【円環奇譚 鳥籠姫】

六葉翼

文字の大きさ
上 下
12 / 14

【学校へ行こう Ⅰ 】

しおりを挟む



朝高校に通う通学路を歩きながら、犬島は今でもあの夜の事を思い出す。

まず彼女は部屋の鏡に目を惹かれ駆け寄った。


「え…何このリボン」

「僕が結んだ」

「いつの間に。魔法ですか?」

「違う。手で結んだ」    

「何故何時何処で」

「自分の手をつねってみて」

「痛いです」

「君の魂を今包んでいるのは僕が造った君の人形だ」

「私の人形」

ポカンと口を開けた彼女の顔が鏡に映る。

「君はここにどうやって来た」

「貴方に言われたように円を通って」

「その時どんな事を考えたかな」

「魔法使いの家ってどんな風かなとか…貴方が言ってた、命より魂より大切なものって何だろうとかです」

やはり高次の者は契約の際無意識のうち契約者の持つ一番価値のある物を求めるのだ。

もっとも彼女の場合単純に興味が最初からそちらにあっただけかも知れないが。

いずれにせよ人形の中身に入ってもらう手間は省けた。

「私が鳥籠屋と呼ばれる由縁はそんな風に召喚した魂を用意した人形、つまり鳥籠に閉じ込めてしまうからなんだ。人形自体が強い結界になっているから、一度入った魂は出られない」

「そんな事をしてどうするの」

「好事家や魔法使いに、召し使いとして高値で売るのさ」

「酷いわ」

「やつに近親の者を全て殺され、妹の魂を取り戻す術も無く、私は自暴自棄になっていた。鳥籠屋は既に廃業したよ」

「そうなの」

「君の今の肉体は、君を人間以上の存在にしないために、制限をかけるためのものだ。言ってくれたら、すぐにそこから出してもあげられる」

もっとも彼女が本来の姿に戻るなら簡単に食い破ってしまうだろうが。

「さて…君が【混沌】であるという説明は先程した通りだ。理解して貰えたかな」

「信じ難い事だけど今の私の状況を考えたら」

「その上で君に聞きたい事がある」

「私に聞きたい事」

「そのままその体に残って僕の協力者となるか。本来あるべきの姿になる事を希望するか」

「私が本来の姿になれば全てが無に帰すと貴方は言ったわ」

「多分そうなるね」

「その時私はどうなるの?」

「混沌そのものに今の君のような自我が残るのか、正直僕には分からない。今の君を君たらしめているのは、過去の人として生きた記憶だから」

「唯一人渦の中心にいて生きるのは嫌」

犬島は彼女の話に耳を傾けながら考えていた。彼女がどちらの選択をしても自分は構わないと。

「告白すると」

彼女を見て言った。

「私は生涯で二回人を好きになった事がある」

「ええ」

「本当の君ではないかも知れないけど。君の魂を入れるために造った人形が完成した時その造形の美しさに恋をした」

「もう一つは」

「君の家で君に出会って君の魂に触れた時だ」

だから犬島は思う。もしも彼女が人間でない選択をしても自分は構わない。

世界は無に帰ったとしてもまた新しい世界が生まれる。

見知らぬ神や混沌から生まれた今の世界とは異なる彼女から生まれた世界だ。そこにある石ころだろうと木の枝になろうと自分は構わないのだと。

彼女が混沌なら、魔法使いである自分が目指す道を辿り今自分はそこにいる。

そう確信した。

「貴方と契約するわ」

「ここに着た時点で契約は成立かと思っていたよ」

「貴方の屋敷に来たはずなのに寝室で眠っている私を見て驚いた。そのまま、また意識が遠くなって、気がついたらベッドに寝ていたの」

「君が求めるものと僕が大切に思うものは違うかも知れないけど。僕にはそれ以上の魂の籠は作れない」

彼女の髪に触れるとはらはらと赤いリボンが全て床に落ちた。

「このリボンは何?」

「君の体の年齢だ。君がここで生まれてから、君の魂が訪れた今日までの日にち…カレンダーだ」

犬島はカウベルを鳴らした。Ψが不思議な形のケ-キを持って部屋に入って来た。

「カウベルの使い方間違ってるわ」

「今朝宅急便でロ-マから届いた。ロ-マ教皇の帽子を型どったケ-キ、でズコットと言うんだ」

まさか本当に送って来るとは…何でも言ってみるものだ。犬島は思った。

「中に蝋燭が入ってるな」

「私誕生日を座ってお祝いした事が無いの。四六時中歩いてたから」

「今からお祝いしよう。今日が君の誕生日だ、まあ座って、慣れない椅子だと思うけど」

「火を着けてね」

「ライターはどこだっけ」

「魔法使い何なら魔法で着けて見せて」

「えっと」

「どうしたの?」

「呪文忘れた」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。

松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。 そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。 しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。

だいたい全部、聖女のせい。

荒瀬ヤヒロ
恋愛
「どうして、こんなことに……」 異世界よりやってきた聖女と出会い、王太子は変わってしまった。 いや、王太子の側近の令息達まで、変わってしまったのだ。 すでに彼らには、婚約者である令嬢達の声も届かない。 これはとある王国に降り立った聖女との出会いで見る影もなく変わってしまった男達に苦しめられる少女達の、嘆きの物語。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

処理中です...