93 / 104
第二章 アルテア大陸
番外編 ~花火1~
しおりを挟む【約1年前 ガルド大陸 首都ガルディア、ブレインガーディアン第1部隊室】
「うぁー暑いっすね、こうもこんな蒸し暑い日に書類の山を片付けろと言われてもやる気が起きないっすよ…」
ジャスティンはテーブルの上に積んである書類の山にうんざりしながら深くため息を吐いた。
「もー!!暑いって言わないでよーせっかく頑張ろうって我慢してたのにジャスティンのせいでやる気が無くなっちゃったよー」
とうとうパトラはペンを放り出し、テーブルに突っ伏してしまった。
「あーやる気がでないよぉーたいちょー、外はあんなに楽しそうにお祭り騒ぎだっていうのに、私達はなんでこんな暑い部屋に籠って書類の整理なんかしなくちゃいけないんですかぁ」
「上の指示なんだから仕方ないよ、騎士団長のトリシアさんだって頭に冷却魔法のマジックアイテムを貼って仕事をしてるし、何より昨日から寝てないらしいからね…」
さきほどできた書類に判を押してもらうために騎士団長室に行ったら、目の下にクマを作り、虚ろな目で書類の山を一人で片づけているトリシアさんの姿があった。
ブツブツと何やら不気味な呪いの言葉を発しながら仕事をするトリシアさんはかなり恐ろしく見えた。
あの一人で片付けている書類の量に比べれば私達に回ってきている書類の山が軽く見えてしまうのが不思議なほどだ。
そう、アレに比べたらいくらかマシなのである。
「ひぇえええ… この書類よりも多いの? お、お疲れ様ですだねほんとに…」
「あ!」
唐突に黙々と仕事をこなしていたセレスがおもむろに声を上げる。
「私が氷結魔法でこの部屋の温度を下げてみますよ!」
「おお、さっすが優等生だったセレスは発想力が違うね!この暑さから解放されるならさっそくやってみようよ」
パトラとセレスは生き生きとこうしたほうがいいんじゃないかと話し込んでいる。
「嫌な予感がするんだが…」
「カナンは心配性だなっ、こんなあっつい空間に居続けたら茹でじゃがになっちゃうよ私達!!」
「茹でじゃがって表現使う奴初めて見たっすよ… ホクホクになるんすか…」
「ささ、そうと決まれば善はウサギのなんとやらだよっ!!」
いそいそとパトラは部屋から飛び出し、食堂へ走っていくと大きな鍋に水をタプタプに入れて戻ってきた。
「これをこーして、たいちょーも見てないで手伝ってくださいよー」
むすっとした表情でパトラは部屋の角に水の入った鍋を置いた。
いったい何をしようと言うんだ…
「部屋の四隅に氷を作れば自然に涼しくなるという私のアイディアです!どーですか?天才と呼んでくれてもいいんですよ!」
びっと私に指をさしてどや顔でパトラはうんうんと頷いている。
「て、天才なのか!?パトラ!!」
「もう、あんまりパトラを調子に乗らせないでください兄様」
「ああ、つい、でも今までそんなこと考えた事もなかったからな、まぁやるだけやってみよう、四隅に水を入れたものを持ってくればいいんだな」
「そーです!なるべく水をたっぷり入れられる大きいのがいいですね」
「わかった」
しばらくするとジャスティンもカナンも大きめの鍋に水を入れて部屋に戻ってきていた。
「この労働ですでに汗だくなんすけど」
「おーい、そこ危ないぞ」
「おわっ… 隊長… 風呂用のタンクなんていったいどこから持ってきたんすか…」
「ん? 普通に廃材置き場だが… おっと安心してくれちゃんと洗ったから綺麗な水だぞ」
「こんなに水いるんですか?」
カナンが青ざめた顔で聞いてくる。
「さぁ… まぁ少ないよりはいいだろ」
ドシンという大きな音を立てて風呂用のタンクを降ろし、これで準備は整った。
「ささっ、先生やっちゃってくださいよー」
「もう、そんなに見られると恥ずかしいよ」
みんなの視線がセレスに集中する。
ふぅと小さく息を吐き、セレスは魔法を紡ぐ。
「コールドブレス!!」
急速に四隅にあった水が瞬時に凍る。
瞬時に…
凍る。
「ガタガタガタ… せ、成功… だね…」
青い顔でガタガタと震えるパトラはいい笑顔でサムズアップする。
「ど、どこが、っすか!!」
「ささ、寒すぎるんだが…」
「おかしいなぁ一番弱い出力なのに…」
「そ、そんなことより早くここから出ないと死ぬっすよぉ… うゎあああああ手がドアノブにくっついてはがれないぃいいいいい!!!」
