ」

「なるほどな、理由は良くわかった。だからお前は、俺が念話を飛ばせた事に対してあんなに疑問に思っていたって訳か」

「む、そうだ。無論、少年と我は契約などしてはおらぬし、かと言って魔法具を持たされた形跡も無い。なのに何故、少年は我に念話を飛ばす事が出来たのか、もし我の知りえぬ方法でそれを可能にしたというのであれば、教えてはくれぬだろうか」

 妙に方法について真剣に聞いてくる黒竜。

「別にそれは良いけど、そんな事よりお前には他にやらないといけない事があったんじゃないのか? ほら、何か俺に聞きたい事があるって言ってたし」

「それが、その件に大いに役立つかもしれぬのだ。故に頼む、少年」

「役立つ? 念話が?」

「む、ああ。我は今人探し、というより竜探しをしておってな。ちなみに少年よ、ここ最近で白竜を見かけた事は無かったか?」

「いや、竜を見たのはお前が初めてだが?」

「む、そうか。それならば、良いのだ」

 見るからに落胆する黒竜に対し、悪いと思いつつも俺は加えて言った。

「それと念話テレパシーについてなんだけどな、あれは魔法じゃなくて俺の固有ユニークスキルで手に入れた異能力なんだよ。そしてこの能力はおそらく俺が知っている奴にしか使えない。だからあまり役には立てそうにないんだ。悪い」

「む、そう、であったのか。いや、我の方こそ重ね重ねすまなかったな少年よ」

 黒竜はそう返答し、この場を去ろうと馬鹿でかい翼を広げる。

 だが、それに対し俺は、

「・・・・・・・・・・ちょっと待ってくれ。一つ、俺に提案があるんだが」

 とそう言い、去ろうとする黒竜を呼び止めた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

虐げられ令嬢の最後のチャンス〜今度こそ幸せになりたい

みおな
恋愛
 何度生まれ変わっても、私の未来には死しかない。  死んで異世界転生したら、旦那に虐げられる侯爵夫人だった。  死んだ後、再び転生を果たしたら、今度は親に虐げられる伯爵令嬢だった。  三度目は、婚約者に婚約破棄された挙句に国外追放され夜盗に殺される公爵令嬢。  四度目は、聖女だと偽ったと冤罪をかけられ処刑される平民。  さすがにもう許せないと神様に猛抗議しました。  こんな結末しかない転生なら、もう転生しなくていいとまで言いました。  こんな転生なら、いっそ亀の方が何倍もいいくらいです。  私の怒りに、神様は言いました。 次こそは誰にも虐げられない未来を、とー

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、第一王子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

“元“悪役令嬢は二度目の人生で無双します(“元“悪役令嬢は自由な生活を夢見てます)

翡翠由
ファンタジー
ある公爵令嬢は処刑台にかけられていた。 悪役令嬢と、周囲から呼ばれていた彼女の死を悲しむものは誰もいなく、ついには愛していた殿下にも裏切られる。 そして目が覚めると、なぜか前世の私(赤ん坊)に戻ってしまっていた……。 「また、処刑台送りは嫌だ!」 自由な生活を手に入れたい私は、処刑されかけても逃げ延びれるように三歳から自主トレを始めるのだが……。

転生したらチートすぎて逆に怖い

至宝里清
ファンタジー
前世は苦労性のお姉ちゃん 愛されることを望んでいた… 神様のミスで刺されて転生! 運命の番と出会って…? 貰った能力は努力次第でスーパーチート! 番と幸せになるために無双します! 溺愛する家族もだいすき! 恋愛です! 無事1章完結しました!

生贄公爵と蛇の王

荒瀬ヤヒロ
ファンタジー
 妹に婚約者を奪われ、歳の離れた女好きに嫁がされそうになったことに反発し家を捨てたレイチェル。彼女が向かったのは「蛇に呪われた公爵」が住む離宮だった。 「お願いします、私と結婚してください!」 「はあ?」  幼い頃に蛇に呪われたと言われ「生贄公爵」と呼ばれて人目に触れないように離宮で暮らしていた青年ヴェンディグ。  そこへ飛び込んできた侯爵令嬢にいきなり求婚され、成り行きで婚約することに。  しかし、「蛇に呪われた生贄公爵」には、誰も知らない秘密があった。

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...