魔法力0の騎士

犬威

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第二章 アルテア大陸

激闘

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 シェリアを上手く逃がすことに成功したのもつかの間に私達は再び激しい戦闘に入って行った。


「チッ、逃がしちまったか、まぁいい、俺らがやられなければいい話だ」


 鍔迫り合いをしながら兄の鳥人アンバーは弟の鳥人アンバー方に向けて話す。

 こいつ… 強化されてるとはいえなんて力なんだ… 

 私の方がじりじりと後ろに押され始めている。


「女をいたぶる趣味はねぇからちょうどいいさ、兄者」


 カインとアインのほうも押され始めている。


「ああ、こっちのほうが楽しめそうだぜ、オラァ!!」

「クッ!」


 ギィンと甲高い音を立てて剣が弾かれる。

 重い一撃だ… それに速い。

 すぐさま距離を詰め、横薙ぎに大鎌を一閃。


「いいね、よく躱したァ!」


 一閃される直前にしゃがんだことにより大鎌は宙を切る。

 そのまま、足払いに入った私の攻撃をちゃんと読んで飛んで避ける技術。
 やはり簡単にはいきそうにない。


 今度はこちらの番だ!

 踏み込み、一気に距離を詰め、振りかぶる。


「当たらねぇよ!」


 兄はバックステップで距離を取る。

 それも計算のうちだ。
 次元収納を発動し剣を長剣に瞬時に持ち替える。


「なにっ!?」


 ガギィンという大きな金属音と共に長剣は大鎌に防がれてしまった。


「おいおい!手品師かなんかなのかアンタは」

「残念だがそれは教えることはできないよ」


 初手でこの攻撃が防がれるなんて思ってもみなかったな… やはり強いな。

 再び距離を取った兄は、魔法を大鎌に宿した。


「サイクロンエレメントォ!!」


 こいつもやはりシェリアと同じく風魔法の恩恵が強いのか…
 暴風が大鎌の周囲に纏わりつく、まるで吸い寄せられるかのように風がその場所に集約していく。


「オラオラオラオラァ!!」

「ッ… クゥ!」


 その大鎌は一振りするだけで強力な風の刃を飛ばす。
 辛うじて転がるように風の刃を避けると、その刃が通った場所は深く抉れ、ズドンという音とともに壁に突き刺さる。

 あんなもの食らったらひとたまりもないだろう。


「避けるだけかァ、騎士さんよォ!」


 チェーンアームに切り替え、移動しながら風の刃を避ける。
 ちらりとカインとアインのほうを見れば同じように苦戦しているみたいだ。


「俺をもっと楽しませろォオオ!!」

「ゥオオオオ!!」


 次元収納から槍を取り出し、兄に向って投げつける。
 投げると同時に一気に兄の元に跳躍。


「おっとぉ!チッ」


 兄は槍をかろうじて避ける。
 避けた先に私は跳躍してすでに迫っている。
 そこからじゃ回避はもうできない。防ぐしかないだろう。

 兄はすぐさま大鎌を掲げ、防御態勢をとった。

 既に振りかぶった私は次元収納から大きめのハンマーを取り出しそのまま振り下ろした。


「グォオオオオオオオ!!」


 けたたましい音と共に振り下ろされた一撃は兄もろとも地面まで破壊して見せた。

 瓦礫が勢いよく砕け、折れた鎌とともに兄は3階へ落ちていく。

 すぐに後を追い、私も3階に降り立つ。
 チェーンアームで壁に突き刺しながら落ちてくる瓦礫を避け、3階にたどり着く。

 兄の鳥人は血まみれであったが、二本の足でしっかりと立ち、笑いながらこちらを見る。


「すげぇな、お前は武器博物館かよ、チッ鎌が折れちまった。こいつはもう使えねぇな」


 ガランと武器を捨て、背からすらりと剣を取り出す。


「仕切り直しだァ!」


 暴風魔法の恩恵か宙を凄まじい速さで滑空しながら迫る。
 一撃一撃が重く、弾くのも一苦労だ。


「っつう」


 激しい剣戟でさらに暴風魔法のせいで完全に避けることができない。

