姉弟日和

我妻 夕希子

文字の大きさ
上 下
27 / 28

第6話・嘘吐きの始まり②

しおりを挟む


姉さんと帰るはずだった帰路を1人で歩く。

(姉さんにメッセージ送ってみようかな)

携帯を取り出すとメッセージ画面を開く。

(姉さん、寂しい)
(姉さん、姉さん、姉さん、姉さん)
(…ソイツ、殺しても良い?)

ハッと我にかえると慌てて、メッセージ内容を削除していく。

(気分転換に本屋にでも寄るか)

携帯をしまいながら、俺は本屋へと足を運んだ。

姉さんと久城が出会った本屋。

余り良い場所では無くなったが、やはりこの本屋の品揃えは素晴らしい。

姉さんの好きそうなマイナー本が沢山あるのが魅力的だ。

条件反射で、姉さん御用達のコーナーに足が向かう。

俺は意味も無く指先で、タイトルをなぞりながら歩いた。

とある本のタイトルで指が止まる。

〝異世界に召喚されたら、召喚先で見染められました〟

姉さんの愛読書だ。

どうやら最新刊は、姉さんが買って以降、まだ入荷されていない様子だった。

何気無く1巻を棚から取り出す。

そして左右の棚に視線をやりながら、俺はまた歩き出した。
ちょっと歩くと、このコーナーには場違いな雰囲気を纏わせている男に目がいった。

(コイツ…)

本を選ぶフリをしつつも、チラッと男の容姿を確認する。

黒髪に好青年そうな顔。

(久城の部屋で見た)


手に持っていた本のページをパラパラとめくる。

(久城の兄であり姉さんの…彼氏)

姉さんの彼氏は何やら本を探している様子であった。

「あれ、見つからないなぁ…」「困ったなぁ」
と小さく呟くのが聞こえてくる。

自分の唇に指を充てがうとなぞる。
そして意を決して俺は

「失礼、何かお探しですか?」

いつもの外面を貼り付けて話し掛けた。

彼はビクッと肩を竦ませ、俺を見遣る。

(悔しいが背は俺の方が低い)

「困っているみたいだったので」

何も言わない彼に、俺は更に言葉を掛けた。

「あ、はは、独り言でも聞かれてしまいましたか?恥ずかしいな」

彼は頬を赤らめながら微笑む。

「彼女が読んでいる本を読んでみようかと思ったのですが、中々見付からなくて」
「そうですか…」

(姉さんが読んでいる作品?まさか…コレか?)

「タイトルは?俺も一緒に探しますよ」
「えーと、確か…異世界に召喚されたら、召喚先で…」

(やっぱり)

彼は眉間に指を充てると「うーーん」と唸り声を上げた。

(解るよ、タイトル、覚えられないよね)

「もしかして、コレ?」

そう言いながら俺は手に持っていた本を差し出した。

「あ!コレだよ!」

本のタイトルを見て、彼は朗らかに微笑んだ。

「残念ながら、最新刊は在庫切れでしたよ」
「いえ、僕が探していたのは1巻だったので」

微笑んだまま「ありがとう」と俺の手から本を取ろうとした瞬間ーー

ガシッと彼の手首を掴むと自分の方へ屈ませる。

「ッ?!」
「ーー珍しいですね、男がを探すなんて」

唇が重なるギリギリの場所。
吐息が相手にかかる距離。


『中川さん、取り引きの事、忘れないで下さいね』

久城の言葉が鮮明に甦る。

「ちょ、ぇ?距離が、近っ…」
「あぁ、ごめんなさい。俺、眼が悪くて」

パッと離れると眉を下げ謝罪をする。

(ま、嘘だけど)

「そうですか、ちょっとびっくりしてしまいました」
「はは、ごめんなさい」

本を渡しながら、俺は〝どうしよう〟かと頭をフル回転させていた。

ーーピピッ。

「ぁ、すみません」

彼は携帯を取り出して内容を確認している。
タタタッと返信を打つと俺を見た。

「あの、少し話しませんか?」

まさかの発言に俺の目は見開いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

パンツを拾わされた男の子の災難?

ミクリ21
恋愛
パンツを拾わされた男の子の話。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

職場のパートのおばさん

Rollman
恋愛
職場のパートのおばさんと…

彼氏に別れを告げたらヤンデレ化した

Fio
恋愛
彼女が彼氏に別れを切り出すことでヤンデレ・メンヘラ化する短編ストーリー。様々な組み合わせで書いていく予定です。良ければ感想、お気に入り登録お願いします。

処理中です...