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第三章
3-6「リュンナ到着」
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馬車は再びリュンナへ向けて走り出している。
あの後、俺とアオイの遅い帰還に待ちくたびれた三人はカードで遊んでいた。
当のアオイに関してはうっとりとした目で俺の腕から離れようとせず、どうすることもできず皆の前にそのまま戻ることになった。
「おや、カズナリ。お早いお戻りで」
道化師がそう言いながら俺に向かってウインクをしてくる
他の二人も俺とアオイの様子を見るが特に文句をいうことはなかった。
道化師がうまいこと言ってくれたというわけか。
まあ、俺とアオイの関係を隠してたわけじゃないからいいんだけど。
俺はなんともいえない気持ちを抱きながらも御者の席に座り馬車を再び走らせるのだった。
もちろん、それでもアオイは俺の腕から離れようとはしなかった。
***
リュンナの村が見えてくる頃には日が落ち始めていた。
ぼんやりと灯された炬火の灯りから見るに、村を囲うような壁はなく、木でつくられた柵があるのみだ。
道がつながっている入口には鎧を身にまとった兵士が一人立っている。
俺は兵士にジョターさんの手紙に同封されていた許可証を見せる。
「荷台の中を確認させてもらってもいいか?」
「ああ、構わないぞ。ずいぶんと厳重に調べるんだな」
「この辺りも物騒なもんでな。念のため確認することになってるだ」
荷台の確認を終えると兵士の指示のもと馬車置き場に馬車を停める。
まずは今日の寝床を確保するための宿探しだ。
***
リュンナの村は山越え準備の村として発達したからか市場はあまり大きくなく、どちらかといえば、酒場に宿屋、道具屋、武器屋といった店がほとんどだった。
なので宿の数も多く俺達が泊れる場所も問題なく見つかった。
今回からドロシーが新たに仲間に加わったため、男と女で部屋を取ることにした。
ちなみにシグはアオイに任せるため女部屋に泊まることになった。
「道化師と二人きりになるのか」
「今夜は寝かせませんよ」
「いや、その手に持ってるカードは何だよ。夜遊びにしてもカードはないだろ」
「あら、残念。夜遊びをご所望ではあったんですね。であれば、アオイさんと私は代わることにしましょうか」
唐突に道化師がそんなことを言い始める。
いきなり名前を出された、当の本人に思わず顔を向けてしまった。
「アタシは別にそれでも構いませんよ」
いやまて、アオイ。やれやれみたいな言い方だけど尻尾がめっちゃくちゃ左右に揺れてるからな。
「……いや、そうしたら何のために男女別にしたのかわからないだろ」
俺はその誘惑的な案を断るために心の奥から理性の纏った言葉を絞り出す
その言葉を聞き、アオイのしっぽと耳はうなだれてしまう。なんともわかりやすい。
「そうですよアオイさんっ! 今夜はタラントさんから教えてもらった、がーるずとーくというやつを一緒にしましょうっ!」
だがその言葉を聞いても、アオイの尻尾と耳がうなだれたままだった。
アオイには感情を隠すということを学んでもらわないといけないかもしれない。
素直な気持ちがわかって嬉しくないわけではないんだがな。
そうして俺達は宿屋に荷物を置き、夕飯を食べるために酒場へと足を向けたのだった。
***
「いらっしゃいませー」
酒場を訪れると冒険者らしい格好の人はもちろん、行商人のような人など様々な風貌の人々が集まっている。
「ご新規、五名様ごあんなーい」
木でできたジョッキを両手に何個も持っている女の子がそう叫び、俺達を席に案内してくれる。
ラルスを出て数日、リュンナにたどり着くまでの道中では干し肉や果物、薬草の類を調理した簡易的な料理が多かった。
久々のしっかりとした食事を得られると思うと俺の腹も終始鳴りっぱなしだ。
「お客さん、飲み物は何にしますか?」
席に着くとさっきの従業員であろう女の子が注文を取りに来る。
