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第三章

3-2「道化師の日記」

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 †親愛なる妹へ†

 この日記を読むときは兄さんはもうこの世にいないでしょう。

 兄さんは愛する妹の姿をもう一度見てみたかったです。兄さんのことをふと思い出したときは後ろを向いてください。兄さんはいつでもあなたの後ろにいますよ。

 嘘です。うそですよー兄さんは元気にやってます。

 さて、そんな冗談はさておき、今兄さんはとある馬車にいます。馬車には兄さんと一緒に旅をしている人達が乗っています。

 馬車を運転しているのは"カズナリ=トノサカ"さん。

 黒髪で好青年。困っている人を放っておけない、そんな性格ですね。持っている武器は大鎌。

 適性属性は闇。ですが魔法を使っているところを見たことはありません。まだ魔法を使ったことがないのでしょうね。

 服装は黒を基調とした長いローブをまとい、その腰にはいつも小さな鈴をつけています。ですが、その鈴の音が鳴るときは、ほんのときどき。私が聞いたことがあるのは二回だけです。不思議な鈴なんでしょうね。

 その隣で寄り添うように座る女性は獣人の"アオイ=スループ"さん。

 綺麗な青色の髪は肩まであり、後ろに一つに結っています。瞳は透き通るような緑色で、白い肌の綺麗な女性です。ですが、その瞳は常に一人の方を見ていますね。心の底から信頼しているのか……それともそれ以上なのか。見ているこっちが恥ずかしくなるぐらいとても愛らしい人です。

 適応属性は水。魔法を使っていることはまだ見ておりませんがいくつか覚えているようですね。手の上に水の球体を瞬時に発生させる水球生成アクア・ボールの魔法石を先日買ったそうです。

 上着は白色で肩から先はなく腰ぐらいまでの長さで、スカートは黒色で短くちょっと動けば中が見えちゃいそうです。ですが安心して下さいスカートの中には膝上までを覆う黒色のインナーを履いています。そして、赤のベルトをしておりとても冒険者らしい服装です。服を作った方のこだわりを感じますね。

 そして、私の隣で寝息を立てているのが"シグ=ヴァルカー"さん。

 大きな帽子をいつもかぶっている無口な子です。淡黄色の髪でちょっとクセっ毛でうなじが隠れるほどの長さですね。片目に少し前髪がかかっていますが見えにくくないんでしょうかね。

 簡単な旅装束をしていますが、その下にはたくさんの短剣が隠されているようです。シグさんの武器は短剣ですからね。その精度は素晴らしいもので遠くの敵の目すら仕留めてしまうほどなのですから。

 適応属性は光で、先日魔法石で自分の周囲に短剣を発生させる光子剣製フォトン・ナイフを習得したそうです。

 その近くで仰向けで倒れているのはドワーフの"ドロシー=ガーランド"さん。

 赤髪で長いツインテール、それに黒のふりふりドレスがチャーミング。手の甲を隠すように手袋には三つの宝石が埋め込まれています。

 それがドロシーさんの武器。拳で戦う武闘派です。そしてなによりも正義の味方を名乗っています。どんなことでも正義の名のもとに行動する、単純明快快活少女です。その心には悪意は一切ありません。兄さんにはとても眩しすぎます。

 適応属性は火ですが、魔法は使えません。ですが、ドワーフが得意とする魔法付与エンチャントで拳に炎を乗せて戦うスタイルです。

 そして、瞬時に全身に炎をまとわせ身体能力を上げる炎拳制裁えっけんせいさいが彼女の得意技のようです。ですが、使った後は体力を大幅に消費し動けなくなってしまうようでカズナリさんに使わないように釘を刺されています。

 そして、やっと私の紹介。私があなたの親愛なる兄である。道化師こと"タラント=テニエル"です。

 適応属性は風ですね。武器は杖型の剣にカードなどなど道化師らしいものならどんなものでも扱えますよ。魔法だっていくつか扱えますが、それはあなたが知っての通りです、親愛なる妹よ。

