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ブランシールの魔女
第5節・万物の生命の魔女
しおりを挟むユウキが屋敷に入れたのは、数分後の事だった。
軋む扉がギィィと開く。
「入れ」
奥の方から魔女の声がした。
ユウキは恐る恐る足を踏み入れ、未知とも言える魔女の屋敷の中を横目で見遣った。
ユウキの予想を遥かに超えて、屋敷の中は汚かった。
「足の踏み場も無い」とは、まさに魔女の屋敷の事を指すのだろう。
「此処が妾の城じゃ」
腰に手を充て、魔女は誇らし気に口角を上げる。
「…最後に掃除したのはいつだ?」
「は?」
こてん、と小首を傾げながら魔女はユウキを見遣る。
「ぁ、いや…で、俺の役目は何だ?」
ユウキはバツが悪そうに、しゃがみ込むとエルの頭を撫でながら呟いた。
「妾の身の周りの世話をせぇ」
ユウキと魔女の間に暫しの沈黙が流れる。
「…は?」
沈黙を破ったのはユウキの方からだった。
眉をピクリと上げ、怪訝な顔を魔女に見せる。
魔女はそんな怪訝な顔を知ってか知らずか「フフン」とクリムゾンに光る勝気な瞳を細めた。
「…はぁ…森では、お前が掟」
ぽつり、と呟く。
ーーそして、何かを決意したかの様に
「わかった。お前の世話をしてやる」
そう言うとユウキは、ゆっくりと立ち上がった。
魔女は満足気に口元を緩めると、親指と人差し指でスカートを摘んだ。
白髪の頭を恭しく下げ、もう片手は胸元へと添える。
「ーー我が愛しき子よ。私の名は〝エルシオール・ジル・ヴォワザン〟」
子供に言う様に優しく。
「万物の生命の魔女にして、この森、ブランシールを創りし者に御座います」
一礼が終わる。
魔女は顔を上げて、ニッと笑って見せた。
「…ぁ…ユ、ユウキ、俺の…いや、違う、僕の名前はユウキです」
ペコリと頭を下げながら、チラリと魔女を伺う。
魔女はユウキのぎこちない挨拶を瞳を細めながら見ていた。
その表情は優し気であった。
「よし、面倒な挨拶も済んだな」
空気を変える様に、魔女が手をパンッと叩く。
「明日から宜しく頼むぞ、ユウキ」
「待ってくれ、詳しい仕事内容を教えてくれ」
自分を通り過ぎて屋敷を出ようとした魔女の腕を慌てて掴む。
「詳しい仕事内容?」
眉をピクリと上げながら魔女は不思議そうに復唱した。
「そうだ」
「妾の世話と言ったでは無いか」
「いや、そうだけど」
また暫くの沈黙が流れる。
「屋敷の掃除、妾の食事、洗濯、お使い」
片指を折りながらブツブツと呟く。
「ソレが仕事内容だな?」
「うむ、取り敢えずはな」
明確な仕事内容を啓示され、ユウキはやっと掴んでいた腕を離した。
「わかった、精一杯やらせて貰う」
「うむ、利口な判断じゃ」
魔女が笑う。
あどけなく。
「食料とかは何処に保管してあるんだ?」
「保管?」
「そうだ、野菜とか肉とか」
「野菜はその辺に生えてるであろう?肉もその辺にいる動物やヤモリを捕まえたら良いのじゃ」
魔女の言葉に、ユウキは目を見開くと絶句した。
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