さっきも思ったが、この子ドロシーほどではないが胸が大っきいな。
「んんっ! カズナリさん飲み物を決めてください」
そう咳ばらいをし、アオイが強い口調で俺に言う。
「えっと、エールを四人分。あと、果実水とかありますか?」
「ええ、ありますよ。エール四つに果実水一つですね。料理は決まったころにまたお伺いしますので」
そういうと女の子は別のテーブルの注文を取りに行く。
「カズナリさん。そういうの良くないと思います」
そう言いながらアオイは俺の腕を抱きしめるように掴んでくる。その小さくもふくよかな膨らみが俺の腕を包み込む。
「そうですよーカズナリー。アオイさんのこと大切にしないと後で痛い目にあいますよ!」
「むむっ、カズは今アオイさんをいじめていたんですかっ!? いじめは悪ですこの私が代わりに制裁を下しましょうか、アオイさん!」
ドロシーは自分の胸を張りながら言う。
しかし、その行為のせいでドロシーの大きな胸がより強調されてしまっている。
「カ、ズ、ナ、リ、さ、ん」
「はい、すいません。そんなつもりは毛頭ございません」
そんなやり取りをしつつも、俺達は晩飯を堪能するのだった。
しかし、アオイは終始俺の腕は掴んでいて従業員の女の子が来るたびにその力を強めるのだった。
そのたびにその柔らかい感触に包まれて食欲と理性の争いが常に行われていたのである。
ちなみにシグは一人で黙ってメニューを見ていて自分の食べたいものをちゃっかりと決めて、注文をして自分の世界に入り込み食事を楽しんでいる様子だった。
***
食事も終盤に差し掛かり俺達の腹は十分に満たされていた。
シグに至ってはお腹がいっぱいになったからなのか、隣の道化師に寄りかかるように眠ってしまっている。
アオイは強くもないのに酒を多めに飲んでしまい俺の腕を抱えながらシグ同様に眠っている。
時折、寝言で「カズナリさん……だめですぅ……」って言っているのにどこか嬉しそうな寝顔なのが愛らしい。
さっきまでにぎわっていた酒場も閉店の時間なのか閑散としており、店内にいる客はカウンターに座る行商人と俺達ぐらいなものだ。
そろそろ勘定をお願いするか。
「……また廃城に入った冒険者が怪我をして帰ってきたらしいぞ」
店内が静かなため、カウンターに座る常連さんらしき行商人と店主のおばさんの話声が聞こえてくる。
「困ったものだね、モンスターは出ないにしろ廃城にあんなおっかないものが住み着いちまうとは」
会話の途中、口を挟むのは憚れたが勘定をするために話しかけるしかない。
「むむ、なにかお困りのようですねっ!」
だが、そこへ口を挟んだのはドロシーだった。
「な、なんだ君は。」
「私は正義の味方ですっ! なにかお困りなことがあれば私が悪を退治いたしますよっ!」
うわー……。懸念していた問題児がここで顔を見せてしまったか。
「お前さん冒険者かなにかか?」
「いえ、私は正義の味方です」
「そ、そうか……」
聞いた店主も話をしていた行商人もちょっと引き気味だ。
こうなってしまっては仕方がない。
「廃城がどうのって聞こえましたけど何かあったんですか?」
俺は腕に張り付いたアオイを起こさないように剥がし、ドロシーの言葉をわかりやすく伝えるために会話に入ることにした。
「ああ、廃城に吸血鬼が出ちまって、それがいまこの村で問題になってるんだよ。吸血鬼なんて物語の中の話だけだと思っていたのにな……」
「吸血鬼……ですか」
その聞きなれない単語をそのまま聞き返してしまう。
「まさかこんな時代に吸血鬼とはね……」
行商人が呆れるように言う。
「冒険者が廃城に迷い込んだ時吸血鬼に出くわしたらしく襲ってきたんだと。それ以来、ギルドに頼んで冒険者に退治をお願いしているがうまくいかずじまいだ」
店主はため息をつくようにそう説明してくれる。
「廃城に吸血鬼がいるとなると、いつこの村を襲撃してくるかわからないから不安で夜も眠れないよ」
「皆さんの不安の種っ、吸血鬼を私が退治いたしましょうっ!」