 繰り出される風の刃は威力こそ低いものの確実にダメージを負っていく。

 だが、普段の使う武器が大鎌だっただけあって動きが慣れていない。


「ぐぉお!!」


 カウンターで繰り出した刃がわき腹を抉る。

 すでに血を流しすぎたのか動きは先ほどに比べて遅い。


「ゥラァアア!!グブッ!!」

「ォオオオオオ!!!」


 紙一重で振り下ろされた剣を躱し、その無防備な背に向け回転を加え蹴り飛ばす。

 勢いよく吹き飛び、瓦礫に体を打ち付けた。


「終わりだ!」

「ッグ、勝手に… 終わらすんじゃねぇ…」


 血を吐き、兄の鳥人は懐から血まみれの手で十字架のような物を取り出す。

 なっ!? あれはまさか!!


「やめろ!!」

「これが新しい力だ…グゥウ!!」


 勢いよく十字架を自分の胸に突き刺す鳥人。
 血が勢いよく吹き出し、その血は十字架に吸い込まれるように流れていく。

 これは

 この光景は見たことがある。


「ぅごぁアアアア!!ガァアアアアアォォオオォ!!!」


 激しく暴れ、ゴボゴボと鳥人の体が作り替えられていく。

 そうあの時と同じだ。

 ただでさえ大きかった巨躯はさらに肥大し、4メートルの大きさに。
 翼がさらに生え、4枚となり、腕もさらに2本新しく生える。
 歪な、そしておぞましい形相の化け物が雄たけびを上げながらこちらを見据える。
 その姿はもう古の魔人だ。


「終ワリナノハギザマダァァアアア!!!」


 羽ばたき、私のいる位置に向かって拳を振り下ろす。


「ぐぅぁあ!!」


 避けきれない!!

 瓦礫が勢いよく体にぶつかり、さらに地面が崩れてその場所が崩壊していく。

 なんとか落ちずには済んだが、一撃であの威力となると厳しいな。


「ゥオオオオオオオ!!」


 魔人となった鳥人は私を探しているらしく、あたりの瓦礫を破壊しながら、突き進んでいる。

 大きくなったことによって、やや動きも緩慢だ。

 チェーンアームを上手く使って移動し、背後に回り滑り込み、次元収納から長剣を取り出す。


「ぅおおおおおお!!」


 弧を描くように上向きに一閃。魔人の右の片腕2本を切り落とす。


「ギャァアア!!ヨグモ!!ギザマァアアア!!」


 すぐさま次元収納にチェーンアームと入れ替え、繰り出される攻撃を回避し、壁に向け放ちその場から離脱する。

 振り下ろされた2本の左腕から繰り出された攻撃は大きく地面を破壊する。
 残された足場はそんなに多くはない。

 着地し、また瓦礫の多い場所に滑り込むように隠れる。


「ヂギジョウ!!マダ…イナグナッダナァアア!!」


 雄たけびをあげ、落ちた自分のの腕を掴むと、その腕はぐにゃりと曲がり、新たな形を作る。
 それは徐々に形を成していく。

 あれは

 まさか


「オレニハヤハリゴレガナイドナァ」


 自分の骨から作り上げた大きな鎌だ。


「チガラガミナギル… ガグレデモコレデオワリダ、ストームサイス!!」


 マズイ!!

 大盾を次元収納から取り出し、すぐに構える。

 直後巨大な暴風の刃が大盾にぶつかり、吹き飛ばされる。

 次々と瓦礫を吹き飛ばし、激しく壁に体を打ち付けられた。


「ぐぁああ!!」


 その魔法の衝撃で塔の壁が破壊され、宙に体が浮く。

 まずい外に投げ出さられた。


 「とどけぇえええ!!」


 次元収納からチェーンアームを取り出し、外壁に放つ。

 かろうじて引っかかり、体が引っ張られる。

 塔の3階にあたる右側の壁が丸々吹き飛んでしまった。


 なんて威力だ…

 勝つことなどできるのか… この魔人に…


 着地し、前を向く。

 巨大な鎌を持った魔人は笑いながら近づいてくる。

 その顔はさっきまでとは違い、どうやら力に完全に飲まれたようだ。


「グゥガァアアア!!」

「勝機は必ずある!!」




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