うん、異世界!

ダラックマ

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二章

一難去ってまた一難

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「どうされたのですか?」

 爺さんが真面目な声で尋ねてくる。

 それに対して俺は意を決し、爺さんにだけ現状を話した。

「アルドさん。まだ近くは無いですし、確証もありませんが、恐らく竜がこちらに真っ直ぐ向かって来ています」

「竜、ですか?」

「なので、お二人はすぐに馬車で出発して下さい。その間、俺が時間を稼ぎますから」

 本当はすっごくやりたくないけど、見捨てる訳にはいかないしな・・・・・・。

「おかしいですね、何故こんな所に『竜種』が・・・・・・」

「一体、どうしたというのです・・・・・・?」

 リニスが不安そうに俺に聞いてくる。

「大丈夫。それと、ちょっと急用を思い出したから一緒にエスタニアに行く事は出来なくなったけど、絶対に近い内にまた会いに行くから」

「そう、ですか。残念ですが、急用ならば仕方ありませんね・・・・・・」

 守る為とは言え、しょんぼりとしながら馬車に乗り込もうとするリニスを見ると、少し心が痛い・・・・・・。

「そうだっ」

 俺は『空想具現化』で一本の短剣を具現化し、少し細工を施すと、「ちょっと待った」とリニスを呼び止め、その短剣を手渡した。

「・・・・・・これは?」

「まあ、お守りみたいなもんだよ。リニスが本当にやばいと思った時、その短剣に魔力を流し込め」

「そしたらどうなるのですか?」

 リニスの問いに、俺は笑みを浮かべて答えた。

「ははっ、面白い事が起きる」

「・・・・・・?」

「まあ、その時のお楽しみって事で」

 ニッ、とリニスに笑ってから「アルドさん、頼みます」と言い、俺は『飛行能力』で山道の上に出た。

「さて、と・・・・・・」

 標的はもう既に目視でも確認出来る所まで接近していた。

「やっぱり竜か。はぁー、マジかぁ・・・・・・」

 恐らく全長は軽く五十メートル以上はある漆黒の竜で、俺の存在に気づいたのか、咆哮しながらこちらに一直線に向かって来る。

「・・・・・・。出来れば通り過ぎて下さい。お願いし」

「――――ブオンッ! バサッ、バサッ」

 案の定その漆黒の竜は俺の約一メートル手前でその巨体を急停止させた。


 ・・・・・・・・・・ですよねぇっ!


 そして黒竜は、ズイッと首だけを前に出すと、

「・・・・・・少年よ、相まみえて早々悪いのだが、少し尋ねたい事があるのだ。良いだろうか?」

 味のある話し方で俺にそう聞いてくる。

 てか、竜がしゃべってるよ。マジ半端ねぇな、流石ファンタジー要素をたっぷり詰め込んだ異世界なだけはあるわ。

「それは別に良いけど、何か不思議な気分だな」

「む、何がだ?」

「いや、あの竜と会話してる事がさ」

「む・・・・・・、我等『竜種』が『人種』の言語を口にする事は、『停戦協定』後、皆が知っていると思っていたのだが」

 停戦・・・・・・何だって? そんなもん俺が知る訳ねぇだろ。何しろこの世界に関したら、俺はまだピカピカの一年生なんだぞ。

「そこら辺の事は疎くて良く知らないんだよ。悪いな」

 別に隠す必要も無かったが、説明するのが面倒だったのでとりあえず誤魔化す事に。

「そうだったのか。すまなかったな、少年。確かに知らない者からしたら驚くのも無理は無い、何せこのような姿形をしているのだからな」

 納得してくれたようで何よりだ。

「そういや、聞きたい事って何なんだ?」

「あぁ、それは」

 ・・・・・・・・・・ヒュンッ!

「なっ!?」「むっ!」

 黒竜が話そうとしたその時、俺と黒竜の間を一本の矢が突然通り過ぎた。

「いきなりご挨拶だなぁ、おい。どこのどいつだ? こんな真似をしてくる奴ぁ」

 矢が飛んできた方角に目をやると、剣や槍などで武装した集団、他には杖を持つ奴も居て、その全員がこちらを見上げていた。

「む・・・・・・。あれは、エスタニア軍の連中か」

「は? 何で軍がこんな所に」

 と言いかけて、俺はある事に気付く。


 ・・・・・・あー、でっかいのがここに居たわ。


 間違いなく原因こいつだろ。しかも『エスタニア』って言えば、リニスが王女してる国で、しかも確かここから少し行った先にあるとか何とか言ってたし、そりゃこんなバカでかい竜が近くを飛んでいたら軍の一つくらい出てくるわな。

「なあ、早く逃げた方が良いと思うぞ? あれ確実にお前を」

「・・・・・・上等だ、人間共。この我に手を出した事を骨の髄まで後悔させてやる」

 ゴオォォッ、と黒い炎を全身に纏いながら、そんな物騒な事をおっしゃるこの黒竜。

 地味に熱いから止めてくれ、などと思っていると軍の隊長さんらしき人が前に出て、俺達に向かって言った。

「そこの黒竜と黒ずくめの男! よく聞けっ!」

 あ、やっぱり俺も入ってるんですね。

 俺って何でいっつも嫌な事ばっかり巻き込まれるのかねぇ・・・・・・。

「我々は先程、竜が我が国に何の申請も無く接近していて、それを一人の勇敢な者が食い止めてくれているという報告を受け、助太刀に参ったのだが」

 なるほど、じゃあこの人達は俺を助けに来てくれたって事だったのか。

 やれやれ全く、誤解ってのは怖いぜ・・・・・・。

「あー、それ俺のこ」



「貴様等っ、その者を一体どうしたっ!!」



 あっるぇえええええええええっ!?