ドロシーは自分の拳を店主と行商人に向けそう叫んでいた。
――そうして、俺達の吸血鬼退治が決定してしまったのだった
あの後、俺とアオイの遅い帰還に待ちくたびれた三人はカードで遊んでいた。
当のアオイに関してはうっとりとした目で俺の腕から離れようとせず、どうすることもできず皆の前にそのまま戻ることになった。
「おや、カズナリ。お早いお戻りで」
道化師がそう言いながら俺に向かってウインクをしてくる
他の二人も俺とアオイの様子を見るが特に文句をいうことはなかった。
道化師がうまいこと言ってくれたというわけか。
まあ、俺とアオイの関係を隠してたわけじゃないからいいんだけど。
俺はなんともいえない気持ちを抱きながらも御者の席に座り馬車を再び走らせるのだった。
もちろん、それでもアオイは俺の腕から離れようとはしなかった。
***
リュンナの村が見えてくる頃には日が落ち始めていた。
ぼんやりと灯された炬火の灯りから見るに、村を囲うような壁はなく、木でつくられた柵があるのみだ。
道がつながっている入口には鎧を身にまとった兵士が一人立っている。
俺は兵士にジョターさんの手紙に同封されていた許可証を見せる。
「荷台の中を確認させてもらってもいいか?」
「ああ、構わないぞ。ずいぶんと厳重に調べるんだな」
「この辺りも物騒なもんでな。念のため確認することになってるだ」
荷台の確認を終えると兵士の指示のもと馬車置き場に馬車を停める。
まずは今日の寝床を確保するための宿探しだ。
***
リュンナの村は山越え準備の村として発達したからか市場はあまり大きくなく、どちらかといえば、酒場に宿屋、道具屋、武器屋といった店がほとんどだった。
なので宿の数も多く俺達が泊れる場所も問題なく見つかった。
今回からドロシーが新たに仲間に加わったため、男と女で部屋を取ることにした。
ちなみにシグはアオイに任せるため女部屋に泊まることになった。
「道化師と二人きりになるのか」
「今夜は寝かせませんよ」
「いや、その手に持ってるカードは何だよ。夜遊びにしてもカードはないだろ」
「あら、残念。夜遊びをご所望ではあったんですね。であれば、アオイさんと私は代わることにしましょうか」
唐突に道化師がそんなことを言い始める。
いきなり名前を出された、当の本人に思わず顔を向けてしまった。
「アタシは別にそれでも構いませんよ」
いやまて、アオイ。やれやれみたいな言い方だけど尻尾がめっちゃくちゃ左右に揺れてるからな。
「……いや、そうしたら何のために男女別にしたのかわからないだろ」
俺はその誘惑的な案を断るために心の奥から理性の纏った言葉を絞り出す
その言葉を聞き、アオイのしっぽと耳はうなだれてしまう。なんともわかりやすい。
「そうですよアオイさんっ! 今夜はタラントさんから教えてもらった、がーるずとーくというやつを一緒にしましょうっ!」
だがその言葉を聞いても、アオイの尻尾と耳がうなだれたままだった。
アオイには感情を隠すということを学んでもらわないといけないかもしれない。
素直な気持ちがわかって嬉しくないわけではないんだがな。
そうして俺達は宿屋に荷物を置き、夕飯を食べるために酒場へと足を向けたのだった。
***
「いらっしゃいませー」
酒場を訪れると冒険者らしい格好の人はもちろん、行商人のような人など様々な風貌の人々が集まっている。
「ご新規、五名様ごあんなーい」
木でできたジョッキを両手に何個も持っている女の子がそう叫び、俺達を席に案内してくれる。
ラルスを出て数日、リュンナにたどり着くまでの道中では干し肉や果物、薬草の類を調理した簡易的な料理が多かった。
久々のしっかりとした食事を得られると思うと俺の腹も終始鳴りっぱなしだ。
「お客さん、飲み物は何にしますか?」
席に着くとさっきの従業員であろう女の子が注文を取りに来る。
さっきも思ったが、この子ドロシーほどではないが胸が大っきいな。
「んんっ! カズナリさん飲み物を決めてください」
そう咳ばらいをし、アオイが強い口調で俺に言う。
