【円環奇譚 鳥籠姫】

六葉翼

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【圏外】

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「『圏外の者』と私は勝手に呼んでいるんだ。それが何処から来たのか何処に行ってしまったのか分からないから」

「妹さんお気の毒ね」

「僕のせいだ」

「でも電話みたいな名前」

「どんな賢人や幻視者の検索にも現れ無かったという意味さ」

「それで犬島さんは」

「君に協力を求めたい」

「私が磁石だから?」

犬島は頷いた。

「正式に君と、パートナーとしての契約を結びたいんだ」

「協力して上げたいのは山々だけど」

少女は哀しげに瞳を曇らせた。

「私自縛っちゃってるからここから出れないの。部屋というか、この円の周りが可動範囲よ」

「それは違うな」

犬島はキッパリと否定した。

「違うって…今までずっとそうだったの」

「君は円環に縛らた哀れな幽霊じゃない。自分をまだ知らないだけだ」

「教えて。魔法使いさん…私は一体何なの?」

「円環の支配者」

「もう少し具体的に」

「そこの円を指差して見てくれ」

犬島に言われた通り少女は円を指差した。
「思う事は唯一つ。その円環は君のもの」

「この円環は私のもの」

絨毯の擦りきれた円い轍が白色に光り始める。

「指を天井に」

やがて円環が浮き上がる。

「頭の上に」

「小さくして」

「再び床へ」

「すごい!魔法みたい!」

「僕は何もしていない。君が1人でやった事だ」

「ありがとう!これで退屈しなくて済むわ」

「違う。君はこの円環を通って円から円に何処にでも行けるんだ」

「ほえ」

犬島は名刺を渡した。

「鳥籠屋って書いてあるけど…」

「世を忍ぶ仮にの仕事だ。契約する気になったらそこの屋敷を訪ねて欲しい。結界は開けておくから」

そもそも結界など彼女には無意味か。そう犬島は思った。

「この屋敷にも侵入者が入れないように後で仕掛けをして帰る」

「さっき聞いた私の事は教えてくれないの」

犬島は床に転がった神父達の人形の残額を「これはまだ使える」などと呟きながら吟味し始めた。

「その話を今するのは危険だ」

「何故?」

「魔法使いの目と耳と鼻は、遠くにいても常に他の魔法使いの方に向けらていてね。ここでは筒抜けなんだ」

犬島は少女の方を向いて真剣な面持ちで言った。

「報酬は僕の命でも魂でも構わない」

「そんなのいらないわ」
「なら僕の一番大切なもので支払うさ!いい返事を待っているよ」

犬島は立ち上るとカウベルをポケットから取りだし鳴らした。

「Ψ仕事だ」

入り口の扉が開いてネコを転がしながらミノタウルスが現れた。

「犬島達を屋敷に運べ、あと他のも回収だ」

ミノタウルスは頷くと伊波達を乱暴にネコに放り込んだ。一部本物のバチカンが混じっていたのは彼女には秘密だ。

「ミノちゃん」

「ミノちゃんじゃない!うちのΨだ。勝手に違う名前で呼ばれたら困る」

「牛なのにサイって…思ってたけど貴方センスないわ」

「Ψの文字が角に似てるだろ?それにこいつはサイクロプスの血が半分混じっててね。Ψは0.5、サイクロプスのサイでΨ完璧じゃないか」

「だめよ可愛くないわ」

「ミノタウルスだぞ」

「サイクロプスだから片目にアイパッチ?バンダナ巻いてるのは何故?」

「海賊のアニメが好きなんだ。まだ子供だよ」

「可愛いわミノちゃん」

犬島は制服のポケットからマジックを取り出しミノタウルスの額にΨと書いた。

「雇われたくない」

彼女はほおをふくらませた。

「そろそろ音楽が止む」

犬島はスマホをカメラのモ-ドに切り替えてΨに渡した。折り畳み式アンブレラを広げ少女を呼んだ。

「記念に1枚」

「私映るかしら」

「映りますよ」

「可愛いく撮ってね。…ところで何の記念?」

「これからの僕らの未来に」

音楽が鳴りやんだ。

天井から血の雨が降り注いだ。

「Ψ床掃除」

「契約どうしよう」
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