魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

side セレス=シュタイン ~残酷な世界~

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【ガルド大陸 首都ガルディア王宮前】


「ほら、着いたゾ」


 またここに戻るのはもう少し先だとばかり思っていたのに……

 大型の非行型の魔物から降りる。
 この魔物は通称ノートルダムという鳥類と飛竜を掛け合わせた魔物らしい。

 私達が背中から降りると、ジェダイは手に持った筆のようなもので地面に丸く円を描く。

 するとノートルダムは絵の具の様に溶けて消えていった。


「召喚術は珍しいミタイダネェ……」


 私の驚いた顔を見たのかジェダイは顎に手を当てて答える。

 召喚魔法、この世界には召喚術はある程度広まってはいる。
 ただ、魔法とは条件が違い、限られた人物のみが行える魔法。
 今まで召喚魔法を使える人物は、ガルディアの教皇である、ドンナム=イルレシアさんしか知られていなかった。

 実際に数が少ないため、こうしてちゃんと見るのは初めてだった。


「早く案内してください」


 だけど、今の私には関係のない事、母様が無事かどうかが最優先。


「あはは、ジェダイに厳しいねぇ、まぁ私から見ても色塗りにしか見えないし」


 くすくすと可笑しそうに笑う、鬼の角、ドラゴンの翼、人間の胴体、蜘蛛の脚、そんな歪な物が合わされた12歳程の少女に見える人造キメラ、ヘンリエッタ。


「こっちダ」


 王宮にこんな形で来る日が訪れるなんて……

 見上げると白い大きな建造物に目を奪われそうになる。
 今まで兄様が王宮に行くことはあっても私はなかったからなぁ……

 白を基調とした大理石でできた王宮の内部は、私達の靴音がコツコツと響き渡る。

 その音に交じってヘンリエッタの八本の脚からなるカチャカチャという音は、あまりにも異質すぎた。

 後ろを振り返るとヘンリエッタは機嫌がいいのか鼻歌交じりだ。

 長い荘厳な廊下を抜けると、広い空間にたどり着いた。


 おそらくここがメインホールなるものだろう。
 二階席には取り囲むように椅子が並び、ふとその上を見上げればシャンデリアがキラキラと眩しい。

 階段の上にはこれまた高級そうなパイプオルガンが設置されている。


「言わばダンスホールという場所ダネ」


 質問などしていないというのに、私のその物珍しそうな反応を見てジェダイは答える。

 中央の場所にたどり着くと横の扉が勢いよく開かれる。


「母様!!、それにフリーシアさん!!」


 二人の衛兵に連れられ、手錠を嵌められた二人が申し訳なさそうな顔でこちらに歩いてくる。


「ごめんなさい。 セレス」

「すみません、セレス様、私が付いておきながらとんだ失態です……」

「何を言ってるんですか、フリーシアさんのせいなんかじゃありません。 それに母様も謝らないでください」


 母であるミラ=シュタインは私の顔を一目見るとぽろぽろと泣き出してしまった。


「もう…… 会えないのだとばかり……」

「母様」


 母の背中をさする。 これくらいならば大丈夫と衛兵は無言のまま、鎖を握っている。

 それにしてもこの衛兵達、顔に覇気が感じられない……

 横目で見ると、どこか上の空にも関わらず、手に持った鎖だけは固く握られている。

 あまりにも不自然な光景になぜだか寒気がする。


「感動の再開とやらは済んだか?」


 その声は聞き覚えがあり、私の心の炎が燃え上がる。
 嫌悪感を隠し切れない視線を声のした二階席にむける。


「「ただいま戻りました。 我が王よ」」


 ジェダイとヘンリエッタは跪き、頭を下げる。


「アルバランっ!!」


 ギリッと奥歯を噛みしめる音が聞こえてしまいそうなほど、私の怒りは頂点に達していた。
 思わず握った手に力が入る。


 コツコツとまるで無感情なほど冷徹な表情で、アルバランは階段を降りてくる。


「なぜ、そんな目をする。 私達は家族じゃないか」


 急に大仰な態度に変わり、両手を広げそんな言葉を口にする。


「貴方を家族だなんて認めません!!」


 もっと早く気づいておくべきだった。 こんな男が今まで家族だったなんて…… 


「フハハ、そうだな、私とて一度も貴様らを家族と思ったことなど一度もない、そこの女も都合がいいから置いておいたまでよ」

「貴様っ!!母様の事までっ!!」


 この男はいったいどこまでっ!!

 しかし激高する自分を冷静に見れる自分がちゃんといる。
 落ち着かなきゃ…… ここは敵の本拠地、今の私の叫びで確実にジェダイ達の目の色が変わった。


「病弱な母親を引き取り、お前を育て、何不自由ない暮らしをさせてきたのは誰だと思っている。 この私だ」

「ぐっ!!」


 手に握った拳から血が流れる。

 悔しい。 こんな男に……


「と、まぁ煽るのもこの辺にしておこう、そんな人間的感情は久しかったのでな、お前をここに連れてきたわけを話そう」


 急に飽きたように私の事を見る。
 その目は何故か暗く、淀んでいた。


「私に何をしろって言うの!?」


 キッと睨む、効果がないのはわかりきっているけど……


「簡単な話だ。 母親を殺せ」

「えっ!?」


 今…… 何を言われた?……


「聞こえなかったか? お前のその手で母親を殺せと言っている」


 膝から崩れ落ちる。
 わ、私が…… 母様を……


「私が殺したところで意味がない、お前に掛かっている封印式は母親が握っている。 お前の手で殺さないことには発動しない仕組みになっている」


 そんな……


「で、できないっ!! そんな私が母様を殺すだなんてっ!!」

「できるできないの問題ではない。 やるんだよ」


 ぐっ……


「わ、私が、約に立つように動きますから、どうかそれだけは……」


 頭を地面につけ、必死に懇願する。

 こんなのは嫌。 自分の手で母様を殺すくらいなら……


「くどいな、それではお前をここに呼んだ意味がない」


 そんなっ…… 慈悲すらないと言うの!?

 溢れる涙で視界が霞む。

 後は…… 一か八か……


「あぁああああ!! ライトニングっ……」


 振りかざした手を掴まれる。


 えっ……

 魔法が……


「【魔法無効】、ここを治すのにも金がかかるんだ。それに万が一当たったとしてもお前に勝機などない」


 それに、いままでそこにいたはずなのに一瞬で……

 痛っ、なんて力…… 振りほどけない……


「できないというのなら手を貸そう」


 掴まれた私の手に一本のナイフが握られる。

 手がっ……

 手を放そうとしても私の手はそのナイフを握りしめたまま固く固定されてしまっている。


 嫌っ!!! こんなのっ!!

 どうして外れないのっ!!!


 左腕を使ってナイフを握った腕をこじ開けようとするが、皮膚を引き裂くだけで金属の一部になってしまったかのようにびくともしない。
 


 外れてっ!!外れてっ!!

 鮮血が迸る。


「セレスっ、もういい、もういいのよ」

「よくないっ!!! こ、来ないでっ!!」


 母、ミラはセレスの傍に滲みより、その傷ついた手をそっと包む。


「ダメっ!!」

「セレス…… その顔をちゃんと見せて」


 その涙でぐしゃぐしゃになった顔をミラは優しく拭ってくれる。


「母様……」

「フフ、やっぱり目元なんかあの人にそっくり、ごめんね、巻き込んでしまって……」


 私の頬を撫で、優しく語り掛ける。
 まるで幼い頃の様に……


「そんなっ…… 私っ……」


 言葉がうまく出てこない。 


「いいの、セレスは何も悪くない。 悪いのは私の方よ、どのみち長くない命だもの……」

「ちがっ…… 」

「最後に会えて嬉しかったわ、あなたが生まれてきてくれて良かった。 だってこんなに優しい子なんだもの……」


 涙で前が見えない。 母様の顔を焼き付けなきゃ…… 


「ごめんね…… セレス…… あなたの体の事ちゃんと話せなくて…… 愚かな母を許して……」

「母さ……」


 右腕に生暖かい感触が広がる。

 ズブリとナイフが突き刺さる感触が伝わる。

 いやっ…… いや……

 嘘…… これは夢……


「か、母様?……」


 母、ミラは私を抱くようにピクリとも動かない。

 生暖かいものが赤く広がっていく。



「いやぁああああああああああ!!!!」


 違う違う違う違う違う違う違う違う違う……
 これはよくない夢……

 夢……

 意識が朦朧とする。

 お願いお願いお願いお願いお願いお願いお願い……

 覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて覚めて……


 どうして…… どうしてなの?……


 ミラから流れ出た血は再び勢いを増し、傷だらけのセレスの腕に勢いよく流れ込んでいく。


「あっ…… かはっ……」


 ドクン、ドクンと波打ち、セレスは痙攣していく。


「ほう、これはすごいな……」


 セレスの倒れた地面に血で赤く魔法陣が描かれる。

 それは光を放ち、収束していく。

 光が収まるとそこに残ったのはナイフを手にしたセレスただ一人だけであった。


「どうやら、封印の鍵となった肉体は消滅するようだな」

「……殺す」


 ゆらりと立ち上がり、その金色となった瞳でアルバランを睨みつける。
 それだけで大気が震え、窓が一斉に割れる。


「ほう、解除後すぐに動けるのか」

「殺す!!お前だけは絶対にころ……」


 走り出そうとしたセレスは何者かの手によって首に手刀をうけ、そのまま地面に倒れた。


「っぐっ…… そんなっ……」


 途切れそうになる意識の中、見た先に居たのは……


「ご苦労、フリーシア」


 冷徹な表情で私を見つめるフリーシアだった。




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