「えっと、エールを四人分。あと、果実水とかありますか?」
「ええ、ありますよ。エール四つに果実水一つですね。料理は決まったころにまたお伺いしますので」
そういうと女の子は別のテーブルの注文を取りに行く。
「カズナリさん。そういうの良くないと思います」
そう言いながらアオイは俺の腕を抱きしめるように掴んでくる。その小さくもふくよかな膨らみが俺の腕を包み込む。
「そうですよーカズナリー。アオイさんのこと大切にしないと後で痛い目にあいますよ!」
「むむっ、カズは今アオイさんをいじめていたんですかっ!? いじめは悪ですこの私が代わりに制裁を下しましょうか、アオイさん!」
ドロシーは自分の胸を張りながら言う。
しかし、その行為のせいでドロシーの大きな胸がより強調されてしまっている。
「カ、ズ、ナ、リ、さ、ん」
「はい、すいません。そんなつもりは毛頭ございません」
そんなやり取りをしつつも、俺達は晩飯を堪能するのだった。
しかし、アオイは終始俺の腕は掴んでいて従業員の女の子が来るたびにその力を強めるのだった。
そのたびにその柔らかい感触に包まれて食欲と理性の争いが常に行われていたのである。
ちなみにシグは一人で黙ってメニューを見ていて自分の食べたいものをちゃっかりと決めて、注文をして自分の世界に入り込み食事を楽しんでいる様子だった。
***
食事も終盤に差し掛かり俺達の腹は十分に満たされていた。
シグに至ってはお腹がいっぱいになったからなのか、隣の道化師に寄りかかるように眠ってしまっている。
アオイは強くもないのに酒を多めに飲んでしまい俺の腕を抱えながらシグ同様に眠っている。
時折、寝言で「カズナリさん……だめですぅ……」って言っているのにどこか嬉しそうな寝顔なのが愛らしい。
さっきまでにぎわっていた酒場も閉店の時間なのか閑散としており、店内にいる客はカウンターに座る行商人と俺達ぐらいなものだ。
そろそろ勘定をお願いするか。
「……また廃城に入った冒険者が怪我をして帰ってきたらしいぞ」
店内が静かなため、カウンターに座る常連さんらしき行商人と店主のおばさんの話声が聞こえてくる。
「困ったものだね、モンスターは出ないにしろ廃城にあんなおっかないものが住み着いちまうとは」
会話の途中、口を挟むのは憚れたが勘定をするために話しかけるしかない。
「むむ、なにかお困りのようですねっ!」
だが、そこへ口を挟んだのはドロシーだった。
「な、なんだ君は。」
「私は正義の味方ですっ! なにかお困りなことがあれば私が悪を退治いたしますよっ!」
うわー……。懸念していた問題児がここで顔を見せてしまったか。
「お前さん冒険者かなにかか?」
「いえ、私は正義の味方です」
「そ、そうか……」
聞いた店主も話をしていた行商人もちょっと引き気味だ。
こうなってしまっては仕方がない。
「廃城がどうのって聞こえましたけど何かあったんですか?」
俺は腕に張り付いたアオイを起こさないように剥がし、ドロシーの言葉をわかりやすく伝えるために会話に入ることにした。
「ああ、廃城に吸血鬼が出ちまって、それがいまこの村で問題になってるんだよ。吸血鬼なんて物語の中の話だけだと思っていたのにな……」
「吸血鬼……ですか」
その聞きなれない単語をそのまま聞き返してしまう。
「まさかこんな時代に吸血鬼とはね……」
行商人が呆れるように言う。
「冒険者が廃城に迷い込んだ時吸血鬼に出くわしたらしく襲ってきたんだと。それ以来、ギルドに頼んで冒険者に退治をお願いしているがうまくいかずじまいだ」
店主はため息をつくようにそう説明してくれる。
「廃城に吸血鬼がいるとなると、いつこの村を襲撃してくるかわからないから不安で夜も眠れないよ」
「皆さんの不安の種っ、吸血鬼を私が退治いたしましょうっ!」
ドロシーは自分の拳を店主と行商人に向けそう叫んでいた。
――そうして、俺達の吸血鬼退治が決定してしまったのだった
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