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第三章

3-3「模擬戦大会前編」

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「というわけで、カズナリ御一行模擬戦大会の開催です! いえーい! ぱふぱふ!」

 道化師の一言で開催が決定してしまった模擬戦大会。俺自身も戦闘練習をしたいとは思っていたが、まさかこんなことになるとは。

 だが、問題なのは「カズナリ一日独占券」という俺の許可していない代物が優勝賞品にされてしまっていることだ。

「さて、カズナリ。もし誰かに一日独占券を使われたくなかったら是非優勝してくださいね」

 こいつが決めてしまったことだが、なぜか皆やる気になってしまっているので優勝賞品却下なんて士気を下げることができなくなってしまったので仕方ない。

「そうさせてもらうが、戦闘経験的に俺が圧倒的に不利じゃないのか?」

「そこらへんはこの道化師にお任せください。しっかりとハンディを考えております。なにせカズナリの戦闘訓練も兼ねているのですから」

 まあ、ある程度ハンディを付けてもらわないと一対一で負けることは確実だろう。

「で、注目のトーナメント表はこちらになります」

 一回戦 カズナリ対シグ
 二回戦 一回戦勝者対ドロシー
 三回戦 二回戦勝者対タラント
 決勝戦 三回戦勝者対アオイ

「いやいや、まてまて。明らかに俺が不利なトーナメント表じゃないか!」

「それはそうですよ、カズナリの戦闘訓練も兼ねているのですから」

 そう言われてしまうと反論の余地がない。

 だがそれにしてもこれは過酷すぎじゃないか?