 何か俺も共犯にされちゃってるんですがっ!?

「ち、ちょっと待ってくれ! 俺はっ」

「・・・・・・そうか、勇敢な戦士が一人、また散ってしまったという事か。く・・・・・・っ、貴様等、よくもっ!」

 ううわ、聞いちゃいねぇよ。てか人を勝手に散らすんじゃありませんっ。生きてる、生きてるからね俺。

「それにもう一つ、そこの黒竜っ。無申請でのここまでの接近は、『停戦協定』に違反する事になるっ。よって協定違反により、貴様等には我々と共に我が国まで同行してもらうぞっ」

 はあ、かなり面倒くさい事になってきた。

 横からは未だにズオオォォ、と黒い炎を出し続けている奴も居るしさ。だから熱いっての。

「おい、黒竜さんよ。これ一体どうするつもりなんだ?」

 俺の問いに黒竜は静かに答える。

「・・・・・・一人残らず消し去る、なんてどうだ?」

 どうだ? じゃねぇよっ。んな事したら余計事態が悪化しちまうだろうがっ!

「よし、とりあえず逃げるぞー」

「何故だ? この程度の奴等、別に退く必要は」

「まあ待て。そもそも、こんなつまらない事に時間潰してて良いのか? お前には何か用事があるんだろ?」

「む・・・・・・、それはそうなのだが」

 無駄な面倒事を避けたい俺は、黒竜に対し更に畳み掛ける。

「どんな事にも必ず優先順位っていうものがある。だったら少しでも時間が惜しいこの場は無駄に戦って消耗するより、撤退して力を温存する事こそがベストだと俺は思うがな」

「む・・・・・・、確かに一理あるな。よし少年の言う通り、ここは退くとしよう」

 ――――っしゃあっ!!

「よし、じゃあ逃げる為の作戦を伝えるぞ?」

「策・・・・・・? そんな物必要無いのではないか?」

「お前は必要無いかも知れんが俺は必要なの。俺はそもそもとばっちりなんだ。悪いが、お前にも俺が逃げる為の手伝いをしてもらうぞ・・・・・・?」

「む・・・・・・。り、了解した」

 するとその時、ヒュンッ、ヒュンッ、という音と共にまたも俺達に向かって矢が放たれた。

 だが、今回はそれを黒竜の長い尻尾が軽く弾く。

 それを見た隊長さんが、下からまた何か叫んできた。

「今のは警告だっ! あと一分待つ、それまでに武装を解除し、速やかにそこから降りて来いっ! 降りてこない場合は、我が軍のメイジ隊五十人による、総攻撃を開始する!!」

 まあ、俺は『絶対防御能力バーリア』があるから問題は無いんだが。

「総攻撃って言ってるけど、お前は大丈夫なのか?」

 黒竜に尋ねる。

「む、あの程度ならば、一瞬で魔法ごと奴等を吹き飛ばせるが?」

 またこいつは、さらりとえげつない事を。

「とりあえず、今は逃げる事だけを考えるか」

「そういえばどうするんだ? 少年」

「じゃあ、わかりやすく簡単にいこうか」

 そして俺は、超簡単に作戦を伝えた。


「一分経つ、向こう魔法撃つ、俺それ防ぐ、その隙に俺を乗せて何処でも良いから俺が指示するまで逃げ続ける。オーケィ?」


「それは良いが、凄くザックリとした説明だな・・・・・・」

 実際の所は逃げるよりも背中に乗ってみたいっていうのが、本音だったりするけどな。

 だって、竜だよ? ドラゴンだよ? やっぱ憧れるっしょ。

「まあ、わかりやすくて良いだろ? おっと、もう言ってる間に、来るぞ」

 もう既に下ではメイジ達が詠唱を終えようとしていた。

「残念だが、時間だ。皆っ、撃ち方用意っ!」

 ほい、『絶対防御能力バーリア』切り離しバージョンっ!

 説明しようっ! 『絶対防御能力バーリア』切り離しバージョンとは、通常のそれとは違い、俺が例えその場を離れたとしても、『絶対防御能力バーリア』は流し込んだ魔力が尽きるまでの間、その場に在り続ける事が出来るという優れ物なのだっ!

 よしっ、準備完了! 後は・・・・・・、

「頼むぞぉ! 黒竜さんよおおぉぉぉっ!!」

「っ、てぇ――――――――っ!!」

 その瞬間、『絶対防御能力バーリア』に放たれた魔法が全弾激しい音を立ててぶつかっていく。

 それと同時に黒竜が俺を背中に、

「ぐぇ・・・・・・っ!」

 ・・・・・・ではなく、俺の体をそれはもう綺麗にがっちりと手で鷲掴みにしていた。

「・・・・・・あれ、なんか違う! なんか、思ってたのとちが、うぅ――――」

 そして、そのままもの凄い速度で、その場から一気に飛び去って行った。
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