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【学校へ行こう Ⅰ 】
しおりを挟む朝高校に通う通学路を歩きながら、犬島は今でもあの夜の事を思い出す。
まず彼女は部屋の鏡に目を惹かれ駆け寄った。
「え…何このリボン」
「僕が結んだ」
「いつの間に。魔法ですか?」
「違う。手で結んだ」
「何故何時何処で」
「自分の手をつねってみて」
「痛いです」
「君の魂を今包んでいるのは僕が造った君の人形だ」
「私の人形」
ポカンと口を開けた彼女の顔が鏡に映る。
「君はここにどうやって来た」
「貴方に言われたように円を通って」
「その時どんな事を考えたかな」
「魔法使いの家ってどんな風かなとか…貴方が言ってた、命より魂より大切なものって何だろうとかです」
やはり高次の者は契約の際無意識のうち契約者の持つ一番価値のある物を求めるのだ。
もっとも彼女の場合単純に興味が最初からそちらにあっただけかも知れないが。
いずれにせよ人形の中身に入ってもらう手間は省けた。
「私が鳥籠屋と呼ばれる由縁はそんな風に召喚した魂を用意した人形、つまり鳥籠に閉じ込めてしまうからなんだ。人形自体が強い結界になっているから、一度入った魂は出られない」
「そんな事をしてどうするの」
「好事家や魔法使いに、召し使いとして高値で売るのさ」
「酷いわ」
「やつに近親の者を全て殺され、妹の魂を取り戻す術も無く、私は自暴自棄になっていた。鳥籠屋は既に廃業したよ」
「そうなの」
「君の今の肉体は、君を人間以上の存在にしないために、制限をかけるためのものだ。言ってくれたら、すぐにそこから出してもあげられる」
もっとも彼女が本来の姿に戻るなら簡単に食い破ってしまうだろうが。
「さて…君が【混沌】であるという説明は先程した通りだ。理解して貰えたかな」
「信じ難い事だけど今の私の状況を考えたら」
「その上で君に聞きたい事がある」
「私に聞きたい事」
「そのままその体に残って僕の協力者となるか。本来あるべきの姿になる事を希望するか」
「私が本来の姿になれば全てが無に帰すと貴方は言ったわ」
「多分そうなるね」
「その時私はどうなるの?」
「混沌そのものに今の君のような自我が残るのか、正直僕には分からない。今の君を君たらしめているのは、過去の人として生きた記憶だから」
「唯一人渦の中心にいて生きるのは嫌」
犬島は彼女の話に耳を傾けながら考えていた。彼女がどちらの選択をしても自分は構わないと。
「告白すると」
彼女を見て言った。
「私は生涯で二回人を好きになった事がある」
「ええ」
「本当の君ではないかも知れないけど。君の魂を入れるために造った人形が完成した時その造形の美しさに恋をした」
「もう一つは」
「君の家で君に出会って君の魂に触れた時だ」
だから犬島は思う。もしも彼女が人間でない選択をしても自分は構わない。
世界は無に帰ったとしてもまた新しい世界が生まれる。
見知らぬ神や混沌から生まれた今の世界とは異なる彼女から生まれた世界だ。そこにある石ころだろうと木の枝になろうと自分は構わないのだと。
彼女が混沌なら、魔法使いである自分が目指す道を辿り今自分はそこにいる。
そう確信した。
「貴方と契約するわ」
「ここに着た時点で契約は成立かと思っていたよ」
「貴方の屋敷に来たはずなのに寝室で眠っている私を見て驚いた。そのまま、また意識が遠くなって、気がついたらベッドに寝ていたの」
「君が求めるものと僕が大切に思うものは違うかも知れないけど。僕にはそれ以上の魂の籠は作れない」
彼女の髪に触れるとはらはらと赤いリボンが全て床に落ちた。
「このリボンは何?」
「君の体の年齢だ。君がここで生まれてから、君の魂が訪れた今日までの日にち…カレンダーだ」
犬島はカウベルを鳴らした。Ψが不思議な形のケ-キを持って部屋に入って来た。
「カウベルの使い方間違ってるわ」
「今朝宅急便でロ-マから届いた。ロ-マ教皇の帽子を型どったケ-キ、でズコットと言うんだ」
まさか本当に送って来るとは…何でも言ってみるものだ。犬島は思った。
「中に蝋燭が入ってるな」
「私誕生日を座ってお祝いした事が無いの。四六時中歩いてたから」
「今からお祝いしよう。今日が君の誕生日だ、まあ座って、慣れない椅子だと思うけど」
「火を着けてね」
「ライターはどこだっけ」
「魔法使い何なら魔法で着けて見せて」
「えっと」
「どうしたの?」
「呪文忘れた」
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