 さて、馬車が向かう先は海に面した街シラノバ。ですが、そこへ行くまではいくつもの山越えをしないとなりません。ですので、山越え前の村リュンナへ今は向かっています。

 っと、馬車が何かに躓いたのでしょうか急に止まってしまいました。

 ***

「おーい、道化師。ちょっと車輪の様子を見てくれ」

「えーなんで私なんですかー!」

「お前なら多少汚れても大丈夫だろ?」

 カズナリさん、いつも私には手厳しい。ですが、ここで呑気に止まっていては魔獣の群れに囲まれてしまいます。

 仕方ないので荷台から降りて、荷台の下に潜り込むことにしましょう。

「あー、これは後輪が石に止められてしまっていますね」

 車輪の様子を確認すると石に阻まれて進めなくなっているようです。

「道化師、どかせそうか?」

「お安い御用です。少々お待ちください」

 さて、どうしたものでしょうか。石を取り除かないといけませんね。まずは後輪に引っかかっている石と荷台についている石も除けましょう。

 その代わりに、"この美しい石"を装着いたします。これで万事解決。

 ではでは、カズナリさんに合図を送りましょうか。

「カズナリー、石をどかしましたよー」

「おー、ありがとう」

 すると、カズナリさんは手綱を引き馬車を走らせます。

 ……おや?

 おやおや、私がまだ乗っていないのですが。

「ちょ、ちょっとー! 私がまだ乗っていないのですがー!」

「頑張って乗ってくれ」

「いやいやちょっと待ってください!」

 私は何とか荷台に乗ることができました。シグさんが荷台に結ばれた縄を放ってくれなかったら乗れませんでしたよ。

 シグさんありがとうございます。いつか素晴らしいプレゼントをあげないといけませんね。

 そういえば、プレゼントと言えばこんな出来事もありました……。

 ***

 時はドロシーさんが魔獣を退治した後です。

「アオイ嬢、そういえば忘れていました」

 私はカズナリさんに寄り添うように座るアオイさんに声をかけます。

「なんでしょう? タラントさん」

 そんな不機嫌そうな声で返事をしないでくださいよ。折角のお楽しみを邪魔したのは悪いと思ってますから。でも、そんな小さな変化も本人はおろか、私ぐらいしかわからないようですが……。

「先日のゴブリンクイズのプレゼントがまだでした」

「ゴブリンクイズ?」

 おや、この様子からすると覚えておられないようですね。

「ゴブリンの巣の証。モンスターボックスを当てたプレゼントですよ」

「ああ、あれですか。冗談だと思ってましたよ」

 いやはや、私そこまで信用されていないとは。さすが道化師、光栄の極みです。

 そんなことを思いながらも、帽子の中から一つの刀を取り出します。

「こちらをプレゼントいたします」

「これは……刀ですか?」

 アオイさんが受け取ってくれます。刀は鞘に納められた状態になっています。

「ええ、私が旅をしたとき日ノ本ヒノモトで入手いたしました日本刀にほんとうと呼ばれる剣です。こちらをプレゼントいたします」

「こんなものいいのでしょうか?」

「道化師がくれるっていうだから貰っておけよアオイ」

 アオイさんがすこし申し訳なさそうにそう言いますが、カズナリさんが後押ししてくれます。アオイさんはちょっと遠慮する癖がありますね。

 まあ、一つだけ遠慮しないことがあるんですがね。それはいいとして。

「カズナリの言う通りです。それに、あなたの戦闘スタイル的に今持っている小刀よりも長い得物のほうが扱うのに慣れているとお見受けいたします」

 獣人であるアオイさんは小刀も使いこなせますが、体格、性格、佇まいなどから予想してその本領を発揮するのは長い得物でしょう。

「確かにアタシが今まで使っていたものは長い剣ではありますが……」

「そうだ、カズナリ! 折角ですし、模擬戦でも致しましょう。これを機にカズナリの戦闘力のアップ!アップです」

 カズナリさんも戦闘経験は少ないので是非ともここらで享受していただいたほうがいいですね。

「模擬戦か……。いいな、それ。実戦形式で学ぶことも多そうだ」

「ですが……カズナリさんに剣を振るうのは……」

 おやおや、アオイさんの悪い癖。ですがご安心、道化師にはお見通し。

「ちなみに模擬戦は大会形式で優勝賞品は"カズナリ一日独占券"です」

「やりましょう」

「いや、俺そんなの許してないんだけど!」

 こうして、パーティカズナリ御一行による武闘大会の開催が決定したのでした。
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