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第6話・嘘吐きの始まり②
しおりを挟む姉さんと帰るはずだった帰路を1人で歩く。
(姉さんにメッセージ送ってみようかな)
携帯を取り出すとメッセージ画面を開く。
(姉さん、寂しい)
(姉さん、姉さん、姉さん、姉さん)
(…ソイツ、殺しても良い?)
ハッと我にかえると慌てて、メッセージ内容を削除していく。
(気分転換に本屋にでも寄るか)
携帯をしまいながら、俺は本屋へと足を運んだ。
姉さんと久城が出会った本屋。
余り良い場所では無くなったが、やはりこの本屋の品揃えは素晴らしい。
姉さんの好きそうなマイナー本が沢山あるのが魅力的だ。
条件反射で、姉さん御用達のコーナーに足が向かう。
俺は意味も無く指先で、タイトルをなぞりながら歩いた。
とある本のタイトルで指が止まる。
〝異世界に召喚されたら、召喚先で見染められました〟
姉さんの愛読書だ。
どうやら最新刊は、姉さんが買って以降、まだ入荷されていない様子だった。
何気無く1巻を棚から取り出す。
そして左右の棚に視線をやりながら、俺はまた歩き出した。
ちょっと歩くと、このコーナーには場違いな雰囲気を纏わせている男に目がいった。
(コイツ…)
本を選ぶフリをしつつも、チラッと男の容姿を確認する。
黒髪に好青年そうな顔。
(久城の部屋で見た)
手に持っていた本のページをパラパラとめくる。
(久城の兄であり姉さんの…彼氏)
姉さんの彼氏は何やら本を探している様子であった。
「あれ、見つからないなぁ…」「困ったなぁ」
と小さく呟くのが聞こえてくる。
自分の唇に指を充てがうとなぞる。
そして意を決して俺は
「失礼、何かお探しですか?」
いつもの外面を貼り付けて話し掛けた。
彼はビクッと肩を竦ませ、俺を見遣る。
(悔しいが背は俺の方が低い)
「困っているみたいだったので」
何も言わない彼に、俺は更に言葉を掛けた。
「あ、はは、独り言でも聞かれてしまいましたか?恥ずかしいな」
彼は頬を赤らめながら微笑む。
「彼女が読んでいる本を読んでみようかと思ったのですが、中々見付からなくて」
「そうですか…」
(姉さんが読んでいる作品?まさか…コレか?)
「タイトルは?俺も一緒に探しますよ」
「えーと、確か…異世界に召喚されたら、召喚先で…」
(やっぱり)
彼は眉間に指を充てると「うーーん」と唸り声を上げた。
(解るよ、タイトル、覚えられないよね)
「もしかして、コレ?」
そう言いながら俺は手に持っていた本を差し出した。
「あ!コレだよ!」
本のタイトルを見て、彼は朗らかに微笑んだ。
「残念ながら、最新刊は在庫切れでしたよ」
「いえ、僕が探していたのは1巻だったので」
微笑んだまま「ありがとう」と俺の手から本を取ろうとした瞬間ーー
ガシッと彼の手首を掴むと自分の方へ屈ませる。
「ッ?!」
「ーー珍しいですね、男がこんな本を探すなんて」
唇が重なるギリギリの場所。
吐息が相手にかかる距離。
『中川さん、取り引きの事、忘れないで下さいね』
久城の言葉が鮮明に甦る。
「ちょ、ぇ?距離が、近っ…」
「あぁ、ごめんなさい。俺、眼が悪くて」
パッと離れると眉を下げ謝罪をする。
(ま、嘘だけど)
「そうですか、ちょっとびっくりしてしまいました」
「はは、ごめんなさい」
本を渡しながら、俺は〝どうしよう〟かと頭をフル回転させていた。
ーーピピッ。
「ぁ、すみません」
彼は携帯を取り出して内容を確認している。
タタタッと返信を打つと俺を見た。
「あの、少し話しませんか?」
まさかの発言に俺の目は見開いた。
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