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ブランシールの魔女
第4節・我が愛しき子《ブランシール》へ
しおりを挟む魔女と見つめ合って幾分か過ぎた頃、魔女が口を開く
「呆けた顔をするでない」
腰に手を充て、魔女は更に言う。
「貴様は帰さぬ」
「…は?」
ユウキは少し眉を顰めると首を軽く傾げた。
両脇に一房分垂らされた白髪の髪をファサッと掌で払う魔女の更なる一言。
「この森に入った人間は帰さぬのが掟じゃ」
「掟って…誰の」
「貴様、惚けるでない…ブランシールは妾が創り出した愛しき我が子よ」
皆まで言わずとも解るよな?と言いたげな勝気な眼差し。
それでユウキは悟る。
「魔女が掟か」
ユウキのセリフに魔女の眼が輝く。
その姿にユウキは再度、脳裏に刻んだ。
この魔女がーー〝美しい〟ーーーと
「では、改めて歓迎しよう」
魔女はドレスの裾を摘むと恭しく頭を下げる。
そしてーー
「ようこそ、我が森、ブランシールへ」
ゆっくりと頭を上げる。
その時、バサバサッと森に棲まう鳥類が飛んだ。
「貴様を、歓迎しよう」
まるで、魔女の言葉に従ずる様にユウキの廻りを羽ばたく。
「…それしかない、みたいだな…解った」
ユウキはエルを抱きながら頷く。
魔女が黒いローブを翻しながら歩き始める。
付いて来い、そういう事なのだろう。
エルを連れユウキは歩き出す。
この魔女が創り出した愛しき森を
魔女と共にーー
*****
険しいかと思われた道のりは意外にも緩やかで、子ヤギのエルも難無く歩けた。
魔女の道案内が上手いのか解らない。
だが、魔女は1度もコチラを振り向く事なく、真っ直ぐと真っ直ぐと前だけを見据えて歩き続けていた。
「着いたぞ」
そう言うと魔女は、くるりとコチラを振り向く。
魔女の言葉を耳にするまでユウキは下ばかり向いていたのだろう。
ハッと見上げた視界に映ったのは、それは美しい樹々の間に建てられた屋敷と呼ぶには幾分か小さな住居だった。
「此処で、貴様は妾と共に暮らすのじゃ」
「魔女も…同じ家にか?」
「そうじゃ?」
ユウキの問いに不思議そうに魔女は首を傾げる。
「いや、魔女はもっと立派な屋敷に住んでるのかと思って」
思わず口から出た言葉に魔女の眉毛がピクリと動く。
「充分、立派であろう?妾が造ったのだからな」
腰に手をあて、誇らし気に胸を張る姿は、どこかあどけなく感じる。
「…はは、凄いな」
そんなあどけなく胸を張る魔女に、ユウキは無意識に魔女の頭を撫でながら微笑み掛けた。
「ーッ?!」
ブワッと頬を赤らめるとユウキの顔を見つめる。
ユウキは「ん?」と首を傾げた後に気付く。
自分がやらかした事にーーー
「貴様…な、何を…妾を誰だと…」
「す、すまないっ!」
魔女の声が震えている。
2人の間に気不味い雰囲気が暫し流れる。
最初に動いたのは魔女の方だった。
勢い良く屋敷の扉を開ける
「わ、妾は今気分が良い、さっきの無礼は許してやる」
「ぁ、あぁ、ありがーー」
「妾が良いと言うまで屋敷に入るでないぞ!!!」
そう喚くと、魔女は勢い良く扉を閉めた。
だが、直ぐに小さく扉を開けユウキを睨み付ける。
「逃げれると思うでないぞ、良いな?」
「…解ってる」
ユウキの返答に満足すると、魔女は再度、扉を閉めた。
外に残されたユウキは知らない。
屋敷の中に入った魔女が、あの魔女が
「なんじゃ、なんじゃ…頭撫で撫でとか…なんなんじゃぁ…」
うら若き乙女の様に恥じらい、胸をときめかせていた事を。
こうして、1人の青年と魔女の生活が始まるーー
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