「ハンディもありますし、カズナリなら大丈夫ですよ………………………………きっと」

「いま"きっと"って言ったろ。おい」

 どこからか用意した椅子に道化師は座り、戦いの説明を始める。

「では、さっそく第一回戦を開始いたします。ルールは簡単相手を降参。または審判である私が止めに入るまで戦ってもらいます。それ以外はどんな手段も構いません」

「ちなみに第一回戦シグさんのハンディは近距離戦闘禁止です。なので遠距離からのナイフ攻撃でカズナリさんを倒してください」

「……ん、了解」  

「カズナリは、対遠距離の敵にどうやって戦うかを頑張って考え打破してみてください」

 それぞれの相手によって狙いがあるのだろう……だが、遠距離相手か。

「ああ、自信はないがやってみる」

 俺はシグの目の前。人二人分ぐらいの距離を開け立っている。

「では、二人とも所定の位置着いたので……戦闘開始です!」

「……早速行くよ」

 シグが手始めに懐のナイフを投げ飛ばす。

 大鎌を振るいそれを弾き飛ばす。

 その瞬間、シグは呪文を唱える。

光子剣製フォトン・ナイフ

 するとシグの周りに光の剣が数本現れる。その剣をつかみ連続して俺の方に投げてくる。

 一本は寸ででかわし、もう一本は大鎌で弾き飛ばす。

 まずいな……、このままナイフを投げ続けられると全く距離を縮めることができない。

 今の俺は大鎌を振るうのみで、敵の距離を詰める方法など……いや、ある。

 俺は足に力を込め目の前に向かって地面を蹴り上げる。

 先日の身体能力魔法を会得したので、足に力を込めれば一瞬で距離を縮めることができる。

 だが、それも目の前に光るものを見て勢いを止める。

 シグはそれを警戒してか後方に飛躍し、俺の目の前の地面目掛けて光の剣を投げ、突き刺していたのだった。

 俺は再度地面を蹴り上げ、シグの右側に移動する。死角に入り一気に距離を詰める。これは街中でドロシーと戦ったときにされた戦法だ。

 そして一気に距離を詰め……ようとした。だが左右から飛んでくるナイフの気配に再度勢いを止める。

 俺の目の前には二本のナイフが地面を串刺しにしていた。

 危ない、あのまま進んでいたらシグのナイフの餌食になっていたはずだ。

「……僕のナイフは飛ばすのが基本。……遠距離からの牽制が基本だけど、あらかじめ投げた方向に避難することで今みたいに視界の外からの襲撃にも使える」

 なるほど、簡単には近寄らせてくれないってわけか。

「……次、行くよ」

 シグの手には通常のナイフと光のナイフが指の間にセットされており、それを投げ飛ばしてくる。

 一本目は俺に向かって、それを避けるとその先にはすでにナイフが投げられている。それを躱すとまた先にナイフが……。

 まずい、徐々にシグの射程内におびき寄せられている。

 一か八かだ。

 ダメもとで地面に突き刺さっていた光のナイフをつかみ取りに行く。

 ナイフは掴むことができる。それをシグの方に投げ飛ばす。

 しかし、俺の投げたナイフはシグの投げたナイフに当たり相殺される。

 まあ、そうなるよな。

 だが、光のナイフは発生者以外にも触れられる。であれば……。

 ナイフをかわしていくうちにシグの目の前におびき寄せられてしまっていた。

「……これで最後」

 シグはそういうと後方に飛び跳ね複数の光のナイフを俺に投げ飛ばす。

 俺は持っていた鎌でナイフを周辺に吹き飛ばす。

 ナイフの陰から時間差でやってきたナイフはかわすことができず頬を掠ってしまう。

 だが、これで勝機は生まれた。俺は空中に飛び跳ねる。

 そこには俺の弾いたナイフがあり、それを足場のように蹴りつける。

 その先には別のナイフ。そしてまた飛び跳ねる。

 ナイフを足場にシグの周辺を自由自在に飛び跳ねていく。いままで脅威だったナイフはいまや俺の足場になっていた。

 その状況をシグは目で追おうとするが、追いつくことができない。

 シグの後ろから一気に接近し、そして首元に大鎌を突きつけた。

「終了ー!」

 そこで道化師の声が響く。

「いやー、予定通り相手の武器を利用するという戦術を見事やってくれましたね。シグさんもご協力ありがとうございます」

「……近距離攻撃ができないと接近戦はやっぱり厳しい」

「ありがとうなシグ。今度はハンディなしでやろう」

「……うん。その時は僕が勝つ」

 俺はシグと握手をして一回戦を無事終了させるのだった。

 ***

「いやー、戦闘後の熱い友情っ! 素晴らしいですねっ! では次の相手はこの私です!」

 道化師の隣の椅子に座っていたドロシーが俺の前に来る。

 あ、そうか。俺、連戦になるのか……これはつらいな。

「ドロシーさんには炎拳制裁は禁止です。それ以外は特に制限を設けません。ちなみに、シグさんは遠距離戦でしたので、ドロシーさんは近距離戦を意識しての戦闘をイメージして戦ってくださいね」

 道化師が開始前にそう補足をしていた。

「悪ではないカズと戦うのは心苦しいですがこれもカズのためを思えばのことですっ! いきます」

 ドロシーは所定の位置につき、拳に力を入れ構える。

「では……戦闘開始!」

 予想通り、ドロシーは一気に間合いを詰めるように地面を蹴り上げる。

 俺は詰められまいと後ろに飛躍し距離を離す。

「甘いですよ。カズ」

 するとドロシーは空中を蹴り上げさらにスピードを上げ距離を詰めてくる。

 そんなこともできるのかよっ!

 俺は咄嗟に鎌の面でガードをする。

 一気に距離を詰められたドロシーの拳がめり込む。

 ずしりと重い一撃。鎌で防いでもその強力な一撃で真後ろに吹き飛ばされてしまう。

 足でブレーキをかけ、勢いを殺す。

 だが、目線を前に戻す頃にはさらに距離を詰めてくる。

 くそっ、これじゃきりがない。

 地面を蹴り上げる。

 ドロシーを真下に捕らえ大鎌の外刃を下に向けた状態で先ほどのドロシーの見よう見まねで空中を一気に蹴り上げる。

 大鎌ごと真下に向かって、落下する以上の速度をつける。

 ドロシーはそれをかわし俺との距離を取る。

「学習が早いですね」

「いや、見よう見まねでやってみたんだけどね」

「なら、こんなのはどうでしょうか」

 するとドロシーは空中に飛び上がる。そして再び、空中を蹴り上げ俺に向かって駆けてくる。

 大鎌で目の前を切りつける。

 しかし、ドロシーは腕を下に向け手の甲から炎を噴射させる。

 いままで直線的な軌道だけだったが、それにより曲線的な軌道をドロシーは描いていた。

 そして、俺の真上を通過していく。

 攻撃をしてこない……だと!?

「ぐはぁ……っ」

 それに気づいた時には、背中に重い一撃を貰っていたのだった。

 背中に受けたダメージは重く俺の身体が悲鳴をあげる。俺は体勢を立て直しドロシーとの間に距離を取る。

「単純な勢いだけでは軌道を読まれてしまいます。なので時には勢いを殺すこともまた必要。生かすも殺すも利用者次第ですよカズナリ」

 遠くで座っている道化師がそうアドバイスをくれる。

 なるほど、そういうことかよ。

「なら、これならどうだ!」

 俺は足に力を入れ、ドロシーに接近する。

 大鎌を振るいドロシー目掛けて突き刺すように上から振り下ろす。

「甘々ですよ! カズっ!」

 振りの大きい俺の攻撃は案の定躱されてしまう。

 だが、俺の狙いはそれじゃない。

 地面に突き刺さった大鎌の切っ先を軸に大きく体を回転させる。

 そして一瞬にしてドロシーの背後に接近して思いっきり蹴りを入れる。

「ん゛っ……」

 ドロシーのうめき声が漏れる。

 俺はそのままの勢いで倒れたドロシーに近寄り鎌を首に突きつける。

「そこまで!」

 道化師の言葉が届く。

「んーっ! まさか、鎌をそういう使い方をするなんて想像以上でしたっ!」

 俺はドロシーの手をつかみ立たせる。

「いや、ドロシーの戦い方を見て思いついたんだよ」

「ですが、それをやってのけるのはさすがですっ!」

 ドロシーは俺の手をつかみ立ち上がりながら、そう言ってくれる。

「今度やるときは手加減なしでやりたいですねっ!」

「ああ、その時はよろしく頼むよ」

 俺はドロシーと固い握手をするのだった。

「さて、ではそろそろ私の出番ですね」

 ドロシーと入れ替わる形で道化師が目の前にやってくる。

「遠距離、近距離と両極端の相手と戦ってもらいましたが、私はその両方です。どう戦いますかな」

 ――道化師はいつものニコニコ顔で俺の顔を覗き込む形でそういうのだった
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