「あれ?あっちに美味しそうな食べ物があるぞ、みんなあっちだ」
「カナン!!しっかりしろ!そっちは行っちゃいけない!!」
「安心して!反対属性の魔法を使えば氷は解けるはず!!ヒート…」
「「それはやめたほうがいい」っす!!」
しゅんとなっているセレスは可愛いのだが、まずいな、どんどん温度が下がってきているぞ…
「ヒートブレス、いったい何をやってるのかしら貴方達は…」
ドアを開け、この夏なのに季節感を無視した黒いドレスのエルフの女性、カナリア=ファンネルが反対属性の魔法で氷を溶かしていく。
呆れ顔のカナリアがため息を吐きながら魔法を使い、この冷凍室を解除してくれた。
「た、助かったっす… このままドアの一部になるとこだったっすよ…」
「はぁ、何をしてるかと思えば… セレス、力の制御はなかなかできていないみたいね、後で教えてあげるからこれにサインしてね」
「うぅ… 始末書… ですか…」
「当たり前でしょう… まったく、そうそうこんなことするために来たわけじゃないのよ、今日の首都のお祭りがあるのはみんな知ってるでしょう?」
「まさか!!遊んできていいと!!」
パトラが目を輝かせながら期待に満ち溢れた顔をしている。
「残念、貴方達は住民達の誘導係よ、そして同時に周辺の警護をお願いできるかしら?」
「そんなぁー」
がっくりとうなだれるパトラをセレスが宥める。
「要人警護か?」
「ええ、宝石商のドワール=エドマンよ、名前くらいは知ってるでしょ?」
宝石商ドワール=エドマン、相当な資産を持っており、彼が経営している店の売り上げは国家予算にまで届くかといわれるほど有名な男だ。
そんな人物がなぜこんなイベントに参加するんだ…
「【花火】よ」
「はなび? なんだそれは?」
「知らないのも無理はないわ、異世界人が作り上げたといわれる空に打ち上げる花は今回のイベントの隠し目玉ですもの、ドワール=エドマンも好奇心が強い人でこの【花火】を目当てに見に来るみたいなのよ」
空に打ち上げる花か…
「当然こんな人混みが多いとこにそんな富豪が来たら狙われる危険があるのよ、それを私達騎士団が全面的にバックアップして警護するっていうのよ」
「上からの指示か?」
「そうよ、トリシア騎士団長も荒れていたわ…」
さっきの光景を思い出したのかカナリアは青い顔で遠くを見ている。
「夜までに時間はあるのだし、今のうちに準備をしておいて、それとアリア達第1部隊は西区を担当してもらうから」
はいっと手渡されたのは都市の地図で、編成部隊のおおまかな配置場所が記されていた。
「それじゃ頼むわね」
そういうとカナリアは部屋を後にしていった。
「ほーら、追加の仕事だぞー」
「うわぁー、お祭り行きたかったのにー」
「しょうがないよパトラ」
「混んでるとこあんまり好きじゃないんすけどねぇ」
「少し出店で食べるくらいならできるだろ」
…この時はまだあんなことになるとは誰も思いもしなかったのであった。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説

異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。
ファンタスティック小説家
ファンタジー
科学者・伊介天成(いかい てんせい)はある日、自分の勤める巨大企業『イセカイテック』が、転移装置開発プロジェクトの遅延を世間にたいして隠蔽していたことを知る。モルモットですら実験をしてないのに「有人転移成功!」とうそぶいていたのだ。急進的にすすむ異世界開発事業において、優位性を保つために、『イセカイテック』は計画を無理に進めようとしていた。たとえ、試験段階の転移装置にいきなり人間を乗せようとも──。
実験の無謀さを指摘した伊介天成は『イセカイテック』に邪魔者とみなされ、転移装置の実験という名目でこの世界から追放されてしまう。
無茶すぎる転移をさせられ死を覚悟する伊介天成。だが、次に目が覚めた時──彼は剣と魔法の異世界に転生していた。
辺境貴族アルドレア家の長男アーカムとして生まれかわった伊介天成は、異世界での二度目の人生をゼロからスタートさせる。

ウルティメイド〜クビになった『元』究極メイドは、素材があれば何でも作れるクラフト系スキルで商売をして生計を立てていく〜
西館亮太
ファンタジー
「お前は今日でクビだ。」
主に突然そう宣告された究極と称されるメイドの『アミナ』。
生まれてこの方、主人の世話しかした事の無かった彼女はクビを言い渡された後、自分を陥れたメイドに魔物の巣食う島に転送されてしまう。
その大陸は、街の外に出れば魔物に襲われる危険性を伴う非常に危険な土地だった。
だがそのまま死ぬ訳にもいかず、彼女は己の必要のないスキルだと思い込んでいた、素材と知識とイメージがあればどんな物でも作れる『究極創造』を使い、『物作り屋』として冒険者や街の住人相手に商売することにした。
しかし街に到着するなり、外の世界を知らない彼女のコミュ障が露呈したり、意外と知らない事もあったりと、悩みながら自身は究極なんかでは無かったと自覚する。
そこから始まる、依頼者達とのいざこざや、素材収集の中で起こる騒動に彼女は次々と巻き込まれていく事になる。
これは、彼女が本当の究極になるまでのお話である。
※かなり冗長です。
説明口調も多いのでそれを加味した上でお楽しみ頂けたら幸いです

Re:Monster(リモンスター)――怪物転生鬼――
金斬 児狐
ファンタジー
ある日、優秀だけど肝心な所が抜けている主人公は同僚と飲みに行った。酔っぱらった同僚を仕方無く家に運び、自分は飲みたらない酒を買い求めに行ったその帰り道、街灯の下に静かに佇む妹的存在兼ストーカーな少女と出逢い、そして、満月の夜に主人公は殺される事となった。どうしようもないバッド・エンドだ。
しかしこの話はそこから始まりを告げる。殺された主人公がなんと、ゴブリンに転生してしまったのだ。普通ならパニックになる所だろうがしかし切り替えが非常に早い主人公はそれでも生きていく事を決意。そして何故か持ち越してしまった能力と知識を駆使し、弱肉強食な世界で力強く生きていくのであった。
しかし彼はまだ知らない。全てはとある存在によって監視されているという事を……。
◆ ◆ ◆
今回は召喚から転生モノに挑戦。普通とはちょっと違った物語を目指します。主人公の能力は基本チート性能ですが、前作程では無いと思われます。
あと日記帳風? で気楽に書かせてもらうので、説明不足な所も多々あるでしょうが納得して下さい。
不定期更新、更新遅進です。
話数は少ないですが、その割には文量が多いので暇なら読んでやって下さい。
※ダイジェ禁止に伴いなろうでは本編を削除し、外伝を掲載しています。
ニートの俺がサイボーグに改造されたと思ったら異世界転移させられたンゴwwwwwwwww
刺狼(しろ)
ファンタジー
ニートの主人公は一回50万の報酬を貰えるという治験に参加し、マッドサイエンティストの手によってサイボーグにされてしまう。
さらに、その彼に言われるがまま謎の少女へ自らの血を与えると、突然魔法陣が現れ……。
という感じの話です。
草生やしたりアニメ・ゲーム・特撮ネタなど扱います。フリーダムに書き連ねていきます。
小説の書き方あんまり分かってません。
表紙はフリー素材とカスタムキャスト様で作りました。暇つぶしになれば幸いです。
異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~
モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎
飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。
保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。
そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。
召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。
強制的に放り込まれた異世界。
知らない土地、知らない人、知らない世界。
不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。
そんなほのぼのとした物語。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる